まぁ、いいや。クリスマスとか関係ねぇ!
-side士道
俺は朝食を作り置きして、早速外に出た。
空間震警報が鳴っていない休日とだけあって、車は行き交い、人々は交流している。
ただ、感じる。
霊力を取りこんでいるせいだろうか、霊力に敏感になったような気がする。
いや、だが、これは・・・本当に霊力なのか?
感じる、というだけであって、詳細な場所は分からない。ただ漠然と、『どっかにある』という感覚しかない。この市全体に薄い霊力の霧がかかったような感じだ。
『で、何処から探すつもり?』
「適当にだ。散歩しながら・・・みたいに悠長に歩けそうだからな」
『そうね。まぁ、簡単には見つからないでしょうけれど、こちらも自立カメラを飛ばしてみるわ』
それに小さく助かると返事すると、山の方角へ、足先を向ける。
山へ向かう途中、そういえば、と、昨日見た夢を思い出す。
今まで見たことがない程に綺麗で、そしてつまらない時間を過ごした夢だ。
月と、ほんのちょっぴりしかない星を、誰かと一緒に見ていた。
誰か、は、今まで会った精霊じゃなかった。ましてや学校の友人でもない。令音さんでもない。
もやがかかって分からないが、人形みたいな雰囲気だけ覚えている。
まぁ、いいか。
‐side 雫
私が目を覚ますと、そこは不思議な空間でした。
私が眠っていたのは、どうやら高級なソファの上だったようです。2人は普通に座れるだろいうというソファの隅々には金の装飾が施されていて、絵本で見たような王様が座る椅子にそっくりです。
多分大理石を敷き詰めているんだろう床には、これまた高級そうな赤い絨毯が敷かれていました。少し古いのか、少なくとも新品ではないようです。
「いつも・・・こうだ」
天井のシャンデリアを見ながら、ポツリと呟く。
いつも、ここで起きる。太陽も月も何もないこの作られた世界で起きる。
人も、動物も、何もいない空間で起きる。
怒りも、喜びも、哀しみも、楽しみも、何もない空間で起きる。
愛も、恋も、憎悪も、何もない心をも持ちながら起きる。
眠い目をこすりながら、そんな哲学めいたことを考える。昔っから、考えることだけは好きみたいだ。
まだ慣れぬヒールに踵を通し、ゆっくりと立ち上がる。私の長い鉄紺の色をした髪がふわりと動くのが視界の端に見える。
「今は・・・何時」
言うと、壁の一部が回転し、時計が現れる。無駄な気がする・・・
時間は、9時半。よく、寝たなぁ。
私が起きたのなら、この要塞〈
はぁ、また、戦争が始まるのか。
‐side 士道
休憩こみで適当に歩いた。腕時計を見ると今は9時25分。出たのが大体・・・7時くらいか。
「な~、まだ見つかんないのか~?」
『・・・あとちょっとね』
「は? 何が」
『天使が姿を現すのが。ようやく分かったのよ。なんで天使が顕現しているのに、その姿も確認できないのか、精霊の姿が見えないのが。なんでこんな簡単なことも分からなかったのかって自分に説教したいくらい簡単にね』
向こうから少し苛立った琴里の声が聞こえる。
『天使の中にいる・・・そんな簡単な答えだったのに』
簡単な答え。らしいが、俺には難解な答えにしか思えない。
四糸乃と折紙、美九の天使を除いて、殆どが手で構えるようにして使う。剣や銃等だ。
それに、さっき言った3人も、ひと一人を収納できるようなものではない。
「ど、どういうことだよ」
『今回現界した精霊の特徴よ。空中要塞、そう言われる天使を持っているの。一つの城並の大きさを誇るし、防衛システムもあるから要塞と呼ばれるの。識別名は〈クイーン〉。その姿は誰も見ていない・・・らしいわね。無理もないわよ。ずぅっと空中に漂っているだけなんだから』
そういって、はぁ、と声を上げる。
「く、空中って・・・無理じゃないのか?」
『何とか接触出来るようにこちらでも考えておくわ。最悪墜落させればいい話だし』
ワー物騒。
とかなんとか話している間に、10分が経過しようとした。周囲にけたたましいサイレンの音が鳴り響き、俺の鼓膜を刺激する。
精霊が現界した時に流れるんだが、今回は少し違うようだ。もしかしたら、狂三と同じか・・・
空中要塞という言葉を思い出し、天を仰ぐ。
既に到着しているASTが取り囲む中心に靄がかかったかと思うと、そこから、文字通り空中要塞が姿を現した。
丁度真上に顕現した天使の城の部分は確認できなかったが、おそらく城があるだろう宙に浮かぶ地の下には無数の歯車が今も豪速で動いている。
ここからみると、高いせいかそこまで大きさを感じなかった。ASTの大きさと比較するとその大きさがよぉく分かる。
島とまではいかないことを信じたいが、それに近い程の大きさは持つだろう。
「・・・あれが、天使」
『一度回収するわ。全体像を見てもらうにはそれが一番手っ取り早いから』
琴里がそう言うと、俺はほぼ無意識に「頼む」と言った。