Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編)   作:黒曜【蒼煌華】

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書くのをすっかり忘れていましたが、クリスマスイブ、クリスマス、大晦日、元日の話は態と突っ込み所満載にしております。



ーーー
ソトゥ子の部屋

「はぁ…明日はクリスマス………飛鳥君に会いたい……」

バンッ!(ソトゥ子の部屋の扉が思いっきり開く音)

「なっ、なに……?」
「すみませんソトゥ子さん!貴女の知り合いで、寝ている人達にメッセージをお願いします!」
「…あづみちゃんとリゲルちゃんの…想い人……リア充が来た…」
「何言ってるか分かりませんが、明日は俺の家でクリスマスパーティを開催するので、来たい人は来てと伝言頼みます!」
「私はーー」
「ソトゥ子さんも勿論招待しますよ!飛鳥君も来ると思います」
「本当…!?…じゃあ、行く…!」
「お願いしますね!」
「分かった…任せて」

バンッ!(九条が扉を閉めて行く音)

「…丸で嵐………それよりも明日は、飛鳥君に会える…やった…♪」


番外編:クリスマス

ㅤ朝。

 

「突撃!隣のハーレムさん!」

「うぇあ!?」

 

ガタッガシャンッ

 

「痛って!」

「あれ、嫁さん達は?」

「別室だから!てか嫁言うな!!」

「そうか、すまん」

「許すかぁ!!!」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「…ってな事が朝から勃発してた」

「それは大変やったな」

 

ㅤ昨日から1日経った今日。

ㅤ待ちにも待っていないクリスマスが訪れた。

ㅤ朝からテンションの高いへっきーに起こされて頭をぶつけて、朝のシャワーを浴びに大浴場へ行ったらあづみさんとベガさんが仲睦まじく話していて。

ㅤ可笑しいな、何で男湯に二人がいるんだろうって思って暖簾を確かめに行ったら男湯と女湯の暖簾が逆になっていて。

ㅤ森山の碧野郎に殺意が湧いた。

ㅤその後はあづみさんとベガさんが話を分かってくれて一大事にならずに済んだが。

 

ㅤ何であんなにテンションが異常なんだ、あの変態は。

ㅤ去年なんかはサンタがソリからひっくり返って死ねば良いのに、すればクリスマスなんか無くなるだろ。

ㅤ的な発言をしていたのにな。

ㅤエレシュキガルさんが居てくれるからクリぼっちという呪縛から逃れられた、そんな解放感を味わいたいのだろう。

 

ㅤいや、それは一向に構わない。

ㅤだがこれだけは言わせてくれ。

ㅤ人を巻き込むなと。

 

「まあまあ、そんな事気にしてても良い事起きへんで。今はクリスマスパーティを楽しまな!」

「…飛鳥君の優しさに乾杯」

「何故僕に乾杯してんねん!」

 

ㅤいやー打てば響く様な突っ込みを有難う。

ㅤ飛鳥君は…何かこう、普通だから話し易いっていうか。

ㅤ匕首が良いんだよな。

ㅤ気が合うっていうか。

ㅤ昨日の騒ぎの件は謝ったら軽く許してくれたし。

ㅤ彼は単純に優しいんだろうな。

ㅤだから周りに女性が集まってくるのか?

 

…それは違うよな。

ㅤ飛鳥君が好きな女性達は如何にも彼の人間性に惹かれたのだろう。

ㅤハーレムどうこう言うなら俺じゃなくて飛鳥君に言えば良いのにな。

 

「おい」

 

ㅤなんて、飲料の入ったグラス片手に飛鳥君と話していると、不機嫌そうな表情の相馬氏が仲に入ってきた。

ㅤ何だ、話し相手がいないから寂しかったのかな?

ㅤだからそんなに機嫌悪そうにーー

 

「昨日、彼奴があの店に来るってどうして教えてくれなかったんだ?」

「確信が持てない以上は唯の迷惑行為にしか過ぎないからね」

「あの虫と幼女は別だった」

「ヴェスパローゼさんもきさらちゃんも、俺を信頼してくれていたから」

「…まぁ、良いか。今日はパーティに誘ってくれてありがとな。それを言いに来ただけだ」

 

ㅤえ、今のは俺が殴られる風な流れじゃないの?

 

「相馬さんもツンデレやな!」

「男のツンデレとか誰得」

 

ㅤでも…ああいう感じでも御礼を言われれば嬉しい。

ㅤ素直に伝えられない相馬氏、ルクスリアさんも大変、ルクスリアさんの相手をする相馬氏も大変。

ㅤ結局どっちもどっちじゃないか。

 

ㅤそんな相馬氏。

ㅤ現在フィーユを追いかけ回しているへっきーを追い掛け中。

ㅤ森山氏もエレシュキガルさんがいるんだから止めた方が良いと思うんだけど。

ㅤあ、エレシュキガルさんから制裁が食らわされてる。

 

「…ていうか、大祐君家はほんまに広いなぁ。住んでるの四人だけやろ?」

「ベガさんからのプレゼント。家庭を築く為に必要なんだと」

「それ結構意味深な発言やん!要するに大祐君とーー公共の場で言う事じゃないな」

「うん?」

 

ㅤすまんな飛鳥君。

ㅤ其方関連の事は察しが悪いんだ。

ㅤ中学三年間溝に捨てた様な奴だからさ、保健体育には疎いんだ。

ㅤ公共の場で言えないって事はそういう事だろう?

