ただの使い魔には興味ありません!【習作】   作:コタツムリ

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ありがとうございます。ありがとうございます。
皆様の応援のおかげで、無事ここまで書けました。
実は密かな目標だったのです(100件)。達成できて嬉しいです。

さて、いよいよ今回が、作者がこのssでもっとも書きたかったシーンです。
ちょっと長いので分割します。


第11話(前編) 真実

 

 

 魔法学院本塔二階にある大ホール。

 ここが本日、舞踏会が開かれる会場である。

 才人は『破壊の杖』奪還任務の功績が認められて、特別にこの舞踏会に参加することが許されていた。

 とは言ってもここは貴族の社交界。

 平民に過ぎない才人がホール内を我がもの顔で歩くのはさすがに常識に欠ける為、才人はホール内には入らずバルコニーの枠に寄りかかっていた。

 既に舞踏会は始められており、着飾った生徒と教師たちがいたるところで歓談している。

 壁沿いに幾つも並べられたテーブルの上には豪華な料理がこれでもかと盛り付けられ、香ばしい香りやハーブの匂いが部屋の中を駆け巡る。

 ホールの一角に設けられたスペースには楽器隊がおり、優雅なクラシックを奏でている。

 才人がそんな華やかな会場を眺めていると、メイドの一人が近づいてきた。

「サイトさん。探しましたよ」

 艶やかな黒髪をカチューシャで留めたそのメイドはシエスタだった。

 手に持ったトレイの上には肉料理やサラダなどが並べられている。

「よかったら、これどうぞ」

「ありがとうシエスタ。でもいいのかい? まだ仕事が残ってるんじゃ?」

「抜け出してきちゃいました」

 そう言ってペロッっと舌をだすシエスタ。

 その様子がなんとも純朴な魅力をかもし出す。

「聞きましたよ、サイトさん。盗賊を捕まえたんですって?」

「え? 何のことかなぁ~?」

「とぼけたって無駄ですよ。もう使用人たちの間では皆知ってるんですから」

 あちゃー、と才人は顔を覆う。

 平民の情報伝達の速さを甘く見ていたのだ。

 学院長には自分のことをあまり公に出さないように頼んだのだが、どうやらひと足遅かったようだ。

「自分はただ主人の手助けをしただけですよ」

「またまた~、そんな嘘には騙されませんよ。ミス・ヴァリエールが魔法を使えないことは使用人だって知ってるんですから」

 それでも才人がいくつか論拠を挙げながら説明すると、しだいにシエスタも才人の言うことを信じるようになった。

「へぇー、そうだったんですか。ミス・ヴァリエールが魔法を……」

「そうなんだ。ルイズは、本当はすごいメイジだったんだよ」

「た、確かにサイトさんみたいなすっごい使い魔を召喚するくらいですしね――」

 どうやら納得してくれたようだ。

「じゃぁ、学院の外に突然現れた土の山も、ミス・ヴァリエールがやったんですか?」

「え? それは……」

 それは自分が『ふんもっふ』でやりました、とは言えない。これは本当に情報が漏れると、どこからか神官がやってきて異端だ、なんだと言われかねないからだ。

「さぁ、どうだろうな~」

「ん~、怪しい~」

 シエスタはイタズラを思いついた子供のような顔をしながら、才人を下から覗きこむ。

 そんな仕草にドキリとした才人は思わず口を滑らせそうになるが、

「シエスター! いつまで休んでるの! 早く仕事に戻りなさい!」

「あ、はい! すみません」

 同僚の声に、シエスタは慌てて仕事に戻っていった。

「ふぅ~。危なかった」

 才人はシエスタの後姿を見送ると、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「はっはっは、才人君はああいう素朴な女性に弱いようだね」

 突然現れたのは、頭頂部が眩しいコルベール。

「おっと、これは珍しい。教職の方に声をかけて頂けるとは」

 突然の出来事にも動じず、才人は小さく礼をした。

「私のことはコルベールで構わないよ。それより少し聞きたいことがあるのだが――」

「奇遇ですね。実はわたくしもあなたに聞きたいことがあったのです」

「おや、私に? 何かね?」

 コルベールは予期しない展開に少しだけ慌てた。

「単刀直入に言いますが、何故わたくしたちがゴーレムと戦っていた時、助けに入らなかったのですか?」

 コルベールの目が一瞬で厳しいものになった。

「……どう言うことかね?」

「誤魔化さなくても結構です。あなたですよね? わたくしたちが学院を出てからずっと尾行していたのは」

「……そうか。君は知っていたのだね。なら誤魔化す必要はなさそうだ」

 コルベールは夜の月を見上げながら語りだした。

「私はね、今でも彼女が犯人だなんて信じられないのだ。実は私は過去に学院長の指示でミス・ロングビルの素性を調査したことがあるのだ。すると思わぬことがわかってね……、彼女は給料の大半をアルビオン、つまり外国に送金していたのだよ」

「ほほう?」

「送金先を詳しく調べるとサウスゴータの森の中に非公式に住んでいる孤児たちに行き着いた。彼女はその孤児たちのために仕送りをしていたのだよ」

「なるほど、そんなことが」

 コルベールは遠い目をした。夜空には双月が輝いている。

「孤児たちは貧しい生活ながらも笑顔が絶えなかった。それを見たときに私は思ったのだよ。きっと彼女は間違ったことはしていない。そしてこれこそ人のあるべき姿だと。それから……なのか。私が彼女に心惹かれるようになったのは……」

