「プロデューサーさんの奏でる曲、どこかで聞いたような気がするんだよね……」
「相変わらずひどい音色だな」
「ウルトラマンオーブ!!」
「私と春香ちゃんと、同時にフュージョンアップするんです」
『こんなにも上手く行くなんてな……!』
『「「行けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」』
「お前は選ばれた戦士なんだろう?」
「もっと俺を愉しませてくれよ」
「はい……はい……。そうですか、もう別の子に決定と……。いえ、どうぞ今後とも765プロをよろしくお願い致します」
営業の外回りに出ているガイは、街中を歩きながらケータイで営業先と出演交渉をしていた。しかし仕事は余所の事務所に取られてしまい、あえなく交渉は失敗する。
「ふぅ……。地球のアイドルの世界ってのも、ほんと厳しいもんだ……」
通話の切れたケータイを手にしている腕を下ろし、ため息を吐くガイ。彼はともにオーブとして戦ってくれるアイドルたちに報いるために大きな仕事を取ってこようと努力しているのだが、なかなか成果にはつながっていないのが現状だった。
「早くあいつらに、戦いじゃないアイドルらしいことをやらせてやりたいんだがな……」
画面の明かりが消えたケータイを見下ろしながら、765プロのアイドルの顔を一人一人頭に思い浮かべるガイ。
――その彼の脳裏に、深い森の中にたたずむ少女の姿と、攻撃してくる光ノ魔王獣、そして森と大地を呑み込む規模の大爆発の光景がよぎった。
「……」
すると、ガイの表情が一瞬悲しげに歪んだのだった――。
『バアアアアアアアア!』
『テヤァッ!』
その頃765プロ事務所では、響、亜美、真美の三人が、先日夏の東京を一時的に雪の世界に変えた怪獣ペギラとオーブの戦いを撮った『アンバランスQ』の回を観返していた。
パソコンの画面の中では、オーブ・スペシウムゼペリオンがペギラを光球の中に包み、それを運びながら遠く北方へ向かって飛び立った。その後ろ姿を春香が実況する。
『ご覧下さい! オーブによって怪獣は運び去られていきます! これで凍りついた東京の街も元通りになるでしょう。ありがとうオーブ……!』
だが振り返った瞬間、凍結した道路に足を滑らせる。
『あっ! きゃっ!? あああぁぁぁっ!!』
どんがらがっしゃーん! と春香が転倒してその回は終了した。観終えて亜美と真美がつぶやく。
「いやー、はるるんは予想と期待を裏切らないねぇ」
「本人は認めたがらないけど、いちいちやることが面白いよね」
春香のことを話している亜美真美の一方で、響はペギラの方に注目をしていた。
「魔王獣はやっつけたけど、社長の言った通り、怪獣が出現するようになっちゃったね。これから世界はどうなるのかな……」
若干不安がる響に、亜美と真美はこう言った。
「ダイジョーブだよひびきん。そのために兄ちゃんと亜美たちがいるんじゃん!」
「オーブはヒーローだよ? 正義のヒーローはどんな時も、悪い奴には負けないのだー!」
テンションを上げた真美は、ふとあることに思い至ってつぶやいた。
「そー言えば、怪獣がいるんだから宇宙人もいるのかな? いや兄ちゃんがそうだけど、他にもよくある地球侵略を狙うような悪ーい宇宙人がいたりして」
「そこんとこどうなんだろうねー? 兄ちゃんはその辺何も言ってなかったけど」
などと話していたら、事務所に春香、伊織、真の三人が帰ってきた。
「真っ! あんたのせいでオーディション落ちちゃったじゃない!」
「はぁ!? ボクのせいって決まった訳じゃないだろ! そう言う伊織のせいかもしれないじゃないか!」
「ち、ちょっと二人とも、落ち着いて……」
……伊織と真が激しく口喧嘩しながら。
「何言ってるのよ! 確実にあんたのせいよ! あんたのあの寒いポーズに審査員がドン引きしてたの気づかなかったの!? あんたがかわいこぶるのなんて、誰も求めてないのよっ!」
「な、何だってぇー!? 伊織こそ、露骨に媚び売ってたのが絶対逆効果になってたよ! 伊織こそ寒いことやるのやめたら!?」
「何よ、このオトコ女っ!」
「ぶりっこっ!」
