ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪ 作:有限世界
「■■■■■■■■!!!」
声にならない叫びをそいつはあげる。そいつはこの世界に生きる全ての敵、修羅道に堕ちた破滅の化身。
迎え撃つのはこの世界の全て。
帝国も王国も関係ない。天使も悪魔も竜もリビングデッドも、文字通りこの世界全ての力を集めて迎え撃つ。
「■■■■■■■!!!」
それでも簡潔ない。破滅の化身は2本の剣を持って斬り込み、薙ぎ払い、そして吹き飛ばす。
1振りで天使悪魔英雄3っつの首を同時に斬り飛ばし、跳ねた頭で更に竜鳥人妖怪3つの頭を割る。相手を蹴り飛ばして方向変換、蹴り飛ばされた者は心臓を壊されて死ぬ。全ての行動に複数の殺戮の意味が込められている。
「■■■!!!」
その咆哮でさえ魂を破壊するような叫びだ。耳元に叩き込まれたら生きてはいられない。生きた屍さえその魂を破壊されては生き続けてはいられない。
間違っても彼等が弱い訳ではない。そもそも弱ければここにはこれない。それは戦いのメンバーに入れないという意味ではない。
修羅道に堕ちた奴の側にはそもそも近寄れない。その殺気は抵抗力が無い者を問答無用で殺し尽くす。
故に嬉しくもない評価だが、彼に直接殺されるのは強者の証明に他ならない。
「アッシュ・ダインスレイ‼」
叫びながら【真理を超えし者】リサ・ノースランドが魔法を使う。複数の魔法の玉が敵の周囲を囲い、一斉に弾ける。魔法の玉に込められた指向性の衝撃波を敵に向けて放つという、魔法を使った非魔法属性の物理攻撃。大勢の犠牲を出した前前回の戦闘で魔法は反射する事がわかった。故に前回利用できた魔法を用いた物理攻撃。
それを敵は切り払い無効化する。一瞬の足止め。他の1流戦士や魔法使い達の命で事前に調査をしようやく掴んだ僅かな勝算。今回は死ぬ事前提の仲間達を盾にして接近し、超1流の至近距離からの攻撃でようやく防御行動をさせた事で見えてきた勝機。
その隙ともいえない微かな猶予にもう1人の英雄は突撃する。【赤の守護剣翼】リューゼル・ハーフウィングだ。
しかしここまでして作った隙を付く神速の突きは逸らされ、それでも頬に傷を付けるという快挙をなす。
敵は強い。強い強い強い、強すぎる。それでも無敵ではない。少しずつでも削っていけば倒せる。
「勝つぞ!」
戦いはまだ終わらない。
「ていう夢を見たの」
「いやいやいやいや、なんでわざわざそんな事を伝えるんですか?」
開店前の晴れる屋でリサとミーヤは駄弁っていた。
「お早うさん。
あれ?未だ開いてないの?」
常連と化したリューゼルがやってきた。3特戦帝国領事館勤務、というか共和国に居残っている。彼に勤まるのかどうかが知人達の最大の懸念である。
「そうなのよ。珍しいわよね。まあまだ開店時間前だから問題はないのだけど」
しかし何時もなら開店時間前に掃除等をして、客がくると渋々前倒ししているのだ。そして暇な3人はというと
「暇だから僕も夢の話をするよ」
そうして駄弁り始めた。なお、リューゼルの夢の内容はリサのそれと全く同じだったりする。
「2人して同じ夢を見るってどういうことですか?」
「「さぁ?」」
意味があるのかもしれないし、無いのかもしれない。誰かが見せたのかもしれないし、本当に偶然なのかもしれない。
ただ、わからない上に今のところ危険性もないので、そんな事もあったなくらいの意味で記憶に蓋をすべき内容だろう。
因みに面白かったのか、2人は夢の細部を話し合い検証していく。
「【真理を超えし者】ってどういう意味なのかな?」
「貴方こそ【赤の守護剣翼】ってなによ?しかもちゃっかり出世してるじゃない」
「2人は夢の話で何をそんなに剥きになっているんですか?」
1人だけ蚊帳の外なのでどうしてもついていけない。
「お早う」
目を深紅に濁らせたアッシュがようやく店から出てきた。
「お早うございます」
先の夢と重なって2人は引き攣ったので夢を見ていないミーヤだけが挨拶を返した。
「ところで、その目はどうしたんですか?おかしい程赤いですよ」
「鏡を見ていないからわからないが、夢見が悪かったのが原因だろう」
そんな理由で瞳は赤くならない。もっとも本人は白目の部分が充血してるのかくらいのニュアンスで返事をしているので、瞳の色が変わっていると知ったなら違った返しをしただろう。
「因みにどんな夢だったんですか?」
「修羅道に堕ちた夢だった」
簡単に解説したものの、それは偶然にもリサとリューゼルが見たそれと同じだった。そしてこの段階で単純に夢と切り捨てる事はできなくなる。予知夢か何らかの前兆か。
「あり得たかも知れない未来の夢だろうな。周りの知り合いが成長してたし、あり得たかもしれない今ではない」
ああなる可能性があったのか。自身の戦闘能力に自信のある2人は顔を痙攣させた。少なくとも今の自分達より上を2人を余裕で捌ける事と、大量殺戮の両方があり得たのかと。
「あり得たって過去形ですか?」
「……怒りに任せて人を殺していたら、歯止めが利かず今頃そうなっただろうな。もうあり得ない話だが」
何事もなく話していた2人にリューゼルが割り込む。
「あり得ないって言い切れるんだ」
「だって料理人だし」
それが理由になるのか?本人にとってはなっているようだが、他の人は解せない顔をせざるを得ない。
「それじゃあ晴れる屋、開店だ」
星のようなキラキラした目でそう宣言する。それをみたいやけど3人は目を擦る。
「どうした?」
何時も通りの溝底のような濁った目で首を傾げるアッシュに気のせいだと思うことで一致した。
実はアッシュのカタログスペックは帝国の赤とかより上。本人に戦闘する意思が皆無なだけで。むしろ帝国の赤は少々のスペック差を気合いで乗り越える連中揃いというチートである。
話をアッシュに戻すと、精神を攻撃する相手には弱い、というか暴走する恐れがある。そういった現象を起こす可能性がある場所だと足を引っ張る、というか夢の中の状態になる可能性は一応残ってたりする。