「なるほど、それで彼女をかばったのですか」

「……」

 コルベールは無言をつらぬいた。

「そう言えば学長室でも彼女をかばいましたね?」

「……何のことだい?」

「学長室でミス・ロングビルがうっかりゴーレムの残骸について知りえない情報を口走ろうとしたとき、あなたは大声で話に割って入りましたね。結果ミス・ロングビルは自白に等しい失言をせずに済んだ。あれは彼女を助けるためにわざとやったのですね」

「……」

 再びの沈黙。だがその沈黙が、才人の問いが的を射たものであることを物語っていた。

「隠さなくて結構です。あなたは聡明な人だ。今までバカのふりをしながら彼女を影から助けてきた。違いますか?」

「……どうやら君には隠し事はできないようだね」

 コルベールは嘆息しつつ聞いた。

「君は一体、何を知っているんだい?」

 その問いには答えず、才人は歩き出した。

「ついて来て下さい。これから真実をお話しましょう」

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

 学院本塔の外壁。

 ちょうど宝物庫の外壁に当るこの場所にフードをかぶった人影があった。ちらりとのぞく緑の長髪。細い指先。それらがこの人影が女性であることをうかがわせる。

 パーティーも中盤に差し掛かろうという頃、この女は宝物庫の外壁に張り付いたまま何かを探していた。

「あった、ここだね」

 そこは昨晩フーケ襲撃時に穴が開いた場所。

 一応『錬金』によって塞がれたその穴は外から見ると周りの壁と見分けが付かない。だが、突貫工事で造ったハリボテ同然の壁など、フードの女にとっては無いにも等しい。

 女は軽く杖を振る。

 すると壁は一瞬で砂に変わった。

「昨日賊に襲われたばかりだと言うのに無用心だね」

 女はほくそ笑みながら宝物庫に侵入した。

 

 中に入るとあたりを見回す。

 さすがは学院の宝物庫とでも言うべきか、国中から集められたマジックアイテムがこれでもかと敷き詰められている。

「くっふっふ。宝の山じゃないか!」

 女はフードを取った。現れたのは破壊の杖を盗んで、今は地下牢に入っているはずの学院秘書――、ロングビルであった。

 どういうわけか、彼女は地下牢を抜け出したようだ。

 ロングビルは目尻を猛禽類のように吊り上げて、目の前のお宝に舌なめずりする。

 そしてお目当てのマジックアイテムを見つけ手に取った。

 ハンドベルのような形の鈴。正式名称は『眠りの鈴』という。

 ロングビルは狂喜したように口元を歪めた。これから己がすることを想像して身震いする。

「今日は土くれのフーケにとって最高の晴れ舞台になるだろうね」

 『眠りの鈴』は効果範囲内にいる使用者以外の人間を強制的に眠らせる秘宝である。使用するには精神力を込める必要があるが、一般的なメイジがほんの数分も身に着けていれば事足りる。

 もしこれを学院中のメイジが集まるパーティー会場で使ったらどうなる。一瞬にして学院を守るメイジが無力化されるではないか。その隙に自分は学院のお宝を全て盗み出す。

「こりゃ『破壊の杖』どころじゃないね、くっひっひ」

 もともと彼女は闇ルートの依頼で『破壊の杖』を盗むために学院に潜入した。だが、予期せず幸運が訪れたのだ。宝物庫内の秘宝を丸ごと掻っ攫える幸運が。これを逃す理由はない。

 ロングビルは壁に開いた穴から飛び降りると『フライ』を唱えて地面に着地。そのまま本塔二階の大ホールを目指した。

 

 だがこのときの彼女は知らなかったのだ。

 自分の思惑に気づいている者たちの存在を。

 

 

 

 学院本塔、入り口前の階段に二人の男たちが立っていた。

 

 

 

 

「どちらに行かれるのですか? ミス・ロングビル」

 そのうちの一人、才人が階段を降りながら言った。

「ミス・ロングビル!? 何故あなたがここにいるのですか? 今あなたは地下牢にいるはずでは?」

 遅れてコルベールが驚愕と共に叫んだ。そして駆け足で階段を降りる。

 彼の瞳には確かにロングビルが移っている。コルベールは思わず目をこすった。

 ロングビルは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに表情を元に戻した。

「ふっふっふ、警備が甘すぎるのではなくて? スペアの杖を見逃すなんて」

 そう言ってロングビルは杖をヒラヒラと見せる。二人の目線が杖に集中した隙に『眠りの鈴』を素早く腰の後ろに隠した。

 コルベールは自然と杖を構えた。魔法の不意打ちを警戒したのだ。

「何故あなたが……、どうしてこんなことを」

 目の前の出来事が信じられないとコルベールは力なくつぶやく。

「さあ、何故でしょうね?」

 ロングビルはあざ笑うかのように顔を歪めてみせた。

「教えてくれ! どうしてこんなことをしたんだ! 今までの君は演技だったというのか! 孤児たちの笑顔は嘘だったと言うのか!」

 コルベールは声を大にして激昂した。握り締めた杖によりいっそう力が入る。

「おーっほっほっほ」

 そんな愚直なコルベールを見てロングビルはこらえきれなかったのか、腹をかかえて笑い出した。

「答えたまえ! ミス・ロングビル!」

 なおもつめ寄るコルベール。

 だがしかしそんな彼を制するように才人は一歩前に出る。

「無駄ですよ。ミスタ・コルベール」

「どういうことかね?」

「なぜなら彼女は――、ミス・ロングビルではないのですから」

 

 一瞬、辺りから音が消えた。

 

 すかさず場に張り詰める緊張感。

 ロングビルは表情を一変させた。両目を細め、警戒心をむき出しにして、才人の次の言葉を待った。

 

「いい加減、下手な猿芝居は止めましょうよ。ミス・ロングビル……、いや――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――シュブルーズ先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つづく

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