ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪   作:有限世界

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 個人的には転生は嫌いです。天魔・宿儺とかは大好きだが。


山菜とか根こそぎやると翌年生えない。

「ド阿呆が!」

 昼食のピークが終わって一息ついたアッシュの怒りがリサに落ちた。

「何か悪い事をしたかしら?」

「有りすぎだ!」

 ドーンと山のように食材を持ってきただけなのに、何故こんなに怒鳴られるのかリサにはわからなかった。

「生態系が狂うだろうが!」

 確かにそれは怒るところだ。第三者がいれば、ずれている事に突っ込むが。

「それにほとんど食材に向いてないものばかりだ!アホか!」

「そうなの?」

「そうなんだよ!」

 怒り収まらず説明が開始される。

「まず分類A、一番許せないものから!」

 リサは毒物でも交ざってたのかと一瞬考えた。

「バトルモアと戦闘して殺した肉が食えると思ってんのか!?」

 超大型の陸を走る肉食の鳥で、その肉は美味であり高値で取引されている。いるのだが、

「え?特殊な狩り方じゃないとダメなの?」

 ダメなのである。

「あの手の激しく動き回る鳥は寝させたりしてストレスを与えない様に絞めないとダメなんだよ!」

「それなんてト○コ・・・」

「○リコ!?なんだそりゃ!?」

「何でもない何でもない!」

 リサは大慌てでなかった事にした。

「あと盲然薯を魔法を使って掘り出すな!」

 これまた特殊な食材である。

「何か問題が?」

「魔力に触れたら一気に劣化するからそれなりの道具で掘らないとダメなんだよ!しかも魔法空間で保存してもその瞬間にダメになる!」

「やっぱりト○コなんだ」

「だからトリ○ってなんだ!?」

「本筋と関係ないので黙秘権を行使します」

 その後も幾つか拒否された。山のように大きかった食材の山が二階建ての家くらいの大きさまで減った。いったい何れだけの食料を無駄にしたのか?

「続いて分類B、直ぐにこちらで処分するやつ。毒物だな」

 今回は怒ってない。アッシュにとっては毒物を持ってこられるより、食材を無駄にする方が許せないようだ。

 ここで幾つかのキノコと果実が取り除かれた。残りの食材は平屋くらい。

「で分類C、人によっては高確率で受け取り拒否をされるやつ」

「どういう意味?」

 首をかしげるアリサにアッシュは丁寧に説明する。

「二種類あって、1つはフグのようなやつだな。きちんとした腕があれば食べられるが下手すると死ぬとか、そういうやつ」

「免許とかが必要なの?」

「国によってはあるらしいが、この国ではない。ただし食中毒なんかを起こしたら通常以上に罰せられるが。今回はフグなんかより難易度が高いブスズ鰻なんかが該当する。まあこいつも捕まえかたを誤るとA行きだったが」

 黄色と黒の色をした見るからに危険な鰻だ。しかしそれを持ってきた彼女は何を考えているのか?

「でこっちのドクモドキノコがもう1つのパターンの代表だ」

 黄色と緑でビクンビクン震えているキノコである。知らない人間ならこれを食べたいとは思わない。だから何故彼女はこれを持ってきたのか?

「これが分類Bに交ざってたドクナドキノコ」

 黄色と緑でビクンビクン震えているキノコである。これは食べられない。

「何が違うの?」

「見た目や匂いは全く同じだ。ただビクンビクンの蠢き方が微妙に違うからそこで判断する」

 ビクンビクンとキノコが同時に震えて胞子を飛ばす。

「ごめんなさい、やっぱりわからないわ」

「だから見分けがつかなくて受け取り拒否されるんだよ」

 むしろ見分けがつくアッシュを誉めるレベルである。

「分類D、期間次第では受け取り拒否される事があるやつ」

「これはこれで意味がわからないわ」

「この神野つくしのように調理に時間がかかるやつ。一般的な調理法だと灰汁抜きだけで3日かかる。あとAにならなかった奴も料理人の技量次第では劣化するから拒否される事がある」

