「わぁぁぁっ!」
銭湯から脱出した春香たちは、今度はどこかの街の路地のような場所に放り出された。
「アァーッ!」
しかしそんな彼女たちの後を、ガッツ星人は執拗に追いかけてくる。
「きゃああぁぁ―――――!」
必死に逃げ回る春香たち。しかし角を曲がったところで、渋川がスーパーガンリボルバーを抜いた。
「いいか? 俺が奴を引きつける。その間にお前たちは逃げろ!」
「叔父さん……!」
「いいか逃げろッ!」
渋川は有無を言わさずに、自分からガッツ星人に向かっていった。その頭部に銃撃を食らわせる。
「ウアァーッ!?」
攻撃を受けたガッツ星人は曲がり角の向こうへと引き返していった。
「早く逃げろッ!」
「叔父さんっ!」
「渋川さぁんっ!」
春香たちをかばって、逃げたガッツ星人を追いかけていく渋川。
「おりゃあそこまでだぁッ! ……え?」
勇んで飛び込んでいったのだが――その先で待ち構えていたのは、無数に増えたガッツ星人であった。
「な、何?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「アァーッ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
数え切れないガッツ星人が渋川へと押し寄せてくる。
「うわあああぁぁぁぁぁ――――――――!?」
渋川もさっきまでの威勢はどこへやら、たまらず尻尾を巻いて逃げ出した。
空間歪曲で迷宮と化した洋館の内部を、伊織とやよいもまた宇宙人に追われて逃げ回っていた。
「オォォォーッ!」
「い、いやぁぁぁーっ! 変な頭の奴が追ってくるぅ―――!」
「こ、怖いですぅーっ!」
二人を追い回しているのはバド星人。その異形の見た目に、伊織とやよいは震え上がっていた。
「どこまで走ればいいのよぉー!? さっきから同じとこをグルグル回ってるみたいよぉー!?」
「お、追いつかれちゃうよ伊織ちゃーんっ!」
バド星人はスピードを上げ、腕を振り上げて二人に飛び掛かってくる!
「オォォォーッ!」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ―――――――!!」
伊織たちの絶体絶命の危機!
「せぇぇぇあッ!」
そこに飛び込んで、西洋剣の側面でバド星人を殴り飛ばす者が現れた。
「ゲブゥッ!?」
横面に強烈な一撃をもらって壁に叩きつけられたバド星人は、そのまま失神。ズルズルと床に滑り落ちる。
「え……? だ、誰……?」
いきなり見知らぬ人物に助けられ、唖然とする伊織たち。バド星人を倒して自分たちを救ったのは、剣を握る青いパーカー姿の青少年だった。
「よぉ嬢ちゃんたち、危ないとこだったな――」
クルリと振り返った青少年だが、伊織の顔をひと目見てギョッとした。
「うおッ! ルイズ!?」
「るいず?」
一瞬キョトンとした伊織は、ムカッと目尻を吊り上げて青少年に怒鳴り返した。
「この伊織ちゃんをどこの誰と間違えてるのよ! 失礼ね!」
「伊織ちゃん、助けてくれたのにそんな言い方はないよ」
とたしなめるやよい。
「いやだって……」
「あぁ、いやこっちも悪かった。ちょっと知ってる奴に雰囲気とか声とか似てたもんでな」
コホンと咳払いした青少年に、伊織が自己紹介をする。
「まぁいいわ。私は水瀬伊織、こっちは高槻やよい。危ないとこを助けてくれてありがとう。あなたは?」
「俺は平賀……あー、モロボシ・サイトだ。あんたたちはどうしてこんな危ねぇ場所にいるんだ?」
何故か訂正したサイトなる青少年が問い返してくる。
「私たち、ダイチって人を捜してるの。ここに捕まってるみたいで……。あなたこそ、どうしてこんな場所に?」
「俺はこの屋敷に潜んでる奴らを調べに来たんだ。しっかしとんでもねぇとこだなここは。空間のつながり方が滅茶苦茶だぜ」
などとサイトが話していると、廊下の奥手から千早と老年の男性が駆けてきた。
「水瀬さん! 高槻さん!」
「あっ、千早さんだぁー!」
「よかった、無事だったのね」
一旦ははぐれた千早と合流できたことに喜ぶ伊織とやよい。その一方で、サイトは老年の男性に呼びかける。
「親父!」
「ここにいたか」
「親父……?」
伊織たちは少々訝しんだ。サイトと男性は、パッと見で親子というより祖父と孫ほどにも年齢が離れているように見える。
しかしそのことを尋ねている暇もなく、また新たな二人組がこの場にやってきた。
「そこの765プロの人たちー! 道に迷って困ってるんじゃなぁい?」
「あんたたちは……麗華のとこの!」
今度は宇宙人ではなく、メイド服姿の少女二人。伊織は、麗華のユニットである魔王エンジェルの朝比奈りんと三条ともみだとすぐに分かった。
ともみが千早たちに申し出た。
「ダイチって人を捜してるんでしょう? 案内してあげる」
「ほんとですかぁ!? やったぁ!」
やよいは一も二もなく飛びついたが、伊織が待ったを掛ける。
「軽々信用するのは良くないわ! こいつらが何の目的でこんなとこにいるのか、分かったもんじゃないのよ」
