Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編)   作:黒曜【蒼煌華】

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今回は番外編のみの更新となります。
体調を崩したり、本編のストーリーをしっかりと煮詰めたりと…結果、本編を更新するのが遅くなってしまいます。
申し訳御座いません…来週は更新出来る様、努めさせて頂きます(*´꒳`*)


happy Valentine's day No.3

ㅤ誰かが俺を訪ねて来た様だが、部屋に入って来たらしい。

ㅤこの時間帯に誰だ、というのは言うまでも無い。

ㅤ朝、俺の部屋を自由に出入り出来る人間は1人だけだ。

 

ㅤ何時も自室の扉には鍵を掛けているのだが…。

ㅤ今は緊急で出られないと、後で来訪者に謝る事で大体は許される。

ㅤだが今回は違う。

ㅤ毎朝俺の部屋に来てくれて、『おはよう』の声を掛けてくれる優しい少女。

 

「あづみさん…そう言えば、きさらちゃんの事で焦ってたばかりに…」

「あづ、まぃにちだいすけと、あってゆ?」

「…そう、だね。彼女と約束してる事が有るから…毎朝来てくれるんだよ」

「きぃ、うぁやましぃ…」

「まさかの…!」

 

ㅤしゅんとしたきさらちゃんから、意外なる一言。

ㅤ羨ましい…のか…?

ㅤいや、良く考えろ。

ㅤきさらちゃんはまだ7歳。

ㅤ起きたらヴェスパローゼさんが出掛けている、という事は少なからず有るのだろう。

ㅤまだ幼い彼女にとっては、寂しい事この上無いのかも知れない。

ㅤ成る程、納得する。

 

「…だが、どうしたものか。これは誤解を招き兼ねない」

「………?」

「あづみさん…頼みますから、風呂場には…!」

「…あしぉと、すゆ」

 

ㅤ来ない筈が無いよな。

ㅤあづみさんと顔を合わせたら、何て言えば良いのか。

ㅤ言い訳を考えようにも、所詮は言い訳。

ㅤ更なる悪い展開へと進んでしまう。

ㅤとは言え正直な話をして、こんな話を信じてくれるかどうか…。

 

ㅤいや。

ㅤあづみさんなら。

ㅤ信じてくれる、そう信じられる。

ㅤおどおどしている方がよっぽど怪しまれるだろう。

ㅤなら最初から、正々堂々と。

ㅤ事実を言えば呑み込んでくれるかもしれない。

 

ㅤと、悩み込んでいたその時。

 

コンコン

 

ㅤ風呂場のドアをノックする音が、全体に響いた。

ㅤ何だこの…一歩間違えれば終わってしまう緊迫感は。

ㅤというか抑、バレンタインに違う意味での胸の高鳴りを味わうとは。

ㅤ流石、色々な意味で戦場と謳われる日だ。

ㅤ去年然り今年も戦場だな、こりゃあ。

 

ㅤふと、彼女の声が風呂場に広がった。

 

「……だ、大祐くん?その………もしかしてシャワー浴びてる、のかな。タオル忘れてるみたいだから、持ってくるね」

 

ㅤあづみさんの声の後に続く様に、パタパタという走る音が一つ。

 

ㅤ相変わらず、なんて気が利く子だ事。

ㅤそうか、俺は焦って体を拭く為のタオルを忘れてたのか。

ㅤ何時もこんな調子では、あづみさんに申し訳無いな…。

 

「…今の内、きさらちゃん。髪の毛濯いじゃうね」

「あぃがとっ」

 

ㅤならば彼女が離れた今しか無い。

ㅤ俺は泡に包まれたきさらちゃんの髪の毛に、又、シャワーから流れ出る温水を当てていく。

ㅤかなりしっかりと洗ったからな…途中アクシデントが多々有ったものの、チョコレートに関しては問題無いだろう。

ㅤ全く、ヴェスパローゼさんは複数の意味でえげつないな。

ㅤ加えて自分から来る訳で無い為に、此方からは何とも言えない。

 

