リリカルライダー——悪とされた者の物語 作:エイワス
幽雅はフェイト宅からゾーンメモリを使って家に帰ると、直ぐにドライバーや必要な機器などを片っ端からネクストライドロンに詰め込んだ。
持っていけなかった機器やライドチェイサー等のバイク類も、あるベルトを手に入れた時から使えるようになった〝灰色のカーテン〟でどこか知らないところに詰め込んだ。
幽雅は警戒していた。
時空管理局という組織の末端である、アースラは今回の事件が終わったら恐らくこの事を上層部に報告する。
そうなれば当然、この事件に関わった幽雅のことも報告される。
時空管理局は突出した文明品をロストロギアと呼んでいる。それは今回の事件の原因であるジュエルシードもその一部だ。
幽雅のベルトも恐らくはロストロギアに認定される。リンディからの一方的な説明でそのことを真っ先に思いついた幽雅は誰にもバレないところに避難しようとしていた。
ジーンメモリで姿をチェイスへと変え、ネクストライドロンに乗り込み車を出す。
幽雅が目指している場所はただ一つ。
八神はやての家のみ。
幸いにも幽雅は前に会った時に住所を教えて貰っていたので迷わず進むことが出来た。
ネクストライドロンを八神家の近くに停車してジーンメモリを排出して元の姿に戻る。
玄関についているインターホンを鳴らしてはやてを待つ。
「は〜い」
呑気な声と共に車椅子に乗った少女が玄関から顔を出す。
「居候させてください」
幽雅はプライドを捨てて地面に土下座しながら懇願した。
「とりあえず、なか入ろっか?」
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「それで面倒事が広がりすぎで自分に飛び火する前に避難してきたっちゅうことやな?」
「はい・・・」
幽雅は今八神家のリビングで正座していた。はやてにした説明は魔法やライダーのことを隠してかなり絶妙なラインで説明していたと幽雅は考えていた。
「ええよ。面倒事が終わるまで、幽雅はうちに居候して」
「ありがとう、はやて」
幽雅ははやての頭を撫でる。はやては顔を赤くし、俯きながら何かブツブツ呟いているが、幽雅には聞こえてない。
「それじゃあ、俺はもう寝るから、おやすみはやて」
「あっ・・・」
はやての頭から手を離すと、はやてが物欲しそうな顔で幽雅を見るが、幽雅は気付かずに与えられた部屋へと入っていく。
「これが恋なんかなぁ・・・?」
一人リビングに残ったはやては両手を胸に当てて、頭を撫でられた余韻に浸っていた。
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幽雅は貸し与えられた部屋を小規模に改造していた。
改造といっても、引き続きベルトの調整、製作に必要な機材を門っ子に設置しただけの簡単なものしかしていない。
ベルトの入っているアタッシュケースはベッドの下に隠している。
「さて、今はどのくらいの数値かな?」
パソコンに送られてきたデータを眺める。前回の魔進チェイサーとしての戦闘で溜まったデータがゲネシスドライバーを完成一歩手前まで近づけたのを見ると、幽雅の頬は自然につり上がっていった。
「後少しだ。後少しでこのベルトも完成する。プレシア・テスタロッサ、お前が早く何かをすることを祈ってるよ」
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「なぜ俺はここに居るんだ?」
「いいから黙って見ていなさい」
幽雅は何故か海鳴の臨海公園に連れてこられていた。
どうしてこうなったのかと言うと、
1、ブレイクガンナーの修理が終わったので久々に散歩に。
2、美結、当麻、なのはに遭遇してしまい、これからフェイトと決着をつけるからお前もこい、と言われて拉致られる。
3、当麻、美結と眺めている。←今ココ。
「しかし、こうして見ると魔法は凄いな」
上空ではフェイトとなのはが砲撃戦をしている。
フェイトのフォトンランサーをなのはが防御魔法で防ぎ、仕返しとばかりになのはが魔法を撃ち込む。一撃が強力な魔法を永遠と撃ち続けている。
『photon lancer』
『divine buster』
「「ファイア!/シュート!」」
二人の砲撃魔法が放たれる。互いの魔法はぶつかり合い、中心で爆発を起こし、衝撃波をまき散らす。魔法のぶつかり合いで二人の視界が阻まれる。
だがその中でも的確に動ける者がいた。
《scythe slash》
経験の差で、フェイトはなのはの背後に回り込んだ。
高機動型のフェイトの得意とするスピードで相手の背後に回り込み、攻撃。
勝ち方としては美しい勝ち方だ。
フェイトは勝利を確信した。視界が塞がれた中で、背中を見せたのだから。
フェイトはデバイスであるバルディッシュを振りかぶり、目の前の相手を切り裂こうとする。
なのははそれを————
避けた。
前に行っていた体を無理矢理回し、スケートのように避けてみせた。
「天性の才能か・・・」
幽雅は思う。自分がどれだけこの才を求めていたか。
だが自分では得られないと悟り、安直に力を求めたのか。
だがフェイトの攻撃はこれで終わらない。フェイトは今まで何度もなのはと戦ってきた。だからこの攻撃をよけられることを大体分かっていた。
なのはが避けた先に見た、雷を纏った無数のスフィア。
《fire》
バルディッシュの声と共にスフィアがなのはに向けて放たれる。なのはは咄嗟に防御魔法を使うが、一撃が重く少しづつ押されていく。
なのははスフィアを全て弾ききり、弾かれたスフィアは海へと落下した。
フェイトがなのはの対面に行き、お互い見合う。
二人ともこれまでの魔力運用で疲れきって、肩で息をしている。
(最初はただ、魔力が多いただの人間だと思っていた・・・。でも今は、速くて、強い・・・。迷ってたら、ヤられる!)
