Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編) 作:黒曜【蒼煌華】
「大祐くんっ、きさらちゃんの髪の毛…」
「っ!そうでしたね…あづみさん、有難う御座います」
「私も手伝おうかしら?」
「抑、貴女がしてあげるべきでは…」
「じゃあ、最初から私に連絡すれば良かった、という話にはーー」
「なりませんよ。連絡出来る状況じゃ有りませんでしたからね。あづみさんが来て下さって、本当に助かりましたよ…」
「えへへ…」
ㅤそう言った会話を繰り広げながら、きさらちゃんの髪の毛を洗って行く。
ㅤ横隣であづみさんが、きさらちゃんの巻いているタオルを手で抑えてくれていて。
ㅤヴェスパローゼさんは変わらず…。
ㅤと、思いきや。
「…ふふっ、流石にその体勢は辛いでしょう?やっぱり私も手伝うわ」
ㅤそう、此方に近付き。
ㅤ寝ているきさらちゃんの背中を、頭を支えてくれたではないか。
ㅤ正直な話、驚く以外に他は無い。
ㅤだが。
「…ですけど、ヴェスパローゼさん。それでは貴女が濡れてしまうのでは…?」
「それでも、貴方の目の前で裸体になる訳にはいかないでしょう?」
ㅤふふっ、と彼女は微笑み、優しい瞳をきさらちゃんへと向けている。
ㅤ本当に…我が娘に対する笑みの様だ。
ㅤ何とも、母性本能を感じさせられる。
ㅤだが、その言葉には何とも言えない…返せない。
ㅤとはいえ、ヴェスパローゼさんは今日もドレス姿だ。
ㅤ相も変わらず、そのドレス姿が似合っているのは…彼女自身が美しいからと偽り無く言えるだろう。
ㅤ派手ながらも黒という色で控えめに見せ、何方かと言えば、その綺麗な肌を露出している方という…。
ㅤ女王様其の物の、基本スタイルなのか。
ㅤ少しグッと来るものが有る。
「…あら」
「あら?」
「…?」
ㅤふと、ヴェスパローゼさんの一言に、俺とあづみさんが同じ反応を示した。
「もう…仲が良いアピールは、沢山見てきたわよ?」
「いやいやいやいや…、絶対違う話ですよね」
「ええ、勿論。…ふふっ、少し…羨ましいと思うのは、駄目かしら」
「…!」
…まさかの、だ。
ㅤヴェスパローゼさんのこう言った、急に方向転換して攻めてくるのは卑怯だ。
ㅤ思わずーー
「大祐、顔が赤いわよ?」
「っ、話を戻しましょう…」
「あら…残念ね」
「大祐くん、だ…大丈夫…?」
ㅤ俺が顔を赤くした事に対し、弄ぶ様な態度を示すヴェスパローゼさん。
ㅤ一方で、俺が直ぐに逆上せる事を知っているからこそ…心配してくれるあづみさん。
ㅤこう見ると…珍しい二人と一緒に共同作業だ。
ㅤあづみさん&リゲルさんorベガさんや、ヴェスパローゼさん&きさらちゃんorベガさんor和修吉さんは…当たり前の様に目にする光景だが。
ㅤあづみさんとヴェスパローゼさん…。
ㅤ二人は、どんな会話を繰り広げるのだろうか。
「………って、ヴェスパローゼさん」
「何かしら?」
「先程浮かべられた疑問、一体何に対してだったのです?」
「知りたいのかしら?」
「勿論…このままでは、気になったままです」
「ええ、別に構わないわ」
ㅤ先にも見せた『ふふっ』という優し気な笑みを、彼女は浮かべる。
ㅤ然し、その笑みに隠された邪の瞳を、俺は見逃さなかった。
…ふと、片腕を掴まれる感触が伝わって来る。
「………………」
ㅤ其方を見ると、あづみさんが訴え掛ける様な瞳で此方を見つめていた。
ㅤ『大丈夫か』と。
ㅤそんな彼女に対し、俺は『大丈夫』という微笑みを返し、『心配しないで?』という意味を込めてあづみさんの頭を撫でる。
ㅤすると、小動物の様に身を縮こませるあづみさん。
ㅤ頰を赤らめ、それでも、にこにこと笑っている。
ㅤ反則級の可愛さだ。
「…私の口を開かせないつもりかしら?」
「そういう訳では御座いませんよ…」
「ふふっ」
ㅤヴェスパローゼさんは相変わらずの調子で…だが、確かに。
ㅤ心配してくれるあづみさんへ、反応を返してあげるのも大切だが、会話を交えているヴェスパローゼさんへとしっかり返答するのも大事。
ㅤ其処等辺、器用にこなせなければ…。
ㅤ彼女達から好意を寄せて貰っている身として、情けない。
ㅤとは言え、人には限界が有るのも又事実。
ㅤだからこそ、自分に出来る最大限を、彼女達へ。
ㅤむぅ…難しい事に変わりは無いが。
「考え事かしら?」
「何故バレたのですかね…」
「貴方と居る時間は、きさらや其処の少女よりも確かに少ない。けれど…此れでもしっかり見ているのよ?」
「…ヴェスパローゼさんはーー」
「ふふっ…貴方を何時でも、私の物に出来る様に」
「俺は、物じゃ、御座いませんから!」
ㅤ全く…隙を見せたら直ぐにでも襲って来そうな勢いだ。
ㅤそれがヴェスパローゼさんらしい、とも言えるが…。
ㅤあづみさんの目の前でそう言った事を言うのは、狙ってなのか。
ㅤ何れにせよ、此れではあづみさんが…。
「…むぅ」
「あら、頰を膨らませて…どうしたのかしら」
「だ、大祐は…渡さない…もん」
「…ふふっ、良い表情ね。流石、一線を超えただけは有るわ?」
「はわっ…///」
ㅤヴェスパローゼさんのお言葉に、あづみさんが可愛らしい反応を見せる。
ㅤきさらちゃんは相変わらず、胸元で寝息を立てているし…。
ㅤ可愛い2人と美しい1人。
ㅤこうして考えると、何だか感慨深いものが有る。
ㅤ然し…悩み始めては又、ヴェスパローゼさんに察せられる。
ㅤ此処は取り敢えず、物事をしっかりと片付けてから、だな。
ーーー