ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪ 作:有限世界
「アッシュ隊長、どうして我々はこんな森に来てるでアリマスか?」
変なテンションのリサが訊ねた。
「今日は晴れる屋の定休日だ」
微妙に答えになっていないが、アッシュが店にいない理由にはなる。相変わらず低いテンションでエプロンをかけていてほとんど普段と変わらないが、背中に大きな篭をしょっているだけが何時もと違って違和感があるのも気にしたら敗けだ。
「なので食材採取をしようと思う。虹竜石を使った料理に普通の食材を組み合わせるのは勿体無い」
それが今回の主旨である。
「それって、アッシュさんやリサさんが来なくても、わたしの様な下っぱを使えばいいのではないですか?」
ミーヤはそう言うものの、アッシュの指示通りに採取するのは絶対に無理だとリサは感じた。
「呼んでいないのにここいるところ悪いが、特殊な採取方法の食材があるのでな。魔法に長けたのが必要だった」
うんうんとリサは頷いた。ミーヤの方は『?』を浮かべているが。なお、彼女もやはり青いレザーアーマを着た戦闘スタイルである。
「というわけで、早速ここの樹を風の魔法で折れないように傷つけて」
トントンと樹を叩きながら指示を出す。
「あたしがやります!」
「どうぞ」
無理だと思うがとは口にせず、アッシュは許可した。
ミーヤはそこそこ強い魔力を風に変換し、幹にかするよう放った。
カキーン!
何故か弾かれた。
ピクピクするミーヤを他所に、淡々とアッシュは理由を述べる。
「威力が弱いな」
「もう一度!」
持てる限り全ての力を持って同じ様に魔法を放つ。
カッッキーーン!!
「ど、どうして!?」
結果は同じ。アッシュは理由を延べる。
「魔法に対する抵抗力が強くて、金属と重ねて防具に使われたりもする。物理的な耐性は弱いからナイフでも簡単に傷が入るが、魔法で傷つけないと樹液が出ない」
料理人ですよね?冒険者でもなかなか知らないような料理とは一見関係ない知識にミーヤは頬をひきつらせながら聞いていた。
「リサ、頼む。威力はさっきの3倍くらい」
「任せなさい」
此方は余裕を持って一発で成功した。これが今季のルーキーナンバーワンと世界的エースの実力差である。
「この段階で下っぱには任せられないことがわかるだろ?」
樹液を少しだけ瓶に詰め、そのまま森の奥に入っていく。
リサは指で樹液をすくい、舐めようとしたが、
「不味いぞ」
言われて止めた。
「こっちを見てなかったはずなのだけど」
「昔から背中に目がありましたよ」
「例えよね?」
「例えです」
先行するアッシュを他所に雑談に花を咲かせる二人。通常の護衛なら依頼人を先行させないのだが、アッシュなら1人でも余裕だというミーヤの判断である。加えて
「魔力を感知したら食べれなくなる食材だからここで待機」
「音に弱いから静かに。足音も駄目だからここで待機」
「お見せできない採り方だからここで待機」
等々、二人が邪魔な場面も散見される。今回は魔法を使う雑用がリサの役割であるので、後ろの方が都合が良いのも確かである。
「熊がいるな。いらないから回避するぞ」
1人黙々と野草を採りながら進んでたアッシュが急に喋った。
「倒した方が早くないかしら?」
「無益な殺生は気に食わない。あと生態系のために殺すとまずい。この山には草食系が多いみたいだから、草食獣なら考えるが」
程度にもよるが依頼者の意向が優先される。襲われれば闘う他ないだろうが、危険でなければリサやミーヤも特には気にしない。
そんなこんなで一向は進んで行く。
そしてついにその時はきた。
「ふむ。昼飯の準備をするか」
「「待ってました!」」
大喜びの二人だ。しかし甘い。
「簡単に食べられるそこそこの食材と、苦労するけど美味しい食材、どっちがいい?」
答えに迷う二人。今までの軌跡を振り返ると、苦労の質がとんでもないことになりそうである。
「因みにメニューは?」
「この先にいる雷角猪を使う」
ビシっと指さすが、何にも見えない。
「わかります?」
「今アクティブの魔法でサーチしてるわ。あ、本当ね」
リサが魔法を使ってようやくわかった。はっきり言って見えないほど遠くだ。
