Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編)   作:黒曜【蒼煌華】

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Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜を読んで頂いている方々、長期間お待たせてしまい申し訳御座いませんでした。
一ヶ月半近く間を空けてしまい、活動報告等何も書かずに…。
お詫びと言うにはアレですが、今回は3話連続更新させて頂きました。
どの話も10000字を越しておりますので一気に読まれるか、ゆっくり読まれるかはお好きにどうぞ。
(先ず作者が決める権利等無いのですけど)

本編も何話か書いていましたので今月中に一回位は更新出来るかと思われます。
漸く本編に戻れます…此方も、お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。
本編の主人公はこんな幸せ者とは真逆だったりしたり…次回からの小説投稿を少しでも楽しみにして頂けていれば嬉しいです。

バレンタインとか何時の話だよって思いますよね…。
今回の話は主人公が一番の幸せを掴んだ場合、という設定なので、兎に角ハーレムしております。
苦手な方はブラウザバックを強く推奨致します。
待たせておいて何だそれと思われた方、本当にすみません。
そう思われ無かった方には深く感謝致します。
此れからもこんな作者の書く小説で良ければ、宜しくお願いします。

長文失礼しました。
何か感想等御座いましたら、遠慮無くどうぞ。
どんな意見も作者は受け入れますので。


バレンタイン(中編2)

ㅤカチャカチャと音が聞こえ、ふと目を覚ます九条大祐。

ㅤ窓から見える外の景色はすっかり暗闇に包まれていた。

ㅤ自室に帰って来てから殆ど記憶が残っていない彼は、取り敢えず辺りを見渡す。

ㅤ其処には何時もの、自室の光景のみが目に映っていた。

ㅤ寝起きで未だにぼーっとする頭を背伸びして起こし、一旦布団から出る。

ㅤすると次の瞬間、隣の広い部屋からガチャンッという音が鳴り響いた。

ㅤ一体何事だと、九条大祐は自室の扉を少しだけ開いてクリアリング染みた行為を行う。

ㅤすると彼の目には驚くべき光景が飛び込んできた。

 

「あづみ!怪我は無い!?」

「リゲル、ちょっと大袈裟だよう…きさらちゃんがお皿を落としちゃっただけだから」

「飛び散った破片で傷付く事もあるから気を付けなさい。…それより、大祐が起きてないと良いのですが」

「お母さんは色んな人を心配して大変だね。私は全然平気だよっ」

 

ーーー

 

「きさら、今度は私も一緒に持って行くわ。充分に気を付けた方が良いわよ」

「きぃ…がんばゆっ!」

「きさらちゃん、世羅お姉ちゃんも手伝うよ!」

「せあ、あぃがと」

 

ーーー

 

「ますたの為に作ったこれ…どうやって持って行きましょうか」

「type,Vなら、バランス感覚的に良いんじゃ無いかしら?」

「それならtype,II、貴女も優れている筈です」

「…でも、一人や二人じゃ持てないわね。あっ、オリジナルXIII全員で持って行けば良いじゃない」

「その方が効率的に最適な判断ですね」

「私も手伝いますわ!」

「いえ、ほのめ様が加わってしまうと、これを落としてしまう確率が90%まで跳ね上がります。よって、大人しくして貰えれば有り難いです」

「うぅー…酷い言われ様ですの」

 

ーーー

 

「大祐くん、早く起きないかなぁ…♪」

「バンシーちゃん、今大祐くんが起きてきちゃったら全部台無しになっちゃうわよ?」

「あっそうだった…でも、早く起きてこないとあれ、グラちゃんに食べられちゃう」

「大人のレディがそんな事する筈…無いじゃない。自分でもそれが心配で先にディナーを済ませて来たのよ?」

「準備万端だね」

「当然よ!」

 

ーーー

 

「…ばれんたいん…とは、どんな行事なんだ?」

「あれ、ウェルキエル知らないのー?」

「好きな人にチョコという、甘いお菓子をプレゼントする行事ですよ〜」

「ウェルキエルは大祐くんの事好き?」

「わ、私が…彼に対して抱く感情は…好意とかではない。共に認め合う戦友の様に感じている」

「うわー…」

「何だその反応は。そう言うムリエルはどう思ってーー」

「ん?好きだよ?」

「ぶっ」

「二人の会話、聞いているだけで飽きませんよね〜」

 

ーーー

 

「やっぱり、こうして見ると大祐は一夫多妻…いえ、一夫大多妻という言葉が似合います」

「和修吉…貴女もその一人なのよ?それに大祐は未だに誰を妻にするとかは言っていないわ」

「私を選んでくれれば、彼が満足するような生活を送らせてあげます。ヴェスパローゼにはそれが出来ますか?」

「あら、心外ね。出来るに決まってるじゃない。きさらと共同すれば完璧よ」

「ぅゅ?」

「…やはり、貴女は悪どいですね」

 

ーーー

 

ㅤ九条大祐は口を押さえ、思わず漏れてしまいそうな声を押し殺す。

ㅤ何故自分の部屋にあんな大勢の女性が居るのか。

ㅤ頭の中が混乱する九条大祐。

ㅤというかこのタイミングで起きてしまって良かったのか。

ㅤもう何をどうすれば良いのか分からなくなって頭を抱えてしまう。

 

「あ、そうだ!大祐くん起きてるか見てくるね」

 

ㅤビクつく九条。

 

「私も一緒に行くわ。最近大祐の寝顔、見れてなかったし」

「リゲルにとってはそれが日課みたいになってるのね」

「ふふっ、私…知ってるわよ?ベガが偶に、大祐の部屋に忍び込んで寝顔を見に行ってるの」

「リゲル…その秘密、絶対に口外禁止ですよ」

 

