Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編) 作:黒曜【蒼煌華】
体調を崩したり、本編のストーリーをしっかりと煮詰めたりと…結果、本編を更新するのが遅くなってしまいます。
申し訳御座いません…来週は更新出来る様、努めさせて頂きます(*´꒳`*)
ㅤ誰かが俺を訪ねて来た様だが、部屋に入って来たらしい。
ㅤこの時間帯に誰だ、というのは言うまでも無い。
ㅤ朝、俺の部屋を自由に出入り出来る人間は1人だけだ。
ㅤ何時も自室の扉には鍵を掛けているのだが…。
ㅤ今は緊急で出られないと、後で来訪者に謝る事で大体は許される。
ㅤだが今回は違う。
ㅤ毎朝俺の部屋に来てくれて、『おはよう』の声を掛けてくれる優しい少女。
「あづみさん…そう言えば、きさらちゃんの事で焦ってたばかりに…」
「あづ、まぃにちだいすけと、あってゆ?」
「…そう、だね。彼女と約束してる事が有るから…毎朝来てくれるんだよ」
「きぃ、うぁやましぃ…」
「まさかの…!」
ㅤしゅんとしたきさらちゃんから、意外なる一言。
ㅤ羨ましい…のか…?
ㅤいや、良く考えろ。
ㅤきさらちゃんはまだ7歳。
ㅤ起きたらヴェスパローゼさんが出掛けている、という事は少なからず有るのだろう。
ㅤまだ幼い彼女にとっては、寂しい事この上無いのかも知れない。
ㅤ成る程、納得する。
「…だが、どうしたものか。これは誤解を招き兼ねない」
「………?」
「あづみさん…頼みますから、風呂場には…!」
「…あしぉと、すゆ」
ㅤ来ない筈が無いよな。
ㅤあづみさんと顔を合わせたら、何て言えば良いのか。
ㅤ言い訳を考えようにも、所詮は言い訳。
ㅤ更なる悪い展開へと進んでしまう。
ㅤとは言え正直な話をして、こんな話を信じてくれるかどうか…。
ㅤいや。
ㅤあづみさんなら。
ㅤ信じてくれる、そう信じられる。
ㅤおどおどしている方がよっぽど怪しまれるだろう。
ㅤなら最初から、正々堂々と。
ㅤ事実を言えば呑み込んでくれるかもしれない。
ㅤと、悩み込んでいたその時。
コンコン
ㅤ風呂場のドアをノックする音が、全体に響いた。
ㅤ何だこの…一歩間違えれば終わってしまう緊迫感は。
ㅤというか抑、バレンタインに違う意味での胸の高鳴りを味わうとは。
ㅤ流石、色々な意味で戦場と謳われる日だ。
ㅤ去年然り今年も戦場だな、こりゃあ。
ㅤふと、彼女の声が風呂場に広がった。
「……だ、大祐くん?その………もしかしてシャワー浴びてる、のかな。タオル忘れてるみたいだから、持ってくるね」
ㅤあづみさんの声の後に続く様に、パタパタという走る音が一つ。
ㅤ相変わらず、なんて気が利く子だ事。
ㅤそうか、俺は焦って体を拭く為のタオルを忘れてたのか。
ㅤ何時もこんな調子では、あづみさんに申し訳無いな…。
「…今の内、きさらちゃん。髪の毛濯いじゃうね」
「あぃがとっ」
ㅤならば彼女が離れた今しか無い。
ㅤ俺は泡に包まれたきさらちゃんの髪の毛に、又、シャワーから流れ出る温水を当てていく。
ㅤかなりしっかりと洗ったからな…途中アクシデントが多々有ったものの、チョコレートに関しては問題無いだろう。
ㅤ全く、ヴェスパローゼさんは複数の意味でえげつないな。
ㅤ加えて自分から来る訳で無い為に、此方からは何とも言えない。
ㅤ本当、つくづく好きな様にされてるなと。
ㅤだがまあ…きさらちゃんに癒されている自分が居るだけ有って、其処には触れないでおきたい。
ㅤやはり可愛さには勝てないな。
ㅤそれは今に始まった事では無い、そう思いながら、きさらちゃんの髪の毛を包んでいる泡を流していく。
「………きさらちゃん、そろそろ終わるからね。………きさら、ちゃん………?」
ㅤ後はしっかりとこの泡を流すだけ。
ㅤそれで終了だときさらちゃんに伝えるものの、彼女からの反応が無い。
ㅤこれは、あれか。
「………くー………………す……………」
「…寝ちゃってる。このままだと危ないな、早めに終わらせよう」
ㅤ幼い子供は、髪の毛を洗って貰っている最中に寝てしまう、というのは割と聞く話だ。
ㅤ然し彼女は座ったまま、何時前に倒れても可笑しく無い状況。
ㅤこくん…こくん…と、体を揺らすきさらちゃん。
ㅤ最早意識は夢の中、一歩手前という所か。
ㅤ俺はきさらちゃんが倒れない様に、自分の胸元辺りを利用し、彼女の体を支える様にする。
ㅤ要するにきさらちゃんの背中、後頭部と、俺の体がぴったりくっ付いている状態だ。
ㅤ今更恥なんて感情は持たない。
ㅤきさらちゃんを早く風呂場から上がらせ、寝かせてあげねば。
ㅤと、ちゃんと洗えているか下に目をやる。
ㅤその瞬間、俺は又もや慌てて目を背けた。
ㅤきさらちゃん自身が寝てしまった事により、彼女が脇で挟んでいたタオルが落ちてしまっていた。
ㅤこれは…一大事だ。
ㅤどうする、一度シャワーを置いて、彼女の体を見ない様にタオルを持ち上げるか?
