Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編)   作:黒曜【蒼煌華】

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バレンタイン(後編2)

「…?どういう意味ーー」

 

ㅤナナヤの言葉に翻弄されるリゲル。

ㅤそれでも警戒を解かない彼女は、一歩又一歩と後退り、ナナヤ距離を取る。

ㅤだが然し、ある程度距離を離した瞬間…リゲルの体は誰かに持ち上げられた。

 

「…!は、離しなさい!」

 

ㅤナナヤに気を取られ過ぎた。

ㅤ見事彼女の罠に引っ掛かってしまった、と、リゲルは後悔していた。

ㅤ兎に角、自分の体をお姫様抱っこしている奴から解放されようと必死にもがく。

ㅤすると、彼女の一番親しみのある声が耳に入ってきた。

 

「…り、リゲルさん。落ち着いて。俺ですから」

「大祐!?」

「ほーらねっ」

 

ㅤ声の主が九条大祐だと分かった瞬間、リゲルは平常心を取り戻し。

ㅤ同時に申し訳無さと恥ずかしさという感情が芽生えていた。

ㅤそれは彼女の表情に表れており、どうにかして九条大祐から顔を逸らそうとしている。

 

「いや…急に御免なさい。俺の勝手で驚かせてしまって…」

「…ナナヤに操られてる可能性は?」

「無いですよ。だから、安心して下さい」

 

ㅤそう、彼は優しく言い放った。

ㅤリゲルはその言葉を素直に信じ九条の胸元に寄り添う。

ㅤそんな光景を、まじまじと見つめる三人。

ㅤ中でも、ベガだけが母親の様な微笑みを浮かべていた。

 

「…それで、えーとですね…」

「?」

「もう少しの間、リゲルさんの事を好きにさせて貰っても良いですか…?」

「!!!」

 

ㅤ恐る恐る尋ねる九条大祐。

 

「…えぇ、その…任せるわ」

 

ㅤ最早既に、彼に身を委ねるリゲル。

 

「有難う御座います。それじゃ、ちょいと寝室に移動しますよ」

「…?どうして?」

「直ぐに分かります。そして、直ぐに戻って来ますから。ちょっと待っててくれますか?」

「うん、行ってらっしゃい」

「どうぞ〜楽しんで来てねっ」

「ふふっ…リゲル、覚悟した方が良いですよ」

「…へっ!?大祐、今から何するの…!?」

「お楽しみ?ですかね?」

 

ㅤニコッと、爽やかな笑顔を向ける九条大祐。

ㅤその表情にリゲルは胸を押さえ、身を縮こませる。

ㅤ先程はああ言ったものの、いざとなると怯みを隠せない。

ㅤ九条大祐とリゲルは、そのまま寝室へと入っていった。

 

 

 

 

ーーー

 

10分後

 

ーーー

 

 

 

 

「あ、リゲルと大祐くんが出て来たよ」

「…ありゃりゃ…これは」

「リゲル、完全に堕とされましたね」

 

ㅤ寝室から姿を出した二人を見て、三人は直ぐにこう思った。

ㅤリゲルが凄くぽけーっとしている。

ㅤ何をされたんだと。

 

ㅤそんな彼女を見て、心配そうに抱き締める九条大祐。

ㅤ相も変わらずお姫様抱っこでリゲルを運び、ソファーの上に寝かせる。

 

「…リゲルが、ショートしてる」

「まさかとは思いますが…大祐、リゲルと最後までしてしまったのですか?」

「大祐くんの初めては…わたしが貰いたかったのに」

「何言ってるんですか!?してませんよ!てか、ナナヤはまだ狙ってたのか…」

「当たり前だよっ♪」

 

ㅤこれではおちおち寝てもいられないと、九条大祐は若干萎え始めていた。

ㅤ何時か気付かない間にナナヤのお腹が大きくなって、それを祝う為に拍手を送ったら自分の子供と気付かされる。

ㅤ何て悲惨な未来なのだろうか。

ㅤそんな事を想像した彼は、顔を真っ青にして後悔していた。

 

「でも、まだしてないんだよね?じゃあ、何れ私の物になる日が…ふふっ♪」

「怖いからナナヤ!不敵な笑みで此方を見るな!」

「そうです。大祐の初めてはあづみと決まってますから」

「「えぇっ!?」

 

ㅤベガの言葉に、九条大祐と各務原あづみが同時に驚く。

 

「…母親公認か…いや、でも…まだ早いよな。うん。まだ…まだ早い、じゃあ何歳まで待てば良いんだろうか」

「大祐くん…私は、何時でもオッケー…だよ?」

「あづみ、先程の話を忘れてはいけません」

「そうだそうだ〜、大祐くんは私の物なんだからっ」

「俺は、物じゃ、ないから!」

 

ㅤ実の親から許可が下り、一瞬だが心が揺らいだ九条大祐。

ㅤ然しそれでは本能に従ってしまう事となる。

ㅤ本能=彼の中では一番嫌っているものだ。

ㅤ加えて此処を本能で動いてしまうと、自分の言葉に責任を持たない「責任放棄野郎」という最低な人間になってしまう。

ㅤそれは、それだけは嫌だと。

ㅤ九条大祐は各務原あづみの誘惑に押され掛けたものの、頭をぶんぶんと振って理性を取り戻す。

 

ㅤと、四人で話している内に。

 

「…う、うん…と。私は一体何をーー」

「あっ、リゲルおはよっ」

「あづみ…有難う。やっぱり何時見ても癒されるわね」

「大丈夫ですか?急にパタッと意識を切らしたのでびっくりしましたよ」

「えぇ…何があったのか、ちょっと思い出せなーー」

 

ㅤふと、リゲルは九条大祐の顔を見て頰を真っ赤に染めた。

ㅤそう、彼としたある一つの事。

ㅤ九条の顔を目に入れた瞬間、それを思い出してしまったリゲル。

ㅤ彼女はハッとし、後退り、そして腕を滑らせて頭をぶつけてしまいそうになった。

 

「きゃっ」

 

ㅤその時、瞬時に体を動かしてリゲルの肩に手を回し、支える九条。

 

「…ちょっと、落ち着きましょ?何だか凄く慌ててますから」

「あっ…いや、その…だって…」

 

ㅤ自分の慌てている理由を説明しようとしたリゲルだが、喉で引っ掛かって出て来ないままでいる。

ㅤ何故って?

