Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編)   作:黒曜【蒼煌華】

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先週投稿する筈が今日になってしまい、誠に申し訳御座いません。
急いで書いてしまった為、前話に比べて少しばかり雑になってしまいましたが頑張って書かせて頂きました。
加えて、話が長くなってしまいますので後編は二話に分けて投稿致します。

更に、本編のタグに追加致しましたが、毎週水曜日更新が一月に二回以上の更新に変えさせて頂きました。
しつこいようで申し訳御座いませんが、小説を止める気は一切無いので此れからも宜しくお願い致します。


バレンタイン(中編)

『さーて、遂に、遂に始まってしまいました!恐怖のバレンタインデー鬼ごっこ!男性陣は既に遠方まで逃げています!』

 

「…はっ!?へっきー!?其処で何してんの!」

 

『何って…解説兼実況だよ、ハーレム君』

 

「その呼び名を止めろぉ!」

 

ㅤ敷地内に一つだけ立っており、至極目立つ解説席。

ㅤ森山碧、彼の姿は其処にあった。

 

「何か騒がしいのが居ないと思ったら…!」

 

『おいおい、軽く俺をディスるの止めてくれよ。大祐の現在地を公開しちゃうぞ〜?』

 

「全てはへっきーの手中って事かよ…」

 

ㅤ早くも息切れを見せる九条大祐。

 

『おっと?もう疲れてきたのか、九条大祐!女性陣、彼奴を襲うなら今しか無いぞ〜?意外に持つからな、大祐は』

『碧、彼方の方が面白い事になってる』

『おぉ、ありがとうエレシュキガル。後でお礼しなければだな!』

『楽しみ…♪』

『さぁて、彼方では何やら波乱な状況が巻き起こっている様子だぁ!逸早く逃げたガルマータが二人の女性に囲まれている!』

 

ㅤ森山碧の実況通り、ガルマータはケィツゥーと弓弦羽ミサキに挟まれていた。

ㅤじわじわと間隔が無くなっていく恐怖。

ㅤガルマータはそんなものを感じていた。

 

「…ミサキ、ケィツゥー、一回其処で止まーー」

「嫌です☆」

「幾らガルマータ様の命令とはいえど、今回ばかりは聞けません!」

「ふ、二人共、待て!話し合えばーー」

 

『あーっと!此処でガルマータ脱落か!?先に彼に触れたのはーー」

 

ㅤ其処で森山碧の解説が止まる。

ㅤガルマータの体に触れていたのは、紛れも無く弓弦羽ミサキとケィツゥー。

ㅤ然し余りにも同タイミング過ぎた所為か、解説の森山碧が困る事態となってしまった。

 

『…うん、そうだな…ビデオ判定と行きましょう!』

 

ㅤ自分では判断出来ないと思ったのか、早くも最終手段のビデオ判定を利用する。

 

「…て、一体何処に監視カメラが付いてんだか…」

 

ㅤこんな状況だからかも知れないが、些細な事に気が行ってしまう九条大祐。

ㅤ彼は設置されているトラバサミの簡易的な物を回避し、逃げつつも突っ込みの精神だけは忘れない。

ㅤ一体何時からそんなキャラになってしまったのか。

 

『…はい!判定が出ました!これはもう同時にタッチしたとしか言えないレベルですので、ガルマータさん!二人の美女と…素敵な1日を!………滅びれば良いのに』

 

「おいへっきー!最後の何だ!」

「…お、俺は…どうすれば」

「ガル君は、私と一緒に何処かお出掛けに行きましょう!」

「いえ!ガルマータ様は…私と…その…うぅ…」

 

ㅤケィツゥー…彼女はガルマータと何がしたいのか、言えないという事はそういう意味だろう。

ㅤ対して弓弦羽ミサキは、一般的に考えて優しい命令を下す。

ㅤ最早命令というか唯のお誘いだが。

ㅤこれでは、捕まったガルマータが間違い無く弓弦羽ミサキ側へ付くのは目に見えている。

 

ㅤ然し、恐らく誘い出してからが始まりなのだろう。

ㅤ弓弦羽ミサキとしては、先ずケィツゥーからガルマータを離す事からがスタートだ。

ㅤ其処から一気に畳み掛けて…と、見た目の割には際どい線を辿る彼女。

ㅤ純粋なアイドルでは無かったのか?

