太正?大正だろ?   作:シャト6

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第二十話

特別公演が終わり2週間後、今度はシンデレラの舞台公演が決まり、早速花組は舞台稽古を開始した。俺は初日が始まるまで、さくらのフォローを終えるまで俺は店を休むことにした。任された以上は、キチンとこなすつもりだ。で、早速舞台で台本読みをしてるのを見てたんだが…

 

すみれ「何ですかそれは!それが台詞?ただ棒読みしてるだけでしょう」

 

さくら「す、すみません。まさか、私がシンデレラを演じるとは思っていなくて…」

 

すみれ「そういう問題ではありません。先生!本当にこれで宜しいの?」

 

「…もう一度頭から」

 

さくら達と一緒に座ってる、稽古の先生に文句を言うすみれ。だが、その先生は上手くかわしてるっていうか、すみれの扱いに慣れてんだな。そして今日の練習は終わる。

 

「……」

 

米田「どうだ?さくらの奴は?」

 

「…素人の俺が言うのもなんだが、これはヤバそうだな」

 

俺は既にテンパりかけてるさくらを見てそう言う。

 

「今はまだ大丈夫だが…時間の問題だな」

 

米田「そうか」

 

俺とおっさんは、舞台から出ていく。

 

米田「森川、お前本当に店休んでよかったのか?」

 

「ああ。流石に今回ばかりは両立が厳しい。俺がいない間に、さくらのプレッシャーが爆発しないとは限らないからな。なら、初日が始まるまで店を休んで此方にいた方が対処しやすい」

 

米田「…そうか。なら、お前さんは初日まで支配人室で寝泊まりしてくれ。俺はいつも自分の家に帰ってるからな」

 

「分かった」

 

ま、稽古が終わった後帰るつもりだったが、逆にありがたい。これならすぐにフォローがしやすい。

 

「こりゃ、どうにかして、適度にガス抜きさせないとな…」

 

さて、どうしたもんか。それからも暫く、さくらの様子を見ることにする。ま、終わり次第話したり飯作ってやったりはしてやったけど、これでガス抜き出来てるかどうか…そして、舞台初日を翌日に控えたのである。

 

椿「通し稽古どうでした?」

 

売店で明日の準備をしてる椿と、それを手伝ってる俺。通し稽古を見てきた由里に話を聞く。

 

由里「……」

 

すると由里は、首を左右に振る。

 

椿「ええっ!?初日明日ですよ」

 

「これは、流石にまずいですね」

 

由里「そうですね」

 

俺達3人は、明日の心配をする。

 

「椿さん、すみませんが少し皆さんの様子を見てきます」

 

椿「分かりました。手伝っていただきありがとうございます、森川さん」

 

「いえ、それでは」

 

断りをいれ、中に入るとすみれがさくらに怒鳴っていた。

 

すみれ「何なのこれ!これではまるで学芸会じゃない!!さくらさん、貴方は主役なのよ!その意気込みってそんなものですの。貴方の役に対する気持ちって、この程度のものなの」

 

さくら「……」

 

あっちゃ~。すみれの言いたい事も分かるが、今のさくらにはトドメの一撃になるぞ。

 

カンナ「すみれ、もういいって。本番はさ、皆で助けてやりゃいいじゃねぇか」

 

紅蘭「せやな、言えてるで。さくらはんもやれるって」

 

他の連中がフォローする。ん~…こりゃまずいな。

 

「稽古はこれで終了します。今日はグッスリ寝てちょうだい」

 

そして、さくら以外は舞台から出ていき、照明が落とされた。その日の夜、明日が初日ということもあり、俺が全員に料理を振る舞う。

 

「皆さん、明日の公演頑張って下さい。何もできませんが、せめて私の料理でもてなさせてください」

 

カンナ「うほ~!うんまそ~!」

 

『いただきます』

 

そして全員が食事を始める。既におっさんや3人組は帰ったが、花組の連中と大神、そしてあやめが俺の作った料理を美味そうに食ってる。だが、一番食ってほしい奴が食ってねぇ。さくらだ。

 

「さくらさん、お口にあいませんでしたか?」

 

さくら「い、いえ!そうじゃないんです。少し疲れただけで…」

 

「…そうですか」

 

俺はそれ以上何も言わない。

 

カンナ「おふぁわり!」

 

紅蘭「森川はん、ウチもや!」

 