「だ、だから落ち着いてよ二人とも。仲間同士で罵り合ってもどうしようもないよ……」
「「春香は黙ってて!!」」
その瞬間だけ言葉がそろう伊織と真であった。
「ひぃ~!? これって雪歩の役割じゃあ……」
二人のすさまじい剣幕に押された春香が小鳥や響たちの方へ避難していった。
「お帰りなさい、春香ちゃん。……その様子だと、オーディションは残念な結果だったのね」
「そうなんです……。それであの二人が、ずっとあんな風に険悪な様子で……」
はぁと深いため息を吐く春香。亜美はそっぽを向き合う真と伊織の様子をながめて呆気にとられた。
「うあうあ~……また一段と激しい喧嘩してるね、まこちんといおりん」
「どっちもどっちだぞ。何もあそこまで喧嘩しなくてもいいのに」
響が呆れていると、小鳥が擁護するように言った。
「真ちゃんも伊織ちゃんも、元から気が強いとこがあるから……。でも今日はそれに加えて、オーディションに落ちたことがきっかけとなって今まで抱え込んでた焦りと不安が噴出したんでしょうね」
「焦りと不安? ピヨちゃん、どーいうこと?」
聞き返す真美。
「ほら、みんなデビューしてからこっち、大きな仕事をしたことがないじゃない。受けるオーディションは全部落選して……それでこの先アイドルとしてやっていけるのか、という内心の不安が表に出てきちゃったのよ」
「不安……そういえば亜美たち、『アンQ』以外のどの番組にも、ほんのちょっとでも出演したこともないもんね」
「他の仕事も、ビラ配りとかちっちゃいライブハウスのライブとか……まるでバイトか地下アイドルみたいだぞ」
亜美や響も表情を曇らせたのを、小鳥が慰める。
「まぁ、誰だって駆け出しの下積み時代はなかなか芽が出ないものよ。でも若い子には、この低迷してる時期を辛抱するのは難しいものだわ。そのまま日の目を見ないで消えていくなんてのも珍しくない話だし……。あたしだって……」
「小鳥さん?」
小鳥が急に顔をそらしてため息を吐いたのを、春香が訝しむ。
「ああ!? な、何でもないわ。それより、亜美ちゃん真美ちゃん響ちゃん、あなたたちはそろそろレッスンに行かなきゃいけない時間じゃない? 遅刻しちゃうわよ」
「あっ、そうだったぞ! ぴよ子、ありがとう!」
思い出した三人が慌てて支度をして事務所を出発していく。
「それじゃ、いってきまーす!」
「がんばってねー。あたしはいつでも応援してるからね!」
響たちを見送った後で、春香がふぅとため息を吐いた。
「辛抱か……。小鳥さん、私たちもいつかスポットライトが当たりますか?」
「もちろんよ! そのためにプロデューサーさんも日々駆け回ってるんだから。だから元気出していきましょう!」
小鳥はそう唱えるものの、春香も内心の不安をぬぐい切れないでいた時、ガイのデスクの固定電話が着信を知らせた。
「あら、電話だわ」
「小鳥さん、私が出ますよ」
一番近い春香が手を伸ばして受話器を取る。
「お電話ありがとうございます、765プロです」
『あたし今宇宙人追いかけてます!』
電話口の相手は、いきなりそんなことを言い放った。春香は呆気にとられる。
「はい? 宇宙人?」
『あッ、765プロの方ですよね? アンバランスQって番組やってる』
「はい……」
『あたし、宇宙人の後ろを追いかけてるんですけど!』
「えっ、ちょっと待って下さい! それって情報提供ですか?」
春香は咄嗟にマイクボタンを押して、通話内容を小鳥にも聞こえるようにした。小鳥は早速メモを取り出す。
『はいッ! あの、すぐ来て下さい! あたし一人じゃ怖くて……!』
「分かりましたっ! 場所は?」
通話の相手からあらかたの情報を得た春香は、即座に真と伊織に呼びかけた。
「真! 伊織! 『アンQ』に情報提供者だよ! 怪獣と宇宙人が隠れてるんだって! すぐ行こう!」
だが伊織から素っ気ない返事が来た。
「そんなの、どうせまた面白半分のガセネタでしょ。いっつもそれで振り回されてるじゃない」
「ちょっ……そんなこと言っちゃ駄目だよ! たとえそうでも、視聴者からの情報提供をないがしろにするなんてやっちゃいけないって、社長も言ってたじゃない!」