ㅤ駄目だぞ飛鳥君、そんな事を言うと何処ぞの七大罪とーー

 

「あっ、大祐君見つけた!」

 

ㅤ何処ぞの変態がーー

 

「お?ピンクな話か?」

「くるなぁぁ!!!」

 

ㅤ全く…何だ?

ㅤフラグを立てると直ぐに回収してしまう病でも患ったか?

ㅤ飛鳥君、頼むからその目をやめてくれ。

ㅤ然も苦笑いて、物凄い悪意感じるよ、うん。

ㅤルクスリアさんと表情が対照的過ぎる。

 

ㅤああもう、この場から早々に退出したい。

ㅤまだ始まって10分も経ってないのに疲れて来た。

ㅤ自室で休もうかな。

 

「てか相馬氏は!?」

「巻いた」

「だからって此方に来なくても…疲れた」

「せや、あづみちゃんの所へ行きーや。すれば少しは気持ちも落ち着くで」

「大祐君、あづみんにぞっこんだもんね」

「逆もまた言えるな」

「…いや、それだけは駄目だ」

「どうして?」

 

ㅤ確かにあづみさんは少し離れた正面位置でリゲルさん、ベガさんと楽しく話をしているけど…。

ㅤあの輪に入って行く自信は無いし。

ㅤ何より年に一度のクリスマスなんだ。

ㅤ親子水入らず楽しんで貰いたい。

 

ㅤリゲルさんはもう、あづみさんにとっては友達以上の関係なのだろう。

ㅤベガさんもそれは承知の上か今は仲睦まじく、料理を片手に会話している。

ㅤ何だか見慣れない光景だけど不思議と違和感はない。

ㅤ嬉しいと思える自分しかいない。

ㅤ3人がああやって和解出来た事が。

 

「…俺は遠くから見ているだけで満足だよ」

「大祐は積極性が足りないなー」

「そうね。時には嫌われる勇気も必要よ?」

「踏み出す一歩が大事や!」

「…でも…それが大祐くんの……良いところなんじゃないのかな」

 

ㅤへっきーを除いた二人が俺の背中を押してくれていると、いつの間にか輪の中にソリトゥスさんがいた。

ㅤその姿に少しばかり驚くルクスリアさんだが、直ぐに表情を切り替える。

ㅤうむ、どんな時でも思う。

 

ㅤ二人が姉妹に見えない。

 

ㅤ外見、中身何方も似つかない二人が姉妹だなんて…初見で聞いた時はビビり物だったぞ。

ㅤだがまぁ似ていないからこそ良いのかも知れないが。

ㅤ似過ぎた物同士は憎み合うと聞いた事あるし。

ㅤちょいと気になる二人の事情だが、あまりズケズケと踏み込むのは宜しくない。

ㅤ彼女達には彼女達なりの問題がある訳だし。

 

「あら、お姉様も大祐君狙いで?」

「ルクスリア……それは貴女でしょ。私は………えと…その…あ、あす」

「ソリトゥスさん、無理しなくても察してるから大丈夫」

「何の話や?」

 

ㅤ流石、鈍感系主人公は違いますわ。

ㅤ君の事が好きな女性が君の名前を呼ぶ瞬間に限って肉食べてるってどういうこっちゃ。

ㅤこの人フィエリテさんの気持ちにも気付いてないし…後、上柚木の綾瀬嬢でしょ?

ㅤ他にも誰か居た筈だけど忘れた。

ㅤ唯、一つ言えるのはまだ飛鳥君を想っている女性はいるという事。

 

ㅤ鈍感系主人公を好きになっていく女性達…これこそハーレムの典型だよね。

ㅤでもなぁ、飛鳥君がハーレムになっていくのは分かる気がする。

ㅤ人間性も勿論の事、気遣い出来るし戦闘嫌々系男子だし。

ㅤとどのつまり野蛮な部分が一切見受けられないという事だ。

 

ㅤ女性に対しても男性に対しても優しく接し、誰に対しても態度を変えない。

ㅤ素晴らしいね、モテる男は違う。

 

ㅤだが逆に、俺がモテるのはどうかと思う。

ㅤあづみさんにリゲルさん、きさらちゃんは…あの子は俺をどう捉えているのか。

ㅤそれに加えてベガさんやヴェスパローゼさんは何だか、何時でも優しいし。

ㅤナナヤ嬢には気に入られてるらしいし。

ㅤ分からない、何故俺がこんなに優遇されているのかが分からない。

 

「大祐くんが頭を抱えてる……」

「にい、大丈夫?」

「大祐さん!?何があったんですか?」

「おぉ…世羅に怜亜くんか…。お兄さん疲れたから外出てくるねー…」

「世羅も行くっ」

「お共しますよ!」

 

ㅤいや、違うんだ。

ㅤ決して君達が嫌いな訳じゃないんだよ。

ㅤ唯ね、一人になりたいんだ。

ㅤじゃないとね、俺の精神がーー

 

「わぁ〜雪だ♪」

「世羅!大祐さんに迷惑掛けないでよ!」

「むぅー…怜亜くんのケチ…」

「…連れて来てしまった」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ九条は庭に出る一歩手前で倉敷世羅、戦斗怜亜の雪遊びを呆けっとしながら見つめていた。

ㅤ後ろの、玄関を抜けた先にあるパーティ会場では更なる盛り上がりを見せている。

ㅤだが、彼自身はあまり乗り気では無かった。

ㅤ自分以外の人達が楽しんでいる姿を見て満足してしまっているからだろう。

ㅤこの世界のZ/X、人間が分かり合えてこうして賑やかに暮らせる日々に。

ㅤ大切な人達が害に怯える事無く平穏に暮らせる日々に。

 

