ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪   作:有限世界

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誰か感想をクレメンス


狩りに行こうぜー
冒険者ってよく食べるよね


「日替わり8人前お願いします!」

 開店早々女の子2人組が大衆食堂晴れる屋にやって来て大量の注文をした。ミーヤ・ピナカという昨日やって来たばかりの小柄なのと、リサ・ノースランドという常連さで女性としては少し高めのとで、共に群青の風という名のギルドに入っている。

「日替わりは昼間のみだ」

 顔さえ上げずに厨房で淡々と食材を仕込んでいるのはアッシュ・ダインスレイ。灰色の髪にどぶ底の様な目をした大衆食堂晴れる屋のコックである。

「朝はモーニングにしなさいって言ったでしょう」

「モーニング8人前でお願いします!」

 リサの指導でメニューが変更された。

「念のため聞くが、2人で8人前か?」

 この身体で6人前も入る事が今一信じられないアッシュであったが、

「何を言ってるんですか。そんなのわたし1人で食べるに決まってるじゃないですか」

 特等席のカウンターに座りながら当たり前のように宣った。

「と、言っておりますよ。少食のリサさん」

「一人前で満足できるアッシュ君程ではないわ」

 信じられない量に思わず逃避をする2人だった。

「合わせて十人前だな。暫く待ってろ」

 とはいうもののアッシュの逃避は一瞬で、恐ろしい速さで調理に移った。具体的には、リサやミーヤの目にはキャベツを千切りにしている包丁が見えないくらいだ。1玉1秒かかっていない。

「わたし、動体視力には自信があったんですけど」

「大丈夫よ。私も見えないから」

 この半分程度の速さで包丁の長さの2倍の剣を振られたら、自分でさえ防ぎ切れないだろうなと改めてリサは思った。なのでアッシュが剣を棄てなかったとしたら、ミーヤより強くてもおかしくはない。