ㅤ照れながらもリゲルに圧力を掛けるベガ。

ㅤ然しリゲルはニコニコと笑いながら「どうかしらねー?」と言い、逆に優勢な立場に躍り出る。

ㅤそんな二人のやり取りを見て、各務原あづみも自然と笑顔を浮かべていた。

 

「じゃあ、取り敢えず大祐を見てくるわね」

「あづみも、お願い」

「うんっ」

 

ㅤという事で、各務原あづみとリゲルの二人が九条の寝室に向かう訳だが。

ㅤ肝心の九条は兎に角一度布団に戻らねばと、焦りに焦ってベッドの足に小指をぶつける。

 

「〜〜〜!!!」

 

ㅤ声にならない痛みが彼を襲った。

ㅤ然し、こんな馬鹿な事をしている暇は無い。

ㅤ九条は急いで掛け布団の中に潜り込み、寝た振りをする。

ㅤ余りの謎事案が発生しているからか、彼の心臓は大きな鼓動を鳴らしていた。

 

ㅤそして遂に、二人が寝室へと入って来る。

ㅤ扉はきっちりと閉めておいた為、起きた事がバレるというのは先ず無いだろう。

ㅤ後は彼自身が下手な演技を見せなければ良いだけ。

 

ㅤガチャッと、二人が扉を開ける音に若干反応を示してしまう九条。

 

「ふふっ…大祐くん、まだ寝てる」

「あら、本当ね。相当疲れたのかしら」

 

(バレてない…という事は、セーフ…)

 

ㅤ自分が起きていた事がバレずに安堵する。

ㅤだが、問題はここからだった。

ㅤ各務原あづみとリゲルは、寝ている(寝た振り)九条の両サイドに座り、彼の寝顔(演義)を微笑ましく見つめる。

 

「…大祐、今日は災難だったわね」

「でも、あのナナヤって女の子も悪気があってやった訳じゃ無いんでしょ?唯、大祐くんが好きだったから、自分からアピールしに行っただけで…」

「その結果がこれ。…少し冷たい言い方になるけど、もう少し遠慮して欲しいわね。大祐は…あの子だけの存在じゃないの」

「うん…。だけど、私達が大祐くんに積極的じゃないのも…原因だよね…」

「…否定のしようが無いわ」

 

ㅤリゲルの言葉で二人共静まり返る。

ㅤ自宅へ帰る間際、加えて寝て起きてから、九条は彼女達の何処かしんみりとした場面しか見ていない。

ㅤ現在も二人はしょぼくれていた。

ㅤそんな各務原あづみとリゲルの会話を耳にして、九条は自分に情け無さを感じていた。

 

ㅤ彼女達は何も悪く無い、悪いのは俺自身だと。

 

ㅤ相手からアピールが来るまで自ら動こうとしない自分が、積極的に接して来てくれたナナヤに対して偉そうな口を叩いて。

ㅤ各務原あづみやリゲルとお互いに好きだという気持ちを伝え合って、尚手を出さない。

ㅤベガやヴェスパローゼには優しくされて。

ㅤ百目鬼きさらや倉敷世羅は、まだあんなにも幼いのに自分を好きだと言ってくれて。

ㅤ自身が気付いて無いだけで、こんなに好意を向けられているのにも関わらず。

 

ㅤ九条大祐は彼女達に手出し等しなかった。

 

ㅤ今でも変わらずに、彼女達を汚したく無いと思っているからだろう。

ㅤ然しそれでは何時か、自分では無い誰かに汚されてしまう。

ㅤそれが彼女達の望みなら九条は何も気にしないだろう。

ㅤだが、彼に想いを馳せている女性達は、全員が彼と深い関わりを持ちたいと心に秘めている。

ㅤその気持ちに気付かない時点で情けないどうこうの問題では無いが。

 

「…でも、大祐くん本人の前でそれを言うのは…ちょっと…恥ずかしい、よね…」

「なら今が絶好のチャンスじゃない。大祐、寝ているから」

「そんな…寝てるからって駄目だよぅ…」

「…まぁ、かく言う私も、口にする度胸は無いけど」

「もうちょっと積極的にならないと駄目かなぁ…例えば朝、いきなり、だっ抱き付くとか…!」

「そういう積極性…?」

 

ㅤ九条は二人の会話を聞いていて思った。

ㅤうん、もう無理だ。

ㅤすると彼は、何の躊躇も無く体を起き上がらせる。

 

「…別に二人が悩む必要は無いよ。悪いのは俺だから」

「大祐くん!」

「…もしかして、全部聞いてたのかしら?」

 

ㅤ九条は無言で頷いた。

ㅤ彼の反応に、二人共顔を真っ赤にさせ、両手で覆い隠す。

 

「ごめん…俺がこんなんだから、二人の望みを叶えてあげれてない」

「そんな事無いっ、私達は大祐くんと一緒に居れるだけで満足だから。望みとか関係ないよっ」

「あづみの言う通り。…だけど、私からすれば…その…一つだけ、大祐ともっと親密になりたい…なんて」

 

ㅤしんみりとした空間の中、リゲルが一人でボソッと呟く。

ㅤだが、九条はそれを聞き逃さなかった。

ㅤ何時もは聞き逃してしまいそうな彼女の小声、呟きを。

 

ㅤ故に彼まで少し顔を赤くさせ、それが二人にバレない様に片腕で頰を隠す。

ㅤ部屋全体が暗い御蔭もあり、二人は何も気付かず話を続けていた。

 

「…あの…えっと…大祐くんは…」

「?」

 

