THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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Miraclemaker(B)

 

 オーブによって大気圏外へと押し出された火の玉へ、三機の青と銀色の戦闘機――ビートル隊の専用機ゼットビートルが向かっていき、ありったけの冷却弾を撃ち込む。

 だが、火の玉に変化は全く起こらない。

 

『こちらビートル本部! 現場の様子を報告せよ!』

 

 本部からの通信に、ゼットビートルの一機の操縦士が応答する。

 

『駄目です! 冷却弾、効果ありません!』

 

 火の玉は依然として宇宙空間で燃えたぎったままであり、その影響は地上に及び続けていた――。

 

 

 

 夜、春香たちが交代で寝込んだままのガイを団扇であおいでいると、事務所に渋川がやってきた。

 

「へあぁ~! あっついなオイッ!」

「叔父さん!」

「春香ちゃん、プロデューサー君の様子はどうだ?」

 

 渋川の問いに、春香は残念そうに首を振った。

 

「そっかぁ……。ヘイ、ヘイヘイそこの三つ編み眼鏡ちゃん!」

「秋月律子です!」

 

 渋川は律子を見やると、そちらにズカズカと近づいていった。

 

「この事務所で、あの火の玉について何か分かったことないか? ビートル隊でも調べてんだが、未だ正体が分からないのに、冷却弾が全く効かない! かと言って、あのままにしておく訳にはいかねぇしな。ほら……例の奴に情報載ってねぇか? あの三瓶布団っていう」

「太平風土記です。全然合ってないじゃないですか」

「そうそれだよ。俺は、あいつが怪獣じゃねぇかと踏んでるんだ。だったらお前たちが何か掴んでるんじゃねぇか? 教えてくれよ」

「そうやっていつも邪険にするのに、都合のいい時だけ頼ってくるのよしてもらえません? ……まぁ載ってますけど」

「あるんじゃねぇかぁ」

 

 律子が見せたタブレットには、太平風土記の一ページが表示されている。内容はこうだ。

 

「“空に二つの日輪昇りし時、地上のもの皆焼き尽くされ……”」

「二つの日輪って、太陽と、あの火の玉のことか?」

 

 渋川の聞き返しにうなずく律子。

 

「続きがあります。“偽りの日輪、これ災いの焔、禍破呑の仕業なり”」

 

 風土記の挿絵には、火の玉の中に首の側面に鳥のような顔を持つ怪獣が描かれていた。

 

「やっぱりそうか……」

「あのまま火の玉が地上に留まり続けてたら、至るところで高温火災が発生してたことでしょう」

「そして、辺り一面は火の海だ。大惨事の一歩手前だったって訳だ」

 

 律子と渋川の会話を耳にして、千早が春香に耳打ちした。

 

「それを思えば、やっぱり春香の判断は正しかったのね」

「……でも……」

 

 春香は戸惑い気味に寝込んでいるガイを一瞥した。

 その様子に渋川がふと気づく。

 

「ん? 春香ちゃん、何を話してるんだ?」

「い、いいえ!? 何でもないですよ!」

 

 ドキッとして慌ててごまかす春香。と、その時、パソコンの画面を凝視していた小鳥が律子を呼んだ。

 

「律子さん、これ見て下さい!」

「どうしたんですか小鳥さん? ……大変! 渋川さん、これを!」

 

 律子は渋川を呼んで画面を指差した。春香たちも画面を覗き込むと……それは大気圏外の火の玉の監視画面だった。

 その中の火の玉が、地上に向かい始めているのだ!