 そんなつまらない事を考えている間にフライパンの上で割られた卵がフライパンに接触するまでにかき混ぜられ、調味料等を加えられる。

「これ、見せるだけでお金を取れません?」

 想像以上の腕前にミーヤは何処か場違いなコメントを述べた。その返答も何処か惚けた内容である。

「くれるのか?」

 なお、カウンター席に追加料金を払うという店長の計画があったらしい。

 そんな事とは露知らず、アッシュは焼きベーコン、サラダ、そして形を整えたばかりのオムレツにした卵を皿に乗せ、スープとパンを差し出す。

「とりあえず2人前な」

「ベーコン、何時焼いてました?」

 当選の疑問を口にしたミーヤだが、

「キャベツを切っている時ね。卵とは違うフライパンで焼いてたわよ」

「動体視力の自信を無くしました」

「大丈夫よ。私も最初は見えなかったもの」

 リサは頂きますと手を合わせてから食べ始める。

「それ、何かの儀式ですか?」

 がっつきながらミーヤは質問した。

「生まれた地方の風習ね。命の恵みと生産加工に携わった全ての人に感謝を込めてするのよ」

 ふーんと言いながら皿が空っぽになった。

「2皿目。目玉焼きにしてみた」

 ほぼ同時に次の皿が出された。減り具合をみて調理していたようだ。

「卵料理の種類はある程度なら作ってくれるわよ」

 モーニングに含まれるシステムの1つである。

「じゃあ3皿目はスクランブルでお願いします。4皿目はゆで卵で」

「はいよ。つってもゆで卵ができるより食べる方が早そうだけどな」

 皿を下げつつ厨房に戻り、ゆで卵の準備をする。

「流石の貴方もゆで卵を高速では作れないのね」

「魔力を使えればできるがね。俺の場合は確実に魔力欠乏症になるからやらないが」

 この返しは二人も想定外だった。

「でかいレストランとか弁当屋なんかだと、魔力で大量のゆで卵を手早く作るからな。釜茹での方が実は面倒なんだよ」

「それの何処がゆで卵なのよ?」

 当然の疑問だが

「鰻の蒲焼きだって蒸してるだろうが」

「そうなの?」

「スクランブルエッグお待ち」

 この程度なら雑談に花を咲かせながらでも問題なくできる。

「厳密には蒸し焼きにした後に焼いてるな。ゆで卵も水につけてから魔力で内部から一気に加熱するが、最終的には魔力の余波で水も湯だってる。ゆで卵でよくないか?」

 それらを踏まえてできる結論、

「わたし達にもゆで卵ができるんですか?」

「普通に茹でるなら誰にもできるだろうが」

「今度やってみます!」

「ゆで卵は料理じゃないからな」

 こんな会話を聞きながら、ミーヤの料理の腕に戦慄を覚えるリサだった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで2人は食事を終え、しかしまだ駄弁っている。

「そういえばオリジナルなメニューは無いの?」

 唐突にリサが切り出した。

「メニューに載せる予定はないな」

 身も蓋もない。

「2番テーブルでクラーケン揚げ定食とコーヒー入りました」

 男のバイトが大声で注文を伝える。

「了解。1番テーブルの焼きマンドラゴラ定食上がり」

「はい!」

 近くにいた女性のバイトが仮面を被った謎の男の元へ定食を運ぶ。

「何ですかあの人?」

「恥ずかしがり屋な常連さん」

 あんな格好の方が恥ずかしくないですか?

「冷静に考えたら奇妙な食材を使っますよね」

「市販されていない食材は扱わないんじゃなかった?」

「他の国では珍しいが、この国ではクラーケンは普通に売ってるぞ。干しクラーケンは噛めば噛むほど味の出るから土産に喜ばれるし、出汁にも使っている」

 ならいいやとリサは納得した。

「それでもマンドラゴラはないと思うんですけど」

 確かに食品としては市販されてない。

「薬局に行け。普通に売っているから」

 薬剤として普通に市販されているので料理に使っても問題ない。

「確かにマンドラゴラなら世界各国何処でも売られてるものね」

 ミーヤの疑問は即座に否定された。

「薬用の物を料理に使うのもどうかと思いませんか?」

「ハーブなんかは薬局の方が品揃えがいいわよ。今度買いに行かない?」

 何故かアッシュではなくリサが話相手になっている。

「席が混んできたからボチボチ帰れ」

 言い方は酷いが言ってる事はまともである。

「じゃあお昼に来るわ」

 そう言って会計を済ませて2人は店を後にした。

「次は何処に行きましょうか?」

「薬局にでも行く?マンドラゴラを売ってるし」

 地域探索を兼ねて仲良く買い物をする二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして昼まで時間は流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日替わり10人前ください!」

「念のため聞くが、1人で食べるのか?」

「当然!」

 お昼時にやって来た大量注文にドン引きしながらアッシュは訊ねた。ちなみにこの店、バイトはそれなりにいるが厨房はアッシュ1人で賄われている。技量差がありすぎて味が変わりすぎるだめである。

「私はランチ二人前で」

 こちらは何時も通りの少食である。それでも二人前だが。

「はいよ」

 なおこの二人、だいぶ長い時間を待ってカウンター席に陣取っている。アッシュの凄さを目の前で見える特等席なので、この店のカウンター席の人気は高い。それこそ、追加料金を取っても良いくらいに。

