Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編)   作:黒曜【蒼煌華】

6 / 37
リアルの仲良い友達様が遠くへ行ってしまい、気持ちナーバスな作者です…。
精神面的に辛い。
という理由で小説投稿が遅れてしまいました。
本当に申し訳御座いません。
もっとしっかりしないと駄目ですね…。


番外編: 元日(中編)

ㅤそんなこんなで神社へ御参りをしに行く事となった俺達三人。

ㅤ此れからの一年が、平和で幸せであるように。

ㅤ彼女達が笑顔でいられる世界であるように。

ㅤたった二つの願いだが、かけがえのない、全ての願いの中で一番の想いだ。

ㅤ祈願位は、しておかないとな。

 

「二人共歩くの速いよぅ」

「これでもあづみのペースに合わせている積りなんだけど…」

「普段着じゃなく、着物だからじゃ無いですか?」

 

ㅤ気付くと、あづみさんが一歩遅れた所でいそいそと小走りしていた。

ㅤ可愛らしい桜柄の着物の所為で、至極動き辛そうだ。

ㅤリゲルさんは着物であるにも関わらず何時も通り、自分のペースを崩さずに歩いている。

ㅤ雪で白く覆われたこの世界の中、彼女の綺麗な赤い着物に目を奪われてしまいそうだ。

ㅤ何とも美しい。

 

…そう、今日は二人共着物、然も明るい色を身に付けている。

ㅤというのも、着物の色選びは俺がしたからな。

ㅤリゲルさんは相変わらずの赤。

ㅤ彼女の金髪に合わせる為、水色や黒なんかも候補に上がった。

ㅤ然し今は冬真っ盛り。

ㅤ水色も黒も落ち着いた色だ。

ㅤ何方かと言えば夏祭りなんかに浴衣の色として選び、着せてあげたい。

 

ㅤあづみさんに関しては、彼女の普段着が水色や青、白なんかが主体となって作られている為。

ㅤ今日は明るい、それも華やかな色で決めようという事になった。

…なった?いや違う、俺がそう言う事にしたんだ。

 

ㅤとまぁ、だからあづみさんは普段着ない色、ピンク(桜色)にした訳だが。

ㅤ柄が桜しか無かった。

ㅤなので、必然的に春っぽい着物になってしまった。

ㅤ冬なのにな。

ㅤだが、これであづみさんが桜色も似合うという事が分かった。

ㅤこれから彼女に着せる衣服のカラーの一つとして、覚えておこう。

 

「ちょっと…疲れちゃった…」

 

ㅤなんて考えていると、あづみさんが少し程息を切らしながら俺の目の前で前屈みになっていた。

ㅤ失敗した。

ㅤ彼女の体に負担を掛けてはいけない筈なのに、気遣ってあげるのを忘れてしまっていた。

ㅤまだまだ労わりの精神が足りないな。

ㅤこうなったら。

 

「あづみさん、少しばかり膝を曲げてくれるかな」

「え?う、うん」

 

ㅤ俺の唐突な要望に一瞬動揺するも、直ぐに膝を曲げて待ってくれるあづみさん。

ㅤそんな彼女の膝の後ろに左腕を当て、肩を抱くように右腕を回し、左腕から一気に持ち上げる。

 

「きゃっ大祐くん!?」

「こうすれば疲れない。…ごめんね、無理させちゃって」

「わ、私は…大丈夫、だよ?」

「嫌だったりしない?」

「ううん…寧ろ、嬉しい…///」

 

ㅤ人前でお姫様抱っこは恥ずかしかったのか、目を瞑りながら俺の胸元に縮こまるあづみさん。

ㅤ最近彼女の顔が真っ赤になる所ばかり見ている気がする。

ㅤなら今回から違う箇所に目配りしてみるのも良さそうだ。

 

ㅤ例えば…心臓の鼓動が速く、彼女の体に更なる負担を掛けている。

ㅤ足や肩が小刻みに震えていたり。

ㅤ少しでも太腿に触れるとビクンッと反応を示す。

ㅤだが、抵抗のての字すら無く、彼女は何だか俺の為すがままにされている事を望んでいるのかと錯覚してしまう。

ㅤそして一瞬でも膝の後ろ、定位置へと腕を戻すと…あづみさんは目を開けて物足りなさそうな瞳で見つめてきた。

 