 リサは何か口のなかでいいかけたがアッシュの耳には入らなかったようだ。

「あとは問題なし。逆になんで採れたのかわからんやつも入っているがな」

「どういうこと?」

「先ず分類Aにならずにすんだやつ。このマイタリンゴ」

 青いリンゴであって、決して青リンゴではない。

「あ、そのリンゴも特殊な方法が必要なんだ。いつも平気で食べてたけど、知らなかった」

 普段から知らずにとれたようである。

「盲然薯と同様に大方面倒くさがって枝を魔法で切り落としたんだろ。それが偶然正しい収穫の仕方だったと。魔力に触れながらじゃないと切断面から一気に腐っていくからな」

 大雑把な性格が幸いしたらしい。

「それよかよくアーマードラゴンを狩れたな。個人で狩るようなモンスターじゃないぞ」

 一流のギルドが総出で狩るような魔物である。単騎撃破はそれだけで彼女の実力を示している。なお、アーマー・ドラゴンでなく、アーマード・ラゴンである。海に棲む鎧を纏った巨大な人形の魔獣で余程空腹でも食べようとは思わない。アッシュなら迷わず飢え死にを選ぶ。

「これが群青の風のスーパーエース、リサ・ノースランドの実力よ。だから干されるなんてあり得ないわ」

 朝のやり取りを気にしてたようだ。

「不味い食材をメインするようなオムツは干される対象だろ?この場では普通に鶏肉を買えるガキの方が役にたつ。まあ元手が只なのはアドバンテージだが、それならもっと狩りやすい奴でいいという落ちになる。猪とか鹿とか。そっちの方が味もいいし」

 グサッとリサの胸に突き刺さった。

「ちなみにアーマードラゴンは分類E、不味すぎて拒否されるパターンだ。分類Eを全部返そうか?」

「ぜひお願いします」

 そして小さな部屋1つ分くらいになった。

「つまりこれがお前の五時間の評価だ。料理人次第ではもっと減るからな」

「ちなみに金貨換算だとどのくらいでしょうか?」

 アッシュは少し考える。

「ざっと見、金貨百(日本円換で千万円)前後」

 アリサはよしとガッツポーズをしたが、

「ちなみに生きたブスズ鰻の相場は一匹あたり銀貨二枚(日本円で二千円相当)だけど、毒を完全に取り除いた奴なら金貨十枚(日本円で百万円相当)近いからな」

 再びリサはピタリと固まる。

「確か15匹いたよな」

 この段階でとってきた食材の値段の材料費より、調理するだけの代金の方が高くなる。まあ世の中そんなものだが、あまりにも差額が大きすぎる。加えて鰻を除いても宴会の場所代食事代諸々を合わせても調理代の方が圧倒的に高くなる。

「な、なんでそんな値段なの?」

 ガクガク震えながら彼女はきく。

「調理できる人間が少なすぎるんだよ。専門店は一つしかないし、そこの平均的なコックでも百匹に99匹は失敗するくらいの難易度だ。そこの値段がワールドスタンダードになっているが、なければもっと値上がりするんじゃないか?」

「それじゃあ、あなたでは調理できないのね」

 金貨十枚の味を食べてみたかったのに、その条件で目の前のコックが捌けるとは思わなかった。

「いや、俺ノーミスで捌けるよ」

「はい?」

「捌けない食材を受けとるはずがない」

 これはリサでなくても驚いて固まるだろう。専門家の成功率が1%切るのに、この男は100%いけると言う。

「食の神に特殊な才能を与えられでもしたの?」

「才能はないな。悪魔の遣いのような師匠からの修行で食材の声が聞こえるようになったから神も関係ない」

 そんな説明に何故かリサは食い付きだす。

「コ○ツだ!?ひょっとして食運とかもあるの!?」

「コマ○?ショクウン?なんじゃそりゃ?」

 二人の温度差が激しい。

「ごめんなさい、知らないならいいの」

「?」

「けど食材の声が聞こえるならここに引きこもっていないで私と食材採取に行かない?」

 より美味しいものを食べられるチャンスと提案する。が、

「俺は知り合いが美味しいといって料理を食べてくれるのを見るのが好きだから別にいいや」

 あまり興味がないようだ。

「美味しい食材を採りにおどおどしながらも危険地域をガンガン進むイメージがあったのに」

「いや、どう考えてもないだろ」

 大概の人が持つアッシュへの第一印象はやる気のなさそうな引きこもりでありながら、かなり頑固なコックである。外に出るイメージはない。流石に仕入れや掃除、最低限の人付き合い等はあるが、それだけである。

 趣味を聞かれたら包丁研ぎと答えるくらいインドアで、冒険のイメージはない。もっとも、リサの趣味に剣の手入れがあるので、道具の手入れと引きこもりには関係ないかもしれないが。