ㅤ彼女にとって、九条大祐とした行為は口にする事の出来ないものだと認識しているからだ。

ㅤそれは彼も一緒だということに気付いていないのも事実だが。

 

「…二人は一体、何をしていたんですか」

「わ、私も気になる…!」

「俺とリゲルさんが何してたかって…言ってしまえばキスですよ」

「だ、だい…すけ…恥ずかしから言わないで…」

「協力した事、ちょっと後悔してるー…」

 

ㅤベガやナナヤより、まさか各務原あづみの興味津々さの方が勝っていた。

ㅤ一人は何故かしょんぼりとし、頰を膨らませてリゲルを威嚇している。

ㅤそれに対してリゲルは、普段しない様な勝ち誇った表情をしながらドヤ顔染みた顔を見せ付けていた。

ㅤナナヤはそれが気に入らなかったのか、咄嗟に九条大祐へ抱き付いて彼を困らせた

 

「ねーねー大祐くん、やっぱり…二人とした事よりももっと激しい事、しよ?」

「やだ」

「即答!?」

「…それよりも、リゲルにとってキスは初めてです。が…大祐にとってはそうでもありません。何が貴方の初めてだったんですか?」

 

ㅤ彼とナナヤが茶番の様な会話を繰り広げていると、ベガが素朴な疑問をぶつける。

ㅤ自分の体に引っ付くナナヤを剥がそうと必死になっていた九条大祐だが、ベガの質問に答えるべくちらっとリゲルの方に視線を送った。

ㅤすると彼女は照れているのか目を逸らしたが、コクンと頷いて了承を示す。

ㅤそんなリゲルの側には、各務原あづみが彼女の手を握って心配そうに見つめていた。

 

「…まぁ、確かにキスは初めてじゃありません。ついさっきあづみさんに捧げたばかりですからね」

「私との初めては何が良い?何でも良いよっ」

「ナナヤちゃん、ほんとに大祐くんが好きなんだね」

「うんっ!だからね、あづみちゃん達には負けないよ〜」

 

ㅤ九条大祐の話を遮断するかの如く、割って入るナナヤ。

ㅤ然し各務原あづみとは互いに笑顔で話し合っているのが伺えた。

ㅤ意外に仲が良いんだと九条大祐は思いながら、話を続ける。

 

「話を戻して、まぁ結論を言うとリゲルさんとは大人のキスをした訳ですよ」

「〜///」

「大人の…キス?」

「多分、ディープじゃないかな?」

「当たり。…そうしたらリゲルさんが俺の理性を吹き飛ばしそうな声を出して、いつの間にかショートしていた。どうやって起こそうか考えていたら遅くなったと、そういう話です」

「リゲル…どうでした?大人のキスは」

「でぃーぷキス、だよね?」

「や、やめてっ。感想とか言ったらまた倒れる自信しかないから!」

 

ㅤそう言ってリゲルは、近くにあったクッションに顔を埋める。

ㅤ自分の真っ赤な顔を見られたくないからだろう。

ㅤそんな、恋乙女真っ盛りのリゲルを見てベガや各務原あづみは不意に「可愛い」と思ってしまった。

 

ㅤすると九条大祐はリゲルの側まで寄り、彼女の上に被さる様にしてから顔のクッションを退ける。

 

「…それじゃあリゲルさんの可愛らしいお顔が見えませんよ?」

「や、見られたくないから隠してるのっ」

「大祐が急に肉食系になりましたね」

「いや、一回こういう事を言ってみたかったんですよ」

 

ㅤ物は試しに、みたいな感覚で普通は出来ない事をちゃっかり仕出かす九条大祐。

ㅤやはり無自覚というのは恐ろしいものだ。

ㅤ彼はそのままソファーに座り、ゆったりと寛ぐ。

ㅤ隣では息を切らしたリゲルが然りげ無く九条の肩に寄り掛かり。

ㅤその逆隣には各務原あづみが座り。

ㅤ向かい側にベガ、ナナヤと、必然的に座る席が決まっていた。

 

ㅤと、五人で楽し気に話していると部屋の扉がガチャッと開き、誰かが勢い良く入ってくる影が彼の瞳に一瞬映る。

ㅤすると九条大祐の元へ走って行く少女が一人。

ㅤ直後、彼の胸元に向かってダイブした。

 

「うおっ…と、きさらちゃん…走ると危ないよ。それに飛び込んで来るなんて、急にどうしたの?」

 

ㅤそう、走っていた影は彼女…百目鬼きさらのものだった。

ㅤ九条は自身の胸元に抱き付いている百目鬼きさらを、あやす様に頭を撫でてやる。

ㅤだが何故か、彼女の瞳からは雫が零れ落ちていた。

ㅤ流石に九条大祐も理由が分からない。

ㅤどうして百目鬼きさらは泣いているのか。

 