ㅤと、先程まで流暢に話続けていた各務原あづみが、急にオドオドし始める。

ㅤ彼女は彼に何を聞きたいのか。

ㅤ取り敢えず各務原あづみの質問を耳に入れてから、と待つ九条。

ㅤすると、右側に居た彼女は九条大祐の右手をぎゅっと握ると、彼女の口から凄まじい言葉が放たれた。

 

「…大祐くんは、私達をどうしたいの…?」

「…!」

 

ㅤ頰を真っ赤に染め、上目遣いで、完全に九条大祐という男を殺しに行く各務原あづみ。

ㅤ更にこんな台詞を吐いてまでアピールするという事は、相当言葉に悩んだのか、将又切羽詰まったか。

 

ㅤ前者に関しては有り得る可能性だが、後者に関しては一体何をそんなに切羽詰まったのか理由が分からない。

ㅤ此処で九条の意識を自分やリゲルに向けなければ、とかなんとか思わなければ後者の可能性は皆無に等しい。

ㅤ悩みに悩んだ末、言葉がこれしか思い付かなかったからというのが正解だろう。

 

「あづみさん…急にどうしたの…?」

「…えっ?あっ、いや、何でも無いよ?…だ、だから、あまり気にしなくてもーー」

 

ㅤやはり前者が正しい様子だ。

 

「…あづみさんもリゲルさんも、本当はやっぱり何か望んでいる筈です。俺に対して。…でも、その何かが俺には分かりません」

「………た、例えば」

「例えば?」

 

ㅤそう言って、途中で止まってしまう。

ㅤどうしてもこの先を口に出せない彼女は、只管に心の中で悔やんでいた。

ㅤ心では幾ら思っても口に出せない葛藤。

ㅤリゲルはそんな感情を味わっていた。

 

ㅤすると彼女の頭の中に誰かの声が響き渡る。

 

(そんなんだから大祐くんが違う女に取られ兼ねるんだよ。私みたいにもっとガツガツ行かなきゃ!)

 

(…まさか、ナナヤ…?)

 

ㅤこの場面では救済の神であろうナナヤが、彼女に助言を与えた。

ㅤ確かに助言というよりは「もっと攻めろ」的な内容だが。

ㅤ然しそれがリゲルにとって、何れだけ心強い言葉だった事か。

ㅤ内心、神様の指示等受け入れたくも無いと思った彼女だが、此処は素直に聞き入れる。

ㅤそれでナナヤは成功の直前まで言ったのだから信憑性は高いと、効率で誤魔化した。

 

「…えぇ、例えば…キ…キス…とか…!」

「…俺とですか!?」

「も、もちろん…よ。他に誰が居るっていうの…!」

「もしかしてリゲルさん、へっきーに何か唆されたんじゃーー」

「ほっ本心よ!」

 

ㅤ彼女の最後の言葉に、何処か気圧された九条大祐。

ㅤそしてリゲルの本心を初めて聞き、動揺する他無くなってしまっている。

 

「…私もリゲルと同じ」

「あづみさんまで…!?」

「でも、私がしたいのはキスだけじゃ無いの…もっと、色んな初めてを、大祐くんと体験したいなぁ…」

「凄く意味深な発言だね…」

「えっと…どういう意味?」

 

ㅤ九条大祐は胸を押さえ付け、苦しそうに悶え始めた。

ㅤ理由としては最早一つしか挙がらないだろう。

ㅤ各務原あづみ…彼女の無知スキルが彼の心を鷲掴みにする。

ㅤそれをその張本人は首を傾げながら見つめる。

ㅤだが、胸を押さえ付けていたのは九条大祐だけでは無かった。

 

ㅤ彼の左側…とある美人な女性迄もが苦しそうに悶えている。

ㅤ各務原あづみの可愛さ、恐るべき破壊力。

 

「…はぁ、二人にここまで言って貰って、俺は幸せ者ですね」

「えへへ///」

「当たり前じゃない。あづみから一番に好かれている、これ程幸せな事は無いわ」

「リゲル、それはリゲルだけじゃーー」

「全くの同意見です」

「えぇっ…!?」

 

ㅤリゲルの放つ各務原あづみ大好きアピールに何の違和感も無く乗っていく九条。

ㅤやはり、二人の共通点は各務原あづみという少女の存在だろう。

ㅤ彼女が居なければ二人は恐らく、繋がりを持っていなかったのだから。

 

ㅤだが、共通点があるのは九条大祐と各務原あづみも同じ。

ㅤこの二人の共通点は、本人が無自覚であっても周囲から好かれる事だ。

ㅤ何か特別な力がある訳でも無いのに…側から聞けば羨ましいと感じる人達も多いだろう。

ㅤだが、好かれる対象迄もが二人共偏っている。

ㅤその対象とは、間違い無く女性だ。

 

ㅤ九条大祐も各務原あづみも、女性からの好意が凄まじい。

ㅤ前者に限っては、逆に男性からあまり良い印象を受けていない。

ㅤつまり天王寺飛鳥や森山碧は珍しい人種だという事になる。

ㅤ彼の親友二人の話は又今度にするとして、ならば後者はどうなんだろうと。

 

ㅤ各務原あづみは確かに女性に好かれる。

ㅤだが、彼女も男性から好印象は受けていない。

ㅤ先ず第一前提として、各務原あづみ自身が男性を得意としない+九条大祐然り、二人共極度の人見知り。

ㅤ更に各務原あづみの周りには、彼女を何としても守り抜こうとする女性が複数。

ㅤ取り敢えず近付けない。

ㅤそれを問答無用で近付いたのが九条大祐だが。

 