フェイトは目の前にいる自らの敵を評価する。高々魔導士になって一ヶ月しか経ってないのに自分と張り合っている相手を。
だからこそ、使うと決めた。自分の切り札である魔法を。
フェイトがバルディッシュを胸に構えると、空中に金色の魔法陣が浮かび上がっては消えていく。
《phalanx shift》
なのはは迎撃しようとするが、さらに空中に現れまた魔法陣に、両腕を縛られる。
「ライトニングバインド」
「まずい・・・!フェイトはアレを使おうとしている!」
幽雅達と観戦していたアルフが叫ぶ。幽雅はそろそろ終わる頃だろうと思い、メテオスイッチを握っている。
「アルクス、クルタス、エイギアス。煌めきたる天神よ。今導きの元来たれ。ザルエル、バウエル、ブラウゼル」
フェイトの詠唱が終わり、フェイトは最後の攻撃に移ろうとする。フェイトの周りのスフィアが勢い良く光る。
「フォトンランサー・・・ファランクスシフト」
フェイトが空に手を掲げる。
「打ち砕け。ファイア!」
スフィアがなのはへと無慈悲に襲い掛かる。
なのはは何も出来ずに、ただ攻撃を喰らっていく。
「なのは!!」
「辞めなさい!」
当麻がなのはを助けようと、赤い外套に見を包むが、美結に引っ張られる。
煙が晴れ、次第に爆心地が見えてくる。
「なんだと?」
煙の先にあった光景を見て幽雅が疑念の声を上げる。幽雅はあと攻撃を喰らって無傷でいられる自身はない。確実に少なくないダメージは残る。
だが煙の先、なのはは平気そうな顔をして、まだ立っていた。
「打ち終わると、バインドってのも解けちゃうんだね。
今度はこっちの——!」
《divine》
「番だよ!」
《BUSTER》
なのはのデバイス、レイジングハートから極大の魔力法が放たれる。フェイトはなけなしの力を使ってスフィアで迎撃するが、呆気なく打ち消される。
なのはの魔法はフェイトへと直撃する。フェイトはギリギリ防御魔法を張るが、なのはの砲撃の前では耐えきれない。
だがフェイトは諦めない。限界まで力を振り絞り、全て防御魔法にかける。
なのはの砲撃が終わり、フェイトはボロボロになりながらも耐えきった。
だが、白い魔王は未だ健在。
「受けてみて。ディバインバスターのバリエーション」
なのはがレイジングハートを掲げて宣告する。なのはの前に先程より巨大な魔法陣が形成される。
《starlight Breaker》
魔力が固まり、着々と力が貯められていく。フェイトも黙って見ているわけではなく、守る程の魔力もないので避けようとするが、そこで気付く。自分の手足がバインドされていることに。
「これが私の全力全開・・・・・・スターライトブレイカー!!!」
なのはがレイジングハートを突き出し、魔法を発動する。
その威力は名前に相応しい、星を砕く様に見えるピンクの光の柱。
魔法はフェイトを飲み込み、海へと着弾する。
幽雅でさえ、これはないな、と言いながら首を振る。
光の柱が消えると、そこにはフェイトを抱えたなのはがいた。