ㅤ周りの四人も心配そうに彼女を見つめていると、そこへ一人の美女が歩み寄ってくる。

ㅤ無論、ヴェスパローゼだ。

 

「…きさらちゃん?どした?」

「ヴェスパローゼ、またあの少女に何か吹き込みましたね」

「人聞きが悪いわよベガ。私は事実をきさらに教えただけ」

「へぇ〜…じゃあ、相当キツい事を言ったんだ」

 

ㅤベガはヴェスパローゼの核心を突く様な言葉をぶつけるも、彼女から返って来たのは否定だった。

ㅤそれに乗じて珍しくヴェスパローゼへ話し掛けるナナヤ。

ㅤ然し、当の本人はそれを完全無視。

ㅤ困り果てる九条大祐と、その彼の胸元で泣いている百目鬼きさらをじっと見つめていた。

 

「あの…きさらちゃんに何を言ったんですか…?」

 

ㅤ更には各務原あづみまでもがヴェスパローゼへ問い掛けていた。

ㅤ恐る恐る話し掛けてくる彼女に対してヴェスパローゼは、ふっと笑みを浮かべる。

ㅤそしてこう答えた。

 

「…大祐ときさらって、お似合いじゃないかしら」

「随分と突拍子も無いわね」

 

ㅤ彼女の返答があまりに唐突過ぎる内容の所為か、思わずリゲルが突っ込む。

 

「いや、飽くまで私個人の意見よ?」

「そう…それで?」

「気付いていないのかしら?私は二人がお似合いだと思う。だから大祐にはきさらを貰って欲しいの」

「…一体、何の関係があるのかしら」

 

ㅤそれが幼い少女の泣いている理由と、何の関連性があるのか。

ㅤリゲルだけでは無く、各務原あづみやナナヤも疑問を抱いた。

ㅤ二人…九条大祐とベガを抜いて。

 

「…成る程。ヴェスパローゼさんがどう伝えたのかは分かりませんが何と無く察しましたよ」

「ですね。恐らく「このままだと大祐の一番にはなれない」とでも言ったんでしょう。大祐自身があづみとリゲルを一番に見ているのも事実ですから」

 

ㅤすると百目鬼きさらは、彼の胸元で無言の頷きを見せた。

ㅤそんな、少し寂し気な表情で自分を見つめてくる彼女の頭を撫で続け、九条大祐は微妙な気持ちを抱く。

ㅤどうしてやれば良いのだろう、と。

ㅤ九条が百目鬼きさらを子供の様に見ていようとも、彼女からすればたった一人の好きな人…という認識なのだ。

ㅤとはいえまだ7歳の幼い少女を恋愛対象として見ろというのには難がある。

 

ㅤだからと言って彼女の気持ちを蔑ろには出来ない。

ㅤそれが今の、九条大祐の心境だった。

ㅤ葛藤、正にその通りだ。

 

ㅤするとヴェスパローゼが彼の近くに寄り、耳を貸してと一言。

ㅤ九条大祐は素直に従い、ヴェスパローゼへ耳を傾ける。

 

「…流石に今直ぐとは言わないわ。でも、きさらがもうちょっと大人になったら…あの子を一人の女として見て欲しいの。子供でも妹でも無い、恋愛対象として」

「…ですが」

「お願い。これは私からの勝手な申し出でもあるけれど、きさら自身の想いでもあるの」

 

ㅤ自分が良い印象を受ける為の嘘か真か。

ㅤヴェスパローゼの言葉が本当がどうか確かめるべく、九条は百目鬼きさらと顔を見合わせた。

ㅤ綺麗なその瞳と視線を合わせると、彼女は照れながら下を向いて頷く。

 

ㅤこれには九条も押し負けた。

 

ㅤもう、ここまで自分を好きだと思ってくれている百目鬼きさらをこのまま放っておく訳にはいかないと。

 

「…ありがとね、きさらちゃん」

「いぃ…の。きぃ、だいすけがすき…だから」

「ふふっ、ちゃんと自分の気持ちを言えたわね」

 

ㅤヴェスパローゼがそう言うと、百目鬼きさらは照れ隠しをする様に九条の胸元に顔を押し付けた。

 

「ま、私も大祐を諦めた訳じゃ無いわ。今度からは『攻め』という立場を得て…存分にアピールさせて貰うわね?」

「具体的には何を」

「そうね…朝に起きたら隣で寝てたり、昼は食事に誘ってそのままデートしたり、夜は…言わずもがな?」

「何故疑問系…」

「大祐なら察してくれるだろうと思って…ね?」

 

ㅤ彼からすれば、察しが良かろうが悪かろうが何れにせよ想像したくは無いだろうという気持ちだった。

ㅤ15歳という思春期真っ盛りの年齢だろうが、九条はそういう事を頭で考えるのに抵抗を抱いている。

ㅤその理由は。

ㅤ苦手意識が高いから…だけでは無かった。

ㅤ例えどの選択肢を選んだとしても最初に傷付くのは女性だ。

ㅤそれを踏まえて初めて、彼女達と一つになると。

ㅤどんな痛みだろうと関係無い。

ㅤ彼女達が痛がる姿を想像する事になる時点で、心が拒否して止まない。

 

ㅤ唯想像するだけでも、無理な物は無理だと。

ㅤ彼の中では頑なにそれを貫き通していた。

 

「ちょっと待つですの!ヴェスパローゼさんだけ抜け駆けとは卑怯ですわ!私も大祐君という男性を諦めた覚えはありませんの…私だって色んな事をしてみたいですのっ」

 

ㅤすると盗み聞きをしていたのか何なのか、蝶ヶ崎ほのめが扉を力強く開けて割り込みに入る。

 

