THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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特別編『UNION!! みんなの願い!!』
Artificial Star


 

 

 

 

 

 ――奇怪な数列がビッシリと並ぶ不気味に赤い空の下、土ではない、燃え盛る鋼鉄の大地が果てしなく広がっていた。その上には、廃墟のような建築物が立ち並び、やはり全てが無機質な鋼鉄で出来上がっている。明らかに、地球とは異なる異様な世界。

 更にその大地には、至るところに白い龍のようなロボットの残骸が転がり、その中央に、胸にリング状のカラータイマーを持った戦士――ウルトラマンオーブが十四人も集って、今は単体の敵と対峙していた。

 ウォォォォオオオオオ――――――ン……!!

 亀甲を背負った巨龍を象った、全身に砲身を生やした巨大ロボット怪獣! ――だが、その機体は既にオーブたちの猛攻によって破損箇所まみれであり、首は半壊して回路が露出している。

 

『「やっと、ここまで追いつめた……!」』

『「あともうひと踏ん張りだわ……!」』

 

 肩で息をするオーブ・スペシウムゼペリオンとエメリウムスラッガー――その中にいる春香と千早がうなずき合った。

 彼らはオリジナルのウルトラマンオーブ――プロデューサーの紅ガイと、彼と絆を交わして力を借りることの出来る765プロのアイドルたち。それが総出で、この機械の星の軍勢と一大決戦を展開していたのだ。

 

『みんな行くぞッ!』

 

 オーブオリジンが合図を出し、オーブカリバーの力を全て発揮する。

 

[解き放て! オーブの力!!]

『オーブスプリームカリバー!』

 

 立ち並ぶオーブたちの正面に光のリングが広がって、十四人が一斉に必殺光線を発射した!

 

『「スペリオン光線!」「ワイドスラッガーショット!」「クロスレイスペローム!」「ストビューム光線!」「クラッシャーナイトリキデイター!」「ストキシウムカノン!」「オーブランサーシュート!」「ナックルクロスビーム!」「ギンガエックスシュート!」「フォトリウムシュート!」「ゼペリジェント光線!」「マクバルトアタック!」「エメタリウム光線!」』

『オリジウム光ぉぉぉぉぉ線ッッ!』

 

 十四人の光が一つとなって巨大な光の奔流となり、巨龍を呑み込んだ! 重厚な機体は、跡形もなく破壊されていく――。

 

『「やった!! やりましたー!!」』

『「これで、全宇宙が救われるんですね……」』

『ああ……!』

 

 やよいが飛び跳ねて喜び、雪歩が安堵の息を吐く。それに首肯するオーブ――。

 しかし!

 

『――何!?』

 

 巨龍が消え去った後に、ふわふわと浮かぶ金属の球体。巨龍のコアである。

 それ自体には、傷一つついていなかった!

 

『そんな馬鹿な……! あれだけの攻撃を食らって……!』

 

 流石に動揺が走るオーブたちの見ている先で、コアの全体が不意にぶれてかき消えていく。コアだけでなく、オーブたちが立つ地面、引いては惑星全体が消失していっている。

 

『「デジタル化して逃げる気だわ! 早く捕獲を……!」』

 

 律子が叫んだがもう遅く、コアは惑星ごと消え失せ、そんなものはなかったかのように何もない宇宙空間の中にオーブたちだけが放り出された。

 

『……こいつは、思った以上にてこずりそうだな……』

 

 最早追跡することも叶わず、オーブオリジンはそうつぶやくのが精一杯であった。

 

 

 

THE ULTRAM@STER ORB 特別編

 

『UNION!! みんなの願い!!』

 

 

 

 M78ワールドの光の国、宇宙警備隊本部にて。

 

『巨大人工頭脳ギルバリスが、あらゆる宇宙の知的生命体を抹殺しようとしている』

 

 ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブンの三大戦士に、ウルトラの父が告げていた。ゾフィーがウルトラの父に報告する。

 

『オーブたち765プロがギルバリスと交戦しましたが、ギルバリスは本拠地サイバー惑星クシアごと逃走。行方は掴めていません』

 

 ウルトラの母が皆に告げる。

 

『救助活動を続けている銀十字軍からの報告によると、ギルバリスは何かを探しているようです』

 

 ゾフィーとウルトラの母の報告を聞いたウルトラの父が、懸念するようにM78星雲の空を見上げた。

 

『何を狙っている……』

 

 

 

 消えた惑星の追跡を断念した765プロは、やむなく彼らの拠点、765プロ宇宙事務所に帰還した。外装は光の国の建物を模しているが、中身は彼女たちに最も馴染みのある、地球の765プロ事務所を再現している。

 亜美と真美が足をジタバタさせて喚いた。

 

「あーもー! やっとあそこまで追いつめたってのにー!」

「尻尾巻いて逃げるなんて男らしくないぞー!」

「性別なんてないだろうけどね」

 

 伊織が肩をすくめて突っ込んだ。

 皆も苦悶の表情を浮かべている中、あずさがガイに進言する。

 

「プロデューサーさん、ここで一旦状況を整理してはどうでしょうか?」

「ですね。律子、まとめ役頼む」

「はいはい」

 

 指名された律子がパンパン手を叩いて全員の注目を集めた。

 

「それじゃ、現在私たちが追いかけてる人工頭脳ギルバリスと、今のところまでの状況を再確認するわよ」

 

 律子がタブレットを使って空中に立体モニターを表示させる。その中に映し出されたのは、先ほどまで戦場だった鋼鉄の惑星と、それを操る巨龍のコア。更に白い龍人型のロボットの姿も表示された。

 

「これがさっきまで私たちが戦ってた、巨大人工頭脳ギルバリスとサイバー惑星クシア。これがどこからやって来たのかは現在不明だけれど、ギルバリスは知的生命体の抹殺を目的として宇宙をさすらい、既にいくつもの星を破壊してるわ。あのギャラクトロンも、ギルバリスが造り出したものだったということが判明してる」

 

 ギャラクトロンの名に、春香と美希が険しい顔となった。

 

「今回の戦闘で分かったのは、ギルバリスの機体は破壊できても、コアは異常なほど頑丈なことね。きっと、ウルトラマンの光線を全て弾いてしまうのよ。更にそこまで追いつめられると、惑星ごとデジタル化してサイバー空間に逃げ込んでしまう。こうなると追跡はほぼ不可能だわ。宇宙警備隊が何度も取り逃がしてるっていうのも、納得のいく話ね……」

 

 顎に指を掛けて、眉間に皺を寄せる律子。

 

「更に新しい情報によると、ギルバリスは同時に何か探し物をしてるみたい」

「その探し物って?」

「そこまでは掴めてないわ」

 

 真の問い返しに、律子は首を振って答えた。

 腕組みしてうなっていた響が発言する。

 

「今のまんまじゃ、いくらギャラクトロンをやっつけても何にもなんないぞ。ギルバリスをやっつける方法はないのか?」

「きっと、いえ、必ずどこかにはあるはずよ」

 

 律子が力強く返す。

 

「この世に絶対壊れない物質なんて存在しないわ。たとえば同じ物質同士をぶつければ、理論的には破壊は可能よ。問題は、ギルバリスのコアを構成する合金が不明ということなんだけど……」

「そもそも、ギルバリスはどこからやって来たからくりなのでしょう」

 

 貴音の口にした疑問に美希が同意した。

 

「それだよね。人工頭脳、っていうからには、最初に造った人がいるはずなの」

「律子、そこも分からないの?」

 

 千早が聞くと、律子は残念そうに頭を振った。

 