ㅤ兎に角、二人共女性には好かれるという事だ。

ㅤ「なんで?どうして?」と聞かれても、そういう星の下に生まれたからとしか返せない。

ㅤ理由は具体的に説明がつけられないからだ。

ㅤこの話は強制的に終了にしよう。

 

「…ん、そうだ。皆さん俺の部屋で何してるんですか?」

 

ㅤそれよりも、九条大祐は自分の部屋に大勢の女性が押し寄せている事が気掛かりで仕方が無かった。

ㅤ彼の疑問にハッと何かを思い出す各務原あづみとリゲル。

ㅤ二人はいそいそと慌てながら、九条の寝室の扉をしっかりと閉める。

 

「…あのね、大祐くんが寝た後の話なんだけどね…?」

「う、うん」

 

ㅤ今度はリゲルが何故、扉をガードしているのかが気掛かりで仕方無い九条。

ㅤ先程の行動からするに恐らく隠し事をしているのだろうと憶測する。

ㅤ試しにジト目をリゲルに送る。

ㅤすると彼女は九条から目を逸らし、作り笑いで「あ、あはは」等と口にし始めた。

 

ㅤ何時も近くで見ていた彼には分かる。

ㅤ明らかに怪しいと。

 

「リゲルさん、扉と俺、どっちが好きですか?」

「えっ…えぇ!?……そんなの、大祐に決まってるーー」

「じゃあ、此方に来てちゃんと話して下さい。今の部屋内部の現状を」

「うっ……やっぱり、大祐に隠し事なんて出来ないわね…。私達専用の嘘発見機みたいだもの」

「誰が嘘発見機ですか…ていうか、軽く俺の事ディスりましたよね?」

「それだけは無いわっ、それ位大祐が私達を分かってくれてるっていう…えっと…褒め言葉?」

 

ㅤリゲルは恥ずかし過ぎて、自分で何を言っているのか分からなくなる。

ㅤもじもじと照れるそんなリゲルを見て、九条は正直どうでも良くなった。

ㅤ彼女の口から「九条大祐は私達の事をしっかり把握している」という、信頼の言葉を貰えたからだろうか。

ㅤ各務原あづみの方へ視線を向けると、彼女も恥ずかしそうに頷いた。

 

ㅤ最近は顔を赤くさせている二人しか見ていないなと、少し嬉しくなる九条大祐。

ㅤ各務原あづみは人見知りが故に信頼が置ける人物にしか恥ずかしがらない、リゲルは抑限られた人物にしか恥じらいを持たないと。

ㅤ条件が中々に厳しい二人が、自分の前ではこんなにも照れを見せている。

 

ㅤ然し彼は、優越感等微塵も感じていなかった。

ㅤ二人が自分に好意を抱いて近寄って来てくれる=二人が自分を愛してくれている限りはずっと側で、三人で楽しく幸せに暮らせる。

ㅤそういう嬉しさだけが彼を包んでいた。

ㅤ加えて二人は「貴方が離れるなら私達はずっと追い続ける」という大胆発言をかましている。

ㅤ要するに、三人がバラバラになる事は無いという意味だ。

ㅤその事実があるだけで九条は優越感等どうでも良くなっていた。

ㅤ況してや命を賭けてまで二人の幸せ、自由を掴んだ男だ。

ㅤ他人よりも優れている、そんな感情は湧きもしないのだろう。

 

「…あづみさん、続きをお願い」

「うんっ。それでね…大祐くんが寝た後、沢山の女性の人達がこの部屋に来たの」

「全員大祐に用事があると言って、その用事が全員同じだったから共同作業中。そろそろ終わる寸前で、大祐が起きたっていうのが現状かしら」

「用事?共同作業?」

 

ㅤ九条大祐には思い当たる節が無かった。

ㅤあんなに大勢で、女性のみが自室に押し寄せてくる等。

ㅤ一つあるとすれば今迄自分が何かしら絡んで来た面子だという事。

ㅤ然し関わった理由は其々が別。

ㅤ関連性が丸で見つからない。

ㅤ頭を抱え、何とか思い出そうと頑張る九条。

 

「…駄目だ。全員一致の用事、内容が掴めん」

「気付かれていないのなら好都合よ。此方はサプライズとして企画している訳だし」

「そうだね。もう少しで終わるから、大祐くんはちょっと待っててーー」

 

ㅤ各務原あづみとリゲルはそう言って寝室から出ようとしたその時。

 

「あづみ、リゲル…大祐は寝てますか…?」

 

ㅤ寝室の扉が開き、そろりとベガが入室する。

 

「お、お母さん…!?」

「あれ、ベガさん。お早う御座います」

「起きていたのですね、大祐。…タイミングバッチリです。では、少し急ですが此方の部屋に来て貰いましょう」

「準備はどうするの?」

「恐らく二人は大祐と仲良くお話していたのでしょう?その間に、済ませるべき事は済ませました」

「やっぱり…お母さんは凄いなぁ…」

 

ㅤ手際の良さというべきか。

ㅤ各務原あづみとリゲルが九条の寝室で仲良く話をしている間に、ベガは彼に用事がある女性達に指示を出し、サプライズの準備を終わらせていた。

ㅤ流石、青の世界を指揮していたアドミニストレーターの一人。

ㅤそんなベガを見ながら、各務原あづみは尊敬の眼差しを送りまくる。

 

ㅤベガも娘に良い所を見せれたからなのか、少し誇らし気に寝室から隣の部屋へと移動して行った。

 

「ほら、大祐も一緒に行くわよ?」

「えっ、あ、はい」

「大祐くん、えっと…一応、目隠しして貰っても大丈夫…?」

「了解」

 