 

「えぇっ!?」

「火の玉の高度が下がってきてるわ!」

「怪獣が活動を再開したの!」

 

 千早と美希が叫ぶと、渋川が即座に通信機を取り出してビートル隊本部と交信した。

 

「こちら渋川! あの火の玉の正体は、怪獣の可能性が極めて高い模様! 至急至急、ありったけの地対空ミサイルで撃ち落とされたし!」

 

 渋川の要請により各地のビートル隊基地から地対空ミサイルが地表へ降下していく火の玉に向かって発射されたが、ミサイルは火の玉の熱波によって着弾する前に誘爆してしまう。

 

「こりゃあやべぇな……。万一の事態に備えて、上に掛け合ってこの付近一帯に緊急避難指示を出してもらおう!」

 

 渋川が事務所から飛び出していく直前、春香たちの方へ振り返る。

 

「お前たちも早く避難した方がいい。……って、プロデューサー君が倒れたままだったか」

「うん。プロデューサーさんを放って逃げることなんて出来ないよ……!」

 

 春香の返答に苦笑する渋川。

 

「分かった。けど彼が目ぇ覚ましたらすぐに避難するんだぜ! それじゃあばよッ!」

 

 格好つけて事務所から走り去っていく渋川。それを見届けてから、あずさが律子に尋ねかけた。

 

「律子さん、魔王獣の地上到達は何時くらいになりそうですか?」

「今のままの速度だと、ちょうど日の出の時間帯くらいになりそうですね……。それまでにプロデューサーが目を覚ましてくれるといいんですけど」

 

 小鳥がガイの体温を確かめる。

 

「触れるくらいには熱下がったけれど、それでもまだ高いわね……。どうにか良くなってくれるといいんだけど……」

「オーブがいなければ、きっと魔王獣を倒すのは無理だわ……」

「ハニー……早く元気になって……!」

「プロデューサーさん……」

 

 千早たちは祈るように、ガイをじっと見つめて看病を続けた。

 

 

 

 それから時間が経過し、太陽が街の向こうより顔を覗かせた頃に、ガイはゆっくりとまぶたを開いて身を起こした。

 

「うッ……ここは……」

「あっ! ハニーが目を覚ましたの!」

 

 それに気がついた美希の呼び声により、春香たちがガイの周りに駆け寄ってくる。

 

「プロデューサーさん、大丈夫ですか!?」

「お前たち……。そうか、俺はあれからずっと……。悪い、心配かけたな……」

「いいんですよ。プロデューサーが回復したのなら、それで」

 

 ほっと安堵する千早。気を失う直前までのことを思い返したガイは、ハッと周りに問いかけた。

 

「そうだ! あの火の玉はどうなった!?」

「それが、宇宙からまた戻ってきて……」

 

 小鳥が答えかけたその時に、パソコンの画面を見つめていた律子が叫んだ。

 

「下降が止まったわ!」

 

 

 

 火の玉が宇宙空間から元の位置にまで戻ってくると、その中に本体を隠している魔王獣が左右のクチバシをおもむろに開いた。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 そしてそこから火炎弾を吐き出し、地上への無差別攻撃を開始する! 上空から降り注がれる無数の火炎弾が建物を次々襲い、爆砕して街を火の海に呑み込んでいく。

 

 

 

 魔王獣の爆撃による震動は、765プロ事務所にも届いていた。窓を開けたアイドルたちの視界に飛び込んでくるのは、どんどん火災に呑まれていく街の光景。

 

「大変だわ……!」

 

 律子の声が震える。

 

「このままだと、避難指示が出ていない地域にまで火の手が及んでしまう。そうなる前に早く止めないと!」

「ああ……! 俺もお前たちのお陰ですっかり回復した。リベンジ戦だ!」

 

 勇んでソファから立ち上がったガイに、春香が駆け寄って告げた。

 

「プロデューサーさん、私を連れてって下さい!」

「春香! だが、ダメージは俺が引き受けたとはいえお前にも初戦の影響があるはずだ。連戦をさせるのは……」

「春香、ここはミキに任せて!」

 

 ガイと美希が言い聞かせたが、春香は首を横に振った。

 

「私の身体も、ひと晩経って回復してます。それに……プロデューサーさんが重傷を負ったのは、やっぱり私にも責任があると思うんです。だから私自身の手で、あの魔王獣と決着をつけたいんですっ!」

 