「それが、ギルバリスと惑星クシアに関連することは不自然なくらいに記録が残ってないのよ。恐らく、ギルバリス自身が消去してしまったんだわ」

「何でわざわざそんなことを?」

「そりゃあ、知られたらまずいことがあるからでしょう」

 

 真に律子がそう答えると、亜美と真美が肩を揺すり出した。

 

「んっふっふ~。その消された記録の中に、ギルバリスの弱点につながる何かがあるみたいですな~」

「ギルバリスの探し物も、それが関係してるかも! これが真美たち名探偵の名推理だ~!」

「それくらいの推理、誰にでも出来るでしょ」

 

 伊織がジト目でツッコんだが、

 

「はわっ!? そうなんだ~。亜美、真美、頭いいねー!」

「……やよい……」

 

 やよいが素直に驚いているのを見て、がっくり肩を落とした。

 なんてことをしていると、伊織の通信端末が着信を報せた。

 

「あっ、ちょっとごめんなさい。もしもし?」

 

 断りを入れてから通話する伊織。すると、スピーカーからの声は、

 

『はい伊織、久しぶりね。私よ、麗華』

「麗華! 電話なんかしてきて、今度は何の用よ」

 

 ある意味宿命のライバルである、魔王エンジェルの麗華からであった。とげとげしい口調の伊織に、麗華は電話越しにため息を吐いた。

 

『そんなつれない声出さないでよ。今宇宙を騒がしてるギルバリスを追ってるんでしょ? そのことで、いいことを二つ教えてあげようと思ったのに』

「え? それ、どういうことよ」

『伊織たちもギルバリスを取り逃がしたんでしょ? 実はその後に、ウチのプロデューサーがクシアに乗り込んだみたいなのよ』

「え!? ジャグラスジャグラーが!?」

 

 ジャグラスジャグラーの名前が出てきて、ガイたちの注目が一気に伊織に集まった。

 

『脱出は確認したけど、プロデューサーったら何の迷いもなく並行宇宙の地球に向かっていってるの。きっと何か掴んだんだわ。追いかければ、ギルバリスについて何か分かるかもよ?』

「……もう一つは?」

『記録が抹消されてるギルバリスの情報を持ってる人が、宇宙スラム街にいるらしいの。前にそこで情報屋を探してた三人組がいたんだって。色々と手詰まりでしょう? この二件を、追っかけてみるのもいいんじゃない?』

「何だってあんたがそんなこと教えてくれるのよ。また何かたくらんでるんじゃないでしょうね」

『ま、そこは自分で判断して。ともかく伝えたいことはそれだけよ。あとはがんばってねー♪』

「あっ、ちょっ……!」

 

 麗華は言いたいことだけ告げると、伊織が止めるのも聞かずに一方的に通信を切った。

 

「もう、自分勝手なんだから……」

「伊織、何て話だった?」

「それが……」

 

 ガイの問いかけで、伊織は皆に先ほどもたらされた話をかいつまんで報告した。

 

「ジャグラーの奴が……あいつ、どんな風の吹き回しだ」

「どうしますか? プロデューサー」

 

 雪歩が聞くと、ガイは少し考えてから結論を出した。

 

「ジャグラーがどこかの星に逃げ込んだのなら、その星が危ない。のんびりしてる暇はなさそうだ。二つのグループを作ろう。俺の方は宇宙スラムで情報屋探し、もう一方はジャグラーを追いかけてくれ」

「そうしましょう」

 

 律子がうなずき、話が纏まったところで春香が締めに入る。

 

「ギルバリスの秘密が何なのか、対抗する手段は何か……きっと、この件で明らかになると思う。今度こそ、みんなの力を合わせてギルバリスを止めよう! 765プロぉー……」

『ファイトぉーっ!!』

 

 春香の音頭でアイドルたちが声をそろえ、事件の解決に向けて再出発を始めた。

 

 

 