「なんでアッシュさんにはわかるんですかね?」
「食材の声が聞こえるって言ってたから、多分それね」
彼にかかれば熊も魔獣も等しく食材である。
「需要はマジックアイテムとしての方が大きいんですけどねぇ」
「ちなみにどう調理するのかしら?」
「奴の美味しい食べ方は、魔力を空にするまで暴れさせてから仕留める事だ。強引に吸収したりしても駄目で、きちんと暴れさせること」
調理方法が地味にきつい。二人にとって難易度はそこまで高くないものの、時間がかかる面倒なものである。因みにマジックアイテムとして狩る場合は、魔法を使われる前に倒して奪った角が用いられる。
「だいたい一時間くらいかな?」
三人で割っても単純に一人20分、二人には未知の領域でおそらく集中力が持たない。
「私はパスするわ」
「わたしもちょっと無理です」
「ち。一人5分のローテーションの予定が、まさかの耐久コースか」
まさか一人でするつもりか?貴方料理人ですよね?戦闘職の私達でも無理なのですが。二人は心の中で呟いた。
「分けてやらないからな」
本当に一人で耐久レースをする気である。そうして一人でトコトコ歩いていく。その背中が哀愁を誘う。
「銅貨がひのふのみの・・・」
何故か財布の中を数えながら。その姿に財布がピンチのお父さんを連想したリサだった。
そしてドンパチが始まる。
地面と水平に飛んでくる雷撃に銅貨をぶつけ、地面にエネルギーを落とすという雷撃魔法の物理的な防ぎ方を実演するだけならまだしも、包丁で雷撃を切るという絶技に対してはどうコメントをすれば良いかわからない二人であった。とりあえず総合的に考えて、
「料理人って凄いんですね」
「叩きのめす事を料理するって言うくらいには凄いわよね」
一時間の戦闘中、二人はずっと現実逃避していた。
本日の彼女らの昼食
肉の入ってない猪と山菜の鍋。ただし旨味が汁に含まれているのでそこそこ美味しい。
なお余った肉はベーコンにすると処理をして背中の篭に入っている。その他にもコカトリス等の凶悪な魔獣を生きたまま一瞬で裁く(暫く頭と骨だけで動き回っていた)という冗談みたいな技量を見せた。
本人曰く、生きた古竜くらいなら1人で捌けるそうな。リサ1人でも古竜退治は厳しいものがあるし、ミーヤには不可能である。本当に何故料理人なのか激しく問い詰めたかった。
「そして出来上がったのが」
カレーうどん。
営業後の晴れる屋で通称カレーさんがぼやく呟いた。アッシュが解説する。
「使い道は麺類かころもぐらいだしな。挽き肉とかに練り込むと肉の旨味を殺すし」
なら何故カレーを乗っけたの?カレーさんだから?リサは喉まででかかった疑問を無理やり飲み込む。
「では実食」
さっぱりしたルーの浸った麺を箸で摘まみ、チュルリと啜る。
瞬間クワっと目を見開き立ち上がると、熱風と共に筋肉が膨張してビリビリと上衣を破って背中に生やした虹色の竜翼で天井を壊して大空へと舞い上がった。
リサとミーヤは思わず目を疑って、目を擦る。
天井は壊れてないし、通称カレーさんも翼を生やすどころか服さえ破れてない。目を見開き立っているのはいいとして、何故か上半身裸になっているが。
「な、何があったんですか?」
「私に聞かれても」
いきなりの幻覚に戸惑う2人に理由を説明したのは店長だった。
「それは味のイメージね」
「どういう意味かしら」
「美味し過ぎる料理は食べた人だけでなく、周囲の人まで幻覚を見せるのよ。さっきのはカレーさんが料理を食べた時のイメージね」
「んなアホな」
冗談みたいな現象にミーヤの口から思わず零れ落ちた。
「ト○コでなくてソ○マだったのね」
やはりよくわからないセリフを漏らすリサだった。
その後調理代として現物で分けてもらった料理を店員やリサ達に振る舞った。
完璧な余談だが、その時間帯付近を歩いていた住人から『翼を生やした人達が晴れる屋の天井を突き破って空を舞う幻覚を見た』という人が大勢現れて警察が確認にやってきた。お勤めお疲れ様です。
個人的にはソ○マでなく味○様なのだが。あれも大概リアクションがおかしかった。大仏が暴れたり。まあ何もなかった事になるので幻覚かと。
なお、幻覚でなく実際に変身してしまう料理漫画もある模様。