リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
時の庭園最下部には、今回の黒幕であり時の庭園の主であるプレシアと娘のアリシア、そして管理局の執行官であるクロノと海鳴市の魔術師、当麻とアリシアのクローンであるフェイトと使い魔のアルフがいた。
プレシアの姿はトリガードーパントで、その右腕の銃器はクロノ達に向けられている。
クロノと当麻は負傷しており、頭から血を流している。
「世界は、いつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ!ずっと昔から、いつだって誰だってそうなんだ!」
クロノがプレシアに叫ぶ。プレシアの右腕はピクリとも動かずに、未だにクロノ達の方を向いている。
「こんな現実から逃げるか、立ち向かうかは個人の自由だ。だけど自分の勝手な悲しみに無関係な人間を巻き込んでいい権利はどこの誰にもありはしない!」
「もう終わりにしろ!全て終わったんだよ!プレシア!」
当麻が地面に膝をつきながら叫ぶ。当麻は通路を塞ぐ傀儡兵との戦闘で無茶な投影を繰り返し、既にその体は限界が来ている。
その証拠に、当麻の手に握られている干将・莫耶は剣先が欠け、罅が入っている。
「黙れ!!」
プレシアが右腕のライフルを雷撃を纏った銃弾を撃つが、撃つと同時に体が前向きに倒れ、銃弾はあらぬ方向へとんでいく。
倒れかけたプレシアの体から青いメモリ——トリガーメモリが排出され、同時にプレシアが血を吐く。
「母さん」
「何しに来たの。消えなさい。もう貴方に用はないわ」
フェイトがプレシアに駆け寄ろうとするが、プレシアの言葉でフェイトは止まる。
「あなたに言いたいことがあってきました」
フェイトが止まり、話し出す。クロノ、当麻、アルフの三人はフェイトを見守っている。
「私は、アリシア・テスタロッサではありません。あなたの作ったただの人形なのかも知れません」
フェイトの言葉にプレシアは目を見開く。あそこまで拒絶したのに、何故まだ自分に執着するのか、と。
「だけど、私は、フェイト・テスタロッサは、あなたに生み出してもらって、育ててもらったあなたの娘です」
「だから何?今更あなたを娘だと思えとでも?」
プレシアはフェイトを否定し続ける。フェイトは自分の求めていたものではない。だがプレシアはフェイトを受け入れようとしている。だが、受け入れてしまえばプレシアは大切な何かを失うと思っている。
だからこその、否定。
「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からもあなたを守る。私が、あなたの娘だからじゃない。あなたが、私の母さんだから」
フェイトの真摯な目がプレシアへと向けられる。嘘偽りない本物の感情。
「くだらないわ」
だがプレシアは切り捨てる。自分の娘はアリシアだけだと、心の中で永遠と自分に言い聞かせ続ける。
フェイトの顔が崩れる。
そしてプレシアが何らかの魔法を発動させると、時の庭園全体が揺れる。
そしてアースラにいるオペレーターのエイミィからクロノに通信が入る。
『クロノ君!プレシアの魔法で時の庭園が崩れ始めてる!急いで脱出して!』
「くっ!分かった。当麻、アルフ、フェイト、時の庭園が崩れる!撤退だ!」
クロノが全員に呼びかけるが、フェイトは動かない。否、動けない。
フェイトの視界には、今にも崩壊しそうな足場にいるプレシアの姿。
「私は向かう。アルハザードへ。そしてすべてを取り戻す。過去も、未来も。たった一つの幸運も!!」
「母さん!!」
プレシアの足場が崩れ、プレシアが果てのない底へ落下していく。フェイトは追いかけようとするが、アルフがフェイトを止める。
だが次の瞬間、フェイトの横を『白』が通り抜けた。
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「私は向かう。アルハザードへ。そしてすべてを取り戻す。過去も、未来も。たった一つの幸運も!!」
ゾーンメモリで最下層に移動し、柱の陰で全員の会話を盗み聞きしていた幽雅は、盗み聞きしている途中に付けた、手の形をしたドライバーを起動させ、走り出す。
《シャバドゥビタッチヘンシーン シャバドゥビタッチヘンシーン》
《チェンジ now》
幽雅が現れた魔法陣を通り抜けると、顔にオレンジ色の宝石が嵌められ、全身を白いローブで隠しているライダーに変わる。
————数多の魔法を操りし、絶望と希望を見続けるライダー、仮面ライダーワイズマン。
ワイズマンはアルフに止められているフェイトの横を走り抜け、指に指輪を嵌めてそのままドライバーに翳す。
《チェイン now》
手を翳すと、ドライバーから機械音声が流れ、プレシアとアリシアの入ったポッドの周りに魔法陣が出現し、中心から白い鎖が飛び出し、プレシアとアリシアに繋がる。
「ッ!?」
(この穴は重力が普段より強いのか!?チッ!このままでは鎖が千切れる・・・・・!!)