「他に話がないなら此方で勝手に作るがいいか?」

「お願・・・いや、どうせならその鰻で一品作ってくれない?」

「まあ初回は只でいいか。次からは金貨十枚貰うからな」

 あんまり持ってこられて専門店に睨まれても困る。安くしたら客は一気に奪う事にもなるし、それは不味いだろうと考えた。全うな商売だから客を奪う事は問題ないが、客が増えすぎて捌けなくなるのも彼にとっては問題だ。

「けちー」

 この少女にはそこまで考えが回らないようだ。

「ケチで結構」

 言いながら厨房に入っていく。

「しかし何を作るのかな?やっぱり定番の蒲焼きかな?」

 期待に胸を膨らませる。

「はいお待ち」

「早!?って蒲焼きじゃないの?」

 アッシュが持ってきたのは鰻の定番である蒲焼きでなく、銀色の身がフワッと広がった素揚であった。

「かなり高位の浄化魔法が使えるならまだしも、毒だけ除くと蒲焼きはむりだな」

「あ、ならやってみよ」

「ああ、やってみろ。ダメな理由がわかるから」

 アッシュの謎の確信が気になるところだ。が、気にしない。鰻を一匹取り出して、

「えい」

 リサの手から優しい光が溢れだす。

 ドカン!

 何故か鰻は爆発した。

「な、なんで?」

 頬をピクピク痙攣させながらリサは訊いた。

「毒の中央部分に圧縮された無毒の部分があって、毒だけ除くとそこが膨張してこうなる」

「じ、じゃあ凍らせてから浄化すれば」

「うん。何事も経験だからやればいい」

 今度は魔法で凍らせた。

「どういう理屈よ?」

 鰻はしおしおのミイラになって氷に閉じ込められていた。

「冷えすぎると体内の水分だけを外に出す性質があるんだよ。水が凍ると温度が上がるから、その影響だろうけどな。で、凍るまで冷やすと鰻の水分が完全に抜けてこうなったとさ。あと、旨味なんかも水に変わってから抜けるから、不味いよ」

「なら一瞬で凍らせば!」

「ものにもよるんだが、細胞が破壊されて不味くなるパターンだな。加えて毒が全身に回る。逆に美味くなる食材もあるからケースバイケースだけど、基本的に凍らさない方がいいぞ」

 古人はよくこんな食材を食べようとしたなと、リサは本気で感心した。

「まあ食材の声が聞こえる人が他にもいるなら広まるか」

 そして奇妙な納得をした。

「ちなみに蒲焼きをしたいなら毒の周辺だけを凍らせて浄化し、その後爆発しないように処理する必要がある」

「食材の声が聞こえるのに出来ないの?」

 ピンポイントで凍らすくらいなら一般市民の魔力でも可能な気がする。しかし、

「俺の魔力は普通の人の1%未満だぞ」

 彼が頑張っても小指の先くらいの氷を作るのが精一杯である。とてもじゃないが、毒なんか凍らせられない。

 それだけ魔法がダメだと全く魔法が使えない魔盲と呼ばれる者達の方がキャラは立っている分マシではなかろうかとリサは本気で思ったが、口にするのは止めておいた。蛇足だか彼の師匠にも似たような事を言われているし、本人も魔盲の方がましと言っている。

「天は人によって二才も三才も与える癖に、無いやつはとことん無いからな」

 目の前の才能に恵まれた人間に皮肉を叩きこむ。もっとも、彼女の打たれ強さだとこの程度なら効きはしないが。というよりは気がついてないが。

「じゃあ、こっちは仕込みに入るから用があったらよんでくれ」

 リサ一人残された。

「しかしこれが金貨十枚の料理か」

 柔らかな身を指で摘まんで口に入れる。

 瞬間、目の前に大自然が広がった。深い森をサラサラ流れる川。澄みきった空気が彼女の体に染み渡る。

(いやいやいやいや)

 彼女はおもいっきり首を振って現実に帰ってきた。

(思わずトリップするって、どんだけ美味しいのよ!?)

 金貨10枚もする大森林の味を噛みしめながら次々と食べていった。

 




リサは転生者か転移者。じゃなければ○リコを知らない。アッシュは遺伝子的にも魂的にも普通の人間です。精神的には人間辞めてます。訓練によって後天的に食材の声が聞こえるようになった、そういった人間は異世界人よりレア。

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