ㅤそれに続く様に目隠し状態にの九条を連れ、各務原あづみとリゲルも移動する。

ㅤ丸で拘束されていたかの如く目隠しされた九条が寝室から現れた瞬間、初見で見た女性達に僅かな衝撃が走った。

ㅤ然しハッと思い返す。

ㅤこれはサプライズなのだと。

ㅤというか、九条は何時から起きていたのかと。

 

「大祐くん、もうちょっと此方に…」

「ここら辺ですか?」

「うん、完璧っ」

「…それじゃあ、目隠しを取って貰おうかしら」

 

ㅤリゲルの合図を受け、九条は目隠しを外す。

ㅤすると彼の目の前に広がった光景はーー

 

「「「ハッピーバレンタイン!!!」」」

「うえぁっ!?」

 

ㅤ目の前にはどデカいチョコレートケーキ、更には先程彼の部屋に居た女性達全員が、九条を囲う様に円になって一斉にそう言い放つ。

ㅤそんなサプライズに驚き、体勢を崩して思わず後ろに倒れそうになる。

ㅤだが、倒れた矢先に何やら柔らかい物体で支えられた九条。

ㅤ恐る恐る後ろを振り向く。

 

「…大祐なら、絶対こうなると分かっていました。後ろで構えていて正解でしたね」

「べ、ベガさん…申し訳無いです…」

 

ㅤ彼は苦笑いをかましつつ起き上がろうとした。

ㅤするとベガは後ろから九条を抱き締め、頭を撫で始める。

 

「へっ…!?」

 

ㅤ彼女の珍しい行動にどうすれば良いのか分からなくなり、そのままの状態で様子を伺う。

ㅤ少しして、ベガは口を開いた。

 

「…大祐、貴方にはもうちょっと体を休める事を勧めます。勝手に部屋に上がり込んで言える事では無いのですが…」

「ベガさん…」

「大祐の体調が優れないと聞き、駆け付けました。バレンタインの案件も含めて、ですけど…」

「和修吉さんにまで心配掛けていたとは…」

 

ㅤだが、彼を心配していたのは二人だけでは無い。

ㅤこの場に居る全員が、九条に気遣い、そして心配していた。

ㅤ彼には圧倒的な存在力という言葉が当て嵌まる。

ㅤそれは女性達から見たもの限定では無い、男性からしてもだ。

ㅤ終わりの見えない啀み合いを続ける5つの世界を、一つに纏めた男なのだ。

ㅤ確かに、仲間に支えられていたからこそ成し遂げられたのは事実。

ㅤ然し周りからすれば、彼が1番変革という名の行動を起こしていたと。

ㅤその御蔭で変われたという人物は大勢居る。

 

ㅤ一体九条大祐が何をしでかして此処までの人間になれたのかは、また別の話。

ㅤ今は置いておこう。

 

ㅤ兎に角彼は、自分が思っているよりも大きな人物という事だ。

ㅤ九条が自分自身を過小評価する理由等、彼以外には理解出来ないだろう。

 

「大祐くん…もう、大丈夫…なの…?」

 

ㅤ一人彼女達の優しさを実感していると、其処に、フリフリの付いた可愛らしいゴシック系衣服を身に付けたバンシーが近付いて行った。

ㅤ何時も着ている衣服よりも何と無く豪華さが増し、バンシー自身の衣服というよりはーー

 

「ありがとね、バンシーちゃん。俺は全然平気だよ」

「えへへ…それなら…良かった」

「…それよりもバンシーちゃん。君の着てる服…まさか」

「えっと…似合ってる、かな?ヴェスパローゼさんが選んでくれたんだ…♪」

 

(やっぱりか…)

 

ㅤ何処かヴェスパローゼの仕業だと確信していた九条。

ㅤそれがこれ、案の定の結果だった。

ㅤバンシーは普段、似た様な黒いゴシック系の服を着ている。

ㅤそんな彼女に対して九条は「今日は何故だろう…何処と無くヴェスパローゼさんの服に似ているな」と、バンシーを視界に入れてからずっと思っていたらしい。

ㅤ薄々気付いていたとでも言うべきか。

 

「…うん。とても似合ってるよ、バンシーちゃん」

「…!あ、ありがと…///」

「ふふっ、バンシーちゃんが照れてる」

「もー…グラちゃん、あまり揶揄わないでよぅ」

 

ㅤ黒の世界出身である二人の掛け合いに、思わず笑みを零す九条大祐。

ㅤ彼はバンシー、グラの頭の上に手を置き、摩る様に撫で始める。

ㅤするとバンシーは目を瞑り、ニコニコとしながら九条のそれを受け入れる。

ㅤだが、片方は不満気に彼を見つめる。

 

「…あ、グラ嬢…嫌だったかな」

「嫌…じゃ無いの。でも、大人のレディである私は…その…子供っぽく扱われるのが嫌いなの」

「あぁ、成る程。以後、気を付けるよ」

 

ㅤそう言って九条はグラから手を離し、今度は近くに居たムリエルの頭を撫で始める。

ㅤまぁ…ムリエルが近くに居た理由が「彼に撫でて欲しい」という訳で偶然を装っていたのだが。

 

「えへへ〜…大祐くんのこれ、気持ち良い♪」

「ねー…♪」

「………」

 

ㅤバンシーとムリエル、二人共満面の笑みを浮かべながら九条に擦り寄っている。

ㅤその光景を側で見つめるグラ。

ㅤ先程自分で「子供扱いは嫌い」と言ったものの、彼に撫でられるのはまた別らしい。

ㅤ二人が撫でられているのを見て、遂に羨ましいという感情が爆発したグラは。

 