 春香、美希、あずさ、やよい、真、伊織の六名はガイとともに宇宙スラム街に向かい、残る千早、雪歩、律子、亜美、真美、響、貴音の七名は麗華から送られてきた情報を元に、ジャグラーの行方を追ってある惑星に到着した。その惑星とは――。

 

「またここに来るなんてね」

 

 千早が感慨深そうにつぶやいた。たどり着いた星は、以前にビランキを追いかけてやってきた、比企谷八幡という少年がウルトラマンジードと一体化してレイデュエスという悪と戦っていた地球であった。

 

「兄ちゃん姉ちゃんたち元気にしてるかなー」

「悪い人はやっつけられたのかな?」

「ネットの情報を見る限りだと、無事に決着がついたみたいね。それより……」

 

 タブレットで地球のネットニュースにアクセスしていた律子が、周りを見回しながらポツリとつぶやく。

 

「何で私たち、沖縄にいるの?」

 

 彼女たちの現在地は、沖縄県の中核都市、那覇市の片隅であった。

 

「確か、着陸場所決めたの響ちゃんだったよね?」

 

 雪歩のひと言で、皆の注目が響に集まった。

 

「何、響? 急に里帰りしたくなっちゃったの? でもここ私たちの地球とは違うんだけど」

「そ、そうじゃないぞ!」

 

 律子の呆れ半分の冗談に弁解する響。

 

「地球が見えてきたところで、何か声が聞こえたのさー。それに呼ばれるように、気がついたら沖縄を選んでたんだぞ」

「声? 一体誰の声よ」

「それはわかんないけど……でも確かに聞いたぞ。ねぇハム蔵」

「ぢゅいッ」

 

 響の頭の上に乗っかっているハム蔵がひと声鳴いた。

 

「……って、その顔信じてないなー!? ほんとだってば! 着陸地点間違えたとかじゃないんだって!」

 

 律子たちが明らかに呆れ返っている顔なので響が喚いていると、貴音が彼女の肩を持つ。

 

「わたくしは響の言うことを信じます。プロデューサーも、聞こえるはずのない状況で助けを呼ぶ声を何度も聞いた経験があると言っていたではないですか。人から人への呼び声は、心のつながりで届くのでしょう」

「まぁ、今の私たちだったらいくらでもありそうなことだけど」

「でしょ? きっと沖縄のどこかに、自分たちみたいな人を求めてる人がいるんだぞ!」

 

 貴音に味方についてもらった響は意気揚々と言い切った。しかしここで千早が、

 

「だけど、沖縄とひと口で言っても広いでしょう。顔も知らない人を見つけられるかしら」

「任せるさー! 沖縄だったら自分の庭みたいなものだからね! みんな、自分についてくるさー!」

「あっ、ちょっと響! だから……!」

 

 律子の制止も聞かず、響が先頭に立って脇道に入り、皆を誘導し始めた。

 しかしほどなくして、閑静な住宅地の真ん中まで来たところで笑顔に冷や汗を垂らした。

 

「あ、あれ? ここどこ? さっきの道が近道のはずなのに……」

「だから、いくら並行宇宙でも歴史が違えば町並みも違うわよ。特に細部は」

 

 律子にツッコまれ、響は頭を抱えて天を仰ぐ結果となった。

 

「うぎゃー! こんなはずじゃー!」

「仕方ないわね……」

 

 やれやれと肩をすくめ合った律子たちが、タブレットで現在地を確かめようとした、その時、

 

「あの……何かお困りですか?」

「あっ、すみません。実は道に迷ってしまいまして……」

 

 後ろから声を掛けられ、振り返った千早が声の主を目の当たりにした瞬間、言葉が途切れた。

 

「……あなた……」

 

 胸に青い宝石が煌めくペンダントを提げた女性から、千早たちは何かを感じ取って一様に立ち尽くした。

 女性の方も、765プロ一行から何かを見抜いたのか、驚いた顔でこちらを見返していた。

 


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