リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
時の庭園での戦闘を終えた幽雅は普段通りに学校に来ていた。はやての家にははやての頼みでまだ居候している。はやての家から学校までは遠く、歩いていこうと思える距離ではない。
だから幽雅は学校近くのあまり人目につかない駐車場までチェイスの姿になり、ネクストライドロンで学校まで来ていた。
幽雅はいつも通り授業は普通に受けており、なのはが居なくても何の影響も受けなかった。アリサやすずかは親友がいなくていつもよりは大人しくしている。
唯一当麻だけが学校に来ているが、これについても当麻からの接触が無ければ幽雅にとってはどうでもよかった。
幽雅にとってはいつもと変わらない日常。
誰にも話しかけられず、必要なことだけ話せばいい単純作業。それ自体が退屈だと思うわけでもない、そうして当たり前だという意識。
だが、そんな日常は一度打ち切られる。
「幽雅、ちょっと話したいことがあるから屋上に来てくれないかな?」
微笑を浮かべて『呼び捨て』名前を呼び『友達のように』話しかけてくる当麻をうっとおしく思いながらも、幽雅は屋上へ向かった。
屋上には色とりどりの花が咲いている。
幽雅と当麻の間に花壇が置いてあり、二人を隔てている。
二人の距離はおよそ6m。
「二日後に、フェイトが時空管理局に連行される」
「で?」
当麻が伝えたことを幽雅は興味無さそうに返す。所詮幽雅にとってフェイトは珍しく世話を焼いた程度の人間。幽雅はそんな浅い関係は気にしない。
「でって、いいのかよ!?——ッ!」
当麻が幽雅がブレイクガンナーをこちらに向けたのを見て言葉を切る。幽雅はトリガーに指をかけてはいないが、その目は容赦していない。
「黙れよ正義の味方。お前だって気付いてるんだろ?プレシア・テスタロッサにガイアメモリを渡したのが誰かを」
幽雅は反対の手に二本のガイアメモリを持つ。一本はプレシアが使っていたもので、もう一本は禍々しいデザインのNと刻まれたガイアメモリ。
《NASCA》
幽雅が一本のガイアウィスパーを鳴らす。
当麻は干将・莫耶を投影して構える。
「これは時の庭園に現れたナスカドーパントを倒した時に残ったものだ。変身能力はないが、記憶だけなら復元した」
「時の庭園で?」
何故そんなことが、と当麻が言おうとするが幽雅が再度口を開く。
「これからも怪人共が襲ってくるはずだ。そして今回現れたドーパントは最初俺ではなく高町なのはとフェイトを狙っていた」
「どうしてあの二人が?」
「それ位は自分で考えろ。だがこれだけは言っておく。怪人共に手を出すな。アレらはすべて俺の敵だ」
そう言って幽雅はブレイクガンナーとガイアメモリを仕舞う。当麻も干将・莫耶を消して警戒を解く。
幽雅はそのまま何も言わずに教室へと戻って言った。
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放課後になり、幽雅は家に帰ってから海鳴にある公園に来ていた。この公園は幽雅が初めてフェイトと出会った場所だ。
(何故俺はここに来た?もうフェイトに未練などない。なら何が理由だ?感傷に浸っているのか?)
幽雅はベンチに座り考え込む。その時、幽雅は公園と外が隔離された感覚になった。
(結界・・・!誰が————後ろかッ!)