「…だ、大祐、やっぱり私にもしなさい!」

「えっと…り、了解。じゃあ少し待っててくれるかな」

「レディをあまり待たせないでねっ」

「無論、承知しているよ」

 

ㅤやはり女性からは大人気。

ㅤ然し、現状だけを見ると幼気な女性にしか好かれている様に見えない。

ㅤ側から見れば唯のロリコ…と見られてしまうのも仕方がないのだろう。

ㅤだが、彼自身がロリコンで無ければ好かれる相手も少女と呼べる女性達だけではない。

ㅤヴェスパローゼやベガ、リゲル等、大人の女性からも好意を向けられている…のだが。

ㅤ九条はずっと悩み、分からずにいた。

ㅤ何故、こんな自分を好いてくれるのか。

 

ㅤこの疑問の解答は彼女達にしか分からない。

ㅤ充分に女心を理解出来れば、九条も気付ける日がくるのだろう。

…多分、恐らく、きっと。

 

「だいすけ、こぉこ、すわゆ!」

「…ここ?」

「うぃ」

 

ㅤ三人を順番に撫で撫でしていると、百目鬼きさらがとある場所を指差して座れと命ずる。

ㅤいや、実際には命令というよりも要望と言った方が正しいが。

ㅤ九条は素直に彼女に従い、大きなチョコレートケーキが視界一杯に広がるテーブルの前に座る。

 

ㅤすると百目鬼きさらは九条大祐の膝の上に乗り片手にフォークを持ちながら、らんらんと足をバタつかせる。

ㅤそれを見た周りの女性達も、テーブルを囲う様に椅子に座る。

 

ㅤこんなに人数がいるのにも関わらず空きのできるテーブル。

ㅤそんなテーブルを埋め尽くすかの如く置かれているチョコレートケーキ。

ㅤ九条大祐の頭の中は「どうしよう」と動揺するばかりで、他に何も考えられなくなっていた。

 

「…こ、これは…皆さんで作ってくれたんですか…?」

「えぇ。全員が同じ目的で共同作業していたっていうのは、これの事なの。…その、大祐への…バレンタインの気持ち…としてね」

「あづみさん、このチョコレートケーキへの感想は?」

「え、えっと…凄くおっきい…ね?」

「あぁ…ですよね」

 

(俺からすれば、食べ切られるのか?って感想しか出て来ないよ…)

 

ㅤそう思いながら頭を抱える。

ㅤ然し、下に顔を俯けた瞬間に百目鬼きさらも同タイミングで上を向き、互いに目が合った。

ㅤ一瞬の出来事に驚いた九条は、思わず仰け反りをするギリギリで持ち堪える。

ㅤ一方で百目鬼きさらは照れ照れと、顔を赤くして、それでも敢えて九条大祐の体にくっ付き。

ㅤ他の女性達からの視線を回避する様に、自身の顔を彼の胸元へと埋めた。

 

「あー、きさらちゃんだけ良いなぁ…」

「にい、世羅にもしてっ」

「あれは大祐くんがやってるんじゃ無いと思うよ?」

「良いじゃない、あづみもすれば?タイミングを計って大祐と目を合わして…多分大祐はイチコロね!」

「えぇっ!?…そんな、私には出来ないよぅ…恥ずかしいし…」

 

(なんかバレンタインから話が逸れ過ぎじゃ…ないか?)

 

ㅤふと、そう思った九条だった。

 

ㅤこのままでは話が進まないと気付いたのか、強引に路線を引き戻す。

ㅤ何故自分なんかをバレンタインチョコの相手に選んだのか、と。

ㅤだが、その疑問は直ぐに打ち晴らされた。

ㅤ彼の言葉に対し、一拍置いてマルキダエルがこう答えたのだ。

 

「…だって、好きですから〜」

 

ㅤそれに続いて他の女性達も「勿論私も」と、順番に口にしていく。

ㅤ中には言えずに恥ずかしがる者、ツンツンしてるが完全に照れている者、真っ直ぐに自分の気持ちを伝える者と、其々が其々、自分の「本当」という姿を彼に晒す。

ㅤ唯一、ウェルキエルだけが途中で部屋を出て行ってしまったが、最後に九条へこう言い残していった。

 

「此れからも…末長い付き合いを、宜しくお願いする」

 

ㅤそれが戦友としてなのか、将又異性としてなのか、九条にははっきり分からなかった。

ㅤだが、ウェルキエルは態とそうしたのだ。

ㅤ戦友としても異性としても、曖昧な関係で居たいと。

ㅤ彼女自身、気持ちの整理が出来ていないからだろう。

ㅤそんなウェルキエルを気遣い、彼女の分までチョコレートケーキを口に運ぶ九条大祐。

ㅤ吐きかける手前まで追い詰められていた。

 

「ちょっ、大祐くんっ…私達も食べるから無理しないでっ」

「…ウェルキエルさんの、分まで…うっ」

「ほら、大祐のその体じゃ流石に二人分は食べきれないわよ…ウェルキエルも、無理して食べて貰う為に作ってなんかないわ」

「そう言えば、ウェルキエルがなんか言ってたなー…。確か「…美味しく出来てると良いな…」だったかな?大祐くんに美味しく食べて貰いたいのはこの場の全員なのにね。ウェルキエルも面白い事言うんだって初めて知ったよ〜」

「…大祐、反省は?」

「存分に反省してます。えぇ…存分に後悔しています」

「え、どうして?」

 

ㅤ全く意味の分かっていないムリエル。

ㅤようやっと乙女心に気付く九条大祐。

ㅤ二人共違う意味で察しが悪い。

ㅤ周囲の女性達は若干の笑みを浮かべながら、どう反応すれば良いのか困っていた。

 