ㅤ九条大祐はもう既にこれ以上の幸せは無いと確信している。

ㅤ未だ小学生の二人が目の前で存分に遊んでいる光景を見れば誰だってそう思える。

 

ㅤ家の壁に寄り掛かりながらそうして佇んでいると、左側から白い髪の男の子が此方に近付いていた。

 

「…あの二人の相手、疲れるだろ」

「幼い子供の面倒を見るのがお兄さんの役目さ」

「…ふっ。どんよりとした顔でそんな事言われても、丸で説得力が無いぞ」

「雷超君にはお見通しだったか」

 

ㅤ白い髪の男の子…雷鳥超(らいちょう すぐる)は九条大祐と同じ様に壁へ体の重心を預ける。

ㅤ彼の目は九条大祐を心配するような眼差しだった。

ㅤそれに気付いていた九条だが、敢えて何も言わない選択肢を取る。

 

「………」

「………」

 

ㅤお互いに話す話題が無いのか、沈黙が二人の間を支配する。

 

(雷超君は何をしに来たんだろう)

 

ㅤ二人が静まり返っている空間には只管に倉敷世羅、戦斗怜亜の楽し気な声が響き渡っていた。

ㅤ雷鳥超は彼等と1歳年上なだけなのだが、幼さという言葉から掛け離れている。

ㅤそんな彼を内心逆に心配し始める九条大祐。

ㅤその気持ちが沈黙を打ち破った。

 

「…雷鳥君って怜亜くん達みたいに遊んだりしないのかい?」

「彼奴等と同じにされたら困る。各務原あづみとやらも似た質問をしてきたな」

「あづみさんが?」

「年下にさん付けか」

「まあね。…で、あづみさんも同じ事を?」

「ああ。面倒だから追い返した」

「どうやって?」

「邪魔だから早くお前の所に帰れって催促したら顔真っ赤にして何処か行ったぞ」

「意味が良く分からないや」

「俺の台詞だ」

 

ㅤ雷鳥超の答えに疑問を浮かべる九条だが、一番謎に思ったのは雷鳥超彼自身だ。

ㅤ相手をするのが面倒なあまり付き合いをしている九条の元へ追いやろうとしたら謎の反応。

 

「あづみさんは天然だから。可愛いから」

「…話が噛み合わないな」

 

ㅤ全くの受け答えになっていない九条に呆れつつも苦笑いをする雷鳥超。

ㅤ各務原あづみの事になると何時も「可愛い可愛い」と言ってしまう九条大祐にとって、その苦笑いの意味は理解出来なかった。

 

「…で、何か用があって話してきたんだよね」

「ん?あ、ああ…まあな」

 

ㅤ九条は知っている。

ㅤ雷鳥超という男が何の用も無しに話し掛けてくる奴では無いという事を。

ㅤでなければ、態々会いたくも無いであろう倉敷世羅や戦斗怜亜の前に出てくる筈も無い。

ㅤ雷鳥超のお兄さん役として手は何時でも貸すと言わんばかりに、何でも任せなさいといった表情で要件の話を待つ。

ㅤその顔が気に食わないのか雷鳥超は目を背けるが、ふっと鼻で笑いつつ九条へと向き直る。

 

「…今日位は好きに過ごせ。只何もしないっていうのも一つの選択肢だ。…彼奴等の面倒は俺が見る」

「君ほんま小学生か?」

「五月蝿い、分かったらさっさと行け」

「へぇ…雷鳥君って、何かと言って優しいよね」

「…っ!」

 

ㅤ九条大祐の言葉に、雷鳥超は顔を真っ赤にさせながら何かを言おうとしたが。

ㅤ溜息一つ吐き、倉敷世羅、戦斗怜亜の元へと歩いて行った。

 

『お前等、今日は大祐に関わるな』

『えー何で雷鳥に指図されなきゃなんねーの?』

『世羅、にいと遊びたい!』

『止めろ』

『俺、大祐さんの所にーー』

『…いい加減にしないと』

『ひぃっ、雷鳥さん、すんませんでしたぁ!」

『…野蛮』

 

(あの3人、あんな調子で大丈夫か?せめて七尾嬢さえ居てくれれば…)

 

ㅤ熟気を使わされる九条。

ㅤ小学生組が気になりつつも雷鳥超の気遣いを無駄にしないよう、その場を静かに立ち去った。

ㅤ最後に後ろを振り返ると、3人が雪の上で楽しく遊んでいる光景が目に焼き付く。

ㅤ唯一、1人を抜いて。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ九条は1人、誰も居ない廊下を歩いていた。

ㅤパーティ会場とは別方向へ向かっているのだから当たり前と言えば当たり前だろう。

ㅤ彼は一体何処へ行くのか。

ㅤ階段という階段を上って行き、九条はある部屋の前で立ち止まった。

ㅤそして何の躊躇いも無しに部屋の扉を開く。

ㅤ入室して二歩三歩進んだところで、一般家庭のリビング並みに大きな部屋の真ん中にあるソファーが視界に映る。

ㅤその上でゆっくりと寛いでいるヴェスパローゼに、彼女の膝の上でスヤスヤと寝ている百目鬼きさら。

ㅤ九条大祐は百目鬼きさらを起こさない様、静かに歩いて近付いていく。

 

