落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜   作:オリーブドラブ

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第19話 辱めを受けた姫君

「ゲホッ、ガハッ!」

 

 桜田の美麗な顔立ちは血と痣だらけになり、すっかり見る影もない。

 

 今飛び出せば身の危険があるかも知れないが、俺は脇目も振らずに、翼をもがれた英雄を助け起こす。

 

「おい、桜田! どうしたんだ! 舞帆は!? もう、やられちまったのか!?」

 

 俺の呼びかけに僅かに反応を示すと、彼はかすれた声で何かを呟く。

 

「あ? おい、何だって?」

 

 桜田の口元に耳を寄せると、ようやく微かに聞こえて来る。

 

 ――そう、姉さんを助けて、という声が。

 

「ね……え、さん、を……」

 

「……わかった。いや、わかってる。絶対に舞帆は助けるから。お前は、そこで待っててくれ」

 

 俺は桜田の傷付いた体を静かに寝かせ、彼が吹っ飛んできた方向へと目を向けた。

 

 そして、雲一つなく澄み渡った夜空に輝く月を後光にして、一人の女性が姿を現した。

 

 一見すると腹や脚が露出していて、紫色の水着のようなきわどい格好だが、その足先や指先には鋭利な刃が伺え、肘や膝にも鎌のような得物をぎらつかせている。

 

 シャープなデザインのマスクで素顔を隠すその女こそ、桜田家の敵であり俺の最後の対戦相手――「ラーカッサ」こと狩谷鋭美と見て間違いないだろう。

 

「ようやく見つけたわよ、セクレマン。所沢に劣る分際で、ザコを差し向けて小手調べとはいいご身分ね」

 

 ――ザコってのは、舞帆のことか?

 

 経験がなくても、俺のために戦うと言ってくれた舞帆に向かってザコとは、こいつの方こそデカイ口を……!

 

 軽快な口調で挑発しつつ、威圧的な態度でこちらを見下ろす彼女に対し、俺は真っ向から睨み上げた。

 

「ふぅん。所沢に痛め付けられたばっかりなのに、随分と威勢がいいじゃない。アタシと戦うために、ご苦労なこと」

 

「舞帆はどうした。生きてんだろうな!?」

 

 何よりも、俺は彼女が心配だ。

 それだけに、声も自然と焦燥の色を帯びていく。

 

「すぐに殺したりはしないわ。死にたくなるような屈辱を与えることはあってもね」

 

「なんだと!?」

 

「気になるなら自分で見てくれば?」

 

 そう言って彼女――ラーカッサは、自分の後ろにある体育倉庫を指差した。

 ボロボロになってはいるが、一応は建物としての原形は残っている。

 

 俺は一目散に最大の敵を素通りして、そこへ駆け込んだ。

 

 △

 

「舞帆!?」

 

 闇夜に包まれながらも、屋根が壊れていたおかげで月光に照らされていたため、薄暗くても舞帆の姿は用意に発見できた。

 

「ふ、船越君!? なんでここに――!」

 

 ところが、彼女は俺の呼び声にビクリと身を震わせると、俺から隠れるようにうずくまってしまった。

 薄暗いせいで、彼女の全貌がよく見えない。

 

「どうした、舞帆! あいつに……ラーカッサに何かされたのか!?」

 

「あっ……その」

 

「怪我でもしたのか! とにかく見せてみ――」

 

 そこで、俺は彼女に伸ばしていた手を止めた。今の彼女の姿に、俺はデジャブを感じる。

 

 やがて蘇ってくた、過去の記憶。

 

 ――弌郎にさらわれた彼女を救うために、あいつがいた病院に殴り込みに行った時。

 

 彼女はその時も、傷付いていた。俺のせいで。

 

 ……ダメだ。こんなままじゃ、ダメなんだ、俺は。

 

「……」

 

 俺はしばらく硬直していた自分の体に命令し、何も言わずに一糸纏わぬ彼女の体にレザージャケットを被せた。

 

 元々傷の痛みをごまかすために着てきたものであったが、それを抜きにしても今夜これを着てきたのは正確だった。

 わざわざこれを用意してきてくれた達城に感謝しなくてはなるまい。

 

 そして、自分の中から真っ赤な怒りが噴き上がってくる。

 溢れ出るこの感情がラーカッサの計算なのかはわからない。

 

 ただ、そんな些細なことなんてどうでもよくなるくらい、俺は何も出来ずにいる俺への怒りで身を焦がし尽くそうとしていた。それだけは間違いない。

 

「あ、あのっ、船越君! 私なら、大丈夫だから! 今度こそ勝つから! だからあなたはもう――」

 

 顔を真っ赤にしながら、涙を流しながら、それでも戦う姿勢を辞さない彼女の口を掌で覆い、俺は思うままの気持ちを言葉にした。

 

 絶対に負けられない。ここまでされて、挑発され、戦うと決めてしまったら。

 

「ここまでたきつけられたからには、立ち止まる気もいわれもないよな、舞帆」

 


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