「たくさんありますから、ドンドン食べて下さいね」

 

だが、結局さくらはあまり飯を食わなかった。で、明日に備えて今日は全員早目に寝た。

 

「ん~まずいな。爆発寸前だ」

 

俺は、さっきのさくらを見てそう呟く。

 

「明日の朝イチで、さくらのガスを抜かねぇとな」

 

そう考えてると、廊下から足音が聞こえた。

 

「誰だ?こんな時間に」

 

俺は起き上がり部屋を出る。そして廊下を見るとさくらがいた。

 

「あれは…さくら?」

 

さくらが俺に気づかず、そのまま歩いていった。

 

「あっちは食堂があるが…まさか!?」

 

俺はある事を思いだし、すぐに食堂に向かう。その途中で、マリアとすみれと鉢合った。

 

マリア「森川さん」

 

「マリアさん、それにすみれさんも」

 

すみれ「こんな時間にどうなさったのです?」

 

「それは此方の台詞…と言いたいですが、お2人と同じです」

 

その言葉で、2人はすぐに理解した。

 

マリア「森川さんも見たんですね」

 

「ええ。ですが、今は急ぎましょう。嫌な予感がします」

 

そして俺達は食堂に向かった。到着すると、さくらは冷蔵庫から食べ物を食べていた。

 

マリア「さくら?」

 

「さくらさん!さくらさん!!」

 

俺はすぐにさくらに駆け寄り声をかける。

 

さくら「…あ、森川さん。それにマリアさんも」

 

そう言うと、すぐに自分の足下に散らばってる食料を見て絶句する。

 

さくら「私…私、怖くて、不安で」

 

「大丈夫だ。落ち着け」

 

さくらは泣きながら、俺の胸に顔を押し付ける。俺も素の口調でさくらをあやす。

 

マリア「さくらだけじゃない。初めての初日の主演は、誰でもそうだった」

 

さくら「私…怖くてできない」

 

泣きながらそう言うさくら。まさか、こんな風に爆発するとは…完全に油断した俺が悪い。

 

マリア「アイリスだって紅蘭だって、すみれだって同じ様に苦しんで、それを乗り越えて来たのよ」

 

マリアが優しくさくらに話しかける。

 

「マリアの言う通りださくら。誰にだってプレッシャーはあるんだ」

 

さくら「私には…無理です!」

 

未だに俺の胸の中で泣くさくら。そして暫く泣いた後、泣きつかれて現在は俺にもたれ掛かって眠っている。

 

「しかし、まさか睡眠関連摂食障害が出るなんて…」

 

もたれ掛かったまま寝ているさくらを見ながら、俺はそう呟く。

 

マリア「森川さん、何ですか?その睡眠関連摂食障害とは?」

 

「おっと、そう言えばまだこの時代にはそんな病名なかったか」

 

しまった。うっかり俺がいた時の病名を言っちまった。

 

すみれ「どうかなさいましたの?」

 

「なんでもない。とにかく、まずはさくらを自分の部屋で寝させてやろう。その後話してやる」

 

マリア「そうですね」

 

俺は寝てるさくらを抱き抱え、さくらの部屋に向かった。ゆっくりベットに寝かせ、俺達は支配人室で話をする。ついでに紅茶を出す。

 

「睡眠関連摂食障害…寝ている間に体が勝手に起きて、食事をする現象の事だ。今回の場合、初主役に対するプレッシャーで、ストレスが蓄積されたのが原因だろう」

 

マリア「やはり…」

 

「起きたから言っておくが、今回俺が店を休んでまでここにいたのは、米田のおっさんに頼まれてなんだよ」

よ」

 

すみれ「支配人に?」

 

「ああそうだ。前にあった特別公演の時、おっさんに次回シンデレラの主役はさくらでいくって聞いててな。で、さくらを精神的にフォローしてくれって頼まれたんだよ」

 

すみれ「そうでしたの。…クシュン」

 

くしゃみをするすみれ。そら、この時間にその格好は寒いわ。しゃあない、俺の上着をかけてやるか。

 

すみれ「あ、あの…」

 

「明日は大事な初日なんだ。大切な女優に風邪ひかせちゃ悪いからな。嫌と思うが我慢してくれ」

 

すみれ「い、いえ…ありがとうございます///」

 

素直にお礼を言われると嬉しいな。で、マリア…何で俺を睨む。

 

