リリカルライダー——悪とされた者の物語   作:エイワス

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監視者へ降りかかる災い

翌日

 

幽雅は学校を休み、八神家ではなく自分の家でベルトを弄っていた。

 

昨晩、はやての部屋に現れた四人の集団、ヴォルケンリッターと名乗る集団は、はやてが保有する闇の書と呼ばれる魔導書を媒介に召喚されている。はやての足が悪いのも闇の書の影響らしい。

ヴォルケンリッターは烈火の将シグナム、鉄槌の騎士ヴィータ、湖の騎士シャマル、盾の守護獣ザフィーラの4人。彼らははるか昔、ベルかと呼ばれる時代の騎士と呼ばれる者達のこと。

闇の書は全部で666ページあり、魔力で蒐集し、ページを増やすらしい。魔力の蒐集はリンカーコアを直接奪うらしい。

 

これだけ聞くと、幽雅は自分のことをはぐらかして八神家の居候をこれまでにして自分の家へと戻った。

はやては泣きそうな顔になり止めようとするが、幽雅はヴォルケンリッターがいるから大丈夫だ、と言ってネクストライドロンで家から出た。

 

そして現在。

 

幽雅は目の前にあるゲネシスドライバーの最終調整を終えていた。ドライバーの数値は最高レベルまで出されており、一番出力が高いドラゴンフルーツエナジーにも耐えられるまでになっていた。

更にはソニックアローの威力調整やアークリムの斬撃の上昇等の各種装備も見直していた。

 

そんな幽雅に一つの視線。

 

幽雅の家から数十m離れた場所から幽雅を見つめる一匹の猫。その猫は一ヶ月前に闇の書の主、八神はやての元に現れた幽雅のことを監視していた。

この猫の主は、はやてが闇の書の主であることを知っていた。だから闇の書が覚醒するまで、家の周りに結界を張り使い魔である猫を使って見守り続けていた。

 

(お父様にコイツも同じように監視しておけって言われたけど・・・。何か作っているんだろうけど、ここからじゃよく見えない。魔導士というわけでもなさそうだし・・・)

 

猫——正確には猫に変身魔法で姿を変えているリーゼロッテは持ち前の身軽さを使って遠回り気味に幽雅の家に近づく。

 

だがリーゼロッテは知らなかった。自分が監視している相手が、歴戦の猛者であり、かつて全ライダーを相手に裏切りと闘争の中で頂点に立って戦っていたことを。

 

(い、いない!!少し目を離しただけなのに・・・!!)

 

「うし——ガッ!?」

 

突如リーゼロッテの背後に気配があったので振り向くと、一瞬で地面に蹴り飛ばされる。五感に優れた猫でさえも感知することが出来なかった。

 

「動くな魔導士。動けば一撃で終わらせる」

 

蹴った本人——幽雅はブレイクガンナーを手に首をゴキリ、と鳴らしている。

 

「オマエが一ヶ月前から俺のことを監視していたのは知っていた。無論、八神家に結界が張られていることもな」

 

《Tune Justice hunter》

 

幽雅が銃口をリーゼロッテに向けながらブレイクガンナーにシフトカーをセットして、リーゼロッテに向けて引き金を引く。リーゼロッテは反射的に目を瞑るが、何の異常もない事に不思議に思い目を開くと、檻の中に捕まっついた。

 

(檻!いつの間に・・・!でもこれなら、転移魔法が——)

 

「転移は無駄だ。最近作り始めたAMS——アンチマジックシステムはリンカーコアの魔力の流れを阻害する。浮遊くらいなら問題は無いが、それ以外の魔法の行使は不可能だ」

 

幽雅の言葉にリーゼロッテは戦慄する。目の前の自分よりも幼い、弟子であるクロノと同じ位の少年は、魔導士を完全に無力化するシステムを作り上げたのだから。

この少年が相手では魔導士は、管理局は相手にすらならない。それを自分の感情よりも、第六感が言っていた。

 

「質問に答えろ。なぜ八神はやてを監視していた」

 

リーゼロッテは答えない。幽雅は何も答えないリーゼロッテを無情な瞳で見る。リーゼロッテは幽雅の目に恐怖した。なんだこの目は、こんな少年がこうも色の無い目を出来るのか、と。

 

「もう一度聞く。なぜ八神はやてを監視していた」

 

「・・・・・・」

 

尚も無言。幽雅はこのままではどうにもならないことを悟り、最終手段に出る。

 

《MEMORY》

 

幽雅は尋問用ガイアメモリ、メモリーメモリを取り出し、リーゼロッテの額に押し付ける。突如、リーゼロッテの額から緑色のエネルギーがメモリへと流れていく。

 

幽雅はエネルギーが流れが止まると、リーゼロッテの首を掴み、木に投げつける。その力はとても少年が出していいものではなかった。投げつけられたリーゼロッテは木にあたり地面に倒れ伏す。

 

幽雅はリーゼロッテを興味無さそうに一瞥し、家の中へと戻っていった。

 

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「AMSは機能はしたが、やはりバッテリーの消耗が激しいな」

 

部屋に戻った幽雅はついさっき使ったAMSの稼働データを見ていた。AMSはこの世界に来て魔法のことを知った時から開発していたが、P.T.事件の時はまだ理論の組み立てが終わっておらず、今日ようやく稼働まで移すことが出来た。

 

だが足りない。魔力の波長、機能しないかもしれない魔法、外部からの衝撃、魔力量による発動の有無。この他にも沢山の要素が幽雅のことを悩ませる。

 

「それにしても・・・管理局中将、ギル・グレアムか・・・」

 

幽雅は先程吸い取った記憶の入ったメモリを手に遊ばせながら、猫の主人のことを考える。幽雅は猫を殺さなかったので、既にギル・グレアムに自分のことは報告されているだろうと予測する。そして幽雅の事を管理局で公開することも。

聞くからにブラックそうな所に幽雅のことが報告されれば、間違いなく捕獲作戦などを行うだろう。

 

「これ以上ネガティブなことを考えるのはやめよう」

 

思考を切り替える。幽雅はとりあえずAMSとその他のアイテムの制作に取り掛かった。


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