「…え、色んなって何をですか!?」

「わ…私は、もう18歳ですわ。結婚出来る年齢には到達してますの。子供だって身籠れる位には体も出来上がってると思いますのよ。だから…その、あれですわ?」

「…ほのめ嬢もヴェスパローゼさんと似た感じですね!?その察せよみたいな疑問系。それに俺はまだ結婚出来る年齢ではありませんし…何だかすみません」

「謝る必要は無いですの!大祐君がその時になったら…お、美味しくいただきますのっ…」

「意味分かってます?」

「ヴェスパローゼさんの真似してみたのですわ」

「下手な真似はよした方が身の為ですよ…特にヴェスパローゼさんの真似は」

「あら失礼」

 

ㅤ二人の会話を聴きながら、ヴェスパローゼはにこにこと笑っていた。

ㅤそんな彼女に見向きもせず蝶ヶ崎ほのめは九条大祐の近くへと寄って行く。

ㅤ彼の胸元では幼い少女がゆっくりと呼吸しながらリラックスし、誰にも譲らないと言わんばかりに彼を抱き締めていた。

ㅤ九条大祐は蝶ヶ崎ほのめを気にしながらも百目鬼きさらの背中を優しく叩いてやっていた。

 

ㅤその光景を羨ましそうに見つめる蝶ヶ崎ほのめ。

ㅤすると百目鬼きさらは一瞬だけ振り向いて彼女と目を合わせるが、直ぐにぷいっと視線を逸らす。

 

「ぐぬぬ…幼い事がこんなに恨めしく感じたのは初めてですの。私にも是非して欲しいですわ…」

 

ㅤそう言って、悲しそうな表情を浮かべる。

ㅤ然し目の前でそんな事をされたんじゃあ、九条大祐も黙っちゃいない。

ㅤ両隣りに座っている大好きな二人とアイコンタクトを取り、蝶ヶ崎ほのめを手招きする。

ㅤ彼女は九条の指示通り側まで近付いた。

ㅤそして彼は、百目鬼きさらを右腕で抱き、蝶ヶ崎ほのめのを左の腕で抱き締める。

 

「…!は、はわっ…急に何ですの!?」

 

ㅤ慌てる彼女の耳元に、九条大祐は顔を寄せてこう言った。

 

「…すみません。ほのめ嬢が2番以下は1番嫌いなのを知っていながらもあんな事を口にして。でも俺は、皆を二人と同じ位好きですし愛してます。無論ほのめ嬢もその対象ですからね。もしこんな男は嫌と言うのでしたら、何時でも離れて貰って構いません。貴女を縛りたくはありませんから」

「大祐君は…卑怯ですの」

「ふふっ、その照れてる顔といい。ほのめ嬢は可愛らしくて…普段から芯の強い美しい女性ですよね」

 

ㅤ彼の言葉に顔が真っ赤に染まる蝶ヶ崎ほのめ。

ㅤ九条大祐は彼女の顎の下に手を置き、クイっと上に上げて自分と目が合うようにする。

ㅤ俗に言う本日三回目の「顎クイ」だ。

ㅤそんな、周りの女性達が見ている中での大胆行動。

ㅤ九条大祐は躊躇等せず、次は大胆発言をかました。

 

「…思わず落としたくなっちゃうな」

「ふぇ…えぇっ…!?」

「珍しく大祐が攻めてる」

 

ㅤ不敵な笑みを見せながら蝶ヶ崎ほのめという女性の心を完全に鷲掴みしに行く九条。

 

「だ、大祐くん…私にもしてっ…」

「うーん…あづみさんにはもうちょっと恥ずかしい事、言ってみようかな」

「大祐は本当に恥ずかしがってるのかしら」

「はい、死にたくなる程恥ずかしいですね」

「私が一番恥ずかしいですのっ!…で、でも、嬉しいですの」

 

ㅤ蝶ヶ崎ほのめは素直に思った事を口にする。

ㅤそれに対して九条大祐は「好かれている」事の大切さ、有難さを実感していた。

 

ㅤ無論、忘れて欲しくないのは彼を嫌う人物もいる事だ。

ㅤ男性は以ての外だが、女性からも勿論嫌われる。

ㅤ九条が極端な所為か彼の周りに集まる人物も、1か100という極端さを持っていた。

ㅤ彼を好む者はとことん好きになり、彼を嫌う者は何が何でも関係其の物を持ちたくないと、九条の存在自体を渋る。

 

ㅤだが、当の本人は全く気になどしていなかった。

ㅤ自分が嫌われる人種である事は重々承知済みだからだ。

ㅤだからこそ、こんなにも自分を好きになってくれる人達がいてくれる事に疑いを持っていた。

ㅤそれも今日という日で消え失せた訳だが。

 

「…はぁ」

 

ㅤ様々な想いが混ざり合い、思わず溜め息を吐いてしまう九条大祐。

 

「…こんなんだから女ったらしって思われるのかなぁ。やっぱり否定って事も覚えなきゃならんのか」

「どうかしらね。相手の全部を理解して受け止めてくれる大祐だからこそ、好かれるのかもしれないわよ?それは女性だけに限った話じゃあ無い訳だし…」

「否定する位なら肯定してやれってタイプだからな…相手を拒否する理由が分からんのですよ」

「でも、駄目な事は駄目って言うからね。じゃなかったら今頃は私の物になってたのに〜…」

 