鎖で捕まえると、予想以上の力がいることが分かったワイズマンは舌打ちする。今使えるワイズマンの全魔力を注ぎ込んでも帰り道にテレポートするだけの魔力が無くなる。かと言ってゾーンメモリだと、人間は一人しか転移できない。
「・・・・・・しなさい」
「ん?」
下からプレシアの声がしたので少し目を向ける。鎖で囚われているプレシアは俯いてなにか呟いている。
「離せぇ!!私とアリシアの旅の邪魔をするなぁッ!」
「何だと!?」
プレシアが叫ぶとプレシアの周りから雷撃が迸り、維持だけに魔力を込めていた鎖を粉々に破壊する。
ワイズマンは予想外の行動に後ろへと倒れる。
「もう無理か」
ワイズマンはプレシアの姿が見えなくなってきたので、自らも撤退することにした。
「ゲネシスドライバーの運用実験とこいつを回収できたのが救いか」
ワイズマンは地面に落ちているトリガーメモリを手に取り、ローブの中に入れる。
「さらばだ。そしてありがとう。俺に戦いの場を与えてくれて」
《テレポート now》
ワイズマンは新たに指輪を指にはめてドライバーに翳す。白い魔法陣がワイズマンの体を通ると、ワイズマンはどこにもいなかった。
直後、ワイズマンがいた場所は爆炎に飲み込まれた。
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「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ッ!」
幽雅はテレポートリングで幽雅が現在居候中の八神家の玄関まで来ていた。変身は解け、幽雅の顔や体には無数の切り傷があった。
変身している時は特に痛みは感じなかったが、解除するとすぐに傷口が痛み出す。
あらかじめ開けておいた窓からバレないように部屋に入ろうとする。体格が体格なので土台を用意して鍵のかかっていない窓を静かに開ける。
足音を立てずにコッソリと侵入し、ベルトを元の位置に戻す。着ていたコートを壁に掛け、上着を脱ぎ半裸になる。
姿鏡の前で背中の傷を確認し、腕や顔に付いている傷も見ておく。
どれもそこまで深くはない傷だったので今すぐ治すことにし、ブレイクガンナーとマッドドクターを取り出す。
いつも通りマッドドクターをブレイクガンナーにセットし、マズルを押す。
《Tune MAD doctor》
まず一番痛む背中の傷から治療しようと背中へと手を伸ばすが・・・・・・
「その体どうしたん!?」
たまたまなのだろうか、家主であるはやてが扉を開けて幽雅の背中を見てしまった。幽雅の背中は何かに斬りつけられたような跡がかなり付いており、その痛々しさがよく伝わってくる。
「悪いが、少し手伝ってくれないか?」
幽雅は手の届きにくい背中を指さす。はやては救急車やら手当やらであたふたしている。
「こいつのマズル・・・ここの部分を傷口に押し当てて引き金を引いてくれ」
幽雅ははやてに無理矢理ブレイクガンナーを握らせる。はやては幽雅の事を信じてブレイクガンナーの引き金を引いた。
ブレイクガンナーから幽雅の傷口へとエネルギーが移動する。エネルギーはスパークを纏って幽雅の傷口へと侵入し、傷ついた体を修復していく。
本来なら叫び出すほどの痛みが代償としてあるのだが、叫ぶとはやてに迷惑がかかるので、幽雅は必死に歯を食いしばって叫ぶのを堪えていた。
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全ての傷の修復が終わり、はやては幽雅の体からブレイクガンナーを離す。はやての手は少し痺れており、ブレイクガンナーを両手で持っているので精一杯だった。
幽雅は汗まみれで上半身にあったはずの傷は全て修復されており、今は腕を回して体の調子を確かめている。
「幽雅、何があったん?」
背中を向けている幽雅に問いかける。幽雅の言っていた野暮用。それは幽雅に怪我を追わせるほどの事態。今ではいなくてはいけない存在となっている幽雅をはやては失いたくなかった。
別に幽雅がやっていることを止めるつもりは無いが、何をしているのかは知っておきたかった。
正座させられて話すこと一時間。
幽雅は面倒事について(魔法とライダーに関する事を除いた情報)話していた。拾った少女がとある目的を持ってそれを裏で手伝っていたこと。
自分のクラスの男女3人がそれに関わっていること。
幽雅はブレイクガンナーの事については銃になったりメリケンサックになる便利な物と説明した。
はやてはまだ疑いの眼差しを向けているが、幽雅の必死の頼みにより解散となった。