 言葉とともに向けられた春香の火災にも負けない熱い想いに、ガイも美希も言い返すことは出来なかった。

 

「……分かった。だが今度も無茶をするんじゃないぞ」

「はい!」

「待った待った!」

 

 どんどん話を進めるガイたちに、律子が割って入った。

 

「無策で飛び出していっても、あの魔王獣を倒すのは無理です。また大気圏外に押し出すのも、次は通用しないでしょうし」

「じゃあどうするというの、律子?」

 

 千早が聞き返すと、律子は皆に語る。

 

「ちゃんと私が作戦を考えておいたわ」

「作戦? どんな」

「バーンマイトで起こす爆発を、火の玉にぶつけるのよ!」

 

 律子の提示した策に驚く美希。

 

「えっ!? 火に火をぶつけても、余計燃えちゃうんじゃないの?」

「いいえ。爆風消火と言って、猛烈な勢いの爆風で火を一気に吹き消すのよ。大規模火災に有用な消火方法で、これならあの火の玉にも通用するはずです」

「なるほど……! 助かるぜ律子!」

 

 作戦を授けられたガイがタロウとメビウスのカードを取り出し、アイドルたちに順番に向けた。するとあずさに向けられた際にカードが仄かに輝いた。

 

「この中でバーンマイトと波長が合うのはあずささんだけですね。それじゃあ……!」

「でもプロデューサー、まだ一つ問題があるんです」

 

 逸るガイを制止する律子。

 

「火の玉はそれで消し止められても、本体は火の怪獣。バーンマイトでは倒し切れない可能性が大です」

「それじゃあどうするの!?」

「バーンマイトとスペシウムゼペリオン、この二つを使い分けて戦わなければきっと勝てないわ」

 

 美希の聞き返しに律子はそう答えたが、ガイは四枚のカードに目を落としながら苦悩する。

 

「その両方と波長が合う奴はいない。俺が自力で変身できれば、こんなことには……」

「今言っててもしょうがないですよ、プロデューサーさん!」

 

 春香が作戦を提示する。

 

「最初にバーンマイトになってる間、私が近くで待機してます! 怪獣の本体を引きずり出したら、すぐにあずささんから私と交代して下さい!」

「だがそれは危険だ! 魔王獣は俺といるお前を狙ってくるに違いない!」

「でもそれ以外に方法は……」

「いいえ、もっといい方法があるわ」

 

 ここでそれまで黙っていたあずさが、話に加わった。

 

「プロデューサーさん、フュージョンアップは一度につき一人だけですか?」

「いえ、試したことはないですが人数に制限はないはずです」

「それなら……」

 

 あずさが春香の後ろに回って、その肩に手を置いた。

 

「私と春香ちゃんと、同時にフュージョンアップするんです。それなら二つの形態を使い分けられますよね?」

「えぇ!?」

 

 あずさの提案に、ガイたちは一様に驚かされた。

 

「あずささん、それこそ無茶です! 複数人とのフュージョンアップは俺にとっても未知の領域。最低でも、二人の精神がシンクロしないとむしろ動きに支障を来たす可能性が高い!」

 

 それにあずさが言い返す。

 

「それなら大丈夫ですよ。私たちはアイドル、隣の人と呼吸を合わせるのは慣れっこです。練習だって何度もしてますし」

「ですが……!」

 

 渋るガイだが、事務所に響く震動と熱波が強くなってきた。これ以上の迷いなど許されない。

 

「……やるしかないか! それじゃああずささん、春香、頼みます!」

「はい!」

「わ、分かりました!」

 

 ガイがあずさと春香を引き連れて、事務所を飛び出していく。

 

「ちょっ! あずささん、こっちですよー! どっち行くんですか!?」

「あらあらぁ?」

 

 それから律子が千早、美希にねずみ色のボディアーマーとヘルメットを投げ渡した。

 

「怪獣災害用にこさえておいた耐火スーツよ! 私たちはこれ着て行くわよ~! プロデューサーたちの奮闘、しっかりカメラに収めて世間に知らせないと!」

「ええ!」

「りょーかいなの!」

「律子さんたちも、くれぐれも気をつけてね!」

 