ㅤナナヤは詰まらなそうに頬を膨らませ、九条の背後から両腕で抱き付く。

ㅤもしかすれば各務原あづみとリゲルを抜いた中で彼が一番好きなのは、百目鬼きさらとナナヤの二人やもしれない。

ㅤだが九条大祐自身が順番付けというのを嫌うからか、彼女達からかしても「誰が一番九条が好きか」という概念は無いのかも分からない。

ㅤ何れにせよ彼を我が物にするという目的は潰えないようだ。

 

「…それで、私達を騙してまで大祐を奪おうとしたのですか?ヴェスパローゼ」

 

ㅤそんな会話を繰り広げていると、怒り気味な表情の和修吉が何時の間にか扉の前に立っていた。

ㅤ周りには先程部屋を出て行った物達全員もおり、全員が全員不満そうな表情を見せている。

 

「私は騙した覚えは無いわよ?只一言「大祐の邪魔になるといけないから」って部屋を変えただけ」

「問題はその後です。貴女と百目鬼きさらは「外で空気を吸ってくる」と嘘を吐き、大祐の部屋にお邪魔していた。何時までも戻って来ないから嫌な予感はしてましたが…まさか本当に騙していたとは」

「…あれ?じゃあ、ほのめ嬢は?」

「私は怪しい二人の後を追っている内に道に迷ったのですわ。探してる内に大祐君の部屋の前を横切る事になり、話し声を聞いて乱入致しましたの」

 

ㅤあれは確かに乱入だった、それ以前に和修吉さん達はそんな単純な手に引っ掛かったのか…と九条は意外さを感じていた。

ㅤこれは後々役立つだろうと頭の隅で何やら企む九条だが、彼の周りには何時しか女性陣全員が集まっていた。

ㅤ少しばかり窮屈そうにしている各務原あづみとリゲルを自分の方に寄せ、ちょっとは楽になるかなと期待する。

 

ㅤ結果は丸で逆さまの様になってしまったが。

ㅤ九条の近くに寄せられた事により、嬉しさ、恥ずかしさ、照れがごちゃ混ぜになり上手く感情をコントロール出来ない二人。

ㅤそしてそれを実行した本人は全然気付いていない。

 

「…まぁ、でももう12時過ぎましたよ。皆さん寝た方が宜しいような気がしてならないんですが」

「私達はまだ話し足りないよ〜…ねぇマルキダエル、今日位夜更かしして大祐くんといっぱいお喋りしようよっ」

「九条さんが宜しいのであれば、是非お願いしたいです〜」

「わ、私もっ…言いたい事とか…沢山ある、から…」

「あら、バンシーちゃんが珍しく自分を出してる。大祐君、勿論レディファーストって言葉…知ってるわよね?」

「………え?これ、夜通しパターン…?」

 

ㅤ先程から話していた面子とは別の、騙されてしまった側の女性達が「もっとお喋りしようよ」と熱烈な意思を示す。

 

「にい、せんたくしは二つに一つだけだよ」

「世羅怖いよ!?」

「ますた、私達はどうすれば良いのでしょうか?」

「…好きにしてくれ、としか言えないよ…」

 

ㅤ最早逃げるという選択が潰されている。

ㅤそんな中、唯一上柚木さくらだけが「強要は良くないです」と九条に味方していた。

ㅤ更に彼女は、全員の核心を突く言葉を口にする。

 

「それに、九条さんが体調を崩したりすれば後悔するのは私達です。あの時無理させなければ、と」

「…さくらちゃん…」

 

ㅤ上柚木さくらは純粋に、九条大祐の体を心配していた。

ㅤつい先まで寝込んでいた彼の事を。

ㅤだからこうして、真っ直ぐな瞳と言葉を彼女達にぶつけている。

 

ㅤすると各務原あづみまで九条の顔を、心配する様に見つめていた。

ㅤそれはリゲルや百目鬼きさら、蝶ヶ崎ほのめも一緒であり。

ㅤ九条大祐のゼロ距離にいる彼女達は今の今まで、彼に甘えてきた。

ㅤ無論ナナヤも含めだ。

 

「…ふぅ」

 

ㅤそんな表情を向けられ、思わず溜め息を吐く。

ㅤ何時も通り…何かあれば溜め息を吐く癖を止めたいと思いつつも、九条大祐は深呼吸をする。

 

「ありがとう、さくらちゃん。…でも、そうだね。今日位は夜更かし夜通しのお喋りデーでも良いのかもしれない」

「…大祐、貴方は疲れている身です。しっかりと休息を取らなければーー」

「ベガさんの言う事も正しいと思ったりしてます。ですが、彼女達は俺に対して精一杯尽くしてくれているのに…俺はしてあげれていない。最低だとは思いませんか。幸せにしてあげたい、幸せにすると言ったのに相手だけが俺に尽くすなんて。それが嫌で嫌で仕方無いんですよ。特にあづみさんとリゲルさん…ナナヤときさらちゃん。四人は俺にこれでもかと献身的で…一人は違う感じがしなくも無いですが」

「…それ、絶対私に言ってるよね」

「けど俺に尽くそうとしてる事に変わりは?」

「ん、大祐くんが望めば何でもするよ?」

「ね。俺の言う事を何でも聞いてくれる。そう言ってくれるだけで献身的ーーというか自分がその人の物になる覚悟が出来ている訳だ。………話が逸れたけど、何も俺に献身的な人は四人だけじゃない。この場で俺が好きだと言ってくれた全員だ」