ㅤ彼がソファーの直ぐ傍まで歩いて行くと、ヴェスパローゼは自身の隣をぽんぽんと叩いて此処に座れと合図する。

ㅤ言われた通りに隣に座る九条大祐。

ㅤ横から見るヴェスパローゼの、百目鬼きさらに対する母親の様な笑顔に彼の心には様々な感情が湧いた。

ㅤだが、その中でも大きく存在する感情は「嬉しさ」。

ㅤ2人が幸せそうな時間を過ごしている光景を目にして、九条大祐までつい嬉しく、ほのぼのとしてしまう。

ㅤ自分の願った夢が一つ叶った事に喜びを隠し切れない。

ㅤ彼の顔は自然と笑顔になっていた。

 

「…きさらのこんな寝顔が見れるなんて、本当、貴方には感謝しきれないわね」

「前々から見てませんでした?」

「確かにそうね。でも、こんな気持ちは初めてだわ。以前は面倒な子としか思っていなかったのに…」

 

ㅤそう呟きながら、ヴェスパローゼは百目鬼きさらの髪の毛を触り始める。

 

「人もZ/Xも、変わるって事ですよ」

「あら…私を変えてくれたのは貴方よ?これでも本当に感謝してるんだから」

「それはどうも」

「ふふっ、私の台詞よ」

 

ㅤヴェスパローゼは九条大祐へ和かな笑みを浮かべる。

ㅤそして直ぐに百目鬼きさらへと向き直り、今度は彼女の頭を撫で始めた。

 

「…むー…ろーぜ…」

「あら、寝てるのに名前を呼んでくれるなんて、きさらは嬉しくなる事をしてくれるわね」

「…楽しんでるところ悪いんですが…それで、きさらちゃんの体はどうです?」

 

ㅤ百目鬼きさらに癒されているヴェスパローゼに、九条大祐は真剣な表情で質問を投げ掛けた。

ㅤ一体何の話かと言うと、百目鬼きさらは一回だけディンギルと呼ばれる神様に願い事を叶えさせて貰った事がある。

ㅤその契約者がイシュタルなのだ。

 

「今は何も無いし、イシュタルも代償は要らないって言ってくれてるから大丈夫だと思うわ」

「神様も可愛さには負けるんですね」

 

ㅤ九条は今の、それからこれからの百目鬼きさらの未来を心配していた。

ㅤ幾ら神様本人が代償無しと言ったとはいえ、決して無害という訳では無いだろう。

ㅤまだ7歳と幼い百目鬼きさらを最大限気に掛ける九条。

ㅤそれはヴェスパローゼも同じだった。

ㅤ表情に余裕はあるものの、内心では不安と心配で沢山なのが彼は直ぐに分かった。

ㅤ今日は百目鬼きさらと遊ぶ約束をしたのもあるが、そんなヴェスパローゼを安心させたいと思いこの部屋に呼び出した九条。

ㅤ彼の中では既にクリスマスパーティ等どうでも良くなっていた。

 

「もし何かありましたら、何時でも呼んで下さい。話でも何でも聞きますから」

「それは心強いわね。丸できさら専用の医師みたい」

 

ㅤ余程の安心剤を求めていたのか、九条の言葉にヴェスパローゼはクスクスと笑みを返す。

ㅤ彼女のその笑顔に少し気持ちを高ぶらせた九条だが、悟られぬ様に顔を直ぐ背ける。

ㅤだが、ヴェスパローゼには既にお見通しだった。

ㅤ然し彼女は内緒に、気付いた事がバレない様に寝ている百目鬼きさらを再度撫で始める。

 

「ねぇ大祐」

「何で御座いましょう」

「少しきさらの面倒を見ててくれるかしら?ちょっとパーティ会場から食べ物を拝借して来るから」

 

ㅤそう言うと、ヴェスパローゼは百目鬼きさらを九条の膝の上に預けて立ち上がる。

 

「それなら俺がーー」

 

ㅤ見兼ねた九条は動くなら自分がと言い張ろうと前に出ようとする。

ㅤだが、ヴェスパローゼに肩を掴まれソファーに座らされた。

 

「良いの、私が取ってきたいんだから。貴方は此処できさらと待ってて頂戴。ね?」

 

ㅤそれだけ言い残してヴェスパローゼは部屋を出て行った。

ㅤ直後、百目鬼きさらが腕を伸ばして九条の体をよじ登る。

ㅤ卒然過ぎる出来事にソファーごと後ろに倒れそうになるが、何とか持ち堪える。

 

「き、きさらちゃん!?寝てたんじゃ…」

「おきてた」

「えっと…いつから?」

「ろーぜがたって、だいすけのひざにのってから」

「ついさっきか…」

 

ㅤ九条は取り敢えず百目鬼きさらを膝の上まで下ろそうと両脇を抱える。

ㅤすると彼女はそれに反抗するかの如く首元に腕を回してギュッと抱き着いた。

ㅤ疑問に思いながらも九条はどうすられば良いか考える。

ㅤこのまま好きなだけ遊ばせてあげるか、一度離れて貰って膝の上だけに留めて貰うか。

 

(いや、好きにさせるって言ったんだから自由にして貰おう)

 

ㅤ九条は前者を取り、百目鬼きさらが満足するまでそのまま何もせずに待とうと考える。

ㅤ彼の気持ちを感じ取った彼女は抱き着く力を弱めた。

ㅤそれでもゼロ距離から離れようとはしない。

 

