ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪   作:有限世界

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帝国兵(青)あらわる、こいつらもヤバい

「ヤッホー、アッシュはいるかー?」

 殺神種到来を翌日に控えた夕食刻の晴れる屋に能天気な男の声が響き渡る。常連は声の主の顔を見るが誰も知らない。

 声同様に能天気そうな顔をした男、身長は190半ばと大柄で肩幅を広く腕もゴッツイ。腰に下げた刀と呼ばれる東方の武器に鎧とローブが一体化した青い防具を着ている。胸の部隊章は具足とガントレットだ。

 カウンター席のリサ等それを知っている人は目を擦って見間違えでないか確認し、ほっぺたをつねって夢でないことを確認する。

「いるけどな。なんで儀礼鎧なんだ?」

「これでも仕事の一環を含んでいるからねぇ」

 厨房で頭を押さえながら聞くアッシュに何処かうんざりした顔で男は答える。

「誰ですか?このアホ面」

「アホ面とは酷いなーお嬢さん」

 ヨヨヨと泣き崩れる真似をするアホ面。カウンター席で夕食を食べていたミーヤはひいてはいたが、リサはミーヤからもひいて他人のふりをすることに決めた。

「アホ面ではミーヤも良い勝負だと思うぞ。アホさなら圧勝だが」

 リサにだけ聞こえる様に呟くアッシュだった。

「何か言いました?」

「ミーヤはアホだなーって話していた」

 顔を向けてキラーパスをリサに回す。

「ちょっ⁉私未だ何も言ってないわよ!」

 未だ。つまり思ってはいたようだ。

「因みにアホって言った理由はこのアホ面がダンナルク帝国第4特務戦隊という頭おかしい青の精鋭だからだ。昨日の今日で、なんで調べてないの?」

 アッシュの説明にピシッとミーヤは固まった。他の面々も『頭おかしい青』という表現に『アッシュ何言ってんの⁉』と内心悲鳴をあげている者多数。

「言う程オレはアホ面かな?」

「誰か鏡持ってこい」

 バイトのウェイトレスに手鏡を出させ、アホ面に見せる。

「おお、アホ面だ」

 納得するのかよ⁉皆の心の中でツッコミの合唱が響いた。

「茶番はいいとして、頭おかしい青の精鋭が何の用で店にきたんだ?」

 だから何故頭おかしい青と言うのか。実は帝国で普通に使われている表現なので男は気にしないし、アッシュはそれを知っているからこそ言っている。

「狂理を開祖から習ったアッシュも頭おかしいからね。頭おかしくなる方の可能性もあるんだよ」

「ダイジョウブダイジョウブ、狂理ヤメタカラ頭オカシク無イヨ」

 冷や汗かきながら男にカタコトで反論するアッシュ。

「頭おかしいって、どれだけおかしいんですか?」

 なんとなくミーヤは訊いてみた。普通は地雷に思えるのだが、彼女は気がついていない。

「そうだな。帝国の青は全員魔法を使わず水の上を走れる」

 何を言ってるんだこの人はとミーヤその他多数は思ったが、

「違うよ。青でも魔法の苦手な人しか走れないよ。だって魔法使えるなら魔法で走ればいいもの」

 帝国の青がやんわりアッシュの言葉を否定した。顎が外れた様に驚くミーヤにアッシュは言う。

「な、頭おかしいだろ」

 聞いていた者は頷くしかできなかった。

「あれ?アッシュも頭おかしいのよね」

「それは言うな」

 リサの発言にそう言って顔を背けるアッシュだったが、その行為はある意味肯定しているのと一緒だった。事実はもっと酷いが。

「青でこれだと赤ってどんだけ頭おかしいんですか?」

 恐る恐るミーヤは訊いてみる。

「赤は全員が水の上を走れる。その上で走る意味がない」

 帝国の青の説明に一同首を傾げる。

「足を捻りながら着水して、水切りの要領で跳ねるんだよ。そっちの方が楽で速いから誰も水上を走るなんて無駄な事はしないんだよね。まあ戦闘の時は動きを読まれるから仕方なく水面を足踏みとか走るとかするみたいだけど」