「…それが尽くす尽くし返すのと、大祐が無理する事と何が関係あるのですか?」

「…行動を起こさなければ当たり前の様に『何も起きない』。でも俺は何もしなかった。俺自身が貴女達が好きであろうと。理由なんて前に言った通りのつまらないものです。それに嫌われる事、拒否される事は怖いでしょう?…でも、貴女達はリスクを伴ってまで俺にこうして想いを伝えてくれて、実際に行動に移してくれて。こんな…俺に。……でも、俺からは何もしてあげられてない。見返りも何も無い。そう思う度にやっぱり俺って情け無い憶病者だって思い知らされるんです。だから今日ばかりは…いや、此れからは…俺が返す番なんです」

 

ㅤ九条大祐は彼女達の顔が見れなかった。

ㅤ顔を下に向ければ百目鬼きさらと蝶ヶ崎ほのめが、両隣には各務原あづみとリゲルが、後ろにはナナヤ、正面にはベガやヴェスパローゼ、更には和修吉やバンシー達が。

ㅤだから九条大祐は目を瞑った。

ㅤ瞑って彼女達を視界から消した。

 

「…見境無く、貴女達の望んだ事をしてあげれば良かったんですかね」

 

ㅤ限度等無い。

ㅤ『何でも』言われた事を実行すれば、正しかったのか。

ㅤ九条大祐はそう思いながら苦し気な苦笑いを浮かべた。

ㅤどうせは自分を守る為だけの言葉という壁を作っていただけなんじゃないか。

ㅤ建て前だけの碌でもなしだ、と。

ㅤ嫌われるリスクを恐れて何もして来なかった後悔が、今になって反動として彼を襲った。

 

…いや、本当は九条もずっと返してあげたい気持ちで一杯だったのだろう。

ㅤ然しそれをずるずると引き摺り、こんなにまで時が過ぎてしまったと。

ㅤ彼女達に尽くしてあげたい、けど過剰な事をすれば嫌われてしまうだろう。

ㅤでも彼女達が望む事はそのラインギリギリを越すか越さないか位の願いだ。

ㅤ確かに全員が全員そう望んでいる訳では無いが、例としてナナヤや各務原あづみ。

ㅤ前者は自分を捧げる気満々でグイグイ攻め、後者も然りげ無くそういったアピールをチラチラ見せている。

 

ㅤ百目鬼きさらは既に九条の嫁になる前提でおり、リゲルだって彼が許してくれるのであれば一緒に大人の階段を登りたいと願っている。

ㅤその願いを叶えさせてあげたくても勇気が無くて踏み出せない自分の行動力の無さが、自分を苦しめた訳だが。

 

「…違うよ、大祐くん」

「そうね。あづみの言う通り…それは違うわ」

「どうして…ですか?」

 

ㅤ各務原あづみとリゲルの二人は、先の九条大祐が放った言葉を否定した。

ㅤ理由が一切分からなくて直接聞いてしまう九条。

ㅤすると二人は真剣な表情で彼を見つめた。

 

「…大祐くん、勘違いしてるもん。私達は見返りが欲しくて大祐くんに自分を見せてる訳じゃ無いよ…?」

「えぇ。私達は大祐に振り向いて欲しくて、自分を見て欲しくて勝手にしてるだけ。勇気を出して動いているのは私達だから代償を払え…なんて自分勝手な事、言ったかしら?」

「でも俺は…!」

「否定したいなら私達の『全部』を受け入れる事になるの。私達の望んだ事をしなきゃいけないの」

「………!」

 

ㅤリゲルの口から放たれた彼女自身の本心に、九条は悔やんだ。

 

「…叶えてあげたい、貴女達の願いを!でも…俺が手を出すなんて身の丈以上の事をしてはいけなーー」

「その思い込みを何とかしなさいっ…私達が何時、大祐が下の存在だと口にしたかしら…?」

「リゲルさん…」

 

ㅤ感情を露わにしたリゲルは、口で強く言いながらも涙目になっていた。

ㅤ好きな相手が何時迄も「自分は底辺に位置する人間だから」と言い続けていれば、辛くなるのも仕方無い事だ。

 

ㅤ何故?

ㅤ好きになった人を底辺と思う者は居ない。

ㅤだからその考えを否定したがるのは当然だ。

ㅤ然し本人が自らを下の存在と認知し変える気がないのであれば、嫌になるのも当たり前。

 

「大祐くんは私達の、大好きで大切な人。だからもう…自分に酷い事を言って虐めないでよぅ…」

「あ、あづみさんまでーーて、全員…しんみりしなくても…」

「…きぃ、は…どんなだいすけも、しゅき」

「きさらの意見は最もよ。けど…逐一「底辺」や「下」という言葉を耳にする此方の身にもなって欲しいわ。時には自分を否定するだけじゃなく、認めてあげる事も大事なの」

 

ㅤヴェスパローゼはそう言って百目鬼きさらを抱き上げる。

ㅤして、何故か九条大祐の目の前に立った。

ㅤその行動に何の意味があるのか、今度は蝶ヶ崎ほのめが立ち上がってヴェスパローゼの隣に並ぶ。

ㅤ更にベガや和修吉、バンシーやグラ、倉敷世羅にムリエル、マルキダエルに続いて上柚木さくらにオリジナルXIIIまでも九条大祐の目の前に立ち、全員が全員彼を真っ直ぐな瞳で見つめていた。

 

ㅤ唯一、各務原あづみとリゲルだけが九条の両隣りに座ったまま。

ㅤ然し二人も九条の方を向いて。

 

ㅤ急に何だと混乱する九条。

ㅤそして最初に口を開いたのはーー

 

「…例え大祐くんが自分を認めなくても」

「私達は大祐を認めてる。それに貴方の全てを受け入れる。自分を肯定する貴方も、否定する貴方も」

 

ㅤ各務原あづみに被せる様に、リゲルは九条に好意を寄せている女性全員の想いを彼に伝える。

 