ㅤ一体何が目的なのか、何をされたいのか、言ってくれれば今直ぐにでも行動に移すというのに。

ㅤ彼女の可愛く真っ赤に染まった頰、俺を求めるかの様な瞳に焦らされて仕方がない。

ㅤ然し、何も言って来ないという事は。

ㅤきっと人前では話し辛い内容なのだろうと察する。

 

ㅤ彼女から言えないなら此方から攻めるまで。

 

ㅤ俺はあづみさんの耳元に顔を近付ける。

ㅤそれに気付いた彼女の息が段々と荒くなっていくのが一瞬で分かった。

ㅤ丸で何かを期待している感じだ。

ㅤその望みを叶えてあげようと、いざ口を開けて喋り始めようとしたその時。

 

「こら、二人共。家の中でならまだしも、人前でいちゃいちゃするのは感心しないわよ。…それに、もう着いたわ」

 

ㅤまさかのリゲルさんからストップを喰らってしまった。

 

「…申し訳無いですね。さぁ、あづみさん。着いたよ」

「う、うん!ありがとね、大祐くん」

「続きは帰ってからのお楽しみって事で」

「ふえぇ///」

 

ㅤ全く、何時も可愛い反応をしてくれるな。

ㅤこれを求めて言ってみたものの、成功するとは。

ㅤだが、言った事は達成せねばなるまい。

ㅤ帰ったら存分にあづみさんを可愛がってやらねば。

…うん、自分で言ってドン引いた。

ㅤ帰ってから何かしてあげるのには変わりないが。

 

「………」

 

ㅤふと、リゲルさんの方にチラッと視線を向ける。

ㅤすると彼女は、気持ち寂しそうに此方を見つめていた。

ㅤあまり態度を示さないリゲルさんが、寂しそうに?

ㅤ俺の視線に気付いた彼女はパッと目を逸らす。

 

…薄々察した。

ㅤ俺は最近、あづみさんとしか話したり、一緒に何かしたり、彼女との時間を楽しんでいた。

ㅤだが、リゲルさんとは深い交流をしていない。

ㅤ今更ながら深刻な問題だという事を理解し始めた。

 

 

ーーー

 

リゲル視点

 

ーーー

 

 

ㅤ失敗した。

ㅤあづみと大祐がいちゃいちゃしているのを見て、思わず止めてしまった。

ㅤその私の愚行の所為であづみのしゅんとした顔を見る事になってしまうなんて…。

 

ㅤ私が二人にストップを掛ければこうなるのは分かっていたのに。

ㅤ考えるよりも先に口に出てしまうのは何故なのだろう。

ㅤどうして、あづみと大祐の関係が羨ましく思えるのだろう。

 

…私も大祐と色んな事、話したいのに。

ㅤ彼は何時もあづみと仲良く喋っていて。

ㅤ私と話す内容なんか、殆どが戦闘関連。

ㅤ付き合っているという事を利用して、一回拗ねてみようかなんてのも頭の隅に置いていた。

ㅤでも、いざ大祐の目の前で素っ気無い態度を取るのには勇気が必要で。

ㅤもう逸そ、感情其の物を態度に表さないと頭では決めていた。

 

ㅤけど、駄目だった。

 

ㅤ彼と話したり、彼に触れられたりすると、自分でも気付かない内に感情を制御出来なくなって。

ㅤそんな私を大祐は「可愛い」なんて言ってくれて。

 

…素っ気無い態度等、見せれる筈もない。

 

ㅤけど、最近彼はあづみとしか交流を深めていない。

ㅤ大祐と話し合う機会も減ってきた。

ㅤ私という存在は…どうでも良くなってーー

 

「…さん…リゲルさん?」

「はっ…大祐…?」

「どうしました?ぼうっとして」

「な、何でも無いわ」

「そうですか。…人が多いので、あづみさんと手を握って離れない様にして歩いて下さいね」

 

ㅤ大祐は恐らく、あづみが心配で私を傍に置いておけば大丈夫だろうとでも考えているのだろう。

ㅤ彼にとって私は…どういう存在なの?

