落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜   作:オリーブドラブ

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第18話 もがれた翼

 粉々に切り刻まれた生裁剣の残骸。

 

 宋響学園にたどり着いた俺達の目を奪ったその姿は、意気込んでいた俺に現実と言う名の冷水を被せた。

 

 笠野がラーベ航空会社に掛け合って用意した、上空から撮影された宋響学園の映像。

 

 それを携帯から受信して使い、俺達は今、舞帆達がどこで戦っているかを把握しつつ、その場所へ向かっていた。

 

 その途中で、俺に忠告を突き付けるかのように、あの残骸が転がっていたんだ。

 

「こ、これって、セイントカイダーの剣……ですよね?」

 

 不安げな表情で平中が俺を見る。

 

 正直、俺は彼女以上に不安な気持ちになった。

 

 生裁剣を使えたバッファルダとの一戦目では、かなり優位に戦えた。

 二戦目では生裁剣が使えなかったから負けた……などと言い訳がましいことは言わないが、少なくとも剣が使えれば、あれほど無様な負け方はしなかったはずだ。

 

 それくらい、生裁剣には価値があった。

 セイントカイダーにとっての、唯一の武器だったんだから。

 

 その生裁剣が、破壊された。

 それはつまり、バッファルダとの二戦目の時と同じ条件で勝負に臨まなければならないのに等しい。

 

 達城から隠されたシステムは伝授されたものの、テストもなしにぶっつけ本番で使うのは、実を言うと怖かったりする。

 

 その上、危険が伴うからと今まで絶対に使わせまいとしてきた程のリスクまであるというのだ。

 臆病なことを言えば、なるべくは使いたくない。

 

 しかし、他に生裁剣を破壊するほどの強さを誇るラーカッサに太刀打ちする手立てがないのも事実。

 俺はどっちに転ぼうと、腹を括るしかない現実を悟る。

 

 ――ちょっと前まで舞帆の代わりに命懸けで戦うって誓ったばかりだろうが!

 何をビビってる!

 

 俺は独りじゃない。

 舞帆も、母さんも、ひかりも、達城も、ここにいる平中だって、味方でいてくれたじゃないか!

 

 ……最後の一度でいい、男を見せろ、船越路郎!

 

「あ、あの、船越さん」

 

「――大丈夫だ、平中。俺は負けないから」

 

 泣きそうなほど心配そうな顔をする平中に、俺は力強く頷き、なるべく安心させようと試みる。

 

 彼女も俺の覚悟を知ってか知らずか、「もう諦めて、帰ろう」ということだけは、口にしなかった。

 

 ――今だけでも、信じてくれてるんだって都合よく解釈しても、いいよな?

 

「じゃあ……行ってくる」

 

 俺は一瞬だけ顔を綻ばせると、すぐに気を取り直し、残骸を乗り越え、「死地」へと駆け出していった。

 

 敢えて、見送る彼女の顔は見ない。

 

 これ以上誰かの優しさに触れたら、後ろめたくなってしまう。そんな気がしたから。

 

 △

 

 図書館や物置、体育倉庫と、敷地内のあちこちが破壊されている。

 水道までもが一部損害を受け、水が漏れ出していた。

 

 しかし不幸中の幸いか、肝心の校舎はまだ壊されてはいない。それで安心できるわけでもないが。

 

「舞帆! どこだ、舞帆!」

 

 一番多く瓦礫が転がっている場所で、俺は彼女の名を叫ぶ。

 強い硝煙の匂いに誘われてきたこの場所が、最も「戦場」と呼ぶに相応しい惨状だったからだ。

 

 ふと、うめき声が耳に入ってくる。しかし、それは明らかに舞帆の声ではなかった。

 

「うっ!?」

 

 声の聞こえた方に目を向け、俺は目をしばたかせる。

 

 そこには、瓦礫に足を挟まれたまま動かない、校長がいたからだ。

 

 俺に難癖を付けてきた奴だとか、そんなことはこの際関係ない。

 俺は彼の近くまで駆け寄ると、ラーカッサとの対決まで温存する気でいたなけなしの体力を使い、瓦礫を退かしてやった。

 

 既に骨折してしまっているようで、解放されたにも関わらず、校長はそこからピクリとも動けずにいた。

 それでも意識はあるらしく、憎々しげに俺を睨み上げる。

 

「……何をしに来た。私を助けて得意になったつもりか!」

 

「助けてもらっといて早々に言うことがそれかよ……ま、いいか」

 

 彼の対応は相変わらずだが、不思議だとは思わない。

 

 あそこまで言いたいことを言っておいて、今更素直にお礼なんて言う気にはならんだろう。

 大人としてそれがどうなのかはともかくとして。

 

 そんなことより、俺には大事なことが山積みなのだ。

 

「校長先生、舞帆と桜田は? ここが一番壊されて新しいと思って来たんだが」

 

「ふん、二人の活躍を見に来たのか? あの子達ならグラウンドの方へ向かった」

 

 二人の子供の居場所を指差す父親の顔は、自信満々のようで、どことなく不安げでもあった。

 

 ――なんだかんだで、やっぱり心配だったんだろうか。

 桜田家のプライドってやつのために戦いに引っ張り出しておいて、今頃になって良心を抱えだしやがったか。

 

 俺は不信感を隠さない目で校長を一瞥して、グラウンドへ行こうと踵を返した。

 ――そこへ。

 

「うわあああっ!」

 

 轟音と共に激しく瓦礫が飛び散り、俺の足元を施設の残骸がえぐっていった。

 

 その衝撃に流されるように飛び出してきたのは――赤いスーツを纏った翼のヒーロー、ラーベマンだった。

 

 ――いや、桜田には悪いが、ここは「翼のヒーローだった」と形容させてもらおう。

 

 全身と翼のようなマントを刃物か何かで切り裂かれ、最早スーツの色か血の色か判別が付けられなくなっているその姿には、バッファルダと戦った時のような優雅さは微塵も感じられず、見るに堪えないほどの痛々しい様に成り果てていた。

 

「桜田……!」

 

 俺をあそこまで追い詰めたバッファルダを手玉に取るようなヒーローが、ここまで容赦なく痛め付けられたという事実が、再び現実の理として俺に襲い掛かる。

 


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