ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪ 作:有限世界
犬の前に餌を持った男が立つ。男はコトと餌箱を置き、犬は直ぐ様食べようとする。
「待て」
ピタリと止まる。男は犬を見ながら3歩下がり、
「よし」
男の許可に犬は食事をとり始める。
ここは晴れる屋、ペットのティンダ朗を連れた常連のミーヤが朝ごはんを食べる一方で、何故かアッシュが無表情に躾をするというシュールな光景が日常となる。店の中ではミーヤが『やんちゃで躾が上手くいかないんですよ』と言っているが、きっと格下に思われているのだろう。ティンダ朗はアッシュの言うことをよく聞くし。
なお、この餌はアッシュのポケットマネーから出た材料を彼自身が加工している。見た目によらず動物好きであった。
そんなある日、アッシュは空を見上げる。釣られてティンダ朗も見上げるが何も見えないのかク~ンと鳴きながら首を傾げている。
アッシュは落ち着いて
「何かあったの?」
皆が思っている事を代表してリサが訊ねる。
「星巡りがくる」
何処吹く風のアッシュと一瞬凪の様に静まりかえる一同。そして
「「「ええーーー⁉⁉⁉⁉⁉」」」
暴風の如く荒れた。
さて、何故彼等彼女等が慌てているのか。それは星巡りが殺神種と呼ばれる自然災害並みに厄介なナマモノだからである。
リサ曰く、殺神種とは血の1滴に至るまで全身がイマジンブレイカーでできてる癖に、攻城級の魔法をバンバン撃ってくるチート、とのこと。この世界の住人に前半は意味不明だが、これが殺神種の基本的な性質で個体や種族毎に更に特殊な能力を幾つも保有しているとか色々おかしい。そしてこれは異世界人に神が教えた知識なのだが、殺神種と危険種は自然発生したもので神様ノータッチ。
リサは神が言うこと全て正しいとは思っていないが、それでも神の意図から離れた存在だと認識している。その辺りの事をアッシュの師匠と話せたら世界の秘密を教えて貰えた可能性があったのだが、残念ながら縁がなかった。
と、まあそんなに厄介な殺神種だがものによっては危険種を上手く使えば完封できる可能性がある。魔法を封じてサイズ補正や多勢に無勢でボコればいい。逆に殺神種側が巨大過ぎるとか多勢に無勢でこられたらどうしようも無いという。星巡りがこれにあたる。
見た目は巨大な空飛ぶ蛇、ただし三つ目で牙が鋭いという違いはあるが、そのサイズが問題だ。全長約100キロメートル。メートルでも大概おかしいが、センチでなくキロである。そして鱗が零れ落ちるとそこから小さい、といっても10メートル前後の星巡りの子供が生まれる。
危険種で魔法を防いだところでサイズで負け、多勢に無勢で負ける。加えて何処ぞの邪神様よろしく、見ると発狂するため目を瞑って戦わなければならない。まあこれは危険種で防げるが、戦闘に参加する最低限のレベルが非常に高い強敵である。
そしてこれに勝てた帝国はなんなのか?
アッシュから星巡り到来の情報を聞いた大統領は大急ぎで各部署及び高名な冒険者ギルドを呼び、対策に乗り出した。
「何で俺がいるんだ?」
無表情の料理人が首を傾げているが、あんた普通の戦士よりよっぽど凄いでしょとリサとミーヤ他数名は心の中で突っ込んだ。なお、リサは群青の風のエースとして、ミーヤは危険種の飼い主兼冒険者という立ち位置で参加している。
因みに端っこでひっそり参加しているクロウをアッシュは見た。顔を合わせた瞬間に不味さがフラッシュバックして泡を吹いて倒れてたが。彼が起きていればアッシュのゲロ不味料理を星巡りに食わせる案が出たかもしれない。
「因みに美味しい星巡りの仕留め方は?」
「鱗を全部剥がし、鱗が生える30分以内に子供を全部殺す、第3眼を潰す、牙を4本破壊するを満たして魔法ダメージで仕留める。子供は不味くて食えない」
大統領の質問にアッシュはスラスラ答えた。
「殺神種にどうやって魔法ダメージを与えるんだ?弾くだろ」
一同が持った疑問を代表して髭の防衛大臣が質問した。
「弾けない魔法が存在するんだよ。自分が使う魔力は弾かない。だから魔法を使って浮遊とか回復とかができる。なもんで危険種が近いと落ちるし、回復に時間がかかるらしい。見たことはないけどな」
何処でその情報を知ったのか気になるところである。
「とは言え魔法防御が魔法攻撃力とは比較にならない程高いから、普通に反射しても通らないぞ」
すごいな帝国、どうやって美味しく仕留めたんだ?
