ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪   作:有限世界

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 前回の続き。
 


フリーダム過ぎるのもどうかと思う。

「ところで、その人の名前はなんて言うの?」

「それが聞いてないんですよ」

 なんで聞かないのよとリサは本気で頭を抱えかけたが、

「いえ、私も聞いたんですよ。聞いたんですよけど……」

 誤魔化されてしまった。ミーヤの声と顔からその事を察したリサは頭痛薬を買いにいこうと決心した。なお、彼の出鱈目に振り回された被害者は胃薬常備とか普通だったりする。そして関わりが無くなった今でも、一応持ってたりする。何時絡まれるかわかったものではないし。

「とりあえず続きを話しますね」

 

 

 

「その後変人さんと別れて犬をお金持ちの悪い依頼人のところに連れていったら虐待している事が判明して用心棒という名のごろつき達に刃物を突きつけられました」

「はしょり過ぎ!」

「ぶっちゃけ変人さんを中心に話をした方が良いかと思いまして。これから巻き込まれる可能性を考えたら」

「間違ってないけど、間違ってないけどさぁ。不吉な事を言わないでよ」

 なお、この不吉は悲しい事に実現してしまうのである。合掌。

 

 

 

 魔法を使えない状態でチンピラに囲まれるという絶体絶命のピンチのミーヤ。そして唐突に現れたのは

 

「誰だ貴様は⁉」

「通りすがりの……」

 槍を持った男は笑顔の仮面を外して悪魔の様な顔を見せる、比喩でなく。事実彼の手には笑顔の面がある。

「「「どうなってんだよ⁉」」」

「手品に決まってんだろうが。危険種が居るんだぞ!」

 そりゃそうだ。手品をした意味はわからないが、聞くだけ無駄だと思って先を促す。

「で、通りすがりの手品師さんが何かようか?」

「いや、オレ手品師じゃないよ。単なる動物愛護団体の団員(嘘)ってなだけで」

 駄目だこいつ、言葉は通じても話が通じる気がしない。まだティンダ朗の方が話はわかる気がしてならない。

「という訳で『共通歴401年法第53号』通称『動物愛護に関する法律』の違反により、しょっ引かせてもらうわ」

 それ、おかしい。ミーヤが突っ込む。

「警察の仕事ですよね?」

 蛇足だが動物動物愛護法愛護に関する法律は違う年の違う号数強なので彼の嘘八百だったりする。

「何を言っている?それだと暴れられないだろうが」

「「「はい?」」」

 この人はいったい何がしたいのか?

「という訳で、喧嘩しよーぜ」

 瞬間、彼は飛び出し

「そーっれ!」

 チンピラを殴り飛ばす。

「ひゃーっはー!」

 蹴り飛ばす。

「そいやー!」

 投げ飛ばす。

「ハーッハッハッハッハーッ!!喧嘩楽しいー!」

 笑いながら暴れまわる。今まで散々おかしいおかしいと思っていたが、今回は飛びっ切りおかしい。

 波に差はあれど、彼については何時もおかしいという認識でOK。たまたま今回波が高かった、ただそれだけのことである。付き合いが長ければそんな納得ができるのだが、ミーヤには酷な事だった。

「お前らが俺に勝つには意志が足り無い、技術が足りない、そして何より筋肉が足りない!」

 ここでポージング。モストマスキュラーという上半身の筋肉を強調するポーズだ。

「「「何で筋肉⁉」」」

 そこそんなに重要か?

