リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
プレシアの言葉によりフェイトは崩れ落ちた。なのはや当麻が駆け寄るも、その目に光はなく呆然としている。
だが幽雅だけは周りとは違う動きをした。
「リンディ・ハラオウン。プレシア・テスタロッサがああなった以上、殺害は許可されるか?」
その言葉に全員がギョッと目をむく。今も次元振は続いている。プレシアはたとえ次元振が起ころうともアルハザードへ向かおうとする。確かに一番効率のいい方法だろう。だがその許可を目の前でプレシアに裏切られたフェイトの前ですることではない。
案の定、幽雅に当麻が掴みかかった。
「そんな話を今彼女の前でする場合じゃないだろ!!」
当麻は大声で幽雅を責め立てる。だが幽雅は表情を変えずにいる。
「許可を出すのはお前ではない。俺はこの場の指揮官であるリンディ・ハラオウンに聞いてるんだ」
「うわっ!」
幽雅は当麻の手を捻り足払いをかけて転ばせる。掴まれた襟を直し、今一度リンディに顔を向ける。
「プレシア・テスタロッサの殺害は許可できません。捕獲にしてください」
「善処しよう」
「待て・・・!黒崎・・・!」
「ようやく素の状態のお前の言葉が聞けたな。善人ぶっていい子ちゃんの言葉を発していた時よりはだいぶマシだぞ?まぁ、そんなことはどうでもいいか」
幽雅が懐からゾーンメモリを取り出す。
「それは・・・!?」
リンディはそれを見て驚愕する。幽雅が手に持つメモリは色は違えど、プレシアが使っていたものと同じ代物。クロノはメモリを見て反射的にデバイスを構える。
《ZONE》
幽雅はプレシアの時とは違い、ドーパントにはならずにその場から消えた。
「今のは・・・」
その光景を見てリンディは思考を始める。自分たちとは違う転移魔法とは違い、魔力すらも感じられない。手に持っていたメモリがデバイスの代わりだとすると、軽量化が恐ろしい程に進んでいる。
「まさかアイツの使う二つ目のドライバーは・・・・・・!」
「当麻君、何か知っているの?」
この中で唯一仮面ライダーを知っている当麻が答えに至る。当麻に魔進チェイサーの知識はなかったが、鎧武までの知識はあった。そして幽雅が使ったガイアメモリは鎧武より前のライダー。
「あれはガイアメモリ。地球の記憶を納めた強力な変身道具です」
「地球の記憶だと?」
「ええ。あのガイアメモリはAからZまであり、あるドライバーと使うことで変身することができます」
「前に見たあの機械のバケモノのようなもの・・・・・・ちょっと待ってくれ、プレシア・テスタロッサはメモリだけで変身していたが?」
クロノが気付く。気付いたことは当麻が知る限りでは最悪の事柄。
「ガイアメモリは大量の毒素が含まれています。ドライバーはその毒素を中和して、所有者が安全に使うために作られました。だがプレシアはドライバーを使わず、そのまま腕に指した。今プレシアの身体は強力な毒素に蝕まれています。だからもしプレシアをあの状態のままにしていれば・・・・・・」
「最悪死ぬってことね」
リンディがこれまでの会話から答えを出す。
「どうにかする方法はないの!?」
「落ち着きなさい、なのは。当麻君、方法はあるのよね?」
なのはを抑える美結が当麻に問いかける。当麻は首を倒し頷く。
「なら教えて」
「分かった。プレシアをあの状態にしているのはガイアメモリだ。ならそのガイアメモリを体内から取り出せばいい」
「一体それをどうやる?」
「本来ならメモリブレイクっていう必殺技を使うんだけど、多分強力な攻撃でもいいと思う」
「どれ位なの?」
「なのはのスターライトブレイカー位の威力があればメモリは抽出出来ると思う」
本来なら当麻は幽雅に頼むところだが、その幽雅は現在行方不明。当麻が投影した勝利すべき黄金の剣を使えばスターライトブレイカーよりも強い威力が出せるが、魔力を使いすぎて帰れなくなる。
「分かった。私がやる!」
なのはが覚悟を決めて宣言する。リンディは仕方ないと思い許可をだそうとするが、オペレーターの言葉により遮られる。
「何があったの!?」
「艦長!これを!」
モニターに表示される時の庭園内部の映像。その中には、ゾーンメモリで消えた幽雅がいた。
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「下級ロイミュードよりも弱そうなやつが群がってやがる」
時の庭園、プレシアのいるホールへと向かう扉の前には百を超える傀儡兵がいる。その少し前の場所にまで転移した幽雅は完成したドライバー、ゲネシスドライバーを腰に巻く。
「さて、試させてもらおう」
《メロンエナジー》
幽雅が取り出した青いクリアパーツにメロンが刻まれた、エナジーロックシードを解錠する。
《LOCK ON》