ㅤ本当、つくづく好きな様にされてるなと。

ㅤだがまあ…きさらちゃんに癒されている自分が居るだけ有って、其処には触れないでおきたい。

ㅤやはり可愛さには勝てないな。

 

ㅤそれは今に始まった事では無い、そう思いながら、きさらちゃんの髪の毛を包んでいる泡を流していく。

 

「………きさらちゃん、そろそろ終わるからね。………きさら、ちゃん………?」

 

ㅤ後はしっかりとこの泡を流すだけ。

ㅤそれで終了だときさらちゃんに伝えるものの、彼女からの反応が無い。

ㅤこれは、あれか。

 

「………くー………………す……………」

「…寝ちゃってる。このままだと危ないな、早めに終わらせよう」

 

ㅤ幼い子供は、髪の毛を洗って貰っている最中に寝てしまう、というのは割と聞く話だ。

ㅤ然し彼女は座ったまま、何時前に倒れても可笑しく無い状況。

ㅤこくん…こくん…と、体を揺らすきさらちゃん。

ㅤ最早意識は夢の中、一歩手前という所か。

 

ㅤ俺はきさらちゃんが倒れない様に、自分の胸元辺りを利用し、彼女の体を支える様にする。

ㅤ要するにきさらちゃんの背中、後頭部と、俺の体がぴったりくっ付いている状態だ。

ㅤ今更恥なんて感情は持たない。

ㅤきさらちゃんを早く風呂場から上がらせ、寝かせてあげねば。

 

ㅤと、ちゃんと洗えているか下に目をやる。

ㅤその瞬間、俺は又もや慌てて目を背けた。

 

ㅤきさらちゃん自身が寝てしまった事により、彼女が脇で挟んでいたタオルが落ちてしまっていた。

ㅤこれは…一大事だ。

ㅤどうする、一度シャワーを置いて、彼女の体を見ない様にタオルを持ち上げるか?

ㅤいやだが…きさらちゃんの体を支えてしまっている以上、此処から動けない。

ㅤ地べたに置く、と…シャワーが暴れ出す可能性が限り無く大。

ㅤ後は…目視出来ないまま、彼女の髪の毛を洗うか。

ㅤそれはあまりに適当だろう。

 

ㅤあとは…何か無いかーー

 

「大祐くん、タオル持って来たよ………あれ…?」

 

ㅤこのタイミングでーーいや、寧ろ助かったというべきか。

 

「これ、きさらちゃんのお洋服………?」

「あづみさん、俺の声、聞こえてます…?」

「だ、大祐くんっ…?えっと…聞こえてるよっ」

「すみません、緊急事態でして…あづみさんに助けて貰いたいのですが…」

 

(此処に置いてあるきさらちゃんのお洋服…凄く気になる、けど…)

 

「う、うんっ。でも…私、何すれば良いの、かな…」

「その………あづみさんも、此方に来て頂けると」

「…ふぇっ…!?」

 

ㅤ可愛い。

ㅤじゃなくて。

 

「割りと大変な状況でして…、無理を承知でお願い出来ると」

「あぅ……えと……だ、大祐くんは、良いの…?」

「あづみさんさえ良ければ」

「〜〜〜!うぅ……///その………す、直ぐ行くねっ」

「毎度毎度、申し訳無いです…」

 

ㅤ良かった…何とか窮地を脱出出来そうだ。

ㅤ然し、あづみさんと会話する為にシャワーヘッドを手で押さえ、音を極力消したは良いが…。

ㅤ若干彼女の服を脱ぐ音が聞こえる。

ㅤ何時もの暖かそうな衣服…そのリボンを解く音。

ㅤ更には『パサッ』と、衣服が地面に落ちるーー

 