「きさらちゃん、急にどうしたの?」

「なんえもない…だいすけに、あまあたかった」

「…分かった、じゃあ俺はこのままでいるよ」

「うぃ」

 

ㅤ先程まで流暢に話していた百目鬼きさらは、何故か以前の口調に戻ってしまっていた。

ㅤ一応ながら説明すると、彼女がイシュタルに叶えて貰った願いは「ヴェスパローゼの為に頭を良くしてくれ」という願い。

ㅤその御蔭で前々から続いていた、言葉として成り立つか分からない曖昧な片言が治ったのだが、今になって逆戻り。

ㅤ百目鬼きさらは自分の口調に違和感を感じて咄嗟に、両手で口を隠す。

 

ㅤだが、九条大祐は一瞬無言になった程度。

ㅤ後は何時も通りの笑顔を彼女に見せる。

ㅤそれでも百目鬼きさらは顔を下に俯けた。

 

「どうしたの?きさらちゃん」

 

ㅤ彼女が目を合わせてくれない理由等とっくに知っている九条大祐。

ㅤじゃあ何故質問するのか。

ㅤ何が彼女を嫌な思いにさせてるかなんて本人にしか分からないからだ。

ㅤそれに相手から直接聞き出さなければ断定すら出来ない。

ㅤというのが彼の思考。

 

「…きぃ、あたまよくなぃ。ろーぜにきあわれる…」

「いいや。それは無いかな」

「ぅゅ?」

「ヴェスパローゼさんは最早、きさらちゃんを自分の娘みたいに思っているからね。嫌われる事は先ず無いよ」

「…じぁ、だいすけは?」

 

ㅤ百目鬼きさらは少しばかりビクビクとしながら彼の目を見つめる。

ㅤ彼女が至極怖がっているのは見なくても分かる事。

ㅤ九条大祐は震える彼女の体、背中に手を回す。

ㅤそして今度は彼の方から百目鬼きさらを抱き締めた。

 

「だいすけ…?」

「大丈夫。俺がきさらちゃんを嫌う事は絶対に有り得ないから。君に誓うよ」

「…うぃ…だいすけっ!」

 

ㅤ九条は彼女の小さくて細い体を優しく、包み込む様に腕の中へ。

ㅤ受け入れてくれた彼に百目鬼きさらは存分に甘え始める。

ㅤ先よりも強く彼を抱き締めるものの、言うてまだ7歳の力。

ㅤだが、百目鬼きさらが九条を思って精一杯抱き着いているのは遠目から見ても分かる光景だった。

 

ㅤその状態で20秒程経過後。

ㅤ百目鬼きさらが絡ませていた腕を離し、再度九条大祐の膝の上へちょこんと座る。

ㅤ九条はそれに合わせ自分の腕を前に出して後ろから彼女を抱く様に、百目鬼きさらの腹部へと手を当てる。

 

「こうしてても良いかな?」

「こえ、しぃき!」

 

ㅤ本人はそう言っているが本当に嫌がっていないか、後ろから彼女の顔を覗く。

ㅤ然し、九条大祐の不安は無駄な物となった。

ㅤ百目鬼きさらはニコニコと満面の笑みを浮かべながら体を左右に揺らしている。

ㅤこの状態が余程嬉しくて楽しいのか、彼女は鼻歌を歌い始める。

ㅤそんな、可愛らしい声で歌う鼻歌を九条は後ろから満喫していた。

ㅤほのぼのとした空間が2人を包み込む。

 

「〜♪♪」

「…ふぅ」

「だいすけ?」

「きさらちゃんの鼻歌は癒されるなぁ」

「じゃあ、うたう」

「ありがとね」

「〜♪♪」

 

ㅤ百目鬼きさらは九条大祐の要望に応えるように鼻歌を続ける。

ㅤ偶に後ろを振り返る彼女に対して、九条は頭を撫でてあげ。

ㅤそんな時間が30分程経った頃。

ㅤ九条の膝の上で、百目鬼きさらはスヤスヤと眠りに就いた。

 

ーーー

 

「申し訳無いわ。イシュタルとの話が長引いて……あら」

 

ㅤその後、ヴェスパローゼが部屋に戻って来た時には既に九条大祐の姿は無かった。

 

「…ぅゅ…だいすけ…しゅき…」

 

ㅤ部屋に残されたのは熟睡中の、ソファーからベッドへ移された小さな少女と。

ㅤその少女の枕元に置かれた、赤い包装紙と金色のリボンで華やかに彩られているプレゼントだった。

 

「…ふふ、きさら専用の医師、は嘘ね。きさら、後でサンタさんに感謝しないとね」

「………うぃ……」

 

ーーー

 

 

 

 

 

「よし、きさらちゃんへのプレゼントは渡せた」

 

ㅤサプライズという言葉が好きな彼にとって先程の行いは自己満足にも近い。

ㅤだが、百目鬼きさらという少女にプレゼントを渡せた事が何よりも嬉しいかったのか、相も変わらず誰もいない廊下で喜んでいる。

ㅤその後直ぐに気持ちを切り替え何処か別の場所へと足を運ぶ。

ㅤ彼が向かった先は彼自身の部屋だった。

ㅤクリスマスパーティの主催者である九条本人が姿を見せないというのもあれな話だが、彼の中では雷鳥超の気遣いを無駄にしたくないという思いがある。

ㅤ恋人という存在の各務原あづみやリゲルには存分に楽しんで貰い、自分は素直に休もうと彼は考えた。

ㅤどうやら、各務原あづみの母親であるベガにも今日一日位は好きに過ごして欲しいと思っているらしい。

 