 色々おかしすぎて自分達の頭おかしいのか疑うくらいに頭おかしい。だから頭おかしくなる赤と呼ばれる。

「けどアッシュも水切り走りができるよね。ボクにはできないけど」

「だから言わないでくれ」

 アッシュは頭おかしくするの領域だったようだ。まあ食材の声を聞けるとか料理で幻覚を見せる段階で大概頭おかしかったが。

「仕事の一環というのはこれについてなんだけど」

「前々から思ってたけど、リューゼルは前置きすらなくいきなり話を戻るんだな」

 男が出した巻物を受け取りながらアッシュはぼやく。わざわざこの段階で名前を言うのは帝国の青という頭おかしいとは別の、リューゼル個人がおかしくないかというツッコミなのだが当然彼はスルーする。慣れたものでアッシュも無視して中身を見るが、顔が呆れからしかめ面に変わった。

「何が書いてあったの?」

 リサが質問したのでアッシュは巻物を見せる。

「見てもいいよ。というか、なるべく大勢に見せたいし」

 リサは見ても良いのか視線を男に向けたら、彼は許可を出した。

 リサにとっては縁も所縁(ゆかり)もない人、ミーヤにとってはつい最近会った変人、アッシュにとっては胃薬を買わせた元凶が描かれていた。

「本名出身地年齢全て不明、偽名も沢山あって判明しているのは男であるということのみ」

 アッシュはサラサラと男について説明する。

「因みに俺の師匠で『マスターシショーと呼べ』と言って他人の神経を逆撫でする狂人だ。他に狂理の開祖とか殺神種よりおかしいとか色々言われている」

 師匠に対してその言い方はどうなのかと思う面々だが、

「すまんが3年くらい会ってないぞ」

「ダメ元だから期待はしてなかったけどね」

 そんな男達の会話にミーヤは割り込む。

「けどわたし、最近遇いましたよ」

 この発言にギョっとする2人。

「何処でだ?」

 何故か胃の辺りを押さえながらアッシュは訊ねる。ミーヤはティンダ朗との出逢いから説明する。

「……多分だけどな、根拠は弟子としての経験則しかないのを前提で言うが」

 そんな前置きから脂汗を滝の様に流しつつアッシュは言う。

「星巡りをけしかけたの、多分師匠だ」

 リサとミーヤは目が点になる。

「狂理の開祖だけあるね。頭おかしくなるよ、本当に」

「どうやってとか考えないの?」

 帝国の男のように納得できなリサは質問する。

「だって師匠だし」

 アッシュはそれで納得している。

「彼については常識を考えるだけ無駄」

 帝国としてはそれで納得する。

「ところでなんでアッシュの師匠だって気がつかなかったの?見たことあるんでしょ?」

 さも当然の疑問をリサは上げるも、何故かアッシュが解説する。

「師匠は呪いのようなものと言ってたんだが、人から忘れられ易い。特に顔。

 現に手配書を見るまで顔を忘れてた」

 そんなバカなとリサは思ったが、

「この男の見た目の特徴はどうだった?」

 手配書を見せた後に裏返してアッシュは問いかける。

「そんなの簡……」

 出てこない。顔が全く思い出せない。

「呪いとは違うから、どう頑張っても解けないって言ってたな」

 人から忘れられる呪いは聞いたことがないが、それでもこれが呪いの類いだとリサは判断した。

「それなのに、なんで手配書が作れるの?」

「人によって忘れられ方に差があるらしい。あと付き合いの長さも影響するそうだ。だから不可能ではないんだよな。手配書でさえ覚えられないとは思わなかったが、師匠ならどんな理不尽でもあり得る」

 その納得の仕方はどうなのよと思わなくもないが、関わりの深い弟子が言うならそうなのだろう。

「ところで、帝国は何で師匠を探しているんだ?個人レベルでは災害でも国家レベルでは無害な人、というか有益な人だろ。特に帝国と共和国では」

「あれ?帝国もなの?共和国だけかと思っていたよ」

「帝国も共和国も成り立ちが神権に対抗するために作られた人間の人間による人間の為の国家だからな。方向性の違いはあるが、神様嫌いで人間好きな師匠ならどちらも贔屓にするさ」

