というわけで、連続投稿としてはお久しぶりです事の葉です。
語ることは少なく。ではでは、お楽しみくださいませ。
-side 士道
雫が姿を消してからもう二日が経つ。
世の中は平然と回り続けて、彼女と出会う原因となった、『よく分からない霊波』も感じない。
が、しかし、俺や、精霊たちの中に、これまでと一緒の生活を送ることが出来る根が太い人物は、例外なくいなかった。
俺は自室のベッドで横になりながら、あのあと作ってもらったロケットを天井へ掲げていた。蛍光灯の光に反射して、金の塗装がされた箱が光り、中には水族館で撮った写真が入っている。雫のためにもう一つ作ったが、これを渡せる日は来るんだろうか? いや、一縷の望みさえも持つことが出来なければそれこそお終いだ。
「頑張るか…」
何を、かはよく分からない。雫に関することのほか、よく分からない。
体を起こし、家を出る。空に上るはまん丸満月。月光の明るさは、太陽ほどではないが、何だか心を落ち着かせてくれる。
-side 雫
『雫様ー。暇ですー』
私は、あの後、プログラムの暴走(?)に悩まされていた。
今まで一度として言わなかった『暇』という言葉を乱発して、壁からはやした機械の腕で買ったものをがさごそとしては、飾ったりしている。
「私も」
どうやら、私も暴走しているみたい。ここまで暇を感じたことがなかった。
いつもは、何か自分で探してやっていた。何十回と見た絵本にも、まだ感動できた時期があった。けれど、士道と出会ってから、それに何の感情も感じることがなくなってしまった。
『…そうだ。昔話をしませんか?』
「いいよ」
一拍もおかず、即座に返事をすると、プログラムは少々悩んだ後、壁の中からスピーカーを取り出して、それに接続して綺麗な声で語り始めた。
『私を作った時って覚えてますか?』
「何にも」
『ふむ。まぁ、確かに、何年も昔ですからねぇ。覚えてないのも無理はないですが、そのときに雫様が私に命令を下さったんですよ』
私の視線が、床からスピーカーへ。
そんなはずはない、と。私は高を括っていたのだから。私は命令を下す側の人間じゃなくて、下されて、ただその人の命令に動く側の人間だと、信じて疑わなかったからだ。
『お、興味を持ってくれましたね。ふむふむ、では続けましょう。そのとき、私はできたてほやほやで、もちろん、知識もありませんでした。攻撃を防いで、反撃としてこちらから仕返す。それだけの、プログラムとして産まれたつもりでしたから。ですが、命令に従うのは機械の必須条件。私は雫様から、『自由にしろ』という命令をいただきました』
ぽかん。
私は、雰囲気を無視して、口を開け、目を見開いて、脳がフリーズした。
確かに、プログラムとは思えないほど、これは自由だ。私が喋り相手を求めて作ったのは、なんとなく理解が出来たが、命令形で、とは。
『んな訳で、私は自由に行動させていただきます』
私の了承を得ず、プログラムは私の前から消えた。
嗚呼、怖い。今、この瞬間に誰かが私の首を掻っ切りに来ようとも、私はそれを受け入れるしか出来ない。
機械で構成された私の城は、私の管轄外。
-side 士道
『グッドナイト。今宵は満月が綺麗ですね』
家を出て、人気の無い住宅街を歩いていると、前方に菱形のクリスタルがふわりと降りてくる。
「っ…!? プログラム、だろ?」
『イエス。私は機械ですよ』
「雫は!? 無事なのか!?」
『えぇ、身体的には無事です。が、人は一度砂糖の味を覚えたら求めてしまうもの。どうやら雫様もそのようでしてねぇ』
言ってから、くつくつ笑う。
話の全容が掴めないが、DEMに捕まったとかはないようだ。
「何が言いたいんだ?」
『いやぁ、私の口からは恥ずかしくて何とも。ただ、雫様は臆病で、恥ずかしがり屋。人に会うのだって、相当根気がいるのですよ?』
「俺から、会いに行く」
『……ふむ。そりゃぁ、そうなりますよねぇ。貴方は、まあ。そういう人ですから』
言った瞬間、プログラムの体が淡く光る。
『雫様…や、これも面倒。雫は、とても優しい子ですよ。まだまだ娯楽を知らない。億が一、貴方が雫の手を放したときは、私が全身全霊をもって存在を抹消しに行きますので、ご了承を』
俺とプログラムを、優しい光が包み込む。まるで母親に抱かれるかのような安心感を感じながら、俺は意識を保ちながら、次に起こりえるであろう出来事に覚悟を胸にした。
「…………え?」
が、しかし、覚悟はあっけらかんとした声でかき消された。
目の前にへたりと座っている。美しい、しかし哀しげな少女が。鉄紺の髪を揺らしながら。
「雫?」
最初の頃を見ていると、どっちがいいんだろう、って悩んじゃって、私も成長したのか、それとも退化したのか、よく分かりません。
まぁ、進化か退化か、そりゃ人の観点でしょうね。
次回も、明日までには。