「俺の師匠なら殺神種の魔法を魔法剣にして切るから可能だな。習得できなかったから此方は無理だが」
相手の魔法が強ければ強いほど攻撃力の上がるカウンター攻撃である。ある意味、魔法使いに対する究極の切り札である。
「そういえばやってましたね。初めて見たとき顎が外れました。何なんですかあれ、複数人の魔法を1つに纏めて威力を跳ね上げて跳ね返すって」
顔は思い出せないもののその技は印象に残ってたのか、ミーヤは冷や汗をかきながら呟いた。
「此方は?」
比較的付き合いの深いリサが疑問に思う。
「魔法殺しのもう1つの切り札があるんだよ。魔法剣より難易度が低いけど、魔法が使える事が前提となる技術が」
「それ、私にも使える?」
「訓練すれば誰でも……じゃないな、師匠は魔法を使えないからこれは使えないし。だから魔盲除くなら誰でもできるはずなんだよ」
そうして説明を聞いてリサは突っ伏す。スウェーデンボリーだと呟いていたが、残念ながら誰も意味がわからなかった。そしてそんなの誰もできねぇと思っていたのだが、
「俺の場合は相手の魔法が弱ければ奪えるぞ。流石に星巡りクラスの魔法は無理だが。あと帝国には星巡りの魔法を奪える使い手が何人もいるらしいし。うち知り合い1人。それにあっちには敵の魔法で魔法剣を使える奴も何人もいるみたいなことを聞いたな。知り合いは1人だけど」
帝国ってなんなんだろう?これ等の技能は一方的に攻撃魔法を封じるという殺神種並みに厄介過ぎる。
「質問だが、その人間は赤かね?」
「いや、青だ。赤に入る入らないギリギリのラインらしいが」
防衛大臣の質問にアッシュは過不足なく答えた。その意味がわかったものは頬をひきつらせる。
「青とか赤とか何ですか?」
意味がわからない人を代表でミーヤが質問し、
「端的に言えば帝国の兵士のランクよ。赤が1番強い部隊で青が2番目ね」
つまり、そういった高等技能の持ち主でさえ帝国では2番目の評価である。他の技能で粗が目立つからなのは言ってないが、潤沢な人材を持っているには違いない。リサの説明にミーヤ含む全員が頬をひきつらせていた。
「青2人なんだよな、星巡りを解体したのは」
顔芸の域で顔面が痙攣する。共和国が総出でとりかかるレベルの危機を、強く見積もって最強の部隊の底辺2人でなんとかできるという帝国。普段無表情で説明したアッシュでさえ顔面が崩壊している。
ぶっちゃけ、何で世界を征服できていないのか不思議で仕方がない。神が危険視するのも当然ねと、世界の裏側を少しは知ってるリサはそんな事を考えた。
「で、どうするんだ?美味しい食べ方なら協力するが、普通に排除するなら参加しないぞ」
「そこは手伝いなさいよ」
「料理人が戦闘に参加してたまるか。調理の一環としての美味しい狩り方が精一杯の譲歩だ」
戦士でなく料理人として譲れない一線らしい。
「とりあえず、話を戻そう。先ずは出現位置と時間について、あとどうしてわかったのか聞いていいかな?」
「食材の声が聞こえた。場所は西のトーバニス平原、時間は3日後の明朝」
食材の声ってそんな事まで教えてくれるのか。星巡りを食材と言ってよいのかどうか疑問だが。
「帝国に協力を依頼したらどうだ?報酬に星巡りの肉を渡せば引き受けてくれると思うぞ」
「それは考えたのだが、今帝国は王国と微妙な雰囲気だぞ。貸してくれるのか?」
アッシュの案にツルっツルの禿げた白髭のじいさん、外務大臣が質問する。
「お前は新聞を読め」
どういう意味か聞こうとしたミーヤを察してアッシュが止める。
「ギルドに置いてあるわよ」
「店にもあるぞ」
とって無いという言い訳は喋る前に先輩と店員に封じられた。しかしその2人、ミーヤを見ずに互いに睨み合っている。
「『日刊スフィトリア』の記事って右よりだから嫌いなのだけど」
「『アリトーリス新聞』は左過ぎるだろうが。しかも中庸を謳ってだ」
そして新聞について荒出しし討論する2人。
お互いが読んでいる新聞を嫌い合う2人だが、内容を読んで批判しているのでまともである。そしてこの2人、政治に結構詳しい。
片や衆愚政治なら専制の方がマシという人、片や自分達で責任をとるために知る必要があるという人。民主主義の欠点を自覚して、それでも共和国に住んでいる2人である。