ㅤ九条は自分の部屋の前…最上階一歩手前の部屋の扉を開けようとドアノブに手を掛ける。

ㅤそして握り、そのまま手前へ引くとガチャリという音が周囲に響き渡った。

ㅤ開いた扉の隙間から自身の体を通す。

ㅤしっかりと扉が閉まったのを確認すると、九条は前へ前へと足を進ませた。

 

ㅤ彼の部屋の構造は右手に寝室、左手に客が来た時などに使う所謂客間、真ん中はどの部屋とも同じくリビング。

ㅤ入室すると同時に見えるのがこの大きなリビングだ。

ㅤ部屋の中心にはテーブル一つ、それを囲う様にソファーが二つ。

ㅤ奥には九条大祐専用の椅子と机が置いてあり、丸で一国の王が座ってそうな雰囲気が漂っている。

 

ㅤ然し、九条は右へ曲がり寝室の方へ向かう。

ㅤちゃんと寝床で休みたいというのが彼の現状だろう。

 

ㅤ九条大祐は寝室の扉をゆっくりと開ける。

ㅤだが、次の瞬間彼の心には焦りが生まれた。

 

「あの…ベガ、さん?」

「…!」

 

ㅤ九条の寝室のベッドの上にベガ。

ㅤ更に彼女は、何故か彼の黒いコートを抱き締めながら息を荒げている。

 

「えっと…パーティ会場は彼方ですよ?」

 

ㅤ最早どうやって部屋の鍵を開けたのかすら聴かない九条。

 

「…あづみのクリスマスプレゼントに相応しいかどうか、見定めていたのです」

 

(ベガさん、それは流石に無理があるよ!?ていうかあづみさんに俺のコートなんか渡さないで下さい!?)

 

ㅤ色々と突っ込みたくなった九条だが、一度深呼吸をして心を静める。

ㅤそして一歩、また一歩とベガに近付いて行く。

ㅤ九条が迫ってくる度に体をビクつかせるベガ。

ㅤ例えるなら人間に慣れていない小動物の様だ。

ㅤそんな彼女の反応を可愛いと思った九条は、一気にベッドへダイブする。

 

…手前で、動きを止めた。

ㅤベガと彼の顔の距離が略ゼロに近い。

 

「で、俺のコートで何してたんです?」

「あっ…えっと…その…」

 

ㅤ見た目は大人の女性其の物なのだが、如何にも初々しい反応を返すベガ。

ㅤ彼女の予想外な弱点を発見した九条は勢いで攻め立てる。

 

「気になる事でもありました?それなら直接聞いてくれればーー」

「ち、違います」

「じゃあ何ですか?何をしてたんですか?」

「うぅ…///」

 

ㅤベガは顔を真っ赤にさせ、九条の黒いコートで顔を隠す。

ㅤ自分の衣服を、こんな美人が顔に当てているのを直で見せられると彼にも来るものがあった。

ㅤこのままでは精神的に持たない、取り敢えずリビングのソファーに移動しようと九条は試みる。

 

「…ベガさん、それ持ってでも良いので彼方の部屋に行きましょう?」

「わ、分かりました」

「さあ行きますよ」

「えっ?」

 

ㅤ九条大祐はベガの足、背中に手を回し、軽々と彼女を持ち上げる。

 

「…あ、貴方、意外と力持ち…なのね…」

「反応するのそこでしたか。てっきり恥ずかしがるかと」

「十分恥ずかしいです…が、何だか心地良いですね。これならあづみが好むのも分かります…」

 

ㅤベガは最後に小さく呟きを漏らす。

ㅤその呟きを聞き逃した九条大祐は頭にクエスチョンマークを浮かべながらベガをソファーへ運んでいった。

 

ㅤだが、九条とベガがソファーへ到着した瞬間。

ㅤ彼の部屋の扉の方から力強くバタン!と音が鳴り響いた。

ㅤ突如として起こった出来事に二人共驚くが、中に入って来た人物を見て更に驚愕する。

 

「大祐の部屋に入る不届き者は排除しまーー!」

「待って!お、お母さん!?」

「…あづみに…リゲル」

「えっと…大祐とベガ、が…え?」

「二人共、取り敢えず此処に座ってくれます?」

 

ㅤ互いに互いを見て驚愕し合う3人だが、その中で一人冷静な判断を下す九条大祐。

ㅤ話がややこしくなってしまうのを未然に防ぐ為だろう。

ㅤベガをソファーの上へ、ゆっくりと下す。

ㅤすると今度は各務原あづみとリゲルの前まで歩いて行き、二人に有無を言わさずソファーへ誘導する。

ㅤ九条があまり面倒事にしたくないという気持ちを察した各務原あづみとリゲルは、素直にその誘導に釣られて行った。

 

ㅤ四人全員が座ったのを確認した九条は、早速本題へと移る。

 

「で、何故ベガさんと俺があんな状況になっていたのか。先程までの状態を二人に教えますね」

 

ㅤその話を聞いた二人が動揺したのは言うまでもない。

ㅤ然しながら、各務原あづみもリゲルも笑って許したという。

ㅤある意味3人の意思の共有が成功した様にも見える。

ㅤ唯一人、何故二人が許してくれたのか分かっていない男を抜いて。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「あっ、そうだ!大祐くんに渡したい物があるのっ」

「渡したい物?」

「言ってしまうとクリスマスプレゼントなのだけれど…受け取ってくれるかしら?」

「無論、私からもあります」

 