 男同士の会話にミーヤは割り込む事を諦めた。

「帝国って、もしかしてその人の知識が欲しいの?」

 今までの会話やミーヤからの情報から組み立ててリサはそう結論付けた。アッシュは成る程と納得し、男もそうだよとうなずいた。

「確かに、危険種や殺神種に関する知識は半端ないからな。(わざ)一つとっても、神を殺すためとか説明してたし」

 この世界最大の宗教では神様が世界の為に魔法を与えたという事になっている。危険種にしろ殺神種にしろ魔法、則ち神の奇跡を殺す存在だ。アッシュの師匠もそちら側の分類で、しかも何で神を否定するものがいるのか知っているように思われる。

 その辺りの事をアッシュもリューゼルも気にしていないが、生まれ的にリサは気にしている。まあ同類は気にしない事が多いのだが。

「師匠を探すなら手配書を持って星巡りの出現に合わせて探した方がいいぞ。多分、見ているはずだ」

 リサはコクリとうなずいた。

「アッシュはいるか?」

 話が終わったタイミングで女性が店に入ってきた。背はアッシュよりもかなり大きい185くらい、がっちりした肩幅でズボンにブーツという動き易い服装。鋭い眼光に左半分が焼け爛れた顔という、武具なしで戦闘者独特の雰囲気をこれでもかというほど醸し出している。

「ココノエさんですか。ということは明日はアホ面と一緒に星巡りの討伐ですか?」

「そうだ」

 アッシュの言葉を肯定する女傑にリューゼルは

「酷いなー」

「戦闘時以外のお前はアホ面だろ」

 文句を言うもアッシ並みの毒で返してくる女傑だった。

「このタイミングでリューゼルさんの知り合いという事はもしかして……」

「そ。頭おかしい青で、アホ面と同じく4特戦。で、アホ面の先輩」

「アホ面アホ面酷いよ」

「なんでそんなことまで知ってるのよ?」

 リサとアッシュの会話に突っ込むリューゼルだが当然の様にスルーされた。

「去年、帝国で星巡りを狩った2人だ」

 リサの顔がひきつった。

「今回も私達2人が担当だ。報酬の一分として星巡りを調理して貰うよう交渉していてな」

「その交渉に何故俺が出てない?」

「金を払えば働くからだろ。通常業務の範囲だと思えば会議に出る必要はない。その上でコネがあって事前調整をもする。何か問題が?」

「無いな」

 アッシュは素直に頷いた。

「星巡りの死骸は全て帝国が貰う。その際白が500名ほど輸送の為にやってくる。彼等に星巡りを使った料理を頼めるか?」

「スペースがないから夜営地で調理する事になりそうだな。定休日に合わせたらなんとかなるか。そのくらいはこっちに合わせろよ」

「承知した」

 こうして次々と話を纏める2人。因みに白とは帝国の兵士で下から2番目の階級である。2人のやり取りを見てリサは呟く。

「私、ココノエさんを戦闘狂か何かかと思ってた」

「合ってるよ。ただ戦闘以外も標準を遥かに越えるレベルで高いだけで。他の青とか赤とか大概そんな傾向だね」

 万能で良妻賢母になり得るのに戦闘狂という一点で婚期を逃している人、というのがリューゼル含む知り合いの評である。面と向かって言ったら殺されるが。

「よし、話は終わりだ。飯にするぞ」

 そしてメニューを見て

「このページ」

 定食が8品程乗っていた。

「次からこう注文します」

 ココノエの注文を見て真似する事を決めたミーヤだった。

「じゃあボクはこのページね」

 オカズ中心のページでそれなりに量はある。

「因みに誰の財布から出るんだ?」

「2人とも共和国政府からだ」

「ラッキー」

 なんとなく訊いてみたアッシュにココノエは答え、それを聞いてリューゼルは喜んだ。

「青ってこんな注文の仕方なの?」

 だとしたらやっぱり頭おかしいとリサは思った。

 

 




 100キロメートルの蛇を500人で運べる兵士も地味に凄い。

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