説得する春香だが、真も伊織もむくれたまま席を立たない。
「伊織と一緒だなんて絶対ごめんだね!」
「私だってこんな奴となんて断固としてお断りよ! 行くなら春香一人で行ってきたら?」
「えぇー……」
すっかり機嫌を悪くしている二人は頑なだ。ほとほと参った春香は、時間もないことから説得をあきらめる。
「分かったよ、じゃあ一人で行ってくるから! 情報確認なら私だけで十分だろうし……。小鳥さん、プロデューサーさんが戻ったらこのこと連絡して下さい」
「了解よ! 春香ちゃん、多分何かの間違いだとは思うけど、万が一のことがあるかもしれないからくれぐれも気をつけてね」
小鳥は宇宙人が真昼間の往来を歩いているなんて情報を信用してはいなかったが、それでも春香を笑顔で送り出していった。
事務所を発った春香は、情報提供者から指定された場所へ到着した。そこでは当人と思われる、制服姿の女子高生が春香を待っていた。
「真渡子さんですか?」
「そうです! 765プロの方ですよね? こっちへ!」
真渡子なる女子高生は春香の手を引いて、寂れた工場の前へと連れていく。
「あの中に入っていったんです……!」
「あの工場の中……!」
「行きましょうッ!」
真渡子は春香を急かして、工場の中へ連れていった。そのまま地下へ続く階段に駆け込み、早足で最深階まで下りていく。
……建物に入ってからの行き先は確認できないはずなのに、その足取りに何の迷いがないことを怪しむほど、春香の洞察力は鋭くなかった。
「ここです……!」
真っ暗闇に覆われた、太いパイプがいくつも連なる広大な地下室を、二人は懐中電灯の明かりを頼りに探索していく。が、一向にそれらしい姿は見つけられない。
「本当にこんなところに――」
「しッ!」
尋ねかけた春香の口を、真渡子が手でふさぎ込んだ。
「聞こえますか……?」
真渡子の言葉の直後に、何か大きなものが蠢く怪しい音と、電子音のようなものが春香の耳に入ってきた。
「……!」
二人が柱の陰からそっと音のする方を覗き込むと……地下室全体を揺らすような震動とともに、黄色い発光体とカマ状の腕を備えた巨大生物の影が、ぬっと視界に入り込んだ。
「ピポポポポポ……」
「……!!」
春香はすぐにガイのケータイに連絡を入れようとしたが、その途端に真渡子に口をふさがれたまま引っ張られ、壁に押しつけられた。
『警戒心なさすぎ。だから簡単に罠に掛かっちゃう」
急に、真渡子の甲高い声音に不気味な響きが混じった。――それにより、春香は『宇宙人』が誰なのかを直感で理解した。
「んんっ!?」
「あきらめて大人しく餌になれッ!』
激しく抵抗し出す春香を力ずくで抑えつけようとする真渡子。だがその背中が地下室の機材に当たると、ガスが漏れて二人を吹き飛ばした。
「きゃあっ!」
『フハハハハハッ!』
回る真渡子の姿が女子高生のものから――頭頂部にアンコウのような突起を生やした一つ目の怪人に変化した!
「あっ、ああっ! プロデューサーさっ!!」
慌てて逃げようとした春香だったが、焦るあまりドジを発揮。振り向いた瞬間に足を滑らせて転倒。
「きゃあうっ!?」
どんがらがっしゃーん! と倒れた拍子に額をパイプにぶつけ、そのまま気を失ってしまった。
横たわった春香を、セーラー服の怪人が見下ろす。
『フフフフフフ……フッフッフッフッフッハッ!』
「ゼットォーン……」
怪人の哄笑に、巨大生物の低いうなり声が重なった。
765プロ事務所では、ガイが外回りから帰ってきていた。
「ただいまー。……おいおいどうした、そこの二人。空気悪いな」
ガイは早速、未だ顔を背け合ったままの真と伊織に目を留めた。
「オーディション駄目だったのか。でもだからって喧嘩することはないだろ」
「ふんっ! 知らないわ、そんな奴!」
人一倍気の強い伊織は、ツンと澄ましてガイからもそっぽを向く。やれやれと肩をすくめたガイは、真の方に囁きかけた。
「そうへそを曲げるなよ、真。お前たちにはまだまだチャンスっていう未来がある。今日は駄目でも、明日に向かって励めばいいじゃないか」
「……ホントにボクに、チャンスがあるんでしょうか……?」
