太正?大正だろ?   作:シャト6

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第十九話

とある日、俺は店の掃除をしている。今日は久々に店を休みにし、掃除や食材整理等を行っている。だが、普段からマメに行ってるから、すぐに終わったんだよな。

 

「予定より早く終わっちまったな…」

 

煙草を吸いながら呟く。どうすっかな~…この後。

 

「散歩にでも行くか」

 

店に鍵をかけて、銀座の街をブラブラ散歩することにした。歩いてると、所々に明日公演する舞台のポスターがあちこちに貼られている。

 

「そういえば明日か。おっさんからチケット貰ってるけど…」

 

一昨日、店にこの公演のチケットが届いた。差出人が米田のおっさんからだ。

 

「けど、この公演親善大使向けの招待客のみだろ。俺みたいな一般人が行ってもいいもんかねぇ」

 

煙草を吹かしながらそう呟く。だってよ、この公演、一回だけなんだぜ。そんな中、俺がチケット持ってるってバレたら…

 

(お~恐ろしいな)

 

思わず体がブルッちまった。

 

「おっ、丁度劇場前か。明日に向けてラストスパートかけてんだろうな」

 

そのまま前を通り過ぎようとすると…

 

「なんですかこれは!!」

 

「うおっ!?」

 

俺は思わずビックリして、吸ってた煙草を落としてしまった。ちゃんと火は消したぞ。

 

「今の声…すみれの奴か。またなんかあったのか?」

 

俺はそのまま劇場の方に足を戻し、来賓客用の入り口から中に入っていった。すると、食堂ですみれがあやめに向かって叫んでいる。

 

すみれ「神崎“つみれ”とは、どういうことです!!」

 

あやめ「ごめんなさい、つみ…いえ、すみれ。誤植なの」

 

おい、お前が間違えんなよあやめ。

 

すみれ「誤植!!貴女方キチンと確認しなかったの」

 

かすみ「しました。ですが刷り上がって来たときにはつみれに…」

 

すみれ「何よそれ!!当然直していただけるんでしょうね?」

 

あやめ「もちろんよ」

 

そりゃそうだろ。修正しなきゃ、親善大使の連中がすみれの名前を間違って覚えて帰ることになるからな。

 

すみれ「分かりました。ですが、もし明日の招待客の皆様に、こんなパンフレットお渡しするようでしたら、私は舞台に立ちませんから!失礼!」

 

そして食堂を出ていった。

 

あやめ「ふぅ…」

 

「大変でしたね」

 

すみれが出ていったのを確認してから、食堂に入りあやめに声をかけた。

 

あやめ「森川さん…」

 

「お疲れですあやめさん。すみれさんの声、外まで聞こえてましたよ」

 

あやめ「そう…」

 

その言葉に、あやめは疲れた表情をする。

 

「かすみさん達も大変でしたね」

 

俺は未だに隅っこに寄ってる、3人に話しかけた。

 

かすみ「いえ…」

 

「ですが、流石にこれは酷いですね」

 

俺は、テーブルに置かれてるパンフレットを1枚取り上げる。

 

由里「はい…今朝届いて確認をしたら」

 

「こんな風に仕上がっていたと」

 

椿「そうなんですよ」

 

「ま~、こればかりはかすみさん達のせいではないので、気にしないで下さい。すみれさんも、頭では分かってる筈ですから」

 

かすみ「はい」

 

俺の言葉に、3人の表情はほんの少しだけ晴れる。ま、こればかりはかすみ達をせめても意味ないからな。

 

「ですが、間違いであっても、笑ってはいけませんよ。あやめさんも、すみれさんの名前を言い間違えかけていましたよね?」

 

あやめ「そうね。私達も配慮が足りなかったわ」

 

「分かっているなら大丈夫ですね。笑うのは、すみれさんが許して、無事舞台が終わってからです。そうすれば、笑い話になりますし」

 

『はい!』

 

3人は、笑顔で返事をした。

 

「さて、私は米田さんにご挨拶してきます」

 

あやめ「ええ」

 

そして俺は、おっさんの部屋に向かう。しかし…つみれか。寒くなれば鍋だな…

 

(本人の前じゃ絶対言えねぇがな)

 

支配人室に近づくと、中から話し声が聞こえた。

 

(おっと、先客がいるみたいだな。出直すか)

 

俺はそのままあやめ達がいる食堂に戻ろうとする。すると中から背の低いじいさんとさくらが出てきた。

 

さくら「あ、森川さん」

 