 

「…ガルマータ様、では、弓弦羽ミサキとの交流が終わり次第、その…私と…で、でで…でーとなど如何でしょう…?」

「………う、うむ…ガーディアンとして、ルールは絶対だからな…。二人の要望に応えられる様、頑張らせて貰おう」

 

『やだ、ガルマータ君イケメン』

 

「へっきーキャラ崩壊してんぞ」

 

『うるせ』

 

ㅤ九条大祐と森山碧の会話が既に日常の物となっている。

 

…こうしてガルマータと弓弦羽ミサキは何処か知らぬ場所へと姿を消した。

ㅤケィツゥーはガルマータの帰りを待つべく、ずっとこの場に居座る様だ。

ㅤ譲り合い、等と言って良いのか分からないが、弓弦羽ミサキを優先した優しさは彼女の一つの取り柄だろう。

ㅤこの時、ガルマータの中でのケィツゥーという女性の株が少し上がっていた。

 

『というか女怖ぇぇ…乙女とか嘘だろ…見てる此方がはらはらするな』

 

「やってる奴等の方がもっとはらはらしてるからな」

 

『だろうな、まぁ頑張れよ。…さて、彼方は天王寺大和の逃げる道をクレプスが遮断している!弟を抱き抱えた大和兄ちゃん、此処からどうする!?」

 

ㅤ森山碧の、解説+日常会話を使い熟す辺り、九条大祐は至って普通に上手いなと感じていた。

ㅤだが、余裕を持って逃げていた彼にも危機が迫っていた。

ㅤ背後から忍び寄る気配。

 

「…!」

 

ㅤ九条は無言で横にサッと避ける。

ㅤすると、彼が先程まで居た場所を羽交い締めにしようとする女性が一人。

 

「あらら、逃げられちゃった♪」

 

ㅤその女性は九条を見て、にっこりと笑顔を向ける。

ㅤ彼女の笑顔は九条の背筋を凍らせた。

 

「…ルクスリアさん、貴女…相馬さんが目的じゃーー」

「私が何時、相馬きゅんを好きだと言ったかしら?」

 

ㅤルクスリアの意外な答えに驚愕を隠し切れない九条大祐。

ㅤ彼の中ではてっきり、自分は遊びで剣淵相馬が本命と思っていた為、口から言葉が出なくなってしまった。

 

「そんな冗談…通じませんよ」

「ふふっ、どうかしらね。現に私は…貴方を狙い仕留めようとしている」

「ルクスリアさん一人位なら逃げ切れる自信、有りますけど?」

「そうね。だから、応援を呼ばせて貰ったわ」

 

ㅤ九条はこれ以上話している時間は無いと、その場から即座に離れようと走り始める。

ㅤ然し時既に遅し。

ㅤ彼の周りには、彼を囲うかの様に円を描いて逃がそうとしない女性陣。

ㅤ状況的には先程のガルマータと同じ事になっている。

 

「さぁ、大祐。大人しく捕まって頂戴」

「…そういう悪役染みた話し方、久しぶりですね、ヴェスパローゼさん」

「言うて此方も人数自体は少ないわ。逃げようと思えば、貴方なら逃げられるんじゃ無いかしら?」

「貴女は何時も…無理難題を仰る」

 

ㅤ口では強気な九条も、顔には苦笑いを浮かべていた。

ㅤヴェスパローゼの言う通り、周りの女性はベガ、リゲル、各務原あづみ、百目鬼きさら、ヴェスパローゼ、ルクスリアの6人。

ㅤバトルドレスが起動出来るのであれば、九条は余裕で振り切れるだろう。

 

ㅤそう、バトルドレスを起動出来れば、だが。

 

ㅤ武器の使用を全般禁止したのにはこういう理由も含めていたのであろう。

ㅤ九条はバトルドレス装着を試みるも、何故かバチッと弾かれてしまう。

ㅤヴェスパローゼ…いや、この場合はベガが何か仕掛けたに違いない。

ㅤどうすればこの窮地を脱せるか、この短い時間で九条は試行錯誤を繰り返す。

 

「…大祐、どうして逃げる必要があるのですか?捕まってしまえば、貴方の大好きなあづみとリゲルと…貴方は繋がる事が出来るのですよ?」

「残念ながらこういうイベントは、面白さを取る人間でしてね。縛られた空間の中で多数VS自分一人というのは、スリル満点で楽しいじゃないですか」

「…私は大祐くんに、本当は普通に渡したかったなぁ…」

 

ㅤ各務原あづみの本音が口から漏れ出す。

 

(しっかし…この場を乗り切るにはルクスリアさんとヴェスパローゼさんが厄介だな。さてどうするか…)

 

ㅤ九条大祐としてはこの状況を楽しみたくもあるが、失敗すれば反動が自分に返って来る事を悩んでいた。

ㅤそれがルクスリア、ヴェスパローゼという女性二人を攻略出来れば話は別らしい。

ㅤ要するに、先ずは二人をどうにかしなければ逃げようにも逃げられないという事だ。

 

