ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪ 作:有限世界
「それでは新入りの活躍と群青の風の更なる発展を祝して!」
「「「乾杯!」」」
団長の音頭から宴会が始まった。美味い美味いとガツガツ食べていく総勢15人の団員達を見ながら、店長は受注や配膳に大忙しだった。
「ここの料理、美味しいですね」
金髪ショートカットで小柄な少女が蒼いキラキラした目で店長に言った。
「ハハハっ、ありがとう。コックに伝えとくね」
新人さんの言葉にニコニコと店長が応じる。ミーヤ・ピナカという名の彼女は冒険者学校に入学する前の経歴が凄まじかった。
十歳を過ぎたばかりの少女が色んな国の武術大会に参加して優勝をかっさらっていたのだ。なので群青の風以外にも幾つものギルドや国等の組織からオファーが来ていた。
そんな彼女だが店長の自分より高い女の子の様な声の高さには頬をひきつらせて笑いを耐える程に驚いている。
「食材を採ってきた私も誉めなさい」
「アッシュに怒られてたけどな」
その場を見ていたギルド員の一人がリサを見ながらボソッと呟いた。
「アッシュ?」
「ここのコックよ。凄い腕がいいの。性格は捻くれているけど」
何かに疑問を感じたのか、ミーヤが名前を反芻した。それに対してリサは簡潔で酷い説明でアッシュを表現した。間違いではないが。
「ところで、どうしてここのギルドを選んだのかな?」
店長は興味本意で聞いてみた。他のギルドからもオファーは来てたらしい。ミーヤはギュっと拳を握りしめて答える。
「占いの結果です」
「「「はぁ?」」」
全員の口がポカーンと空いた。どうやらギルドマスターの翁もそこまでは知らなかったようだ。
「知り合いの占い師が出した項目に一番一致したのがここでした」
いいのか?そんな決め方で自分の未来を決めても。
「いったい何を占って貰ったの?」
頬をピクピクひきつらせながら店長が深くつっこんでいく。
「尋ね人に会える可能性が高いそうです」
「乙女か!?」
思わずリサがつっこんだ。対して店長はフォローする。
「いや、家族とかだったらそうでもない気がするけどね」
実際はどうなのかと彼女へ注目が集まる。
「家族ではないですね。恩人で男の人です」
「「「乙女だ!」」」
一同一斉に叫んだ。
「ちなみに何方で?」
一同を代表して乙女(?)のリサが聞いてみた。
「アッシュ・ダインスレイっていう人なんですが...」
「「「飯なのか!?」」」
ギルド一斉総つっこみ。アッシュの人助けイメージがそれでいいのかと店長は汗を流しながら見ていた。
「イメージがだいぶ違いますけど、やっぱり同じ人なんですかね?」
「同性同名の別人じゃないの?」
「外見的特徴も聞いてみるか」
リサとギルド員達がヒソヒソと話し合いをした。そしてリサが代表して聞いてみる。
「どんな外見なの?」
「澄んだ空色の髪の毛で、太陽の様なキラキラした目をしてるんです。はにかんだ笑顔が素敵なんですよ」
「「「別人だ!」」」
灰色の髪と死んだ魚の様な目を思い浮かべた一同は全力で否定した。
「乙女よねー」
店長だけがずれた感想を出した。
「ここのアッシュ君は灰色の髪にどぶ底の様な濁った目をしてるからな」
「笑顔?なにそれ?美味しいの?っていう仏頂面だし」
一同が持つアッシュの外見に対する評価である。そして出た結論は、
「「「別人だな」」」
「そこまで言われる人だと、見てみたいんですが」
好奇心を刺激されたのか、ミーヤは提案してみた。
「うーん。別にいいよ。ちょっとまっててね」
少しだけ考えた後、店長が呼びに行った。
「ところで、そのアッシュさんとやらと、どの様に出逢ったの?」
興味本意でリサは聞いた。他のギルド員も恋話に興味津々である。
「最初の大会での決勝の相手です。今まで天才天才と周囲に持て囃されていたのに、鼻を折られましたよ」
「ミーヤに勝てるような相手なら大人かしらね。なら鼻を折られるという表現はおかしくないかしら?」
リサの疑問ももっともだが、
「いいえ、同年代です。加えて魔法の才能に恵まれない雑魚だと思ってました」
同年代で魔法の才能に恵まれない。そこだけはコックのアッシュと全く同じ特徴だとリサは思った。
「ちょっと待て。どうして負けたんだ?」
ギルドマスターが当然の疑問を挟んだ。
「一言で言えば、技が凄すぎたからです。何をやってもいなされて、まるで底無しの闇を相手にしている感じでした。才能なんか鍛練で幾らでもひっくり返せるんだとその時知りました。今の自分でも当時の彼に勝てるとは思えません」
ある程度美化は入っているだろうが、そんなに強い人間で名前が知られていないのは不自然である。