「…はぁ、大祐くんはあんまりですの。こんなにも魅力のある女性達がアピールしてるのに、全く気付かないですの」

「にい、どんかん」

「…否定しないし出来ないな」

 

ㅤそして蝶ヶ崎ほのめ&倉敷世羅からのダブルアタック。

ㅤ九条は言い返す言葉も無く、顔を下に俯かせる。

ㅤ改めて、自分の情けなさを実感した様だ。

 

ㅤだが、蝶ヶ崎ほのめの言葉を耳にした九条は、自らの想いを彼女達へと伝える事を心で決めた。

ㅤ座っていた椅子から立ち上がり、深呼吸をする。

ㅤすると楽し気にお喋りをしながら、チョコレートケーキを口へと運ぶ彼女達の視線を一気に集めた。

ㅤ九条は全員が此方を向いているのを確認し、口を開いて自らの意思を言葉にする。

 

「…皆さん…俺から、伝えたい事があります」

「むぐむぐ…んくっ…大祐くん?どうしたの?」

 

ㅤチョコレートケーキを幸せそうに頬張り、咀嚼して飲み込んだ後、各務原あづみは頭に?を浮かべながら九条へ話し掛ける。

ㅤリゲルやベガも同じ様に、チョコレートケーキを食べながら九条の方へと体の向きを変えた。

ㅤ唯一グラだけが未だに手を止めずにチョコレートケーキを頬張り続けている。

 

「先ず最初に言わせて下さい。…皆さん、こんな俺を好きになってくれて、本当に有難う」

「…急に改まり始めて、何かあったのかしら?」

 

ㅤ手に持っていたフォークをテーブルに置き、リゲルを始めとしたその場全員が九条に対して疑問を抱く。

ㅤ何時も自分からこんな事を言わない彼が、「感謝」と呼ぶに相応しい想いを自らの口から言い放って。

ㅤ疑わない方が可笑しい。

「…確かにほのめ嬢の言う通り、こんなにも魅力的で言葉では表せない程の存在と言える貴女達に好かれて、俺は幸せ者…いや、それ以上の立場というのをこの身で味わせて貰ってます」

「ですの!漸く気付きましたわ!」

「……ですが、だからこそ言いたい事があります」

 

ㅤ九条大祐はもう一度、先程よりも深く深呼吸をする。

ㅤそして座っている各務原あづみとリゲルの後ろに立ち、二人の肩に手を置いた。

ㅤ二人共少し動揺している。

ㅤ然し何も言わずに、只九条の瞳を見つめ続けていた。

ㅤそんな二人に「有難う」という想いを込めた笑顔を送り、再度全員へと視線を変える。

 

「率直に申し上げます。俺はあづみさんとリゲルさんが大好きです」

「ぶっ!だ、大祐!?」

「ですが、二人に対する「好き」と同じ位…俺は皆さんが好きです」

「あら、嬉しいわね」

 

ㅤ彼の言葉に、思わず本音を漏らすヴェスパローゼ。

 

「確かに…私達からすれば途轍も無く嬉しいですね」

 

ㅤそれに合わせるかの如く、和修吉も乗っていく。

ㅤだが「嬉しい」という感情が湧いたのは彼女達だけでは無い。

ㅤ三人を抜いたその場全員の心の中に、例えようの無い感情が芽生える。

 

ㅤ然し、各務原あづみとリゲルだけが、微妙な心境でいた。

ㅤ彼女達からすれば九条大祐という男の存在は、一番付き合いの長く、深い関わりを持った人物だから。

ㅤ後々彼と関わりを持ち、彼を好きになった女性達と同じ愛情を注がれるというのは色々と思うところがあるのだろう。

ㅤ要は九条大祐の一番になりたいという事だ。

ㅤそれが今、彼自身の発言で、叶わぬ夢となってしまった。

ㅤ空気の読めない、情けない等といった言葉では済まされない。

ㅤ只の最低クズ野郎だ。

 

「…えっと、結論からすれば、大祐くんは何が言いたいんですの?」

「俺の中では全員を平等に愛したいんです」

「………大祐くんがそうしたいなら、私は…大歓迎だよ…?」

「…あづみの言う通り、ね。誰かを一番と言って特別扱いするのは…良くない…もの」

 

ㅤ迷い無く即座に答えを出す九条に、落胆を隠し切れない二人。

ㅤそれは周りの女性達も気付いていた。

ㅤ無論、九条大祐自身もだ。

ㅤだが、彼は二人の顔を一切見ず、二人以外の女性達を見つめる。

ㅤその行為に流石のベガもカチンと来たのか、彼女は席を立って九条大祐へ近付く。

 

「…大祐。その言葉は確かに嬉しいです。でも、今回ばかりは我慢が効きません。貴方がこの世界に来てから…一番側に居たのは誰だと思っているんですか!?」

「ベガさん……話は終わっていません。余りこう言いたく無いのですが、最後まで聞いて貰えませんか?寧ろ此処からが本題ですから」

「…?」

「お母さん…大祐くんの話、聞こ…?」

「…っ!」

 

ㅤ隠そうと思っていても、表情には出てしまうものだ。

ㅤベガは…自分の娘が此れ迄に無い位悲し気な表情を浮かべている事に気が付き、怒りという感情を湧かせながらも、自らのそれを押し殺して席に座る。

ㅤ勿論、リゲルも自分自身の感情を押し殺していた。

 

「大祐くん、続き…どうぞ…?」

 

ㅤ今にも消えそうな小さい声で、各務原あづみはそう告げる。

ㅤ然し顔は下に向けて、彼と瞳を見合わせない様に。

 

「…有難う、あづみさん。そして…御免なさい」

 