ㅤそんな、一触即発という言葉が相応しい状況で、天は彼を見捨てはしなかった。

 

「大祐くん、掴まって!」

 

ㅤ何処からか、自分の名前を呼ぶ声が周囲に響き渡る。

ㅤ九条大祐を「大祐くん」と呼ぶ人物は各務原あづみ。

ㅤだが、彼女は九条を追い詰める側の立場に居た。

ㅤそんな「私が触れないなら相手から触って貰えば良いじゃない」みたいな発言をする人物では無いと、九条大祐自身が一番分かっている。

ㅤならこの声の主は誰なのか。

 

ㅤその場に居る全員がそう思った瞬間、九条の背後から少女らしき影が現れる。

 

「ナナヤ!有難いタイミングだ、助かる!」

 

ㅤ彼はそう言って、後ろから伸ばされる彼女の手を握る。

 

「…此方こそ、ありがと…♪」

「はい?」

 

ㅤ九条は一瞬、腑抜けた声を出した。

ㅤ然し直ぐに気付く。

ㅤこれは、危険な選択肢だったという事に。

 

「さ、ちょっと遠くに…二人でデートしに行こっ♪」

「まっ待って!…大祐くんを何処に連れて行くの」

「う〜ん…そうだね、この敷地内には居るから、見つけられたら私は大祐くんから手を引くよ?けど…見つけられなかったら、んふふ〜大祐くんをどうしよっかな♪」

「ちょっ、ナナヤ、頬擦りは止せ」

 

ㅤ九条大祐の正真正銘、お互いの了承の元、付き合いをしている各務原あづみの前で彼女に見せ付けるかの様な言動をするナナヤ。

ㅤ彼は私の物だと言い張りたいからなのか、将又自分の方が彼に相応しいと言い張りたいからなのか。

ㅤ何方にせよ考えている事が卑劣で幼稚なナナヤだった。

 

ㅤ然し、自分の一番大好きで大切な存在にそんな事をされて黙っている程、各務原あづみは大人では無い。

ㅤいや…大人でも黙る筈がない。

ㅤ現にリゲル、ベガ、ヴェスパローゼ、百目鬼きさらもナナヤに対して険悪な雰囲気を醸し出していた。

ㅤ唯一人、ルクスリアを抜いて。

 

「さぁ、私と大祐くんを見つけてみてよ。出来るなら、ね♪」

「ナナヤの方がよっぽど悪役染みてるじゃないか!」

「ほらほら大祐くん、行くよー」

「へ?行くって何処にーー」

 

ㅤ彼の言葉を最後に、ナナヤと九条大祐はその場から消え去った。

ㅤ唐突なイレギュラーの登場に、沈黙する各務原あづみ達。

ㅤ然しその沈黙は直ぐに打ち破られた。

 

「…大祐くんを、見つけに行かなきゃっ」

 

ㅤそう言って、各務原あづみは何処に居るかも分からない二人を探しに走り出す。

 

「私も、あづみの意見に賛成するわ」

 

ㅤ彼女に続いて、リゲルも走り出す。

 

「当てがないのは困ったものですが…」

「途中出場であんな自由勝手な事されたんじゃ、流石の私達も黙っては無いわよ。きさら、スカウトシーク達を呼んで」

「うぃ!…きぃも、だいすけさがすっ」

 

『おっと…俺が天王寺大和とクレプスの戦いに集中している間に、大祐サイドが訳分からん事になってるな。解説が追いつかん』

 

ㅤそんな森山碧の解説も耳に入っているのか分からないが、彼女達は一人の男性を探しに足を動かした。

 

『…あれ?このゲームの趣旨、意味無くね」

『碧の言う通り。全員が全員自由過ぎるわ。…特にナナヤ。あんなハーレム男に味方する訳じゃ無いけど、今回ばかりは大変そうね』

『まあ、彼奴に同情は要らねぇよ。ハーレム路線を進む奴に碌な人間は居ないからな。…頑張って乗り越えて欲しいもんだ』

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「…ナナヤ、あれは一体どういう事だ」

「んー?愛の確かめ?」

「はぁ…」

 

ㅤ九条大祐には、ナナヤが何を言っているのかが分からず終いでいた。

 

「一体何の話をーー」

「だって、大祐くんの事が本当に好きな子達なら、必死になって私達を探すでしょ?これは…あの子達が大祐くんを好きかどうか、確かめるためにやってるの」

「…他に目的は?」

「大祐くんはバトルドレスが起動出来ない=私からは逃げられない。という事は、大祐くんと二人っきりになるチャンスだと思っただけだもん」

 