《ソーダ!》
《メロンエナジーアームズ》
頭上に現れたメロンが幽雅に被さり、鎧へと展開する。展開された姿はアーマードライダー斬月に酷似しているが、色合いが増している。
手にはアームズウエポンのメロンディフェンダーではなく、エナジー系ロックシード共通の《創世弓ソニックアロー》が装備されている。
————天下無双の白き鎧武者、仮面ライダー斬月・真
「こい!」
斬月は向かってくる傀儡兵にソニックアローのエネルギー矢を放つ。矢は一直線に進み、傀儡兵に刺さる。
「いい性能だ。文句無しだな」
斬月は続け様に矢を放つ。その矢は存分違わず傀儡兵を戦闘不能にしていく。
「近距離か。いいだろう」
近接装備を持った傀儡兵にソニックアローの両端に付属しているヤイバ《アークリム》で武器ごと切り裂いていく。ソニックアローはブレイクガンナーと違い近距離と遠距離を切り替える時の動作が必要ないので、休むことなく傀儡兵を破壊している。
その姿は正に、天下無双の白き武者。
「こっちも試すか」
《LOCK OFF》
《LOCK ON》
メロンエナジーロックシードをベルトから外してソニックアローに付ける。斬月はそのまま弓を引き絞り、傀儡兵に狙いを定める。
《メロンエナジー》
斬月・真の必殺技《ソニックボレー》が傀儡兵の中でも防御が硬そうな傀儡兵に刺さり、周りを巻き込んで爆発していく。
「諸共に消えろ」
斬月は更に傀儡兵を破壊する為に、敵に向かって走り出す。
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「凄い・・・・・・」
なのは、当麻、美結、ユーノとクロノに出撃許可を与えたリンディはモニターの前で呆然としていた。
いや、リンディだけではなくモニターを見ている全員が、斬月・真の戦いを見て唖然としていた。
斬月・真からは魔力反応が検知されている。だがそれは足場として固めた魔力だけ。斬月・真とソニックアローからは魔力反応は一切確認されていない。
管理局が知らないところに、天才魔導師であるプレシア・テスタロッサの傀儡兵をたった一人で壊滅させている男の子。確かにベルトの力もあるだろうが、本人の実力も高い事はリンディから見てもわかる。
未だに増え続ける傀儡兵から一撃も貰わず撃破していく戦闘力。魔導師相手にもおそらくか無傷で勝利できるだろう実力。
人員不足の管理局がこれを知ったら、彼をどうするかは火を見るより明らかだ。
だが彼が反抗した場合、管理局がどれ位のデメリットを受け、彼を捕獲した時のメリットを考えるとどうなるか。
リンディは斬月に近づいていくなのは達の反応を見て、とてつもない程の不安感が溜まっていった。
幽雅を取り巻く状況が、変わっていく。
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「流石にキリがないな」
斬月は先程まで戦っていた場所から離れ、今は既に扉の中へと侵入している。既に何度目かわからないソニックボレーを傀儡兵に向けて撃つ。
「チッまだ増えてやがる」
減らしても減らしても現れる傀儡兵。幽雅は同じ敵とばかり戦い心が疲弊していた。幽雅にとってこれはもう戦闘ではなく、RPGのボス攻略後のレベル上げと同じようなものだった。
幽雅がソニックアローに矢をつがえようとすると、背後から魔力弾と何本もの剣が飛来し、傀儡兵を破壊していく。
「来たか」
「君は、幽雅なのか?」
先頭で走っていた当麻が斬月・真の姿を見て唖然とする。いや、その前に床に落ちている傀儡兵を見て全員が驚いている。
「君は何者なんだ?」
「そんなことはどうでもいい。それよりも、お前達はお前達のやるべきことがあるんじゃないのか?」
斬月は話しながらも向かってくる傀儡兵に向けて、傀儡兵を〝見ないで〟矢を当てる。
クロノは自分の問いかけを無下にされたことを少し苛立ちながらこの場での最善の判断を下す。
「なのは、ユーノ、美結は動力炉の破壊を頼む。当麻は僕と一緒にプレシア・テスタロッサの確保を。幽雅はこのまま出てくる傀儡兵を倒してくれ」
「俺に命令するな」
斬月はそう言ってソニックアローで傀儡兵を射る。
クロノはそれを見届けて当麻に目配せし、プレシアのいる所へと走り出す。
「黒崎君。全部終わったら、フェイトちゃんとちゃんと話してあげて」
なのはが矢を撃ち続ける斬月に言う。斬月は何も言わずに黙々と矢を撃ち続ける。
「なのは!行くわよ!」
「分かったの!」
美結がなのはを呼び、なのはは動力炉へ向けて走り出す。斬月は一度だけその後ろ姿を見て、何もなかったかのように傀儡兵の相手をし始めた。
幽雅は退屈過ぎて気付かなかった。傀儡兵の数が少しづつ減ってきていることに。
そしてなのはたちが向かった方向に、プレシアと同じ異形が2体、向かっていたことに。