 

「逸れると危険だもんね」

「あづみさんの言う通り。特にリゲルさんが心配だからね」

「えっ…」

 

ㅤ私が…心配?

ㅤどうして?

 

「そのグラマラスな体を目的に襲ってくる男共がいるやもしれません。…まぁ、俺のリゲルさんを渡す気は更々無いですがね」

「だ、大祐の…わわ、私!?」

「無論、その可愛らしいお顔目当てであづみさんが攫われる可能性もあるけど。させないよ、そんな事」

「リゲル、やっぱり大祐くんが居てくれると心強いよね」

 

ㅤ大祐自身からそんな事を言われたら…心では分かっていても彼を拒否出来ない。

ㅤ自分が求めている人から、求めていた嬉しい一言。

ㅤたったそれだけで先程まで抱いていた感情は崩れ去っていく。

ㅤ此れこそが人の脆さを語っている。

 

ㅤでも、不思議と悪い気がしない。

ㅤ自分自身の欲する物を与えられたのだから。

ㅤ然し乍ら、これだけで満足してしまう私の感情が恨めしい。

ㅤ決めた事を一つすら、自分の納得行く様に出来ていない。

ㅤ唯、今日一日、大祐の前から居なくなりたいだけなのに。

ㅤ昔の私なら出来た、そんな他愛も無い事を実行するだけなのに。

 

…どうしてこんなにも、怖いのだろう。

 

ㅤそれでも、自分が納得行く為にはやらざるを得ない。

ㅤ丁度今日は沢山の人集りの中。

ㅤ態と彼から離れて、見付ける、見付けられない状況を作ってしまえば良いだけの事。

ㅤ私の欲求不満に大好きなあづみを巻き込みたくなんか無いのだけれど…。

ㅤ御免なさい、あづみ。

ㅤ後でしっかり謝らなきゃ。

 

「さて、何処から見て行きますかね」

「…私は遠慮するわ。二人で一緒に見てきて。その間、自由にさせて貰うわね」

「リゲル…?」

 

ㅤ一瞬、本当に一瞬…あづみから疑わしき眼差しを向けられた。

ㅤだけど、私は知っている。

ㅤこの眼差しは、私を心配してくれる彼女の想いだという事を。

ㅤそんな彼女の想いを無駄にしてまで…私は自己満足を得ようとしているの?

ㅤ側から見れば下らない事なのは知っている。

ㅤでも、今の私の気持ちは誰にも分からない。

ㅤ自分の好きな人同士が仲睦まじく話しているのを見て嬉しくなって。

ㅤその二人が私を好きだと言ってくれていて。

 

…段々と二人だけが仲良くなって行くのを見て。

ㅤ嫉妬と言えば当たりなのかもしれない。

ㅤけど、私はこの感情を嫉妬だとは思えない。

ㅤもっとこう、別の何か。

 

「リゲル!何処に行くの…?」

「…御免なさい、あづみ。今日は一人にさせて」

 

ㅤ私は彼女にそう告げて、その場を離れて行った。

ㅤ去り際…チラッと後ろを振り向くと、悲し気な表情を浮かべて此方を見つめているあづみが居た。

ㅤ心が居た堪れなかった。

ㅤ心臓を握られる様な痛みに襲われもした。

ㅤでも、ほんの僅かな時間だけでも、離れなければ。

ㅤ再度振り返ると、二人の姿は見えなくなっていた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ人混みを掻き分けて、屋台や御参りやらで賑わいを見せている場所から抜け出せた。

ㅤ普段ならあづみも一緒に居て…危ないからと互いに手を繋ぎ合っていただろう。

ㅤ私は自分の手を見つめながら、グーとパーを繰り返す。

ㅤ然し、そんな感覚今は無い。

ㅤ当然だ、私は今一人で居るのだから。

 

「…はぁ、私…何してるのかしら」

 

ㅤ自分で行った行為の筈が、後々後悔に繋がる。

ㅤそんな話は良く聞く。

ㅤ事実、今の私がそうなのだから。

 

「…ちょっと疲れたわね。何処か休める場所はーー」

「リゲルー、何処に行っちゃったのー?」

「あづみ!?」

 