ㅤいやだが…きさらちゃんの体を支えてしまっている以上、此処から動けない。
ㅤ地べたに置く、と…シャワーが暴れ出す可能性が限り無く大。
ㅤ後は…目視出来ないまま、彼女の髪の毛を洗うか。
ㅤそれはあまりに適当だろう。
ㅤあとは…何か無いかーー
「大祐くん、タオル持って来たよ………あれ…?」
ㅤこのタイミングでーーいや、寧ろ助かったというべきか。
「これ、きさらちゃんのお洋服………?」
「あづみさん、俺の声、聞こえてます…?」
「だ、大祐くんっ…?えっと…聞こえてるよっ」
「すみません、緊急事態でして…あづみさんに助けて貰いたいのですが…」
(此処に置いてあるきさらちゃんのお洋服…凄く気になる、けど…)
「う、うんっ。でも…私、何すれば良いの、かな…」
「その………あづみさんも、此方に来て頂けると」
「…ふぇっ…!?」
ㅤ可愛い。
ㅤじゃなくて。
「割りと大変な状況でして…、無理を承知でお願い出来ると」
「あぅ……えと……だ、大祐くんは、良いの…?」
「あづみさんさえ良ければ」
「〜〜〜!うぅ……///その………す、直ぐ行くねっ」
「毎度毎度、申し訳無いです…」
ㅤ良かった…何とか窮地を脱出出来そうだ。
ㅤ然し、あづみさんと会話する為にシャワーヘッドを手で押さえ、音を極力消したは良いが…。
ㅤ若干彼女の服を脱ぐ音が聞こえる。
ㅤ何時もの暖かそうな衣服…そのリボンを解く音。
ㅤ更には『パサッ』と、衣服が地面に落ちるーー
ㅤ止めだ、止め。
ㅤあづみさんに対して、感情を抑えられない自分は確かに居るが、今はそれどころじゃ無いだろう。
ㅤ彼女にも協力して貰って、この窮地を脱すると決めたのだ。
ㅤ上手く行くと良いが………………。
ーーー
「お、お邪魔します…」
「あづみさっーー」
ㅤ死ぬ。
「だ、大祐…くん…?」
「………………いや」
ㅤ彼女がタオルだけを巻いた姿、それを目にするなんて初めてで。
ㅤなんか、こう…言い知れぬ感情がーー
「…っ、きさらちゃん…?」
「そうなのですよ…事情は後程説明致しますけど、今はきさらちゃんのタオルを持ち上げてくれると………」
「大祐くんは、大丈夫?」
「えぇ、俺は何とも無いですよ」
「ほっ…」
ㅤあづみさんは胸に手を当て、安堵の息を吐く。
「どうかしました?」
「あっ、ううん…緊急事態って聞いて、大祐くんに何か有ったのかなって…」
「ふふっ、怖くなりました?なんて」
「もぅ、本当に心配したんだからねっ」
「直ぐに心配してくれるだなんて、俺は良いお嫁様を持ったものだ…可愛いし」
「お、お嫁さっ…えへへ…///」
ㅤ照れてる姿も相変わらず可愛いこと。
ㅤそれに、もじもじしながら此方に近付いて来るのは反則だ。
ㅤ頰を真っ赤にして真横に来られると、此方まで恥ずかしくなってしまう。
ㅤ先まで『恥は捨てた』的な発言をしていた自分は、何処に行ったのか。
「本当、新妻新夫みたいね。初々しい夫婦だこと」
「…っ!」
「ヴェスパローゼさん…貴女、きさらちゃんに何て事を教えたのですか」
「ふふっ、私ときさらのバレンタインチョコ、楽しんで貰えたかしら?」
「俺の話…」
「聞いてるわ、安心なさい?」
ㅤ何時もの黒いドレスを身に付け、堂々と浴室のドア前に立つヴェスパローゼさん。
ㅤ全て彼女が仕組んだ事だというのは、最早語るまい。
ㅤそして地味に警戒しているあづみさんが可愛い。
ㅤきさらちゃんは…寝たままだ。
「ふぅ…大祐も、堅物ねぇ。あのまま、きさらを食べてしまえば良かったのに」
「まだ7歳の女の子に手を出せと」
「14歳の少女に、自分の子供を孕ませた男性が、口にする台詞かしら?」
「まだあづみさんのお腹に子供はーー」
「ふぇっ…大祐くんの、もう私のお腹に…」
「ストップ、あづみ」
「嬉しい、な…///」
「ヴェスパローゼさんの一言で話が脱線しましたけど!!」
「あら、良いじゃない。微笑ましいわ?」
ㅤいやいや、『微笑ましいわ』じゃないですよ…。
ㅤこちとら必死で問題を解決しようとしてるにも関わらず、ヴェスパローゼさんは何時もの調子で俺を揶揄う。
ㅤ本当、勘弁願いたい。
ㅤそして、その揶揄いに半分慣れて来ている自分が居る。
ㅤ最早勘弁願いたいとか言う話では、無いのかもしれないな。
ㅤ兎に角、バレンタイン問題を引き起こした張本人であるヴェスパローゼさん。
ㅤ彼女とあづみさんが、今一番頼りになるのは他ならない。
ㅤ自分に引き金を引いて来た人物が、1番頼りって…。
ㅤふと、そう思ってしまう。
ㅤだが、どんな状況でもヴェスパローゼさんが頼りになる事に、何ら違いは無い。
ㅤ彼女には、色々と見習うべき点が有るからな…頭が上がらないのは事実。
ㅤ何方かと言えば、無理矢理上げさせられているというのが正しいか。
ㅤ全てはヴェスパローゼさんのペースで。
ㅤ全く、何時もと変わりないじゃあないか。
ーーー