しかし真はかなり気弱な声を出した。
「どうした、いつになく弱気じゃないか」
ガイが聞き返すと、真は心の内を吐露する。
「……いつも気丈に振る舞ってますけど、ホントはボクの夢、かわいい女の子になれるっていうこと……実現できるかいつも不安なんです……。だってボクが、自分のなりたい格好になると、雪歩を始めとしてみんなに否定されますから……」
ガイは真がなりたい格好――どぎついピンク色のフリフリドレスを身に纏って「きゃっぴぴぴぴーん☆ まっこまっこりーん☆」と口走る姿を思い出して微妙な顔になった。
「まぁ……正直似合ってないってのは確かだな……」
「プロデューサーだってそう思ってるんでしょ……。分かってるんですよ、自分の感覚が世間とはズレてるんだってこと、本当は……。だからこそ不安なんです……。今日なんかそれを伊織にぶつけちゃって……」
チラッと伊織の横顔を一瞥するガイ。伊織も、どこか後ろめたいような表情をしている。
二人とも本音では、喧嘩なんてしたくないし互いに罪悪感を抱いているのだ。でも将来への不安で胸がいっぱいであり、仲直りを切り出せないもどかしい状態にあるのだった。
「実は、伊織やみんなが羨ましくもあるんです。みんな既に、ボクがなりたいかわいい女の子だから……。そんな中にボクはこんなで……ボク、アイドルとしてちゃんと成功できるんでしょうか……」
うつむく真を見つめたガイは、その頭をポンポンと優しく叩いた。
「誰だって未来を思うと不安になるもんさ。上手く行かない、思い通りにならない、こんなはずじゃなかった……世の中はそんなことだらけだからな」
「プロデューサー……」
「けどうつむいてたって何も変わらない。今の自分が駄目なら、新しい自分の姿を探して変わっていく。そして成長して、未来に進んでいく……。それが生きることだと、俺は思うぜ」
と説いたガイは、ふと真と伊織に尋ねかけた。
「そういえば春香はどこだ? 一緒に帰ってきたんだろ?」
「あっ、そういえば……」
「春香ちゃんなら、さっき765プロに情報提供の電話が来て、その方のところに向かいましたよ」
小鳥が二人に代わって返答した。
「情報提供?」
「はい。何でも宇宙人と怪獣が隠れてるのを見つけたとかで……」
言いかけたところ、ガイのデスクの電話が再度着信音を鳴らした。手を伸ばすガイ。
「お電話ありがとうございます、765プロです」
『えっとぉ、紅ガイさんですかぁ? そちらの天海春香って子、あたしが預かってまぁす』
受話器からは甘ったるい、人を小馬鹿にした響きの声が発せられた。途端に真たちは振り返って色めき立つ。
「!!?」
『すぐ助けに来てね。来なかったら……分かるでしょう? それじゃ』
通話の相手は一方的に告げて、電話を切った。受話器を押さえつけるように戻したガイが、小鳥に問いかける。
「春香はどこですか?」
「は、はい! ここにメモが……!」
小鳥がメモを取ろうとした時、真が席を立ってガイに呼びかけた。
「プロデューサー、ボクも行きます! 春香を助けにっ!」
「私だって!」
真の直後に伊織も立ち上がった。
「お前たち……」
「春香が捕まったのは、ボクたちにも責任があります。あの時、春香についていってれば避けられたかもしれないのに……」
「ちょっと機嫌が悪いからって、春香一人に押しつけた。馬鹿なことしたわ……」
自分たちの態度を反省し、春香の身を案じる二人。彼女たちの気持ちを汲んで、ガイはうなずく。
「分かった。だがその前に、二人ともきっちり謝意を言葉で表すんだ。うやむやで済ますんじゃないぞ」
言われて、真と伊織はようやくお互い顔を合わせた。
「伊織、その……ごめん。さっきはイライラしてたんだ」
「私こそ、ひどいこと言ったわね……。ごめんなさい」
二人が謝り合うと、小鳥から春香の居場所を確認したガイがそれぞれの肩に手を置いた。
「よし、これで仲直りだ。それじゃあ春香のところへ急ぐぞ!」
「はい!」「ええ!」
小鳥が渋川に通報する一方で、意識を切り換えた真と伊織が、ガイとともに春香を捕らえた宇宙人の隠れ家へと向かっていった。
「うっ……やめて……!」