ㅤ少しの幼さを見せ、九条大祐を魅了するナナヤ。

ㅤ彼が「幼い」という言葉に弱い事を知っていて態とやっているのか、中々に悪巧みが上手い彼女。

ㅤ完全にナナヤの思い通りにされていると、弄ばれている自分が悲しくなる九条だった。

 

「…にしても、こんな手作り感満載な木で作られた小屋に連れて来て、何するの?如何にもヴェスパローゼさんかベガさんが、男性陣の逃げ場所として作ってくれた場所っぽいけと…」

 

ㅤ頭に?マークを浮かべ、周囲をキョロキョロと見渡す九条大祐。

ㅤそんな彼を見つめるナナヤは、口元をニヤリと歪ませる。

 

「ふーん…これ、此処に逃げたら絶対に捕まーーちょっ…ナナヤ!?」

「あ、バレちゃった?」

 

ㅤ九条大祐の反応に、ナナヤはキャピッと笑顔を見せる。

ㅤ一体彼に何があったのか。

ㅤ外見は至って普通の、何時も通りの九条大祐だ。

ㅤ然し彼の身には何かが起こっていた。

 

ㅤそう、体が動かないのだ。

 

ㅤ両手は後ろに縛られた様に、両足はロープで固定されたかの様に。

ㅤ九条大祐の体は動きに制限を掛けられていた。

 

「…ナナヤ、これを解除しろ」

「いーやっ。だって、私はちゃんと言ったんだもん。あの子達が大祐くんを見つけられなければどうなるかって」

 

ㅤナナヤはそのまま、身動きの取れない九条大祐に近付き、彼の身をゆっくりと地面に倒して行く。

 

「だから、大祐くんをゲットした私は、貴方を好きな様にしていいの…♪」

 

ㅤそして彼の腹部の上へ、徐に股がった。

 

「ナナヤ、本当に止せ。何をする積りだ」

「悪いのは大祐くんなんだよ?私に構ってくれないから。…それに、これからする事なんて大祐くんも分かってる筈だよ」

「…正気か?神様と人なんだぞ?」

「だからこそ。神様と人間の間に産まれるのって、何方なんだろうね…♪凄い気になっちゃう」

 

ㅤナナヤはずっと彼を見つめ、笑みを浮かべ、九条の頰から首へと撫でる様な手付きで触り始める。

 

「私は知ってるよ。大祐くんが、誰ともした事無いの」

「当たり前だ、まだ15歳なんだからな。…というか、神様にはプライバシーを尊重するって概念が無いのか?」

「それは置いといて。…という事は大祐くん、穢れって物を知らないんだよね」

「だから?」

「そんな大祐くんを見てたらね…んふっ♪」

 

ㅤするとナナヤは、自らの唇を九条大祐の唇へ近付けて行く。

 

「壊したくなっちゃった…♪」

「…!」

 

ㅤそう言ってナナヤは九条大祐へと、徐々に徐々に唇の距離を短くして行く。

ㅤそして互いの唇同士がが触れ合いそうになった瞬間。

ㅤほんの一瞬だが、眩い光が二人を包んだ。

ㅤあまりの眩しさ故にナナヤは目を閉じ、直ぐにパチっと開く。

ㅤすると先程まで股がっていた彼が目の前で立っていた。

 

「…本気で、危なかった」

「あー逃げちゃ駄目なんだよっ」

 

ㅤ駄々をこねるナナヤ、対して九条大祐は冷や汗を額から流していた。

ㅤそんな彼の体にはバトルドレスが装着ささっている。

ㅤ恐らくベガが、武器の使用禁止を解除したのだろう。

ㅤ理由?多分、女の勘というやつだ。

ㅤそれに伴い九条のバトルドレスも解放、間一髪でナナヤの力を振り切って逃げたという訳だ。

 

「んもぅー…酷いよ、大祐くんっ」

「ファーストキスを易々と奪われてたまるか」

「全く…私をその気にさせたのは大祐くんなんだから。責任取ってよねっ」

「んな無茶な…」

 

ㅤ頭に手を当て、やれやれと左右に動かす。

ㅤ九条大祐は本心から呆れていた。

ㅤ然しそれと同時に、ナナヤは本気で自分を狙いに来ているとも感じた。

ㅤこのままでは何時しか…それとも今この場で、又襲われ兼ねない。

ㅤ先程部屋を見渡し、この小屋の何処に扉があるのかは把握していりる。

ㅤ後は出るだけなのだが。

 