「少なくとも、ここ数年の冒険者学校在校生にそんな人間はいないな」
冒険者学校にスカウトへ行くギルドマスターが知らない。だとすると冒険者学校に入学していない可能性の方が高い。
それでもそんなに特徴的なら冒険者達の話題にはなるだろうが、全く上がらない。
「何か呼んだか?」
話題の男、アッシュ・ダインスレイ登場。相変わらず目が死んでいる。
「あ、アッシュさん、むむ昔ははあ青いか髪ででしたよね?」
ミーヤが信じられないものを見たようにガタガタ震えながら質問した。
「何で知ってんの?」
アッシュの機嫌が急激に悪くなった。それだけの、ミーヤにだけ向いているはずの威圧だが、ギルドのメンバーは危機感を持って思わず戦闘態勢をとった。
今までに闘ってきたどんな魔物よりも凶悪な気配。下手な動きをすればその瞬間に自分達は全滅する。
彼の顔も普段の気だるそうでやる気のない顔から殺人鬼のように変わっている。
この顔からはにかんだ笑顔を想像しろと言う方が無茶である。
「ふ、フリーゲンのとと闘技た大会い決勝うでた闘ったかららでです」
「ああ、あの時の」
まさかの同一人物である。占いは大当たり。
もっとも、変わり過ぎてるのにどうしてミーヤにそれがわかったのかといえば、乙女の力が為せる業であろう。
理由を聞いて納得したのか、威圧感は霧散した。霧散したのだが、
「な何でり料うり理人んをしてているんですすか?」
アッシュと再開した高揚か、ミーヤの舌は上手く回っていない。
「剣を捨てたから」
あんな喋り方でよく解るなと半ば感心しつつリサは二人の会話を聞いてた。
「どどううして?」
「覚悟が足りなかったんだろ」
そんな事はないとミーヤは知っている。
かつて相対した身として、彼の動きは気が遠くなるような鍛練の果てに身につけたものだとわかっている。それだけの鍛練ができる者が覚悟が足りないわけがない。が、地雷を踏んだかの様な悪寒を感じて何も言えない。
「質問なんだけど」
ミーヤの代わりにリサが空気を読まない質問をする。
「何でそんなに料理が上手いの?」
アッシュは頭を押さえた。何か地雷を踏んだかと一瞬思ったが、
「訓練メニューの中に料理が入ってた」
「「「はい?」」」
流石に一同耳を疑う。
「剣の修行の項目に料理があるんだよ」
「流石にそこはわかるわよ。問題なのは、何故訓練メニューに料理があるかだわ」
「包丁で切ることにより、物の切れやすい向きをわかるようになるためって言うのが師匠の説明だ」
ああ、成る程とリサは一瞬思いかけたが納得できない事がある。
「煮たり炒めたり調味料を加える理由は?」
「それは自分で考えろと言われたな」
それ、本当は理由がないのと違うかな?皆そんな事を考えたが当のアッシュが否定する。
「煮る炒める揚げるあたりの火力とかならなんとかわかったが、分量とかお菓子作りが未だにわからん。調味料もだ」
ある程度とはいえ、わかる彼も彼で凄いと思った。
「うん?つまり君から料理を習えばもっと強く成れるの?」
リサが思い付きを漏らす。
「料理以外にもワケわからん修行があるから、料理だけやっても意味がないぞ。釣りとか
「団扇の修行って何!?」
「団扇を使って効率よく風を送る訓練だ」
それと剣の修行になんの関連があるのか、彼の師匠に深く問い詰めたい一同だった。
「そんなの全部を習うくらいなら魔法を鍛えて魔法剣にした方が早い、楽、安全だと思うが」
話は終わったとばかりにアッシュは厨房へ戻っていく。
「店長、ひょっとして知ってた?」
ギルドマスターがなんとなく聞いてみた。
「剣を棄てた理由は知ってるから、勧誘はしないであげてね」
流石に地雷へ踏み込ませて巻き添えをくらう度胸は店長にもない。
「理由を聞いてもいいかしら?」
リサが店長に詰め寄るが、
「本人が言うように、覚悟が揺らいだのよ。もう一度覚悟を決めればまた剣を振るえるようになるかもしれないけど、剣を振らない人生の方が彼には似合っていると思う。だから言わない」
いや、あの仏頂面の料理人よか仏頂面の剣士の方が似合ってるだろ。思っても誰も口にしないが。
「空色の髪で笑顔の似合う料理人……悪くないですね」
「でしょ?」
過去を知る二人は納得している。
「剣を棄てた理由を解決しないと笑顔は戻らないと思うのは私だけなのかしら?」
リサの呟きに耳を傾ける者はいなかった。
料理スキルを鍛えた理由は『食材の声を聞く』ためで、『食材の声を聞く』スキルを発展させてとあるスキルを習得するためである。料理人としての実力は食没を習得した程度のコマツあたり(でストップしている)。まあ後天的に食材の声を聞ける程度の実力でもこの世界で5指には入る。
なお釣りは気配探知でまだわかりやすい。団扇は気流探知。他に楽器や声楽、速読等々、首をかしげるもの多数。