 炎に呑まれていく街に臨んでいく皆を、小鳥が激励して見送った。

 

 

 

 上空から火炎弾を発し続ける火の玉に近づいていったガイと春香とあずさの三人は、適当なところでフュージョンアップを敢行する。

 

「二人とも、準備はいいか?」

「はいっ!」

 

 問うたガイに固くうなずくと、まずはあずさがタロウのカードを手にした。

 

「タロウさんっ!」

 

 それをガイの持つオーブリングに通す。

 

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

 

 続いて春香がメビウスのカードをその手に握った。

 

「メビウスさんっ!」

 

 カードをリングに通し、二人のウルトラマンのビジョンが現れる。

 

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』

 

 そしてガイがリングを高々と掲げる。

 

「熱い奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 タロウとメビウス、そしてあずさと春香がガイと融合していく!

 

『トワァッ!』『タァッ!』

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 変身を遂げたオーブ・バーンマイトが、昇る太陽を背景に大地の上に立った!

 ガイが仁王立ちしながら己の身体の具合を確かめ、驚きの声を出す。

 

『すごい……! 同時に二人とフュージョンアップしたというのに、異常が全くない……! むしろ、いつも以上の力が沸き上がってきてるぜ……!』

 

 あずさと春香の精神は眩いほどに紡ぎあって、障害となるどころか二人分のエネルギーがオーブの力に加わり、更なる力を引き出しているのだ。

 

『こんなにも上手く行くなんてな……! 奇跡だ!』

『「いいえ」』

 

 オーブのひと言を否定するあずさ。

 

『「いっぱいレッスンを重ねてきたんですもの、当然の結果です」』

『ははッ、あずささんには敵わねぇなぁ……』

 

 苦笑したオーブが振り返り、空に浮かぶ火の玉を視界に収めて全身を熱く燃え上がらせた。

 

『よぉし待ってろ魔王獣! 今度の俺たちは、ちょっと違うぜぇッ!』

 

 勢いよく前に駆け出し、火の玉の下へと飛び込んでいく。火の玉からはオーブを迎撃しようと火炎弾が放たれるが、オーブはそれも抜けていく。

 火の玉が射程内に入ったところで、オーブがあずさと春香に呼びかけた。

 

『お前の炎を吹き飛ばしてやる! 二人とも行くぞッ!』

『「「はいっ!!」」』

 

 堂々と胸を張ったオーブの前に、灼熱の火球が生じた。それを上空の火の玉へ向かって一直線に飛ばす!

 

「「『ストビュームバースト!!!」」』

 

 オーブの火球が火の玉に命中すると、大爆発を起こして火の玉を一瞬にしてかき消した!

 

「やったわっ! オーブの攻撃が見事成功しました!」

 

 律子たちは戦闘の撮影を開始し、千早がストビュームバーストを実況した。美希は爆発で生じた立ち込める黒煙を指差す。

 

「見て! 中身が下りてきたの!」

 

 煙から脱して、地表に降りてくる真っ赤なトゲだらけの双頭の怪獣。首にマガクリスタルを宿す、火ノ魔王獣マガパンドンが遂に姿を晒したのだ!

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 ここからが戦いの本番だ。オーブはまっすぐに駆け出してマガパンドンに体当たりを仕掛ける!