ㅤ止めだ、止め。

ㅤあづみさんに対して、感情を抑えられない自分は確かに居るが、今はそれどころじゃ無いだろう。

ㅤ彼女にも協力して貰って、この窮地を脱すると決めたのだ。

ㅤ上手く行くと良いが………………。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します…」

「あづみさっーー」

 

ㅤ死ぬ。

 

「だ、大祐…くん…?」

「………………いや」

 

ㅤ彼女がタオルだけを巻いた姿、それを目にするなんて初めてで。

ㅤなんか、こう…言い知れぬ感情がーー

 

「…っ、きさらちゃん…?」

「そうなのですよ…事情は後程説明致しますけど、今はきさらちゃんのタオルを持ち上げてくれると………」

「大祐くんは、大丈夫?」

「えぇ、俺は何とも無いですよ」

「ほっ…」

 

ㅤあづみさんは胸に手を当て、安堵の息を吐く。

 

「どうかしました?」

「あっ、ううん…緊急事態って聞いて、大祐くんに何か有ったのかなって…」

「ふふっ、怖くなりました?なんて」

「もぅ、本当に心配したんだからねっ」

「直ぐに心配してくれるだなんて、俺は良いお嫁様を持ったものだ…可愛いし」

「お、お嫁さっ…えへへ…///」

 

ㅤ照れてる姿も相変わらず可愛いこと。

ㅤそれに、もじもじしながら此方に近付いて来るのは反則だ。

ㅤ頰を真っ赤にして真横に来られると、此方まで恥ずかしくなってしまう。

ㅤ先まで『恥は捨てた』的な発言をしていた自分は、何処に行ったのか。

 

「本当、新妻新夫みたいね。初々しい夫婦だこと」

「…っ!」

「ヴェスパローゼさん…貴女、きさらちゃんに何て事を教えたのですか」

「ふふっ、私ときさらのバレンタインチョコ、楽しんで貰えたかしら?」

「俺の話…」

「聞いてるわ、安心なさい?」

 

ㅤ何時もの黒いドレスを身に付け、堂々と浴室のドア前に立つヴェスパローゼさん。

ㅤ全て彼女が仕組んだ事だというのは、最早語るまい。

ㅤそして地味に警戒しているあづみさんが可愛い。

ㅤきさらちゃんは…寝たままだ。

 

「ふぅ…大祐も、堅物ねぇ。あのまま、きさらを食べてしまえば良かったのに」

「まだ7歳の女の子に手を出せと」

「14歳の少女に、自分の子供を孕ませた男性が、口にする台詞かしら?」

「まだあづみさんのお腹に子供はーー」

「ふぇっ…大祐くんの、もう私のお腹に…」

「ストップ、あづみ」

「嬉しい、な…///」

「ヴェスパローゼさんの一言で話が脱線しましたけど!!」

「あら、良いじゃない。微笑ましいわ?」

 

ㅤいやいや、『微笑ましいわ』じゃないですよ…。

ㅤこちとら必死で問題を解決しようとしてるにも関わらず、ヴェスパローゼさんは何時もの調子で俺を揶揄う。

ㅤ本当、勘弁願いたい。

ㅤそして、その揶揄いに半分慣れて来ている自分が居る。

ㅤ最早勘弁願いたいとか言う話では、無いのかもしれないな。

 

ㅤ兎に角、バレンタイン問題を引き起こした張本人であるヴェスパローゼさん。

ㅤ彼女とあづみさんが、今一番頼りになるのは他ならない。

ㅤ自分に引き金を引いて来た人物が、1番頼りって…。

ㅤふと、そう思ってしまう。

 

ㅤだが、どんな状況でもヴェスパローゼさんが頼りになる事に、何ら違いは無い。

ㅤ彼女には、色々と見習うべき点が有るからな…頭が上がらないのは事実。

ㅤ何方かと言えば、無理矢理上げさせられているというのが正しいか。

ㅤ全てはヴェスパローゼさんのペースで。

ㅤ全く、何時もと変わりないじゃあないか。

 

ーーー


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