ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪   作:有限世界

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ストーカーの撃退法
ストーカーが表れた。よし、ニセコイ計画だ。


 

 

 

「アッシュ君ごめん付き合って!」

 配膳をしていたアッシュはいきなりそんなことを言われた。

「若いねー」

「これが青春やでー」

「アツい」

 店に居合わせた客は思い思いの言葉を口にする。

 ここはスフィトリア共和国首都アリトーリス、大通りから少し外れたばしょにある大衆食堂、晴れる屋。実質料理長の灰色の髪をしたエプロン姿の青年アッシュ・ダインスレイは閉店前のラストオーダーも終わって調理から解放されていたが、リサの一言により普段からどぶの底のような目を更に濁らせて、

「断る」

 一刀両断にした。

「もったいないな」

「ということはリサさんより好きな人でもいるのか?」

「けどそんな噂はないよな」

 好き勝手な事を言うギャラリー。

 言って来たのは美人で通用する女性だった。黒髪は背中まで伸ばして纏めている。引き締まった肢体に青に塗装された金属製の部分鎧、腰には長剣。世界的にも有名になったギルド群青の風、そのエースであるリサ・ノースランドこそが件の女性である。

「いやお前ら、これが告白でないとわかってて言ってるだろ?」

「「「うん!」」」

 一同ノリノリである。

 息を切らせて店の中に駆け込んできたリサは周囲を気にせずアッシュのもとまで行き、そしてさっきのセリフをはいた。普通に考えれば、何か急な要件に付き合ってくれと言う意味で恋愛要素が絡むとは思えない。

「せめて理由を聞いてから断って!」

「忙しいから後にしろ」

 といってもラストオーダーは終わっている。

「こっちも時間がないの!」

 アッシュはため息をついて大声で、

「店長!しばらく外します!」

「あー、いいよいいよ」

 店長の許可を得て客のいない席に座る。

「で、なんのようだ?」

「恋人の振りをして欲しいの!」

 まさかの恋愛に絡む付き合いであった。

「親にでも見合いを勧められたのか?」

 アッシュは最近読んだ小説の内容を口にしてみた。

「それだったらまだマシよ」

 うんざりした口調で返した。

「ストーカーがいてね」

 そして更にうんざりした口調で話す。

「「「は?」」」

 一同(アッシュ含む)唖然。他の女性ならまだしも、この女に関してはそれが危険にならない。むしろストーカーの身を案じるレベルだ。

「ストーカーの命は大丈夫か?」

 言わなくても良いのに口だけは心配するアッシュ。

「普段ならそうなんだけどね」

 その事についてアリサは否定するつもりはないし今まで返り討ちにしてきた事実もあるわけだが、今回のストーカーに関しては勝手が違うようだ。

「冒険者学校時代のクラスメイトで、とても粘着質な勘違い野郎でしつこいの」

「そこまではわかった。が、何で俺なんだ?ギルド員でいいだろ?」

 単純な案を言ってみたが、

「ダメ。あのバカは私とタメをはれる実力なの。だから彼より弱い人間は相応しくないと決めつけるわ」

 理屈が飛びすぎて誰も理解が追い付かない。

「そいつが理解できないのはわかった」

 アッシュは理解する努力をあっさり諦めた。が、アリサの口からは更に驚愕の事実が明かされる。

「同じ脳ミソスライムになら理解できるっぽいわよ。クラスメイトにあんなのが好きなのが何人かいたし」

「俺、学校行かなくて本当によかった」

 アッシュは心底ほっとしたように漏らした。

「いやいやいやいや!流石にそんなのいなかったから!」

 店員の一人が叫んだ。どうやら彼も冒険者学校に通ってたようだ。

「で、流石に料理の腕なら俺の方が上だからという訳か」

「そ。あなたの料理を毎日食べれるから、付き合っていることにするの」

 餌付けされてるのを告白しただけでは?本人が気付かないので、あえて皆スルーした。

 そして目を光らせたアッシュが

「今日の食事代はリサが払ってくれるから!協力よろしく!」

 大声で客に呼び掛ける。

「うう、勝手な事を。まあ、流石に只で手伝えってのは図々しいか」

 愚痴りながらも納得する。

「質問です!」

 手を上げる客の一人。

「今からお代わりしたらその分も払ってくれますか?」

 セコい。しかしリサは無理だと言うことを知っている。

「もうラストオーダーは過ぎてるわよ」

「店長、閉店を一時間延長にしますから、ラストオーダーも延長しますね」

「ちょっ!?」

 何故か延長するのを決めたアッシュ。流石にリサも悲鳴をあげた。

「という訳で、俺からは口を滑らしたらいけないので酒は飲むなとしか言えない。あと、流石に持ち帰りは図々し過ぎるだろと思うが?」

 アッシュの財布でないので中身を気にせず、遠回しに認めている。お代わりの段階で図々しいとアリサは思う。

 加えて店員の1人が手を上げる。

「質問でーす。僕らが頼んでもいいですか?」

 普段ウェイターをやっている店員がここぞとばかりに手を上げる。

「まあ、他の店員にも口止めは必要だよな。あと俺も夜食で高いのを作って食べるから」

 だから何故リサでなくアッシュが答えるのか?まあ遠回しに払わにゃ正直に言うぞと言ってるだけだが。

 因みに一番美味しい立場なのは店長である。売上が増えて賄いの費用が減るし。

「仕事を増やそうかな?」

 財布の中を想像してしまい、遠い目をして思いを馳せた。

「場合が場合だからツケは認めるぞ」

 だから何故アッシュが決めるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  翌日

 