幽雅は気配を感じてすぐにベンチから前へ転がる。次の瞬間、座っていたベンチが何者かに破壊された。
「ドーパントの次はゾディアーツか」
幽雅が振り向くと視界には肌色と鋼色のサソリのような化物がいた。化物の体には星座のサソリを表した点が身体中に記されている。背中にはサソリのような尻尾のようなものがついている。
「スコーピオンゾディアーツか。リブラ辺りが出てくるかと思ったんだがな」
幽雅は後ろに下がりながらメテオドライバーを腰にはめ、メテオスイッチを取り出す。
《Meteor ready?》
「変身」
幽雅の上空から青い光が降り、幽雅の姿が変わる。
「行くぞ」
幽雅————メテオは拳を構えてスコーピオンへと飛び出す。スコーピオンも両腕の鉤爪を構えファイティングポーズを取り、迎撃してくる。
「ハァッ!」
メテオはパンチと見せかけて蹴りを叩き込む。スコーピオンは少したじろぐが、すぐに反撃してくる。スコーピオンの鉤爪をメテオは両腕でいなす。
右、左、下、左と迫り来る鉤爪を正確に流し、少しづつ攻撃を与えていく。
「フゥっ!」
「チィっ!」
スコーピオンは状況に苛立ったのか尻尾を振り回しメテオから距離をとろうとする。メテオは突然のことに反応が遅れ、躱しきれず左腕でガードしてダメージを軽減する。
「そういえばそんなのがあったな。だが所詮は中距離だ」
《Saturn ready?》
メテオは右腕についているメテオギャラクシーのスイッチの一つを押す。
《OK Saturn》
そして端に付いている指紋認証の部分に指を乗せると、メテオの右腕に土星が現れる。
「ハァッ!」
メテオは右腕を前に突き出し、土星に付いているリングを飛ばす。リングは一つではなく何発も連射されていく。
スコーピオンは両腕を盾にしてダメージを減らそうとするが、リングは確実にメテオを勝利へと近づけている。
メテオはリングを飛ばすのをやめ、スコーピオンに急接近していく。スコーピオンも立ち直りすぐに迎撃しようとする。
「フゥっ!」
「同じ手は食うか」
スコーピオンが尻尾を振るうが、メテオは滑り込んで体勢を低くし、スコーピオンの懐まで潜り込んでいく。
スコーピオンは蹴りでメテオを飛ばそうとするが、メテオはスコーピオンの足を掴みスコーピオンの体を踏み台にして空中に跳び上がる。
《Jupiter ready?》
《OK Jupiter》
メテオは空中でさらにメテオギャラクシーを操作し、右腕に大質量の木星をもした巨大なハンマーを作り出す。
メテオはハンマー————ジュピターハンマーで上からスコーピオンを押し潰す。
反応が遅れたスコーピオンは逃げようとするが間に合わず、ジュピターハンマーに押しつぶされる。
「終いだ」
倒れ付すスコーピオンを見ながら、メテオはドライバーに付いているメテオスイッチをメテオギャラクシーに取り付ける。
《LIMITBREAK》
《OK》
「フゥ・・・・・・オラァっ!」
スコーピオンの体に青いエネルギーを纏った右の拳を放ち、スコーピオンの体を浮かす。メテオはそのまま右の拳だけでスコーピオンに何度も攻撃を加えていく。
「オラ!オラ!オラ!オラ!」
空中で抵抗出来ずにスコーピオンはメテオの『スターライトシャワー』を喰らっていく。
「オラァっ!!」
メテオが放った最後の一撃はスコーピオンの体を貫通し、スコーピオンを吹き飛ばした。吹き飛ばされたスコーピオンはあえなく爆散し、その場には黒煙だけが残った。
メテオは最後まで見ないで立ち去ろうとしたが、ここで気付いた。まだ結界が解除されていないことに。
「まさか————グゥっ!」
メテオがとっさに振り返ると、目の前に肌色の巨大な尻尾がメテオの体を吹き飛ばした。メテオは地面に転がり、15m位転がり、ようやく勢いが止まり、すぐさま背後に跳び上がると、直後にメテオのいた場所に巨大な棘が振り下ろされた。
「〝超新星〟まで再現していたとはな」
メテオは煙の奥から覗く尻尾の来た位置を見据える。
そこには下半身がサソリとなり巨大化されたスコーピオンゾディアーツがいた。
「こいつを使う予定はしばらくなかったんだが、しょうがないから使ってやるよ」
メテオはこの場を唯一切り抜けられる切り札、巨大なスイッチを取り出した。