ㅤそれを聞いた九条は片手に持っていたグラスを一旦テーブルに置き、3人へと体を向ける。

ㅤとは言ったものの、各務原あづみは先程の許してあげるという代わりに膝の上に乗せてくれと、顔を真っ赤に至極恥ずかしそうにして九条に頼み込んだ。

ㅤリゲルは隣に居させてくれるだけでも良いからと彼の右隣に座っており、ベガだけ一人は駄目だと彼の左隣に座っている。

 

ㅤ元は大人3人が座れる位には大きなソファーなのだが、流石に窮屈そうな九条大祐。

ㅤ前に女性、両隣に女性と。

 

「…ていうかこれ、両手に華以上じゃないですか」

「大祐くん苦しくない?」

「狭いと感じたら直ぐに言って頂戴」

「そしたら私とリゲルが対面に移ります」

 

ㅤ各務原あづみを動かそうとしない辺りがやはり母親、等と思っている九条をじっと見つめる3人。

ㅤ窮屈ではないというのが彼の内心だが、居心地の悪さを感じているのは間違い無い。

 

「俺は大丈夫ですよ。話の続きをどうぞ」

 

ㅤそれでも無理矢理話を進めようと、自分の心配はするなアピールをする九条。

ㅤ彼の表情を疑いつつも各務原あづみは口を開く。

ㅤだが、偶にーーというよりも頻繁に九条の顔を伺うのは本心から彼を心配しているからだろう。

ㅤ対してベガやリゲルはプレゼントについて話し合っている。

ㅤすると二人はバトルドレスを装着。

ㅤ目の前にプレゼントボックスを合わせて3箱取り出す。

 

「…あれ、3人はもう?」

「交換したよー♪」

 

ㅤその言葉を聞いた九条もバトルドレスを装着。

ㅤデータボックスを漁り、中からプレゼント箱を3箱取り出す。

ㅤ同じバトルドレスが故に作業工程としてはベガやリゲルと何ら変わらない。

ㅤ自身に目の前…では無く、各務原あづみの前に唐突に出現した事により、彼女の身体がビクッと跳ねた。

ㅤ九条は3箱共見事にテーブルの上へ落下するように出現させる。

ㅤ然し、箱からは軽いコトンといった音が鳴った。

 

ㅤ要するに大きい物ではないと。

ㅤそう見受けるのが妥当だ。

 

ㅤだが、九条は又もやデータボックスを弄り始める。

ㅤそして今度は大小混じった袋が三つ、テーブルの上に置かれた。

ㅤ更にテーブルと接地した際の音も別々。

 

「えっとですね…これがあづみさん、リゲルさん、ベガさん」

「どうして箱と袋があるのかしら」

「プレゼントは二つという事です」

「それじゃあ私達からも」

 

ㅤ九条大祐が3人其々にプレゼントを手渡しすると、相手3人からもプレゼントが返ってくる。

ㅤ丸でプレゼント交換…いや、プレゼント交換其の物だ。

 

「じゃあ、3人から開けてくれますか?」

「あら?こういうのは全員で開封するものではないのですか?」

「うん!大祐くんも一緒に開けようよっ」

「…そういうもんですかね」

「そういうものよ」

 

ㅤ九条大祐は3人の勢いに負け、全員で一斉に開封する選択肢を選んだ。

ㅤ本来は先に開けて貰いたかったというのが彼の本心だが、彼女達の思い遣りや笑顔に勝てる筈も無かった。

ㅤ因みに3人共座る位置を変え、九条大祐の隣に各務原あづみ。

ㅤ正面にはベガとリゲルという位置決めになっている。

 

ㅤそして彼は三つのプレゼント箱を綺麗に並べ、左から順に開けていく。

ㅤ九条が最初に開封しようと手を掛けたのはベガの物だった。

ㅤそれが合図代わりになり、3人共九条からのプレゼントを開けていく。

 

「…ベガさん…これって」

「どう?大祐なら気に入ってくれると思って」

「いや、あの…んん?」

「大祐くん、どうかしたの?」

 

ㅤ九条大祐の反応が気になったのか、各務原あづみが横からチラッとプレゼントの中身を覗く。

ㅤだが…それを見て絶句したのは彼女自身だった。

 

「…お母さん、これ…」

「そう、あづみ。貴女の母親だからこそ出来た事よ」

「恥ずかし過ぎるよぅ!大祐くんも何も言えずにーー」

「あづみさんの…嬉しいけど、どうすれば…」

「必死に使う用途を考えてくれてる……」

 

ㅤ一体、ベガからのプレゼント箱には何が入っていたのか。

ㅤ一言で片付けるなら「各務原あづみの写真」だ。

ㅤ確かに、彼女の事が好きで片時も離れたくないと思っている九条にとっては最適なのかもしれない。

ㅤだが、その写真の中には各務原あづみの幼少期時代等の、本人からすれば恥ずかしい事この上無いであろう物も混じっていた。

 

「ていうかベガさん、こういう写真をいつの間に…?」

「うぅ…大祐くん、そんなにまじまじと見ないでぇ///」

「ふふっ、照れてるあづみも可愛い」

「あ、リゲルの物も混じってますよ」

「マジですか!?」

「うそ!?大祐!そんな勢い良く探さないでぇ!」

 

ㅤプレゼント箱の真ん中にきっちりと固定されたケースの中身を隈無く探す九条。

ㅤすると本当にリゲル本人の写真が出てきてしまった。

 