「ナナヤ、どうせこの扉…オンボロそうに見えて開かないんだろ」

「大祐くんはさっすがだね。そうだよ、外部からの力は受け付けるけど内部からのそれは拒否する様に改造しといたのっ。どう?凄いでしょ〜?」

「その頭をもっと違う事に活かしてくれないか…」

 

ㅤ再度額に手を当てる九条大祐。

ㅤ因みにナナヤは、先程の行為は幼さを利用した言動をして彼に襲い掛かった。

ㅤだが、彼女は普通にしていても精神的に幼い所が多々見受けられる。

ㅤ今のこの扉の仕掛け、実はかなりの時間を費やして思い付いた物なのだ。

ㅤ常人であれば直ぐに思い付きそうな発想だが。

ㅤどうしても九条大祐と自身を二人っきりの空間に閉じ込めたいと、悩んだ末にこの仕掛け。

ㅤ寧ろ悩む必要があったのかと突っ込みたくなる程だ。

 

ㅤそれに、ナナヤの言動は誰がどう見ても、どう聞いても少女其の物だ。

ㅤ見た目が少女であるが故に言動までもが少女化しているのか。

ㅤ神様の実態というのは熟分からない事だらけだ。

 

ㅤと、考えながら九条大祐はナナヤを見つめる。

 

「…でも、その好意は素直に嬉しいよ。有難う」

「えっ…と…そ、そんな急に態度変えられても、私が困っちゃう…ていうか…なんていうか…」

「取り敢えず、今迄通り背中にくっ付くのは気にしないから。極度な触れ合いは遠慮願うけど」

「むぅ〜…どうせあの各務原あづみって子とリゲルってグラマラスな子に攻められたら、最後まで到達しちゃうんでしょ?」

「二人がそれを望めば、だけどね。…後、来客が一人来ている様だから入れてあげて」

 

ㅤ九条のその言葉に反応するかの如く、扉がガタッと音を立てる。

ㅤ最早誰かが居る事等明白だ。

ㅤそれはナナヤも分かっていて、だからこそ嫌な表情を浮かべている。

ㅤ本来は二人っきりの予定がこんなにも早く誰かに見つかったから、という理由もあるのだろう。

ㅤ彼女は渋々「開いてるよ」と一言。

 

ㅤすると、ボロボロの扉がギィという音を鳴らしながら開く。

ㅤ其処に居たのはーー

 

「…にい、お、おじゃまします」

「世羅!良く此処が分かったね!」

「何で大祐くんは嬉しそうなの…」

「にいは世羅が来て、嬉しいの?」

「うん」

「…そう言ってくれると、世羅の方が嬉しくなる///」

 

ㅤ幼い少女はモジモジと両手を合わせ、顔を下に向けながら照れていた。

ㅤ然し九条大祐としては、何時もの彼女らしく無い事が気に掛かっている。

ㅤ倉敷世羅の取り柄である活発さがあまり目立たないというのは、彼の中に違和感を齎した。

 

「…えーと、で。世羅はどうして此処に?戦斗君は探さなくて良いの?」

「戦斗くんは近くに居るきこくしじょむねにくに夢中だから、嫌いっ。男の子は皆、なんで胸の大きい女性が好きなの?」

「厳密に言えば誰も彼もが胸が好きな訳じゃないんだよ。実際、俺自身が胸の大小を気にする男じゃないしね」

「大祐くんは確かにそうだよね〜…」

「それに、好きになってしまえば胸の大きさなんてどうでも良くなるんだよ。相手の内面含めて愛しているわけだから」

 

ㅤ九条大祐の諭すような口調に何かを気付かされた倉敷世羅。

ㅤそして彼の「胸の大小を気にする男じゃない」という言葉を聞き、又もや恥ずかしがっている。

ㅤ何故か調子の狂う九条大祐だった。

 

「…じ、じゃあ…にいは、胸の小さな女性も受け入れるって事…?」

「相手が俺に好意を持って接して来てくれるのであれば、その好意には最大限応える積りだよ」

「それが…世羅でも…?」

 

ㅤそう言いながら倉敷世羅は、ずっと後ろに隠していたハート型の何かを九条大祐の前へ出す。

ㅤ流石の九条も状況を理解したのか、あたふたと慌てふためく。

 

「い、いや…世羅。君は俺なんかよりずっと素晴らしい人と絶対巡り会えるって。世羅は凄く可愛いんだから。勿論、内面もね」

 

ㅤ彼は倉敷世羅にそう告げると、彼女の頭を撫でてやる。

 

「…世羅じゃ、だめ…?」

「駄目じゃないよ。でも…世羅にはもっと良い人が見つかるから。何と無くそんな気がする」

「大祐くん、せめて確証を得てから話そうよ」

 