「魔法が使えないからに決まってんだろうが」

「「「あー」」」

 ある程度の納得は得られた。これについてリサは筋肉の重要を聞く前から心技体かと納得してた。現実逃避してたともいうが。

「だからって1人でこの人数に勝てるわけねぇよ!」

 1人が彼に向けて剣を振り落とす。

 槍で受け止める事はできた。かわす事もできた。白刃取りも可能だ。

 それでもあえてこの非常識な防ぎ方をするのは心をへし折るため。

「ふん!」

「「「はぁ⁉」」」

 あり得ない出来事に剣を振り落としたチンピラでさえ目を点にしていた。

 腕、それも素肌で受け止めた。いくら筋肉が凄くとも納得できない。説明を聞いてたリサは筋肉スゲーと考えるのを止めていた。

「言っただろ、技術が足りないと」

 そこは筋肉じゃないのか。誰もがそう思った。

「刃物は力で押さえつけても切れない。そこから前後に動かして切れる。つまりその動きに合わせて腕を動かせば切れる事はない!」

 理屈ではそうだが、可能だからやるというものではない。それに切れなくとも、鉄の塊を受けたなら下手をすれば骨が折れる。まあそこは筋肉でカバーしたのだろう。深く考える事はしないが。

「そして筋肉が足りない!」

 剣を膨張する筋肉で弾き飛ばす。上空に大きく跳ばされ、そのまま自然落下してくる剣に

「サイ!」

気合いの入った掛け声と共に槍を叩きつけ、粉砕する。

 ただの槍で魔法なしにそんな事は無理だ。それが一般的な感覚である。

 だから彼が持っている槍が禍々しく血管の様に紅く脈打っているなら納得が

「何だその槍は⁉」

終末を屠る槍(リヴァウィアッサン)

「名前を聞いてんじゃねぇよ!」

 槍の能力か彼の魔法か、どちらにしろ、危険種がいる前ではいきなり取り寄せる事はできず、取り寄せれたところで破壊されるのがオチだ。なら何故そんな武器を持っているのか?

「神を殺す為の(わざ)が危険種に消せる訳がないのだよ」

 彼は知っている。

 危険種は

  どうして生まれたのか?

  何故奇跡を打ち消すのか?

  誰がそう名付けたのか?

 彼は全て知っている。

「それに神だ奇跡だ危険種だ、それがどうした?俺達は人間だ。そしてこれは人間の(わざ)だ。神の奇跡は必要ない。そんなのにすがる奴は意志が足りない。生まれる前からやり直せや」

 知っていて、いや、知っているからこそ、全てをどうでもいいと切り捨てる。ギャグから急激に変化したシリアスな雰囲気に、リサは重要な事と思い考える。

 彼女を初めとして多くの異世界人が神に招かれてこの世界にきた。その時に特典として高い能力と希少な特殊能力を与えられているが、神を殺すような能力を神が与えるか?いや、危険種を前に神が与えた能力は発動しない。

 神に招かれた訳ではない?それでいて神の存在を殺すべきものとして捉えている?どうやって神の存在を知った?神を殺すと言うなら彼は殺神種なのか?

 疑問は尽きないが誰かに相談するわけにもいかず、結果的にそれは失敗だったのだが、とりあえず先を促す事にした。

 とはいうものの、その後は一方的な展開だった。適当な敵の頭をむんずと掴むと筋肉をフルに使って振り回した。

「人間ブレード」

 技名なのか叫びながら。

「二刀流!」

 それも二人を同時に武器にして。リサでなくても槍を使えよとツッコミたくなるだろう。

「これが筋肉の力だ!」

 何れだけ筋肉好きなのかこの人。どんどん暴れまわって死屍累々と……生きているからその表現はおかしいが、そんな状況だった。

 その後は警察の人がきて、ミーヤは事情徴収された。なお、件の喧嘩好きな男はこっそりと逃げ切った模様。余罪の証拠をばら蒔いてから逃げるという嫌がらせつきで。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういった訳で飼い主不在のティンダ朗を引き取ることにしました」

 なお、国によっては危険種を兵器として運用している部隊もあるので、冒険者がペットで飼っても特に問題はない。共和国では危険種であるという届け出を出す必要はあるものの、それ以外特に他のペットとの違いは無い。

 依頼内容によっては魔法を封じる事が有効な場合もある。加えてミーヤは魔法よりも物理の方に適正があるので相性もそこまで悪くない。魔法が必要な時には離れていれば良いのだし。