「肥らんのか?日替わりの友は」

 隣でボソッと呟いたのはカレーを食べているみすぼらしい翁である。

「動いてるから大丈夫みたいよ、カレーさん」

 日替わりと呼ばれて素直に返答するリサ。

「な、なんなんですかこの会話は?」

 慣れていないので何が起こっているのかミーヤにはわからない。

「ここの常連は偏食でな。何故かよく食べるメニューがあだ名になるんだよ」

「偏食って体に悪いと思います」

 アッシュの説明に至極真っ当な事を言うミーヤ。

「だから日替わりなのよ」

「1日1食だけじゃわい」

 それぞれの言い分で反論する。

「健康については大喰らいのお前さんにだけは言われたくないだろ」

 アッシュにかかれば不健康であることでは同類だった。

「そこの新入りも適当に頼んでみて気に入ったのを偏食するといいぞ」

「なんで体に悪いことを進めているんですか?」

「日替わりとカレーは被ってるわよ。他にもマンドラゴラ定食やマカロニグラタンとかもいるからおすすめはしないわ。だから何にするのかしら?」

「だから偏食を勧めるなよ」

 こんな雑談に混じりながらアッシュの手は目に見えない速さで料理を作っていく。

「ミートスパ、チーズグラタン上がり。焼き魚定食は後1分」

「今行きます」

「どっちか皿洗い頼む」

「あたしが行きます!」

「三番テーブル客さん待ってるよ」

「これを持って行ったら注文取ります!」

「個人的には色んなメニューを味わって食べて欲しいんだけどね。焼き魚上がったぞ」

 さっきまで指示を飛ばしまくってましたよね?会話の急な落差にミーヤはついていけなかった。

「ところで今回じいさんがその席を指定したのはなんでだ?」

「そういえば何時もテーブルにいるわね」

 もっと早く気づけよ常連。アッシュがそんな目で軽く睨んだのをミーヤは見た。

「うむ。ちと面白い物を見つけてのぅ」

 カレーの爺が懐から取り出したのは虹色をした石だった。

「うわー綺麗ですね」

「本当ね」

「知らないって素敵だな」

「「?」」

 アッシュの奇妙な返しにハテナを浮かべる冒険者二人組。

「けどなんでアッシュ君に見せるの?」

 これを誰かに届けろとか、加工してくれとかいった冒険者向けの依頼なら彼に見せる必要はない。もっともな質問に思えるが、

「出汁やつなぎになるんだよ」

 アッシュが理由を答えた。

「えっ!?これって食材だったんですか!?」

「飾っておきたいぐらい綺麗な宝石にしか見えないのに」

「やはり知らないのが素敵っちゅうぐらいには知っとったか。虹竜石っちゅう超高級品じゃわい」

「「コウリュウセキ?」」

 二人は復唱した。

「とある竜が作る物で、砕くと粘り気のある汁が出る。麺の繋ぎなんかに使われるな。炒飯セット持っていけ」

 説明のしながらさらりと店員に指示を出す。

「了解!」

「つまりこれで何か一品作れと」

 カレー翁はニッコリ笑って肯定した。

 アッシュはここで初めて目を閉じ手を止め、少し考える。時間にして数秒。

 その後何事もなかったかのように死んだ魚のような目を開き、料理を再開する。

「1週間くらいかかっていいか?」

「構わんよ」

「ひょっとしてメニューを考えてたんですか?」

「そうだよ」

 アッシュはミーヤの仮定を肯定した。

「わたしもお相伴に与っていいですか?」

「1食金貨百」

 剰りもの金額にミーヤは思わず吹き出した。

「因みに虹竜石一つが金貨10万じゃのう」

 更に飛び抜けた桁に顎が外れた。

「日替わりは驚かんのか?」

「驚いてるわよ。ブスズ鰻で少しだけ免疫はついてるからで」

「ほう?アッシュ殿は捌けたのか?」

 カレー翁もブスズ鰻がどれ程面倒な食材か知っているようだ。

「なんなんですかその鰻?」

 おそらくミーヤのこれが普通の反応なのだろう。

「フグみたいに猛毒だけど、持ってくれば金貨十枚で捌いてくれるわよ」

「妥当じゃのぅ」

「世界が違いすぎてついていけません」

 実はこの時アッシュだけが呆れてたのだが、この服装でその高級品はおかしいだろうが、突っ込めよと。実は爺さんが凄い金持ちだけど隠しているため、アッシュは口には出さなかった。




ホームレスっぽい見た目の男がでっかい宝石を持っていた。しかも会話から偽物ではない事がわかった。
 なんでミーヤはスルーしてんの?というか隠す気あるの?
 リサさんも疑問に思わない。麻痺していたから。ただしカレーさんの本業を知っているからあえてスルーしているとアッシュは思っていたが。


それとは別件で『異世界食堂』のネタ、一部常連さんが同じものばかり注文するあたりが。まああっちは週一だから、偏食を問題になする必要はないけど。

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