ㅤナナヤに痛い所を突かれ九条は「うぐっ…」と声を出す。

ㅤ確かに、彼自身が確証を得ないと動かないタイプの人間なのに、人に対してその中途半端っぷりはなんだと。

ㅤこの時「やっぱり勘で話しちゃ駄目だな」と内心後悔する九条大祐だった。

 

「せ、世羅は…にいが良いのっ」

「ほらー、世羅ちゃんは自分の気持ちをちゃんと伝えてるよー?大祐くんも応えてあげなきゃ」

「…そうだよな」

 

ㅤ何故ナナヤにリードされているのか、抑リード出来る立場に居るのか?等、色々と余計な事を考え始める。

ㅤそんな事を言ってしまえば自分もそうだと言われてしまうが為に口にはしないが。

ㅤ然し乍ら彼は真剣に倉敷世羅の将来を考えていた。

ㅤ自分なんかが彼女の相手で良いのか、だが、相手からの好意は素直に受け取って応えると言ってしまった。

ㅤ倉敷世羅に好意を寄せられた以上、現状九条大祐は彼女を受け入れる他無い。

 

「…うん。世羅が良いなら、俺は構わないよ」

「ほんとっ!?」

「でも、これだけは覚えておいて欲しい。もし他に好きな人が出来たら、俺よりも其方を優先して欲しいんだ。其れだけは絶対」

「む〜…にいの他に好きな人なんて出来ない…て、思うのに」

「万が一だよ。…それに、神門はどうなの?」

「みかにいはお兄ちゃんって感じなの。凄く優しいお兄ちゃん」

「戦斗君」

「彼奴は…許さない」

「世羅ちゃんこわーい。あははっ♪」

 

ㅤ丸で揶揄うかの様に笑って見せるナナヤ。

ㅤやはり神様にデリカシーという概念は存在しないらしい。

ㅤ笑顔は凄く可愛い、が然し言っている事が微妙な気持ちになる事から、九条大祐はナナヤに苦笑いを浮かべる。

ㅤそれは倉敷世羅も同じらしく、彼女は苦笑い…では無く頰を膨らませて怒りを表していた。

 

…怒りを表している筈なのに可愛いとは、等と思ってしまう九条。

ㅤやはり可愛さは正義という事なのか。

ㅤcute=justice、正にその通りだ。

 

「…あ、そうだ。世羅に見つかったんだから、戻っても良いよね」

「えー…もうちょっと二人だけで居たかったのに…」

「あづみお姉ちゃんと隣に居るむねにく、にいの事必死に探してたよ?」

「マジか!じゃあ帰る!!」

「大祐くんの基準って何なのかなぁ…?」

 

ㅤ二人の事になると考える間も無く行動に移す。

ㅤそれが九条大祐という男だ。

ㅤだが、ナナヤは彼が何故そうなのかとずっと悩み続けている。

ㅤ何故二人を対象に取った時だけあんなにも俊敏なのか。

ㅤ答えはまだ見つかっていない様子だ。

 

「ナナヤ、マジで此処から出してくれないか?」

「うーんとね…その必要、無いかもしれないよ」

「自力で開けろって事か…」

 

ㅤ一時的に封じ込められたバトルドレスを解放した今、九条は破ろうと思えばナナヤの謎結界を簡単に解く事が出来るだろう。

ㅤだが、ナナヤはそういう意味合いで「必要無い」と言った訳では無い。

ㅤじゃあどういう理由で必要無いと口にしたのか。

ㅤそれは直ぐに分かった。

 

ㅤ九条は自分の思い込んだ通り、扉を強引に開けようとドアノブに手を掛ける。

ㅤ然しその瞬間。

 

「大祐くん!!」

「おあっ!?」

 

ㅤ急に勢い良く開いた扉に押し出され、九条は地面へ尻餅を着いてしまう。

 

「大祐くん…見つけーーきゃっ」

 

ㅤ更に扉を開けた張本人、各務原あづみが足を滑らせて九条の胸元へとダイブ。

ㅤ然も彼女の後ろに居た女性陣までもがバランスを崩し、九条の上へ覆い被さる様に倒れ込む。

ㅤどうしてそうなってしまったのか。

ㅤ実はナナヤは嘘を吐いていたのだ。

ㅤ彼女は「内側からは開けられないが、外側からは開けらる」と九条に伝えた。

ㅤ然し、これが嘘だった。

 