ㅤ初めて味わう、複雑な気持ち。

ㅤ九条大祐の最後の言葉に、彼女の綺麗な赤い瞳からは大きな雫が零れようとしていた。

 

………だが、その涙が地へ落ちる事は無かった。

 

ㅤ九条大祐は地面へ膝を着き、各務原あづみと自分の顔が向き合う丁度の高さに調整。

ㅤすると九条は各務原あづみの顎の下へと手を伸ばし。

 

「あづみさん」

「……?」

 

ㅤ彼は彼女の名を呼ぶ。

ㅤ各務原あづみは九条大祐の声に惹かれ、彼の方へと顔を向けた。

ㅤその…一瞬の出来事だった。

 

「んっ…!?」

「だ、大祐!?」

「…ふふっ、あらあら」

「わぁ、見せ付けてくれるねー。ウェルキエルなら顔真っ赤にしてるよ」

「えっ、えっと、これって見てて良いの…!?」

「バンシーちゃんは動揺し過ぎよ。大人のレディなら…此れくらい…」

「そう言って顔を赤くさせているのは誰ですか?」

「う、うるさいわねっ」

「世羅ちゃんやきさらちゃんには、少し刺激が強いです〜!」

「えっ?にい、なにしてるの?」

「きぃも見たいっ」

「幼い子供には早いですの。こういうのは大人になってからーーはわわ…何時までしてる積もりですの…!?」

 

ㅤ周りが騒がしい。

ㅤと、九条はそんな事に気を取られずに、今している行為に集中していた。

 

…だが然し、流石に長いかと感じた九条大祐はその行為を直ぐに終わらせる。

 

「んっ…ぷぁっ…」

 

ㅤすると先程まで悲し気な表情を見せていた各務原あづみの顔は、とろんとした表情に変貌していた。

 

「大丈夫ですか?あづみさん」

「…ふぇ…んと…なに…が…?」

「ありゃりゃ、もしかして刺激が強過ぎたかな?」

「…えと…ね…わたし、だいすけくんと…なに、を…?」

「軽くファーストキスを捧げ、ファーストキスを頂きました」

「〜〜〜///!!!」

 

ㅤそう、各務原あづみが九条大祐の方へ顔を向けたその瞬間、彼は自分自身の唇と彼女の唇を重ねたのだ。

ㅤ確かに互いの唇を重ねるだけのキスだった、が。

ㅤ二人にとってはそれが何れだけ大切な瞬間だった事か。

ㅤにこにこと余裕を見せる九条に、顔を真っ赤に染める各務原あづみ。

ㅤ二人共、かなり対照的だ。

 

「え…えっと…でも、大祐くん…キ、キスするの…初めてだったでしょ…?」

「ん、勿論だよ?あづみさんもでしょ?」

「そ、そうだけど…!大祐くんの…その、ファーストキスの相手が私なんかで…ほんとに良かっーー」

 

ㅤ照れ、動揺、嬉しさ、疑い、様々な想いが各務原あづみの中で交錯する。

ㅤもうどうすれば良いのか分からなくなった彼女は、愚問を彼に投げ付けた。

ㅤだが、愚問はやはり愚問。

ㅤその「問」は直ぐに「答え」として彼女の元へ投げ返された。

 

ㅤ九条大祐はおどおどと落ち着かない各務原あづみの体を、ゆっくりと自らの両腕で包み込む。

ㅤすると不思議な事に、不安と疑問で埋め尽くされていた彼女の心の中は徐々に徐々にと晴らされていった。

 

ㅤそれでも、先程の行為をした後に抱かれてしまった各務原あづみの心臓の鼓動は遅まる事を知らない。

ㅤドキドキと早い鼓動を繰り返し、彼に対して異常なまでに反応してしまっている。

ㅤそんな中、九条大祐は各務原あづみの耳元に顔を寄せ、一言呟いた。

 

「…俺は始めから、あづみさんの唇を狙っていたんだよ?」

「〜〜〜!!!///」

 

ㅤ大好きな人からこんな事を耳元で囁かれて耐えられる者は居ない。

ㅤ現に、各務原あづみは九条大祐の胸元で爆発寸前となっていた。

ㅤ然し彼女がこういう反応を示してくれているから良いものの、彼が一番恥ずかしく爆発一歩手前まで到達している。

ㅤ深い関係を築けた各務原あづみにだからこそこの様な事を言えるが、リゲルを抜いた他の人達には口にすらできないのだろう。

 

ㅤ「最初から貴女の唇を狙っていた」等、互いに理解、もとい愛し合っている仲でなければヤバい奴だと認知され兼ねない。

ㅤそれこそ一種のストーカー行為に似た様な物だ。

ㅤだが、其処に純粋な「愛」という単語が混じってしまえば丸で別物。

ㅤ各務原あづみ、九条大祐、お互いにそういう関係になって暫く経った今だからこそ言えたのだろう。

ㅤ今までは彼の踏ん切りの悪さが目立ってばかりいたが、今回は覚悟を決めたようだ。

 

「でも…どうして、「御免なさい」って謝ったの…?」

「あぁ、あれかい?あの謝罪はあづみさんに対してじゃ無いよ」

「えっ…じゃあ」

「うん。この場に居る、『あづみさんとリゲルさんを抜いた』全員に対して謝罪させて貰ったの」

「私とあづみを抜いた…全員…?あづみは分かるけど、どうして私までーー」

 

ㅤ彼の言葉に疑問を抱き、質問するリゲル。

ㅤすると九条大祐は彼女の前まで移動し、座っているリゲルの顎の下へと手を伸ばす。

ㅤそして自分と向き合わせる為に、クイッとその手を上に動かした。

 

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