「…二人共、可愛い…」

「わあああ!!??」

「このままではリゲルが壊れてしまいますね」

「次!大祐くん、次のプレゼントを開けて!」

「り、了解」

 

ㅤ自身の一番最初の頃、まだ青の世界に忠実だった頃の写真を見られて発狂するリゲル。

ㅤ中にはある時の、九条に抱かれた時の物まで撮られていた。

ㅤその写真を見た瞬間は九条も目を逸らした。

ㅤ状況が状況だったとはいえ、流石に自分のした行為を恥じている様だ。

 

ㅤそんな二人を見てくすりと笑みを零すベガ、自分の写真がこれ以上見られる前に次のプレゼントへ意識を移そうと、九条に催促する各務原あづみ。

ㅤ焦りを隠し切れていない彼女の催促を受け入れ、九条は隣に置いてあるプレゼントに手を伸ばす。

ㅤそれは各務原あづみ、彼女自身のプレゼント箱だった。

 

「おぉ…あづみさんのプレゼント可愛い!」

「えへへ、リゲルとお母さんにもこれにしたんだ。どう…かな」

「すっごく嬉しいよ、ありがとう」

 

ㅤ九条は各務原あづみからのプレゼントを絶賛した。

ㅤ少し横に長いプレゼント箱に入っていたのは赤いマフラー。

ㅤ各務原あづみ、リゲル、ベガ、四人お揃いになるように彼女が選んだという。

 

ㅤ最高のプレゼントを貰った九条は笑顔を、各務原あづみは彼のその笑顔に頬を赤く染めてテレテレする。

 

「外出する際はこれ絶対だな」

「そこまで嬉しがって貰えると…何だか渡したこっちの方が嬉しくなっちゃうな」

「私のプレゼントでは不満でしたか?なら今直ぐにでもーー」

「いや、ベガさんのは精神面で有難いです」

「じゃあ私のはどうかしら?」

 

ㅤ九条が二人のプレゼントに感謝の気持ちを伝えていると、先程まで疲れ果てていたリゲルが自信満々な態度でプレゼントを勧める。

ㅤ余程外れる事が無いと信じているのか、少しドヤ顔が混じりつつある表情で九条を見つめていた。

ㅤここまでされたのでは期待せざるを得ない。

ㅤ九条はドキドキと、心臓の鼓動を早めながらプレゼント箱を開けていく。

 

ㅤリゲルが彼にプレゼントした物とは、一体何なのか。

 

「これは…日本刀?」

 

ㅤ横長な箱の中に入っていたのは本物の日本刀。

ㅤ振れば何でもスパッと切れてしまいそうな日本刀だった。

ㅤ九条は試しに鞘の部分を握り締める。

ㅤ何故急に日本刀?と思った彼だが、次の瞬間頭の中に聞き覚えのある音が響き渡る。

 

[解放条件物質を確認しました。新しいバトルドレスを解放します。]

 

「何故今!?然もレッドフレーム!嬉しい!」

「え、えっと、良かったわね。…大祐が何言ってるか分からないわ…」

「有難う御座います!リゲルさんの御蔭で新しいバトルドレスが解放されました!」

「そ、そうなの?なら私も嬉しいわ!」

 

ㅤ九条の勢いに流されるがままに流されるリゲル。

ㅤだが、彼が嬉しがっている事だけは分かった彼女は素直に喜んだ。

ㅤ新しい戦力が増えたやらそういった訳ではなく。

ㅤ彼の笑顔が見れたから。

 

「いや、本当。皆さん有難う御座います」

「良いわよ、お礼なんて」

「リゲルの言う通りです。それに…」

「私達も大祐くんからプレゼントを貰ってるから」

「…それじゃあ、今度は俺のプレゼントをどうぞ!」

 

ㅤそしてその日はーーいや、その日も、四人は仲睦まじく笑い合いながら1日を過ごした。

 

ーーー

 

 




「大祐くん、これ…綺麗」
「私のは水晶、あづみは蒼いクリスタル」
「私はダイヤモンドです」
「3人に合った煌びやかな物をあげたくてですね…さあさあ、残りも開けちゃって下さい!」

(3人がプレゼント袋を開ける音)

「わぁ、新しいお洋服だっ♪」
「あづみのそれ…何着入っているのかしら」
「大祐、これは…コート?」
「ベガさん、コート欲しがってたじゃないですか。他にも面白い物が入ってる筈です」
「これですか?…ふふ、大祐は素晴らしい物をプレゼントしてくれましたね」
「高評価で何よりです」
「凄い…このビームサーベルに、ロングレンジライフル…ビームツインダガーまで付いてるわ」
「本来は戦闘系のプレゼントなんてしたくなかったんですけどね。リゲルさんが欲しがっていたのを思い出してーー」
「ありがとっ!大祐!」

(リゲルが九条大祐に抱き着く音)

「ちょっ、リゲルさん!待って…」
「相変わらず、リゲルと大祐くんは仲良しだね」
「ほんと、熟思い知らされます」
「あっ…えっと…その」
「照れてるリゲルさん可愛いね」
「わああぁぁぁ!?」

ーーー

「そう言えば、何故日本刀?」
「大祐がこの前、日本刀持ってブンブンしたいって言ってたから?」
「…ヤバイ奴じゃん、俺」

ーーー





クリスマス、とっくに過ぎてるやん…。
(主人公がベガさんへ渡したプレゼントの内容は、元日の話で明らかになります)

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