ㅤ正しくは「内側からも外側からも開けられない」が正解だ。

ㅤでは何故、倉敷世羅は入れたのか。

ㅤあの時ナナヤは「開いてるよ」と一言言い放った。

ㅤ只其れだけで扉の絡繰は一時的に解除されたのだ。

ㅤだが、九条大祐が倉敷世羅との会話を真剣にしている間に再度絡繰を掛け直した、という。

 

ㅤ何をしても開かない扉を前に、各務原あづみ達は強引に突破しようと考えた。

ㅤリゲルやベガがバトルドレスを起動させ、攻撃。

ㅤヴェスパローゼと百目鬼きさらが蜂に攻撃を指示。

ㅤ然しそれでビクともしない扉。

ㅤ結果、全員で押した方が早いという事になり、押してみたところ。

 

ㅤ九条大祐が同タイミングで扉のドアノブに触れ、ナナヤの結界を打ち破った。

ㅤ偶然に偶然が重なり、見事こんな状況になったという訳だ。

 

「いてて…あれ、あづみさんにリゲルさん…ベガさん達まで」

「ありゃ?可笑しいなぁ…どうして解除されたんだろ…」

 

ㅤ自身の力が打ち破られ、本気で悩み始めるナナヤ。

ㅤ完全にナナヤ潰しと化している九条大祐。

ㅤだが、彼女の結界が破られた理由は彼だけでは無かった。

 

「ナナヤ…貴女は好い加減大人しくしなさい」

「おいおい大祐、折角助けに来てやったのに。リア充生活全開を俺に見せ付けているのか?」

 

ㅤそう、同じ神であるエレシュキガルに、神である彼女の恩恵を一番得ている森山碧が加わり、ナナヤの謎結界を潰したのだ。

 

「結構強い聖域を生成したのね」

「それが大祐くんに一瞬で破られた…」

「あら、神の力が人間に敵わなくて、悲観しているのかしら?」

「…ふふっ…やっぱり、大祐くんは流石だねっ!」

「…ナナヤが壊されたわ」

 

ㅤエレシュキガルは鳩が豆鉄砲を食らったかの様な表情で、ナナヤを見つめる。

ㅤ以前の彼女なら従わない者、自分よりも上の力を持つ者が居れば即座に排除しに掛かっていた。

ㅤだが、今の彼女は違う。

ㅤ純粋に九条大祐の能力を評価している。

ㅤ見た事も聞いた事も無いナナヤの言動に、少しばかり戸惑うエレシュキガル。

 

「神様って、案外変わり易いのか?」

「…その考え方は間違い。私は碧の御蔭で変われたのは認めるけど…ナナヤがあんな風になるなんて」

 

ㅤ驚きを隠し切れないエレシュキガル、対して森山碧は興味を示していなかった。

ㅤ興味其の物が無いからだ。

ㅤナナヤに無関心なのだから当たり前だろう。

 

「あっ、だ、大祐くん、大丈夫…?怪我してない?」

「大丈夫…あづみさんやリゲルさん達が無事なら俺は良いんですよ」

「武器縛りを解除して正解でしたね。立てますか?大祐」

「有難う、ベガさん」

「私も手伝うわ」

 

ㅤ尻餅を着いた時の振動が頭に来たのか、フラフラと安定した行動が取れない九条。

ㅤそんな彼を、リゲルとベガで両脇で支える。

 

「俺、今凄く幸せです」

「ふふっ、大祐もそんな事を思うのね」

「にい、私が前を歩いてとらばさみって危ないの、どけとくっ」

「きぃもてつだう!」

「じゃあ、私は後ろを付いて歩いてようかしら。万が一倒れたりしたら危ないわ」

「という事は、後ろに倒れればヴェスパローゼさんの膝枕でも待ってるんですか?」

「いいえ?体勢的にそれはキツイわ。だから、この胸で大祐をキャッチしてあげる」

 

ㅤそう言いながらクスクスと笑うヴェスパローゼ。

ㅤそんな後ろからの笑い声に、苦笑いを見せる九条大祐。

ㅤ二人で仲良く話していると目の前に各務原あづみがぴょんっと現れる。

 

「え、えっと、私は大祐くんの話し相手で良いかな…?」

「それなら私も〜」

「あづみさんも有難うね。でも…ナナヤ、本当に反省しているのか?」

「してるもんっ。本来ならこうなる予定じゃなかったんだよ?」

 

ㅤ彼は、あぁ、そりゃそうだろと心の中で突っ込む。

ㅤナナヤの目的は完全に九条其の物であって、話したいから〜愛を確かめたいから〜といった事は建前にしか過ぎない。

ㅤあのままナナヤの思い通りに事が進んでいたら、間違い無く九条大祐は彼女の物となっていただろう。

 

