リリカルライダー——悪とされた者の物語   作:エイワス

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失われた気持ち

公園での戦闘から丸一日が経った。

幽雅は学校には行かず、一日中家で過ごしていた。ブレイクガンナーの修理は、新しく追加されたリンカーコアと魔力というエネルギーを使っての、性能向上の為の実験機となる為、一部だけ修理して後は自然修復を待つことにした。

 

ベルト等を一から作る幽雅にとってこの程度の作業は一時間あればモノ足りる。なら何故幽雅は一日中学校を休んだのか。

 

幽雅が感じているものは既に幽雅が諦めたもの。摩耗した記憶と共に無くなってしまったもの。

 

 

 

————誰かを助けたい、感情。

 

 

幽雅は一度目の転生でロイミュード、プロトゼロとなっている。その時に人間らしい感情は消え失せ、ただ植え付けられた本能に従うだけの機械となった。

二度目の転生ではオルフェノク、ライオンオルフェノクとなり、その頃には既に感情が消えていたのでスマートブレインの犬となって、ラッキークローバーの一員として、人間達を平気な顔で殺し、同胞にしていった。

 

三度目と四度目はライダーとして生を受けたが、誰かを守ろうとは思えなかった。逆に、非道の限りを尽くした為、自分と自分の集めたライダーと一号とディケイドが中心となり、自分と戦い、二度敗れた。

 

敗れる度に思った。機械の、プログラムで構成された感情では勝てないと。いつかの破壊者が言っていた。

『人は気持ち次第で強くなれる』と。とうしょはくだらないか、と思っていた。だが衛宮当麻の戦闘を見て、短い間でスペックがライダーに比べて低いとはいえ、初見で魔進チェイサーと相討ちになるほどの成長。

 

衛宮当麻だけではない。衛宮当麻だけならここまで悩まない。問題となっているのはフェイト・テスタロッサだ。自らがボロボロになり、それでもフェイトのことを逃がそうとした。

 

(何故だ?俺はプロトゼロとして生まれた頃から、人間に対しての情など既に消え去った。相手がロイミュード、延いてはオルフェノクならまだ分かる。だが人間であるフェイトを今になって何故守る?クリム・スタインベルトがプロトゼロに入れた、『人間を守る』というプログラムが今作動したからか?イヤ、それはない。俺の体は既にロイミュードではない。なら、何故なんだ・・・・・・)

 

理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——理解不能——解析不可能——

 

 

 

答えは——見つからない。

 

ならば答えを見つけるまで足掻こうではないか。

 

——————————————————————————

 

フェイトが住む高級マンション。そこに幽雅は足を踏み入れていた。幽雅が一番持ち運びに便利としているブレイクガンナーは、ゲネシスドライバーに繋がれているので、今はドライブドライバーを付けている。

 

このマンションは前にフェイトが家に来た時、使い魔であるブラックケルベロスを使って見つけ出した場所だ。

 

フェイトの部屋の前に立ち、インターホンを押す。

内側からピンポーン、と電子的な鐘の鳴る音が聞こえる。ドタバタと忙しそうな音まで聞こえる。

 

「入るぞ」

 

なかなか出てこないので、痺れを切らした幽雅が勝手にドアを開けた。玄関の先にはアルフが間抜けそうな顔でこちらを見ている。

 

「生きてるか?」

 

「ふぇ!?ゆ、幽雅・・・?」

 

幽雅はアルフを無視して奥、フェイトがいるであろう部屋に入る。フェイトの体を傷だらけで、遠目に見ても包帯が痛々しかった。

 

幽雅はフェイトの隣に座り、勝手に傷の状態を確認していく。端から見れば、変態の男が少女の肌をガン見しているようにしか見えない。

 

フェイトは突然現れた幽雅が自分の体をガン見してくることに戸惑っている。

幽雅はため息をついて立ち上がり、ポケットから黒いミニカーを取り出す。

 

「フェイト、今からお前の傷を治療するから」

 

「えっと・・・どうしてそうなったの?」

 

「フェイトの綺麗な肌に傷が似合わないからだ」

 

フェイトは顔をボン!という感じで赤くする。少し離れたところではアルフが生暖かい目で見ている。

 

「おい、犬女。お前も手伝え」

 

「ちょっと!犬女って何!?」

 

「フェイトのことを押さえつけていてくれ。今からやるのはかなり荒方法だからな。暴れられるとまともになれない」

 

《Start your Engine!》

 

《DRIVE type NEXT!》

 

ドライブドライバーのイグニッションキーを捻ってシフトブレスに黒いミニカー、シフトカーネクストをシフトブレスに差し込み、ドライブタイプネクストに変身する。

 

「姿が・・・変わった?」

 

「この前の、魔進チェイサーと同系統のものだ。始めるぞ」

 

《タイヤコウカーン!》

 

《MAD Doctor!》

 

《Doctor Doctor Doctor!》

 

ドライブがシフトカー、マッドドクターをシフトブレスにセットし、レバーのように変えて押すと、どこからかタイヤが飛んできてドライブの体についている黄色いタイヤを押しのけた。そしてまたレバーを三回押すと、今度は空中に治療器具のようなものが集まり、フェイトの周りを浮遊する。

 

「いけ」

 

空中に浮いた器具から、エネルギーがフェイトの体に向けて放出される。フェイトはアルフに体を抑えられているため、身動きが取れず、マッドドクターによる激痛を浴び続けている。

 

「ぐぅっ!ああっ!」

 

アルフは暴れるフェイトを必死に抑えつけている。

数分だっただろうか、幽雅は変身を解除して、ソファで倒れているフェイトに膝枕をしている。

幽雅の前にはアルフがドッグフードを食べている。

 

「アンタ今日は泊まっていきなよ」

 

「まぁ・・・いいが」

 

アルフからの提案を渋々受ける幽雅。幽雅は視線を下にして、眠り続けているフェイトの顔を見つめる。

 

ふと、ある二人の人物のことを思い出す。

一人は機械生命体を率いて、108しかいない友達を守ろうとした男。

もう一人は人間と人間の姿を持つ灰の怪人との共存を唱えて、その理想の果てに絶望し、最後に希望を託した一人の男。

 

その二人の力を幽雅は持っている。前者は自分で作った、最高傑作のベルト、机に置かれたドライブドライバーを見る。後者は今回の転生で貰った特典の一つ。強力無慈悲な帝王のベルト。

 

幽雅は窓から見える夜景を眺めながら、意識を暗闇に落としていった。


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