 

「ウゥッ! ショアッ!」

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 全身でぶつかってきたオーブにマガパンドンは腕を振り回し、尻尾をぶつけてはね飛ばした。だがオーブにさしたるダメージはない。

 

『何のこれしきッ! 今の俺たちは力が滅茶苦茶たぎってるぜぇッ!』

 

 あずさと春香の力を得ているオーブはマガパンドンの攻撃を物ともせず、その頭部を抑えつけて動きを封じる。マガパンドンは左右のクチバシから火炎を吐こうとするが、

 

『「こらっ! 火遊びしちゃいけません! みんな迷惑してるじゃない!」』

 

 あずさが怒り、オーブが拳をその中に差し込んで火炎もふさぎ込んだ。

 

「ガッ……ガガッ……!」

 

 口をふさがれたマガパンドンが無理矢理オーブを押し飛ばしたが、マガパンドンの首が下がったところに強烈な膝蹴りがお見舞いされた。

 

「シェアァッ!」

 

 更にワンツーパンチがボディに叩き込まれ、マガパンドンの動きが鈍っていく。オーブはその隙を逃さず相手の胴体を抱え込んで、肩の上に担ぎ上げた。そのままマガパンドンをぶんぶん振り回す。

 

「オオオオオ……! オリャアアアァァッ!」

 

 遠心力をつけて一気に地面に叩き落とすことで、マガパンドンを大きく弱らせる。その隙にオーブは再フュージョンアップを行う。

 

『「ウルトラマンさんっ!」』

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 春香が手にしたリングにウルトラマンのカードを通し、次にあずさがティガのカードを通した。

 

『「ティガさんっ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 二枚のカードを通して春香がリングのトリガーを引いた!

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

『これでとどめだッ!』

 

 バーンマイトからスペシウムゼペリオンへの変化を華麗に遂げたオーブが、両腕を十字に組んだ。

 

「「『スペリオン光線!!!」」』

 

 放たれた光の奔流が、立ち上がったマガパンドンの首に炸裂!

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 マガパンドンは光線の直撃を耐えながら前進し、オーブに接近してくるが、春香もあずさも決してひるまなかった。それどころかより光線の威力を高める。

 

『「「行けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」』

 

 光線が留まることなく照射され続けて、マガパンドンの全身が熱せられてもっと赤くなっていく。

 

「ガガァッ! ガガッ……!!」

 

 マガパンドンもとうとう耐え切れなくなって、途中で足が止まった。そのまま後ろに倒れ込んでいって、全身が爆発を起こしたのであった。

 

「やったぁっ! やりました! ウルトラマンオーブの大勝利ですっ!」

「わーい! やったのハニ……!」

 

 口走りかけた美希の口を、律子が慌ててふさぎ込んだ。

 オーブは己の内側の春香とあずさに呼びかける。

 

『春香、あずささん、ありがとう。特にあずささんには助けられましたね』

『「うふふ、こちらこそ無事にお力になれて何よりです」』

 

 あずさが朗らかに笑って返事すると、オーブは大空に飛び上がってこの場から飛び去っていったのだった。

 

「シュウワッチ!」

 

 

 

 それからガイの姿に戻ってマガクリスタルの前まで歩み寄ると、オーブリングを向けて光のエネルギーをかき集める。

 リングを通って出来上がったのは、青と赤の身体と頭部に二つのトサカを持った、鋭い眼光のウルトラ戦士のカードだった。

 

「おぉ! マガパンドンを封印してたのは、ウルトラマンゼロさんの力でしたか。お疲れさんです」

 

 

 

 別の場所では、ジャグラーがダークリングでマガパンドンの残滓を吸引する。

 

『ガガァッ! ガガァッ!』

 

 ジャグラーはリングからマガパンドンのカードを引き抜くと、ニヤリと妖しい微笑みを浮かべ、左手で五枚の怪獣カードを取り出した。

 

「闇と光……そして、風……土……水……」

 

 この五枚にマガパンドンのカードを加え、不敵に笑うジャグラー。

 

「これで全ての魔王獣がそろった……。残るは、黒き王の力のみ……!」

 

 唱えながら、空の一点を見上げる――。

 

 

 

「ふぅ~。ようやくひどい暑さが収まって、ひと安心だぞ~」

 

 マガパンドン退治後、事務所で響がどっかとソファに腰を下ろして長い息を吐いた。しかし窓の外を見やって顔をしかめる。

 

「でも雨で空気がジトジトしてるさー……。いまいちすっきりしないぞ」

 