ㅤ後悔ばかりをしてしまう中、群衆から可愛らしい一人の少女の声が私を呼んでいた。

ㅤ私は少女の姿を見て直ぐに駆け寄ろうとした。

ㅤだが、それでは二人から離れた意味が無くなってしまう。

ㅤ一体何の為に距離を置いたのか、しっかり自分で把握しなければ。

 

「リゲルー?」

 

…あづみの私を呼ぶ声が、私の心をズキズキと痛める。

ㅤ本当ならこの1分1秒が勿体無い。

ㅤ今直ぐにでも彼女の元へ走って行きたい。

ㅤでも、駄目…。

ㅤ駄目な事位…自分でも分かっているのだけれど。

ㅤこれが、葛藤という感情なのね。

 

ㅤそれでも、自分の気持ち以上にあづみが心配で。

ㅤ暫くあづみを観察…じゃなくて、見守っていようと彼女に目を配ると。

ㅤあづみに近付く不届き者を発見した。

 

「リゲル…見付からないなぁ」

「あれ、あづみちゃんやないか!久しぶりやな!」

「あ、飛鳥さん…」

「あれは…」

 

ㅤ天王寺飛鳥。

ㅤ一度あづみを助けてくれた男だ。

ㅤだが、私には関係無い。

ㅤ大祐以外の男共があづみに近付くなんて、絶対に許されない。

ㅤそんな不埒な輩は私が成敗してくれる。

ㅤこれから天王寺飛鳥の排除行動にーー

 

「いやー、奇遇やね。一人かいな?こんな人混みの中で一人は危険やて。良かったら僕達と…」

「えっと…私は一人じゃない。大祐くんもリゲルも一緒に居る。だから放って置いて…」

「ちょっ、せめて大祐くん達に会えるまではーー」

「失礼します」

 

ㅤあづみが走って天王寺飛鳥から離れて行く。

…ふふ、大祐以外には本当に人見知りね。

ㅤ大祐と話す時なんか、必死になって素の自分をだして攻めているのに。

ㅤ相も変わらず…私のあづみは可愛いわね。

 

ㅤさて、あづみの事が心配だわ。

ㅤあんな男置いといて、早くあづみを追い掛けなきゃ。

ㅤ天王寺飛鳥…残念だったわね。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ㅤ勢いで走ったあづみは、何処か分からない場所へ来てしまった。

ㅤ周りは樹木ばかりで少し薄暗い。

ㅤ一応木陰から彼女を覗いている訳だけど。

…何やらあづみの体に異変が起きている。

 

ㅤリソース症候群では無く、況してや息切れでも無い。

ㅤそれなのに胸元を押さえて苦しそうな表情で。

ㅤ自分のプライドなんか、目的なんか捨ててあづみに駆け寄りたい。

ㅤもう二度と、あづみが苦んでいる姿なんて見たく無い。

 

…良し、待っててあづみ、今行くわね。

 

(最終的にこうなるのなら、最初っからやらなければ良かった)

 

「あづーー」

「きゃっ!」

 

ㅤいざ彼女の元へ近付こうとしたその時。

ㅤ一瞬、瞬きをした一瞬の内に、あづみは見知らぬ男にお姫様抱っこをされていた。

…いえ、見知らなくはないわね。

 

「また一人、この美しい私の餌食となる美女を見つけてしまった…」

 

ㅤあのナルシストっぷり。

ㅤ黒い仮面を顔に付けている事から、ディアボロスだという事が直ぐ察した。

ㅤ加えてマント。

ㅤその姿を見た私は直ぐにバトルドレスを装着した。

 

「いやっ、離して…」

「おや、美女では無く美少女だったのか。…まあ良い、美しい事に変わりは無い」

 

ㅤあづみは美しいよりも可愛いの方が似合っている気がするのだけれど…そんな事はどうだって良いわ。

 

「私がゆっくりと食べてあげようではないか…」

「いやぁっ」

 

ㅤこの距離なら狙える!