「んっん~!ま、フォローしてたつもりが、キチンとガス抜きできてなかったからああなっちまったんだがな。流石に睡眠関連摂食障害が出たときは驚いたが」

 

マリア「……」

 

「明日改めて、さくらと話しておくさ。プレッシャーは、人それぞれ違う。そこは理解してやってくれ」

 

すみれ「…分かりましたわ」

 

流石のすみれも、今回に限っては理解してくれたか。

 

すみれ「それと、別のお話なのですが…森川さん、それが普段の話し方ですの?」

 

「そうだ。この事は米田のおっさん、あやめ、さくら、マリアが知ってる」

 

マリア「森川さん、おそらくアイリスもかと」

 

「マジかよ。んじゃ、後知らないのは大神と紅蘭、カンナ、3人娘の連中だけか。また随分とバレたもんだな」

 

俺は笑いながらそう言う。だってよ、最初はおっさんだけだったんだぜ?

 

すみれ「そうですか。でしたら、私の前でもその様に話して下さらない?もちろん、他の方達の前では普段通りで構いませんわ」

 

「そうか。なら、そうさせてもらうぞすみれ」

 

すみれ「は、はい///」

 

…何で頬を赤く染める。これ、さくらにマリア、最近ならアイリスで見たぞ。

 

マリア「……」

 

…マリアさん。睨むより、普通に無言で素の目で見られる方が、数倍怖いですから!そして話は終わり、それぞれが眠りについた。翌朝、初日というだけあり、客席は満員でチケットは完売。当日券も即売り切れた。後は劇が始まるのを待つだけ…だったんだが。

 

紅蘭「なんやて!?さくらはんが楽屋に立て籠った!!ベル鳴ったでどないすんねん!?」

 

さくらは、やはり昨夜の不安を払拭できず、あろう事か楽屋に立て籠ってしまった。どうするか…

 

すみれ「……」

 

するとすみれは、楽屋の方に歩いていった。嫌な予感がするのは、気のせいじゃねぇだろうな。やれやれ…

 

(念のため俺も様子を見に行くか)

 

俺はすみれの後を追い掛けた。楽屋の前に到着すると、あやめの姿しかなかった。すみれの奴、どこ行ったんだ?

 

あやめ「さくら、とにかくここを開けてちょうだい」

 

さくら『私…やっぱりできません』

 

中から弱々しい声が聞こえた。こりゃマジでヤバそうだな。

 

すみれ「どいて下さいまし」

 

すると、すみれがやって来た。手にさくらの刀と自分の薙刀を持って。まさか…

 

 

すみれ「きええええええ!!!!」

 

俺の考えは当たり、見事薙刀でドアを真っ二つにしたのだった。

 

さくら「す、すみれさん!?」

 

流石のさくらも、ドアを真っ二つにするとは思っていなかったみたいだな。ってか、俺も思わねぇよ。そのままさくらの腕を掴み、舞台に引っ張っていったすみれ。そのままさくらを前に投げ、持ってた刀も放り投げた。

 

すみれ「抜きなさい」

 

さくら「えっ?」

 

すみれ「抜きなさい!その曲がった根性、叩き直してあげますわ!!」

 

そう言いながら、薙刀で攻撃する。さくらも素早く落ちてた荒鷹を拾い上げ防いだ。何だかんだで、体に染み付いてんだな。

 

さくら「や、止めて下さいすみれさん!」

 

すみれ「聞く耳持ちませんわ!!」

 

すみれの攻撃を防ぐさくら。そして、荒鷹を抜き反撃した。腕前はさくらが若干だが上であり、そのまますみれの薙刀を弾き飛ばした。

 

さくら「……」

 

すみれ「…それでいいのです。その力強さで、お芝居に挑みなさい」

 

さくら「!?すみれ…さん」

 

やれやれ。すみれの奴も素直じゃないな。こんな回りくどいやり方しやがってよ。

 

あやめ「終わったわね。それじゃあ、幕を上げるわよ!お客様が待ってるわ」

 

『はい!』

 

そして確実持ち場についた。こうして、さくらの初主役であるシンデレラは、周りのフォローもあり無事公演を乗りきったのだった。…けど、すみれマジでビビったぞあれはよぅ。

織姫とレニに対して

  • 大輔に織姫&レニ両方
  • 大輔に織姫。大神にレニ
  • 大輔にレニ。大神に織姫
  • 大神に織姫&レニ両方

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