我輩は魔神柱である   作:壬生谷

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日刊一位やったぜ。 
てん〇〇さんの作品の感想欄みたいに連続badしてる子がいて大爆笑しながら、ラスボスのあの人を倒したクリスマス。

何、みんな推しキャラ単騎縛りでフィニッシュしていない? 哀れな。


狂骨工船

 ————おい地獄さ()ぐんだで!

 

 ある魔神柱はVの座に張り付いて、蝸牛(カタツムリ)が背伸びをしたかのように延びて、五柱の魔神柱が死に逝く姿を見ていた。

 人理焼却という極めてイレギュラーな事態にのみ成立するリヨ理論という名のご都合主義によって描写すらカットされたナベリウス、圧倒的物量によって無力化の末に死んだバルバトスやフラウロス、被虐趣味に目覚め、法悦の中で狂うような絶頂を迎えて逝ったフォルネウス、女神ヘカテーの巫女によってどんな死よりも恐ろしく、惨く、残酷な最期を迎えたパンケーキ、じゃなくてハーゲンティとサブナック……。諸行無常、悲しいなぁとばかりに自らとともに残った魔神柱——覗覚屋アモンの姿を見送った。

 数人程度のマスターたちには既にハルファスが狂骨と精霊根、そして戦馬の幼角を吐き出すことをツイートされてしまっているのは自らのことだからか知っていたし、遅かれ早かれ順番が回ってきたので、こうなったら背水の陣だとハルファスは暢気な思考に至っていた。

 この狂骨工船ハルファスのすぐ手前に、一人のサーヴァントが単騎で向かってくるのを軍魔は察知した。

 額に二本の角を生やし、酒の入った瓢箪と過剰な露出度を誇る身なり。一見は幼女——フォルネウスとは別ベクトルの——だが、その身に宿る気質(オーラ)と魔力の質は、彼女が鬼種の類であることを意味していた。

 極東の島国にてその名を馳せ、ある女とそれに従う四天王に討伐されるまで無双の実力と鬼特有の悪辣さ、理不尽さを人界に振りまき、酒を注いで池とし、肉をかけて林とする宴に耽ったという日本三大妖怪の一人。

 

 名を、酒呑童子という。

 

「ふぅん? 旦那はんに言われて来たのはええけど、大したイケメンもおらへんなぁ?」

 

 軽い挑発だろうか。酒呑童子は目線を異形なカタチを取っているハルファスに向ける。

 ハルファスは安い挑発に乗るわけではないが、あくまで敵影を排除するため、冷淡な声音で言霊を述べた。

 

 起動せよ。起動せよ。

 兵装舎を司る九柱。

 即ち、フルフル。マルコシアス。ストラス。フェニクス。マルファス。ラウム。フォカロス。ウェパル。

 我ら九柱、戦火を悲しむもの。

 我ら九柱、損害を尊ぶもの。

 “七十二柱の魔神”の名にかけて、我ら、この真実を瞑ること許さず……!

 

「あら、本気にさせてしもたような。まあええわ、そんなら骨抜いてまうけど、よろしおすなあ?」

 

 しかし、酒呑童子はそうは取らなかったようで、自然体のまま、凶悪な笑みを浮かべ、軍魔ハルファスに突貫していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こないなもんでしょ。ほな骨抜きしまひょ……あら?」

 

 最終的に立ったのは酒呑童子の方だった。

 しかし、この世界に存在する魔神柱の特性は言うまでもない。たとえ殺されようとその恐るべき魔力によって復活を繰り返すのだ。

 ああ、そないいえば旦那はんもそないなことを言うとったなぁ、などと、酒呑童子もまた暢気な思考をしていた。

 

「まあええわ、こないなにあっさりやとしょうもないし、なんよりせんど骨を抜けるさかいね」

 

 ————そないでしょ? 他のうちら?