 

ㅤ私は大きなビームスナイパーライフルを左手に持ち、狙いを定める。

ㅤ正確に、一ミリの狂いも無く。

ㅤディアボロスの口があづみの首へ触れ掛けたその一瞬。

 

「…そこっ!」

 

ㅤ力を入れて引き金を引くと、バシュンという音と共に青いレーザーが放たれる。

ㅤだが。

 

「おっと危ない」

「なっ!?」

 

ㅤ相手のディアボロス『サエウム』はクイッと頭を後ろに下げ、私の放った一撃をスルリと躱す。

ㅤそしてそのまま、あづみを抱えて此方に接近。

ㅤ慌ててサーベルを構えたものの。

 

「これでどうかな?」

 

ㅤサエウムはあづみを盾として前に突き出す。

 

「くっ…!」

 

ㅤこのまま避けてしまうとあづみが地面に叩きつけられてしまう。

ㅤかと言って受け止めれば、間違い無く私もあづみもナルシストに捕まってしまう。

ㅤ一体どうすればーー

 

「…リゲル、避けて」

 

…!

ㅤあづみは自分の体を投げ出されているにも関わらず、私に避けろと指示して…。

ㅤその瞬間、私に残された選択肢は一つだった。

 

「………」

 

ㅤ私は真正面からあづみを受け止め、地面へと足を着く。

 

「リゲル!?」

「何と美しき友情か!…だが、私のこの美しさに敵う筈も無い」

「…それはどうかしらね」

 

ㅤ何の躊躇も無く突っ込んでくるナルシストディアボロス。

ㅤ本当、力量を測り損ねた愚か者ね。

 

「私があんたみたいな変態に負けるとでも?」

「へんたっ…!?」

 

ㅤ私も、最初から迷う必要なんて無かった。

ㅤ最近はあづみや大祐の事で精神的に不安定な場面もあったりしたけど。

ㅤ今は今。

ㅤこんな雑魚程度、あづみを抱えてでも倒せる。

 

「あづみ、準備は良い?」

「うんっ!」

 

ㅤ元気良く返事をくれるあづみ。

…けど、何だか息が荒い。

ㅤ私はそんなあづみを両腕で支えながら体を前屈みにさせ、その場でくるっと一回転。

ㅤするとナルシストは、何も無い場所に寂しく抱き着く。

ㅤ今の一瞬で背後に回った私は、その隙だらけの背中に思いっきり蹴りを入れる。

 

「反応出来ないとでも?」

 

ㅤだが、ナルシストは即座に振り返り、両腕をクロスさせながら私の蹴りをガードする。

ㅤとは言え私の力一杯の蹴りを喰らったナルシストは、一歩二歩後退りを見せた。

…此奴、反応速度だけは良いわね。

 

「極力傷付けたく無かったのだが…致し方あるまい。抵抗するならそれまでだ」

 

ㅤそう言うとナルシストは何処から出したのか、ナイフの様な小刀を手に持つ。

ㅤあんな武器があったなんてね。

ㅤディアボロスの情報はルクスリアから殆ど聞き出したのだけれど。

ㅤ彼女にも把握し切れない情報があるのね。

ㅤその情報の取り引きとして大祐を使ったのは後々気が引けたけど。

 

ㅤさて、そんな話は後で幾らでも出来るわ。

ㅤ今はナルシストとの戦闘に集中しないと。

ㅤせめてあづみだけでも安全な場所にーー

 

「やっと追いついた…って、何で此処にZ/Xがおるんや!?」

「チッ…男は目障りだ」

 

ㅤ天王寺飛鳥…しょうがない、タイミング的にはバッチリね。

 

「其処に居る貴様!」

「僕、まだ本名で呼ばれへんの!?」

「そんな事どうだって良いわ!あづみを守って頂戴!」

「えぇっ!!」

 

ㅤ私はあづみを腕から下ろし、天王寺飛鳥の元へ走らせる。

ㅤその間はナルシストを引き付ける為にビームサーベルで斬りに掛かる。

ㅤ然し相手も中々やる。

ㅤ少々苦しげな表情を浮かべながらも私の攻撃を捌いていた。

 

「フィエリテはん!援護を頼むで!」

「勿論です」

「あづみちゃん!此方や!」

「はぁっ…はぁ…」

 