「その後の進展は?」

 閉店後の晴れる屋で、偽物のカップルは話しをしていた。

「此方をつけ回すのは減ったけど、よくわからないわ」

「ああ、それは多分此方を調べてるんだろ。客から不審者を見たって話があった。目撃者の証言は一致して、金髪のイケメンで高そうな鎧をして腰に長剣を帯びた男だった」

「あのバカだ」

 グリセルダ王国でギルドセイクリッドブレイズのリーダーをやっているクロウ・マッケンジーだとリサは推測した。

 しかしとアッシュは思う。こいつは鎧を脱がないのか?今でさえアリサは鎧をしている。

「これからどう出ると思う」

「うーん、流石にそれはわからないわ。突拍子も無いことをしそうなのは理解できるのだけど」

 二人は辛うじて普通に分類してもらえる思考能力しか持ち会わせていないので、明らかに常人の思考を外れた男の思考までは読みきれない。

「とりあえず帰ろう?」

「そうだな」

 二人は戸締まりをしてアッシュの家へ向かっていく。仲良く腕を絡ませて。

「やっぱり歩き難いわね」

「世のバカップルどもはどうしてこんな面倒な事をするんだ?」

「それにこれじゃあ剣を抜くのに時間がかかりすぎるわ」

「いかん、腕が痺れてきた。次からは鎧を脱いでくれ」

 会話は無機質というか、怒りが沸々と沸いている感じだが。

「どうするの?止める?」

「続ける。見られてもいいように」

「じゃあ少し緩めるわ」

 後ろからならまだしも、正面からだとバカップルではなく罰ゲームでやっているようにしか見えない。特に二人の顔が鬼気迫るものがあるせいで。子供が見たらまず間違いなく泣く。

「リサ!」

 夜中であることを省みないバカの大声が二人の背後から響いた。

 バカップルの真似をしている二人は当然のように無視して進む。エサを撒いておいてなんだが、関わりたく無いからスルー。

「リサ!僕を無視しないで!」

「デートの邪魔をするなんて最低」

 リサはギロリと一瞥して吐き捨てる。

「夜に騒ぐな。最低限、人としての常識を身に付けろ」

 こちらは振り返りもしない。

「行きましょ」

 ギュッと腕を強く引き付ける。鎧で痛かったが声には出さず、

「ああ」

涙目になりながら去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝

 

「リサを賭けて勝負だ!」

 朝も早うから金髪イケメンストーカーが手袋を叩きつけた。

「手袋?」

 アッシュは意味がわからず呟く。

「手袋を叩きつける、それは決闘のサインだ!」

 彼が産まれた地域ではそうなのだろう。一方のアッシュの知識の範囲にそんな風習はない。

 まあそれはそれとして、この際一気にけりをつける機会だとアッシュは思った。

「とはいうものの、料理人と冒険者は技能が違い過ぎるからなぁ。将軍と大臣、どっちが有能か決めるのくらい馬鹿馬鹿しいぞ」

 なお、部下を適切に運用することが求められるため、どちらかで優秀な人物はもう片方も優秀である事が多い。

「という理由で戦闘は却下だ。此方が不利過ぎる」

 一部の彼の戦闘能力を知るものなら、そうでも無いんじゃないかなぁと思うのだろうが、生憎とこの場にそのような人物はいなかった。

「だからといって料理勝負だと此方が有利過ぎる」

 これは万人が頷くであろう。

「両方が納得できる案でもあるのか?」

「無い!」

 即答。

「じゃあ此方の提案で良いか?」

 計画通り。アッシュが提案する段階で公平なはずがない。

「それが公平ならな」

 ストーカーにとって公平に見えるかそれより有利、実際にはアッシュが勝てる勝負を提案する。

「俺は護身を兼ねてとあるアイテムを作ってね」

 必要ない必要ない、護身アイテム必要ない。実力を知ってれば直ぐ様突っ込んだだろう。

「その一撃に耐えられたららお前の勝ち、耐えられなかったら俺の勝ち。どうだ?」

 一見公平、むしろ耐久力に自信のあるストーカーにとったは有利に思える。冒険者として物理的魔法的ダメージは慣れている。アイテムとはいえ専門家以外が作るアイテムなら耐えれるだろう。

「良いだろう」

 ストーカー男は知らない。常連さんや店長も知らない。

 超絶技巧のこの戦闘巧者な料理人がその技術の粋を尽くしてわざわざ創ったアイテムが何れだけ理不尽か。

「それじゃあ……」

 アイテムのレシピを考えながら決戦の日取りと場所を決めていった。リサの知らないところで。

 

 

 

 

 ところで、そのリサはというと

「先輩!アッシュさんと付き合ってるんですか⁉」

 ギルドでミーヤ(恋する乙女)に問い詰められていた。

 訳を説明し何故かペコペコしながら丁寧に説明していく。青春やなーっとギルドマスターは被害を食らわない様にと、こっそり逃げ出した。




クロウ・マッケンジー。本名玄馬(くろうま) 賢児(けんじ)、日本出身。転生か転移かはどうでもいいが(作者的には決めていても使う機会がなさげ)
 なので、手袋叩きつけ決闘だーというのは彼(プラスリサ)だけの常識です。




 なお、人間はアッシュにとって食材にはならないので戦った場合能力低下が起こります。(というよりは能力が上昇しない)思ったほど強くないよ、対人戦闘。

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