 

 刹那。

 酒呑童子の背後に()()()()が現れた。

 二人、ではない。そも、七〇〇万人もカルデア最後のマスターがいるというのに、サーヴァントが重複しないはずがない。

 

 七〇〇万。

 

 そう、七〇〇万の酒呑童子が、ハルファスの周囲を囲うかのように現れたのだ。

 今まで気配遮断で姿を隠し、最初の酒呑童子に焦らされた酒呑童子たちは、それ相応に滾っているというか、色々疼いていた。

 

「そやねえ、そらそっちゃんウチのしゃべる通りや。せやけど、うちらを無視して一人だけ愉しむんはズルいんではおまへん?」

「そらきずつないね。やけどどなたか一人がアレの味見をせんとあかんでっしゃろ? まあ、味は良さそやし、食べごろまで蕩けさせまひょ?」

 

 まさかの食い物扱いである。ハルファスは弱肉強食の世界(アンリミテッド・シュテン・ドージ)に取り込まれてしまったかのような錯覚に陥った。

 

 

ハ————ハハハハハハハハハ……ハハハハハハハハハハ‼︎‼︎

 

 

 故に狂った。七〇〇万の酒呑童子による捕食を想像し狂った。

 聴くものを蕩けさせる(CV.悠〇碧)は、人の心をぴょんぴょんさせるだけでなく、SAN値を別ベクトルながら直葬するらしい。

 そんなハルファスを愉快な目で見つめる酒呑童子たちは、魔神柱を肴に今宵の宴を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 斯くして、Vの座は海と化した。

 酒呑童子をも眠らせたと言われる神便鬼毒酒は、七百万の酒呑童子によって座に注がれ、やがて海と化した。

 かつて中国の故事に酒を注いで池とした悪女(タマモもどき)の話があるが、酒呑童子はその悉くを凌駕した。

 狂骨工船ハルファスはその七色の海に浮かび、狂骨を吐き出すだけの装置となったわけである。ストライキなんぞ許されない。狂骨工船は漁船ではないから航海法は適用されず、また、工場ではないから労働法規も通用しない。そもそも労働者は人間ではなく魔神柱だから、人権もクソもない。

 圧倒的社畜。狂気的な黒企業の如き所業。

 見た目は幼女、中身は暗黒な酒呑童子だからこそ実現するハルファスハメ殺しシステム。デバフはそもそも宝具の海に浸かっている敵であるためターン制限はなく、時間が経つたびにその身は溶けるばかりである。

 しかし、死は消滅ではない(メフィストフィレス並感)。死は消滅ではなく蘇生のスイッチ。そして蘇生はサービス労働のスイッチである。

 おまけに酒呑童子にQPも搾り取られるため、これでは労働者と資本家の立場の関係が破綻してしまっている。

 尤も、資本家(酒呑童子)労働者(ハルファス)も人間ではないから、どう足掻いてもハルファスの敗北である。

 

 

 

ハ————ハハハハハハハハハ……ハハハハハハハハハハ‼︎‼︎

 

 

 

 なんて、絶望。

 地獄とは、長時間労働。

 甘い声も耳に入らない、癒しなきサービス残業。

 

 

 つまり。ハルファスは圧倒的物量による死でもなく、リヨリヨしたマスターたちによる理不尽な死でもなく、性癖覚醒からのイキ死にというクッソ汚い死でもなく、ぺったんぺったんされて苺のように小さくされたあとハーゲンティに……じゃなくてパンケーキ化するのでもなく。

 

 過労死。

 第七特異点で賢王ギルガメッシュも経験した過労死で、魔神柱は制圧されたのである。

 しかも、救いがないことに此処には冥界がないため、ギルガメッシュのように簡単に生き返ることはできないわけで。

 さらに、記憶に新しい某広告代理店のように抜き打ち検査もされるはずがないので、完全に救いがない結末を終えるのであった。

 

 

 ハルファスに、黙祷。




某広告代理店とか言ってますが多分フィクションの存在です。
電とか通とかいう文字が付いてる企業が型月世界に存在するわけないよね?

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