「だから此れからは…大祐の全部を理解して、貴方という存在を受け止める積もりよ」

「それじゃあ貴女達が疲れてーー」

「ううん、大丈夫だよ。私達は全員で大祐くんを受け止めるから」

「………どうして、そこまでしてくれるんですか」

 

ㅤ彼女達の想いを聞いても尚、愚問をぶつける九条。

ㅤ未だに自分を否定している証拠だ。

ㅤだが、そんな下らない思い込みを吹き飛ばす様に彼女達は其々の想いをぶつけ返す。

 

「あら?全部受け止めるって言ったじゃない」

「きぃも、ろーぜといっしょ!」

「大祐が否定する分、私達は認めましょう」

「ふふっ、貴方が自分を肯定出来る日が来るのを信じてますよ?大祐」

「大祐くんは…一人じゃ、ないっ」

「女の子を待たせるのは厳禁よ?」

「あ、珍しくレディって言わない。グラちゃんも本気だね〜」

「そう言うムリエルさんも本気です〜」

「もっちろん!あんな状況から助けてくれた恩人だもんっ。今度は私達から返さなきゃっ」

「にい、せらに何でも言って!にいの願いはせらが叶えるからっ」

「…そうですの。私達は其々、一度大祐君に助けて貰っていますの。本来は此方側が返すのが正解ですわ」

「九条さんへの恩返し、ですね」

「ますた、ご命令を。何でも熟して見せます」

 

…九条大祐にはまだ何も見えていなかった。

ㅤ彼女達がこんなに優しくしてくれる理由、答えが。

ㅤそんな彼の気持ちを察した各務原あづみとリゲルが口を開く。

 

「…ね?皆同じ。大祐の事を信じてるの」

「実はね…私達も大祐くんに対してここまで尽くしたいって気持ちが湧く理由が、見付かって無いの。只好きだから…ってだけじゃない。何か違う…もしかしたら理由なんて無いのかもしれないけどーー」

「…俺も、貴女方がどうしてこんなに尽くしてくれるのかが分からない」

「だからね。一緒に探したいんだ…大祐くんが自分を嫌う理由、私達が大祐くんに尽くしたい理由、お互いにお互いの事を知る為に」

「…あづみさん」

 

ㅤ九条大祐は彼女の名前を口にし、各務原あづみの胸元に項垂れた。

 

「…俺なんかよりも、よっぽど大人ですね。やっぱり俺なんかには勿体無い存在ーーっ」

 

ㅤ言われた側から学ばない。

ㅤだが、九条の言葉は物理的に押さえ付けられた。

ㅤそう…各務原あづみが自身の胸に彼の顔を押さえ付けていたからだ。

ㅤ両手で九条の頭をぎゅーっと抱き締めて離さない。

 

「それ以上は言わせないもんっ。せめて今日だけは、自分を認めてあげてよぅ…」

「ーーー!!」

「大祐が何か言ってる。…全然分からないわ」

「ふふっ、あづみ、ナイスアタックです」

「こ、攻撃じゃないもん」

 

ㅤ喋ろうにも物理的な口封じを食らっている所為で言葉を発する事すらままならない九条大祐。

ㅤ彼の頰は真っ赤に染まり、熱でもあるんじゃないかと思われる程になっていた。

 

ㅤと、百目鬼きさらがヴェスパローゼの腕から下り、とてとてと九条に近付いて行く。

ㅤそれに気付いた各務原あづみは「どうしたの?」と一言。

ㅤすると百目鬼きさらは「きぃも、したい」と返答。

ㅤ耳まで塞がれている為、九条には丸で聞こえていない。

ㅤそんな中、倉敷世羅迄もが負けじと寄って行く。

 

「きさらちゃんには負けないもんっ」

「きぃも!せあにはまけなぃ」

 

ㅤ二人のやり取りを聞いて、各務原あづみはにこにこしながら彼から手を離す。

ㅤ彼女の拘束から解除された九条は思いっきり息を吸う。

ㅤ余程苦しかったのだろう。

ㅤだが、その瞬間に又がっちりと掴まれてしまった。

 

「ぷはぁーーんー!?」

「だいすけ、にがさない」

「にい捕まえたっ」

「私も参加するっ」

 

ㅤ右から倉敷世羅、左から百目鬼きさら、どさくさに紛れて背後から再度登場ナナヤ。

ㅤそんな三人からぎゅっと抱き締められ、又もや身動きが取れなくなる九条。

ㅤ彼の正面からは「いいぞーもっとやれー!」というはしゃいだ声が部屋を騒ぎ立てていた。

 

ㅤ九条大祐はもごもごと何か言っているが、全く以って聞こえない。

ㅤ加えて、これは中々宜しくない絵面と化していた。

ㅤ二人の少女の胸元に顔を押し付けられ。

ㅤいや、ナナヤも見た目は少女…という事は三人の少女に攻められ。

ㅤ今ロリ◯ンと言われても否定の仕様が無い状況となっている。

 

「ーーちょっ、待って…!息を、吸わせて…!」

「大祐くんが苦しみながら欲求してくる姿…良いかも…♪」

「外道か!?」

 

ㅤナナヤのふとした言葉に全力で突っ込みを入れる。

ㅤ然し彼にそんな暇等無い。

ㅤ百目鬼きさら、倉敷世羅の二人が二度目のアタックを仕掛けようとしていたからだ。

ㅤそれに気付いた九条は二人の肩を掴み、自身の胸元に抱き締め、一旦落ち着かせる。

 

「ぅゅ…♪」

「にい、凄くあっついよ?」

「気にしたら負けだよ」

「ナナヤが言うな」

 