「こんにちはさくらさん。此方の方は?」

 

さくら「はい、私の家に代々使えてくれている権爺です」

 

「権太郎といいますだ」

 

「これはご丁寧に。私は、この近くで飲食店を営んでいる森川大輔といいます。今度是非、ウチの店に食べに来て下さい」

 

俺はじいさんに挨拶して、尚且つ自分の店も宣伝しておかなきゃな。

 

権爺「これはご丁寧にどもども。ではさくらお嬢様、オラは一度奥様に電話して来ますだ」

 

そしてじいさんは行ってしまう。

 

さくら「私もお稽古に戻ります。それでは森川さん」

 

さくらも俺に挨拶して、舞台に戻っていった。そのまま中に入ると、おっさんが疲れた顔をしてた。こっちもかよ…

 

「えらく死にそうな顔してるな?」

 

米田「ほっとけ」

 

「ここの支配人と副支配人って仕事は、ストレスが溜まる仕事みたいだな。あやめと同じ顔してるぞ?」

 

米田「そうかよ…」

 

やれやれ。随分とやられてんな。しゃあない、愚痴くらい聞いてやるか。

 

「何があったんだ?愚痴くらい聞いてやるよ」

 

米田「そうかよ。実はな…」

 

おっさんの話を聞く。聞くとさっき会ったじいさんの話では、明日はなんでもさくらの親父の命日らしい。で、運悪く明日は1日限定の舞台がある。なので、さくら自身が帰ることを断ったらしい。

 

「なるほど。まぁ、人の家の事をとやかく言うつもりはねぇが、さくら自身が決めたんならそれを尊重してやればいいんじゃねぇのか?」

 

米田「まぁ、そうだがよ。向こうはそう思えないらしいからな」

 

「そこは納得してなくても、さくらの意見を通してやれ」

 

米田「…そうだな」

 

そしておっさんは酒を飲む。俺もご相伴にあずかる。その日の夕方、俺は再びおっさんの部屋に行く。

 

「やれやれ。さくらの次はすみれの奴かよ…」

 

米田「はぁ…」

 

「おっさん…アンタその内胃に穴空くんじゃないか?」

 

米田「言うな…」

 

デコに手を当てるおっさん。

 

「今度ウチに食いに来い。胃に優しい精進料理出してやるよ」

 

米田「頼む…おっと、忘れるとこだった」

 

おっさんは、何かを思いだし俺を見る。

 

米田「お前さんには話しておくけど、今回の公演の後の劇なんだが、シンデレラをすることにした」

 

「シンデレラか。主役はすみれか?」

 

俺はおっさんの言葉に疑問を持つ。

 

米田「いや、今回主役のシンデレラは…さくらにするつもりだ」

 

「さ、さくらの奴をか!?」

 

おっさんの言葉に驚く。だって、さくらはまだ入って1年経っていない。そのさくらを主役に抜擢って。

 

「随分と急な話だな。さくらは、まだ歌劇団に入ってまだ間もないぞ?いきなり主役は重くないか?華撃団はまだしも」

 

米田「確かにそうだ。だが、アイツを主役にすることで、さくらの霊力を更に高めようって考えだ」

 

「…けど、やっぱ主役はなぁ。前のクレモンティーヌだって、マリアがフォローしたからこそじゃないか?」

 

前の劇の話をする。けど、おっさんの言いたいことも分かる。だが、それでさくらの奴潰れなきゃいいがな。

 

米田「そこでだ。お前さんにこの事を話したのは、さくらをフォローしてやってほしいんだ」

 

「フォローね。言っとくが、俺は舞台に関しては素人同然だぞ」

 

米田「そうじゃねぇ。さくらの奴が、プレッシャーに潰れないようにしてやってほしい」

 

また難しい注文を…

 

「…分かったよ。俺なりにフォローしてやる」

 

米田「すまねぇ」

 

「本来、こういうのはおっさんかあやめ、若しくは隊長の大神がすることだろが」

 

米田「本来ならな。だが、さくらはお前さんを好いてる。だからお願いしたんだよ」

 

「やれやれ」

 

こうして俺は、次回公演のフォローをすることが決まったのだった。因みに、翌日の特別公演は見事に上手くいった。パンフレットも、キチンと神崎すみれと修正されていた。

織姫とレニに対して

  • 大輔に織姫&レニ両方
  • 大輔に織姫。大神にレニ
  • 大輔にレニ。大神に織姫
  • 大神に織姫&レニ両方

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