 マガパンドンを倒したことで、気候が元の状態に戻って雨が降り始めたのだ。響のため息にやよいと貴音が苦笑を漏らす。

 

「梅雨ですし、雨は仕方ないですよぉ」

「これがあるべき自然の姿です。雨の風情を楽しむのも乙なものですよ」

「うーん……風情とかそういうのは、自分にはよく分かんないぞ」

「ぢゅいッ」

 

 亜美や真美ら、早朝に事務所にいなかった者は美希たちから今回の戦闘の話を聞いていた。

 

「って訳で、あずさの提案で春香とあずさが同時にフュージョンアップしたんだよ」

「へぇ~。あずさお姉ちゃんがそんな大胆なこと言い出すなんてねぇ」

「ちょっと意外だなぁ」

 

 真が腕を組んでつぶやくと、あずさは微笑を浮かべた。

 

「うふふ、女は度胸よ」

「わっ! 今のちょっとカッチョよかったかも、あずさお姉ちゃん」

 

 一方、千早はふと春香があらぬ方向を向いているのに気がついた。

 

「どうしたの、春香?」

 

 春香の見ている先では、ガイがハーモニカを吹いてくつろいでいた。そこに律子がやってきて、目の前に書類の山をドサッと置く。

 

「プロデューサー殿! サボってないで仕事して下さい! 寝込んでた分の仕事が溜まってるんですからね!」

「お、おいおい律子! 俺今回すごく頑張っただろ! もうちょっと労わってくれても……」

「ダーメーでーす! やるべき仕事を先に片づけるのが社会人ってものです! さぁほら、キリキリ働く! ウチに余裕はないんですからね!」

「はぁ……全く人遣いが荒いぜ……」

 

 そんなガイと律子のやり取りをながめ、春香はうなった。

 

「う~ん……」

「何がおかしいの? いつも通りの光景に見えるけど」

「いやそうじゃなくってね……」

 

 春香はガイの仕舞ったハーモニカを見つめ、頬に手を当てた。

 

「いつも思うんだけど……プロデューサーさんの奏でる曲、どこかで聞いたような気がするんだよね……。どこだったかな……」

 

 とつぶやきながら首をひねったが、答えは浮かんでこなかった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

あずさ「どうも、三浦あずさです。今回ご紹介するのは、ウルトラ兄弟ナンバーシックス、ウルトラマンタロウさんです」

あずさ「タロウさんは1973年放送の『ウルトラマンタロウ』の主人公です。円谷プロ創立十周年記念作として、『ジャンボーグA』『ファイヤーマン』と同時期に制作されたんですよ」

あずさ「特徴としては、前作『ウルトラマンA』で作られた要素「ウルトラ兄弟」を更に発展させて、より子供に親しみやすいウルトラマン像を打ち立てたんです。作風も、ほのぼのとしたコメディ色が今まで以上に強くなりました」

あずさ「でもそれはウルトラマンの神秘性を打ち消すことにもつながってるので、難色を示す人も多かったそうですが、実際の作品では締めるところはきちんと締めてますので、言うほど子供っぽいという訳でもありませんよ。うふふ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Mythmaker』だ!」

ガイ「CD『MASTER SPECIAL 05』初出のあずささんのソロ曲で、765プロ最年長アイドルという要素を押し出したアダルト感満載の一曲だ! そういう歌は案外珍しいぞ」

ガイ「けどあずささんの大人のイメージって、大部分を担当声優の影響が占めてるような……」

あずさ「あらあら。それは言わないお約束ですよ」

あずさ「それでは、次回をよろしくお願い致します」

 




 は、萩原雪歩ですぅ。765プロの前に怪しい宇宙人が現れました! しかも春香ちゃんが捕まっちゃった! 真ちゃん、伊織ちゃん、喧嘩してる場合じゃないよ~! プロデューサーと一緒に、春香ちゃんを助けてあげて!
 次回『逃げないMind』。プロデューサーの新しい姿、すごいですぅ!

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