ㅤ二人のやり取りを聞いているだけで、後少し、あづみが天王寺飛鳥の元へ辿り着くのが分かった。

ㅤ私の方もこの勢いで押し切ってしまえば、誰も傷付かずに此奴を排除出来る。

ㅤやっぱり、始めからやれると思えばやれるものね。

ㅤあづみの安全が確保されてからリソース供給を頼もう。

 

…うん、改めて認識したけど、大祐が居ると居ないではエネルギー量が桁違いね。

ㅤ何よりあづみが疲労しなくて済むかどうかに繋がる。

 

「チィッ!」

 

ㅤなんて余裕で考えていると、ナルシストが意味も無く武器を振り始める。

ㅤ遂に力の差を思い知った様子だ。

ㅤこのままとどめを刺すとしよう。

 

ㅤ此方に目を向けてアイコンタクトを取るあづみ。

ㅤ良かった、無事に着いたのね。

ㅤ天王寺飛鳥があづみの肩に触れているのが気に食わないけど。

ㅤまぁ…それは後で注意するから良いわ。

 

ㅤ私はあづみのアイコンタクトに対して頭を一回下に下げ、頷きを示す。

ㅤたったこれだけで、私と彼女の意思疎通は終わり。

ㅤ全く…どれだけ私があづみを愛していると思っているの?

ㅤなんて言ってしまいたくなる。

 

「さぁ…そろそろ終幕と行きましょうか」

 

ㅤ私のあづみ自慢。

ㅤは、後程一杯紹介しよう。

 

………困ったわね、この戦いが終わったら話したい事が有り過ぎて何処から話せば良いのやら。

ㅤ別に誰かを対象にして喋る訳でも無いから、好きな様に話せば良いだけなんだけど。

 

ㅤそんな戦闘とは全くもって関係無い事を考えながら、私はビームサーベルを前に構える。

ㅤその場で目を瞑り、あづみからのリソースをしっかり受け取る。

 

「…これは、逃げた者勝ちかね」

 

ㅤ流石に状況を理解したナルシスト。

ㅤ彼奴の動きは素早いから、予め避けられる体勢を整えられると当たらない可能性が高い。

ㅤ今からでもスナイパーライフルに変えるべきかしら…?

 

ㅤいや、もう既にナルシストは此方に背を向けて逃げている。

ㅤこれではスナイパーだろうが間に合わない。

ㅤ十分な距離を稼がれ、躱されて終了だろう。

ㅤ何だかあづみから受け取るリソースが弱々しい事も含めて。

 

ㅤここは素直に逃すべきなの?

ㅤと、思った矢先。

 

「…にがさない」

 

ㅤ背後から幼い少々の声、蜂の羽ばたく音が耳に入り、振り返る。

ㅤ其処には百目鬼きさらと数匹の蜂、そして。

 

「二人に何してくれているんだ…!」

 

ㅤナルシスト側から本気で怒っている大祐の声が聞こえてきた。

ㅤ慌てて其方に体を向けると、其処にはナルシストを捕まえて離さない大祐と二、三匹の蜂が。

 

「離せ!男も虫も、美しく無い物は嫌いだ!!」

「誰が離すかよ。これから美しい女性に一斬りされるんだから喜べ」

 

ㅤそう言って大祐は、準備万端といった表情で此方を見つめる。

ㅤやはり大祐が居てくれると違うわね。

ㅤ私は現状溜められるだけのリソースをこの剣に宿し、構え、そして地面を蹴る。

ㅤそのまま一気にナルシストへと接近。

ㅤ私との距離が近付いて来たところで、大祐と蜂達はナルシストから離れていく。

 

ㅤこのディアボロス、本来なら今からでも逃げられた筈だろう。

ㅤ何にも縛られていないのだから。

ㅤ然し、大祐が何やら細工を施したのだろうか。

ㅤナルシストは体が動かせないまま、私の攻撃を待つしか無かった。

 

「たあああぁぁぁぁ!!!」

 

ㅤそして、一閃。

ㅤ当たる確率が低い代わりに威力高い一撃が、ナルシストを切り裂いた。

ㅤ漸く、排除完了。

ㅤこれで心置きなく今日を楽しめるわね。

 

ーーー




誤字脱字等御座いましたら、メッセージor感想に宜しくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。