因みにリサは分類上王国出身、アッシュは流浪の民で外国出身の2人には選挙権がない。ミーヤもだが。
実力主義の帝国ならともかく、彼等に国政を変える手段は知識を元に論理立てて説明し、選挙権を持つ国民に納得して投票してもらうしかない。
以前リサが受けた平等を謳う左側新聞のインタビューで、参政権が無いことについてどう思うか聞かれた時、
「私が参政権をもらえる国なら別の国に逃げます。帰化しましたが、異国人なのに住まわして貰っているだけです。この国の事はこの国で生まれ育った人がこの国の未来を決めるべきで、途中からきた人が決めるべきではありません」
思いっきり国粋主義な右側発言をかました。因みにアッシュはこれに関して左寄りの発言をしてたりする。
「政治はこの国のためを思って実施するのだから、思想がこの国の者でこの国のために行動している人なら参政権与えてもいいんじゃないか?年齢の半分くらいの年数は帰化して税金払うくらいは最低条件だろうけど」
新聞は新聞、自分の意見は自分の意見ではっきり別けている。参政権持っている人は見習って欲しいなと本気で思う大臣達だった。
とりあえず、どんどんヒートアップする2人を無視して
「これは全て新聞を読んでいないミーヤが悪い」
「脱線してる2人がじゃないんですか⁉」
会議が進まない理由をミーヤに押し付けるギルドマスターだった。ミーヤは反論するも、
「という訳で熱々の2人を止めて下さい。これだと会議が進まない」
大統領の発言にミーヤをスケープゴートなすることで一致した会議参加者達。ウンウン頷いている。
「そんな~」
「これに懲りたら新聞を読みなさいよ」
「参政権がないからって政治に無関心は駄目だ」
嘆くミーヤをウンウン頷いて諌める2人。ミーヤは白い目で見ながら
「さっきまで熱々の討論をしてましたよね?」
「「会議が進まないって言ってたから中断した」」
どうやら耳は生きていて、周りの声を拾っていたらしい。今まで討論にのめり込んでいたのはストップがなかったから。それでいいのか?
「新聞読んでなくてもわかるように説明すると、帝国と王国の間が凄い緊張状態で援軍がもらえるかわからない、という状況。まあ余裕を持って帝国が勝つだろうけど」
希少食材の採取で判明している範囲の抑止力からアッシュは勝敗を予測する。
「聞く限り、王国が悪魔に魂を売ったところで片手間なのに悪魔ごと叩き潰しそうなのよね、帝国って」
王国の内情と帝国の伝聞で勝負にならないなとリサは考えた。
「肉を貰って帰るついでに抑止力を見せつけるくらいで手を打ちそうなんだよな」
食べる為にかと一瞬思った一同だが、見るだけで発狂する塊という意味で解釈したらそれは兵器だ。器に乗せて器を魔法で飛ばして遠隔から敵陣に投げ込めば、同士討ちを始めて楽に勝てるだろう。或いは砦の壁からぶら下げておくと、攻めてきた相手が同士討ちを始めるという使い方でもいい。幸い肉は触っても発狂しない。この場合美味しい肉として調理しなくてもよい。
「ところで、見るだけで発狂するのになんで食べれるの?目を瞑って食べたの?」
「時間経過と加熱で無害化できるから違うぞ。地面にばら蒔いても一年程度で無害になる。 目を瞑って加熱するまでの調理が必要なだけで、食べる頃には関係ない。流石に食べる側に特殊な事をさせる料理はあの場で出せない」
リサの疑問に答えたアッシュだが、特殊な食べ方をする料理に驚く事になった。それはリサだけではないが、というよりリサは何故か納得してたが。
「乾燥さてせ見えないくらい粉々にすれば、見えないのに発狂して時間経過で無害になるという恐ろしい薬が完成してしまう。ガスじゃないからマスクでは防げない、しかも魔法で予防できない」
肉として食べるより毒として使った方が価値が高い気がする一同だった。
「仕方がないか。帝国に要請しよう」
大統領の一言で会議は終了修了する。この後彼等は臨時国会を開き、野党から追及を受ける事になる。
スウェーデンボリーを知ってる人って何れだけいるやら。とりあえず、能力云々でない『魔法に対する魔法』としては最強候補。元ネタ世界では魔法でなく魔術だが。
そしてこの国は共和国です。王国や帝国でないので選挙があります。むしろこういうのを書かないなら帝国や王国でいいという。