ㅤ逐一突っ込む九条に、ナナヤは「むぅ〜…」と頰を膨らませて不機嫌そうな表情を浮かべた。

ㅤ自業自得だと一瞬思った彼だったが、何かを察して危機感を覚える。

ㅤそう、何時の間にかヴェスパローゼや和修吉、上柚木さくら達に囲まれていた。

 

「それじゃあ、次は私達の番ね?」

「…え、あの…もう深夜ーー」

「此れからですのっ」

「夜更かしはあまり良くないけど…今日は良いよね…」

 

ㅤこんな真夜中から何をしようと言うのか疑問が湧いた九条だが、嫌な予感がした為に黙る。

ㅤ聞けば微笑みを返され、そのまま朝まで部屋から出してくれなさそうだからだ。

 

ㅤ彼に休みを与えずに攻め続けるヴェスパローゼ達。

ㅤそれに乗じて、他の女性達も一緒になって九条大祐の側へと近寄って行く。

 

「わ、私を本当の『大人のレディ』にしてくれるのよね…?」

「グラ嬢…随分と意味深だね」

「さぁ、夜は長いですよ。大祐…覚悟は良いですね?」

「ベガさんまで乗り気…えぇ、見事今日を乗り越えて見せますよ!」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤその日、全員九条大祐の部屋で寝たと。

ㅤ態々他の部屋からベッドと布団を運び、朝の片付けの事等考えもせず。

ㅤ流石に寝室には収まり切らず、何時も使っている部屋で眠る事に。

 

「…ん、ぅ…だいす…け…くん」

「…あづみ…だい…すけ…ずっと…」

「…誰が寝れるって言うんだよ」

 

ㅤ彼女達が満足するまで付き合った九条。

ㅤ本来ならば疲労で睡魔に襲われる筈だが、状況が状況な為に唯一彼だけが眠れずにいた。

ㅤ目を擦ったり欠伸をしたりと脳は寝ろと指示するが、その脳と目がギンギンに覚めていては寝れないのも当たり前だろう。

 

「…あぁ、きさらちゃん。乗って寝るのは構わないけど登って来ちゃだめだよ。…あ、両腕使えないんだったなーーこら、ナナヤ。俺が動けないからって顔を近付けない。…だからって下に行っちゃ駄目…ってか起きてるよね!?絶対!」

 

ㅤ彼女達が周りで寝ているからと小声で喋っていた九条だが、ナナヤの行動に痺れを切らして少しばかり声を上げる。

ㅤするとナナヤは明らかに笑っていた。

ㅤ此奴…!と思いながらも、彼は疲労の溜まった体を動かす気にはならなかった。

 

ㅤふと、各務原あづみとリゲルが起きた事に気付く。

ㅤ恐らく先の声で目を覚ましてしまったのだろう。

ㅤ九条大祐は小さな声で、且つ全力で謝っていた。

 

「…大丈夫、だよ…?ふぁ…」

「大祐は…寝れてる?」

「いや、全然ですよ。眠たくはあるんですがね…」

「そうなの…?じゃあ、ちょっと此方に寄ってくれるかしら…」

 

ㅤ九条は何かと思いながらも、リゲルの側に寄って行く。

ㅤ各務原あづみもリゲルも寝惚けているのか、前者は既に又夢の世界へ、後者は意識が明らかにはっきりしていないであろう状態で話している。

 

ㅤそしてリゲルに近寄ろうにも一苦労な九条。

ㅤ左腕は各務原あづみにぎゅっと抱き締められ、百目鬼きさらに乗られ、ちゃっかりナナヤがおり。

ㅤ然も太腿の上という微妙な位置に。

ㅤこんな身動きが取り辛い状況でも、何とかリゲルの側へ近寄る。

 

ㅤ何かあったのかな、そんな気持ちで彼女に近寄った彼だがーー

 

「リゲルさーーっ!?」

 

ㅤ九条の頭は一瞬にして彼女の胸に包まれる事となった。

 

「これで…寝れる…かしら?」

「んー…んー!!んんー!」

 

ㅤ身動きどころか口まで封じられた彼は、兎に角声を出してリゲルを起こそうと考える。

ㅤだが、彼女は気持ち良さそうに「くー…すー…」と寝息を立てながら眠っていた。

 

「んー!……………んー……」

 

ㅤ九条大祐は抗う事を諦めた。

ㅤ朝起きたら解放されている事を願い、素直に寝ようとする。

ㅤ周りには美人美少女が何人も寝ていて…自分は美女の胸に押し付けられーー

 

「………んんん!!!!!(だから眠れないって!!)」

 

ㅤ相変わらず波乱万丈な九条大祐の日常だった。

 

ーーー




3話連続更新の3話目です。
まだ読んで無い方は是非、1話目からどうぞ。

次回から投稿する話は本編に戻ります。
此れからも、マイペース作者の書く「Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜」を宜しくお願い致します。

…本編の主人公には幸せが掴めるのかな?



ーーー

「そう言えば、最近ベガさんが出掛けていた理由って…」
「えぇ。あの敷地をバレンタインイベントの場にする為。ヴェスパローゼと色々考えたのですよ?」
「いや、中々楽しかった…です。他の人達がどうなったかは知りませんが」
「知りたいのですか?」
「…いえ、遠慮しときます」

(まぁ、こういうイベントも偶には有りかな…率先して計画を立てくれるベガさんにこそ、あのクリスマスプレゼントは最適だったのかもしれないな)

ーーー

ベガさんへのプレゼントの内容はまだ明かしてませんけど…。
本編で明かしていきたいと思います。

ーーー

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