「とりあえず食事にしましょう。警察の方から感謝状とちょっとした礼金も貰えましたし」

「ティンダ朗も連れて行くの?」

「アッシュさん、魔法を使えないから大丈夫じゃないですか?それに晴れる屋はペットの連れ込み可でしたよ」

 それもそうねと割りきり、今日の日替わりはなにかなと楽しみに入った二人はパリンという、何かが壊れた音を聞いた。

 乾いた2つの笑み、流れる冷や汗、そして次の瞬間

 ドドドドドドドドドドドドドド。

 厨房から大量の食材が雪崩れてきて、客や机に食器胃薬等全部纏めて押し流した。

「く~ん?」

 どうしたの?と言いたげに首を傾げるティンダ朗と冷や汗を流す女冒険者2人。

 アッシュは魔法を使えないのはほぼ事実だったが、それがイコールで魔法のアイテムも使わないという事にはならない。晴れる屋では業務用のインベントリで食材等の保管をしており、危険種が入ってきたことによって壊されたインベントリから流れ出してきたのだ。

 冷蔵庫の無いこの世界なら、一般常識として当然わかる事なのだが。

「営業妨害とは、いい身分だな」

 食材の中から表れた穢れた目で無表情の死神が鎌の代わりに全ての災厄(パンドーラ)の箱を取り出してゆっくり歩み寄ってくる。あかんこれ、死んだ。

 リサは己の命運を悟った。ミーヤは禁断の箱が開かれた所を知らないがヤバイことだけは理解した。ティンダ朗は本能に従いお腹を見せる服従のポーズだ。

 二人は強烈な幻覚(火柱が何度も何度もあらゆる場所から立ち上ぼり、隕石が降り注いで周囲を荒廃させる)を周囲に見せると共に、インベントリの修復に手伝わ(金を出)させられた。依頼料と謝礼では赤になるくらいに。プラスで客に慰謝料、店の壊れた食器代、ダメにした食材代等々わりと洒落にならない金額が飛んで行く。

 やはりお財布が危険種だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやってんだ?あいつ等は」

 晴れる屋も幻覚も見えない程遠い町の外で、彼は振り向きながらお財布が危険種に呆れていた。

「あ、忘れてた」

 担いでいた槍をポイっと捨てる。地面に落ちた2メートル程度の槍ですらない木の棒は、危険性の欠片もなかった。

 魔法ではない。魔法なら危険種がいた時点でかき消されていた。もっと根本的に神の奇跡ではない。そもそも奇跡を憎悪する彼に奇跡は使えない。

 則ち『誰にでもできる』事の証明になる。まあ可能性があるだけで、実際に至れる者はほとんどいないが。というか、いてたまるか。

 彼の事を知っている人間に聞けば彼が何をしていたのかわかる。納得できないものの。

 木の棒を経由させて発せられた殺気が認識を歪めて槍に見せ、必要に応じて更に殺気を加えることにより更に凶悪な魔槍に見せた。意志が足りないという啖呵を切った理由はここにある。殺気に負けない意志があればただの棒にしか見えなかったのだから。

 彼にとっては其処らの木の枝も、万難を廃する神殺しの魔剣(アークエネミー)と化す。

「しかし見事に忘れられていたな」

 彼はミーヤと嘗て会っていた。その時、彼女は今のアッシュの様に無表情だった。

「逆にうちのバカ弟子ときたら」

 彼はアッシュの師匠である。弟子曰く、最強の遊び人で、言葉は通じるが会話が成り立たない、出鱈目を(きわ)めた人間の皮を被ったなにか。さりげなく人外認定されているが、大概の人は納得するだろう。

「再指導……はもう剣士でないから無理だな。だからといって狂理(流派)の掟を守ってないから、殺すには十分な理由なんだよな」

 物騒な事を呟いた。

「それとも剣士として既に死んでるから今まで通り放っとくか」

 そして結論、

「よし、バカ弟子で遊ぼう」

 何故そうなった?

 

 

 




 こいつ、アッシュに不味い料理を教えた師匠でもあるんだぜ。つまり、更に不味い料理を作れるという……
 しかしダメージを最大にするため、気絶したくても気絶できない程度の絶妙な不味さで抑えるのが師匠クオリティー。アッシュの不味い料理とどちらが食べたくないかは意見の別れるところ。

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