工場の地下室では、春香が宇宙人の手によって鎖でパイプに縛りつけられていた。宇宙人は春香を恫喝する。
『餌は活きがいいほど獲物の食いつきが良くなる。暴れろッ!』
「……!」
春香は逆に口を閉ざして、宇宙人を気丈ににらみ返した。
『どうした暴れろ! そうして奴を呼び寄せるんだ! フッハッハッハッハッ……!』
春香を拘束し終えた宇宙人はセーラー服から、黒い作業服のようなものに着替えて大型の光線銃を手にした。春香は宇宙人に問う。
「情報提供者が宇宙人の正体だったなんて……。初めからプロデューサーさんが狙いだったの?」
『ゼットン星人マドックだ。如何にも俺の目的は、お前のところの事務所にいる奴、紅ガイの命さ』
「……プロデューサーさんがオーブだから?」
ゼットン星人マドックなる宇宙人に聞き返す春香。
『ほう、詳しいじゃないか。話が早い。その通りさ! 宇宙で恐怖とともに名を知らしめるには、ウルトラ戦士を葬り去るのが一番手っ取り早いことだからなぁ』
「プロデューサーさんは、オーブはすごく強いんだよ! こんなずるいことするような人なんかには、負けないんだから!」
と言ってのける春香だが、マドックは冷笑を浮かべる。
『そいつはどうかなぁ? 俺は事前に奴のことを調査している。あれを見ろッ!』
マドックが指し示した先にいるのは、先ほどの黒い人型の怪物。腕が鋭利なカマ状になっており、死神を彷彿とさせる。春香はその迫力に思わず息を呑んだ。
『対ウルトラマンオーブ用にこしらえた、特注のハイパーゼットンデスサイス! あいつは奴のトラウマである怪獣の同族だ。あいつが相手では、奴はまともに戦うことも出来まい』
「プロデューサーさんの、トラウマ……?」
その言葉が心に留まる春香。
『ハイパーゼットンデスサイスによって、ウルトラマンオーブはズタズタに切り裂かれて地獄に行くのさッ! フハハハッハッハッハッハッ!!』
マドックが高笑いを上げているところに――ハーモニカの音色が割り込んでくる。
「この音色は……!」
『フフフ……狙い通り餌に食いつきやがった』
「プロデューサーさん、来ちゃ駄目っ! 罠ですっ!」
春香は叫んだが、ガイは地下室の非常口からその姿を現した。
「知ってるさ、それぐらいのことはな」
マドックが早速光線銃を構え、ガイに向かって砲撃を放つ!
『ハッハーッ!!』
ガイは前に転がって光弾をかわすと、床に転がっている歯車を拾い上げて素早くマドックに投擲した。
『ぐわぁッ!』
歯車が直撃したマドックが吹っ飛び、その隙にガイと後から地下室に踏み込んだ真、伊織が春香の元へ駆け寄った。
「真、伊織も!」
「春香、さっきはごめん! お仕事押しつけちゃって!」
「女の子を鎖で縛るなんて、あの宇宙人変態だわ!」
真たちはガイとともに鎖を解き、春香を解放した。
「全く、軽はずみなのがお前の悪いところだ」
「す、すみませんプロデューサーさん。ご迷惑掛けちゃって……」
「まぁいいさ。それより――伏せろッ!」
春香を助け出したところで、ガイが三人を引っ張って伏せた。直後にハイパーゼットンデスサイスのカマが飛んできて、パイプを真っ二つに両断した。
ハイパーゼットンの正面にマドックが立ち、ガイたちに向けて光線銃を向ける。
『よくもやってくれたなぁ! お返しをしてやろうッ!』
光線銃でガイを狙うマドックに対して、伊織が近くの消火器に目を留めて手を伸ばした。
「真っ!」
「うんっ!」
渡された消火器を受け取った真が手早く構え、マドックが銃を撃つより早く消火液を浴びせかけた。
「食らえぇぇっ!」
マドックは顔面に液を浴びてひっくり返る。
『ぎゃああッ!? 目、目が染みるぅぅぅぅッ!』
マドックは倒れ込んだが、代わりにハイパーゼットンが真たちをつけ狙う。ガイは真の腕を引いた。
「ひとまず脱出だ! ついてこいッ!」
「は、はいっ!」
四人はハイパーゼットンが放ってくる火球から逃れ、非常口から脱していく。そのタイミングでマドックが起き上がった。
『逃がすものか! ハイパーゼットンデスサイスッ!!』
「ピポポポポポ……」
命令を受けたハイパーゼットンが、更に巨大化していって地下室の天井を突き破っていった――。