「だから何時も言ってんだろ。事は早めに済ませろってさ」

「そういうへっきーは、エレシュキガルさんとどうなの?」

「ん?あぁ…まぁ、な」

「えっ…まさか…済ましーー」

「てませーん!…あ、これマジな」

 

ㅤ森山碧のフェイントに思わず殴り掛かりそうになる九条大祐。

ㅤだが、リゲルとベガに挟まれ、支えられている今はぐっと我慢を貫く。

ㅤ目の前には各務原あづみも居て、後ろにはヴェスパローゼが居て、背中付近にはナナヤが居て。

ㅤ因みに彼を支えているベガは、隣で好きな人がこんな事を話している為、顔を真っ赤にさせていた。

 

「…何だろう、凄く苛々するわー」

「へっきー、それは個人の見解でしょ。…それはそうと、バレンタインイベントはどうなったの?」

「一応続いてるぜい。まぁ、殆ど終わったけどな。結果は後で報告するわ。お前、疲れてるだろ」

 

ㅤ森山碧は丸で見通したかの様に、鋭い視線を九条へ浴びせる。

 

「…何故分かった」

「そりゃあ分かるわよ。だって大祐、顔が窶れているわよ?一体ナナヤに何されたの…」

「てへっ☆」

「全く…ナナヤは…」

「それは兎も角、今は大祐を自宅で休ませるのが先です。私達はこのまま帰りますので、後は森山碧…貴方が仕切って下さい」

「俺!?イベント主催者が居なくなったらやる意味ないじゃないすか!」

「私は大祐の心身の方が心配です。だから其方を優先させて頂きます。イベントを企画した者として、思わぬ危害が加わってしまった者の看病は見るべきだと考えているので」

 

ㅤすらすらと自分の意見を述べるベガの言葉を聞いて、森山碧は微妙な表情を見せた。

ㅤ彼女は只、親友の側に居たいだけなんじゃないかと思ってしまったからだ。

ㅤ然しそれは口に出さない森山碧。

ㅤたった一言「了解した」と言って、エレシュキガルと一緒にその場を立ち去る。

 

ㅤ彼の背中を見ながら、九条大祐は親友である森山碧に申し訳無い気持ちで一杯だった。

ㅤ何時もこういう面倒事を引き受けてくれるのは彼だ。

ㅤ直接「有難う」という気持ちを伝えるのはキャラじゃないと、九条は思っているが。

ㅤ本心から森山碧という存在に感謝をしている事に嘘も間違いも無い。

 

「大祐、もう少しで着くから。頑張って」

「…極度のストレスって、やっぱり厳しいなぁ」

「ひっどーい、大祐くん…其処まで言わなくても良いじゃん…」

 

ㅤ割と本気で沈み込むナナヤ。

 

「違う違う。ナナヤだけの所為じゃないよ。最近悩み事が多くてね…此れからの事とかさ」

「大祐くん…あのね、もうちょっと私達を頼ってくれても良いんだよ…」

「あづみさん達に迷惑を掛ける位なら自分一人で抱え込んだ方がずっとマシだよ」

 

ㅤそう、ニコッと無理矢理作った笑顔で彼女達を安心させようとする。

ㅤ然し彼女達はそんな事は望んでいない。

 

「大祐…貴方が倒れただけで何れだけの人が心配するのかを、しっかりと認識した方が良いわ。私やきさらだってその一人なの」

「だいすけ…たおれちゃ、いあっ…」

 

ㅤ百目鬼きさらは悲し気な声で、九条の足元にくっ付く。

ㅤいつの間にか倉敷世羅まで彼を抱き締めていた。

 

「にいには…ずっと元気でいて欲しい…」

「ふふっ…大丈夫だよ。二人共有難う」

「…大祐くんは私達にとって大切な人…だから、辛い事とか…えと…なんていうか、そういう事が起きて欲しくないの」

「あづみさんまで…」

 

ㅤ彼女達の九条を心配する心に偽りは無い。

ㅤその気持ちが彼にも、嫌という程伝わった。

 

ㅤ各務原あづみは百目鬼きさら、倉敷世羅の手を握って、再度歩き始める。

 

「…それでも、俺には分からない」

 

ㅤ九条大祐は最後にそう呟いて、自分も再度歩き始める。

ㅤ其処からあまり間も無く自宅に着き、自室のベッドの上でゆっくりと休息を取る。

ㅤ彼が次に目を覚ましたのは夜遅くの事だった。

 

ーーー




森山碧君の解説があまり書けなかったので、何時か書かせて頂きます。
(後書きにでも)
早く本編を進めたいこの頃…。

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