「だけど、今は他にあても手掛かりもないわ」
「それもそうだけど……」
千早の冷静な指摘。伊織はしばし腕を組んで考え込んだ末に、結論を出した。
「しょうがない、案内してもらいましょう。ただし警戒はさせてもらうわよ」
「そう来なくっちゃ! それじゃお客さま方、ついてきて下さーい♪」
りんが手を挙げて先導する。それについていく前に、千早が男性たちに尋ねた。
「あなたたちはどうするんですか?」
「悪いが、私たちには他にやることがある。ここからは君たちだけで行ってくれ」
「くれぐれも気ぃつけていけよ! 武運を祈るぜ!」
男性とサイトはこの場に留まり、りんとともみについていった千早たち三人を見送った。
その後で、サイトが男性に告げる。
「親父、やっぱここが星々を宝石に変えようとしてる奴の根城みたいだぜ。エックスもギンガもビクトリーも、ここにいるみてぇだ」
「そのようだな。早く何とかしなければ……」
男性がうなずくと、サイトは己の懐に手を突っ込んだ。
「俺はこのことを、ミッドの人たちに伝えてくる。後のことは頼んだぜ、親父!」
「うむ、任せておけ。そちらも頼んだぞ」
「おうよ!」
応じながらサイトが取り出したのは――青と赤のサングラスのようなもの。
「デュワッ!」
サイトはそれを己の顔面に装着し――途端に彼の肉体が青い光に変わり、洋館の壁と空間の迷路を突き抜けて、外の世界に飛び出していった。そのまま一直線に、空を越えて宇宙空間へ飛び出していく。
「よし……」
それを見送った男性は、踵を返して洋館の奥深くへと足を踏み入れていった。
アイドルたちが空間の迷路を駆けずり回っている頃、ガイは館のホールで目を覚ました。しかし身体は椅子に縛りつけられていて、身動きを取ることが出来ない。
アイドルたちに先んじて洋館に侵入したガイであったが、そこで宇宙人たちの罠に掛かり、このように捕らえられてしまったのであった。
そしてガイの面前には、宇宙人の化けた使用人たちを控えさせているこの館の主人が彼と向き合っていた。
「お前は……ムルナウ……!」
偉そうに椅子に腰を下ろしている、けばけばしいドレスを纏った中年ほどの年齢層の女。ガイはその女を、ムルナウと呼んだ。
様々な宇宙人を束ねて操る女、ムルナウはガイに対して応じた。
「そう、私は闇の犯罪者。あなたは光の戦士。皮肉だと思わない? 追われる定めの私が、いつの間にかあなたを追ってる!」
そう言ってムルナウは、手元のテーブルからリンゴを手に取った。それに息を吹きかけると――リンゴはたちまちの内に、宝石に変化した。
ガイはこれで、各星々を宝石に変えようとしている者たちの元締めを悟った。
「イカサマ魔術師だったお前が、随分大それたことを始めたみたいだな」
ムルナウは平然としながら、ガイに告げた。
「あなたの顔、タイプよ。でも、黙ってる方が私は好き。口を開けば、正義がどうだとか仲間が何だのとか、退屈なことしか言わないんだもの」
にやりと邪な笑みを浮かべて、ムルナウが宣言する。
「あなたを、物言わぬ宝石にしてあげる。こんな風にねっ!」
言葉とともに背後の壁が開き、二人のウルトラ戦士の宝石がガイに見せつけられた。
「ギンガさん……! ビクトリーさん……!」
それは、ゼロがエックスとともに行方不明だと言っていた二人の戦士――ギンガとビクトリーであった。
「わぁぁっ!」
春香たちは空間の迷路を抜けて、洋館の中に戻ってきた。しかしその場に渋川はいない。
「渋川さんはどこですか!?」
「どんどんはぐれていっちゃってるわね……」
焦る雪歩に、険しい表情となる律子。この苦しくなっていく状況を打ち破ろうとするかのように春香が唱えた。
「こうなったら私たちが頑張らないと! とりあえず、このパワードタイツに着替えて……」
武器の一つであるパワードタイツを身に纏う春香であったが、ファスナーを上げる途中で手が止まった。
「あっ、引っ掛かっちゃった! 締まらないよぉ~!」
「……確かに、肝心なとこで締まらないね」
ため息を吐く響たち。呆れながら春香に手を貸そうとしたが……。
「手伝おうか?」
春香の背後からぬっと出てきたのは、執事服姿のジャグラスジャグラーだった!
「きゃあっ!?」
突然の登場に度肝を抜かれる春香たち。思わず悲鳴を上げたのを、ジャグラーが静かにさせる。
「大きな声を出すな」
「あなた……生きてたのね」
「また何か悪いことをたくらんでるんじゃないの?」
疑うあずさと美希。それにジャグラーは言い返す。
「何がいいことか悪いことかは人によって違う。覚えとけ」
そして顎でしゃくりながら、ツカツカとどこかへ向かっていく。真たちは顔を見合わせた。
「ボクたちを誘導してるのかな……?」
「でも、ついてっていいの? あのジャグラーだよ?」
「ですが、わたくしたちだけでは堂々巡りをするばかりです。状況打破には、危険を承知で飛び込むしかありません」
ためらう真美だったが貴音の意見により、一行はジャグラーの後に続くことを決めたのだった。
そして春香たちがたどり着いた先は、サーペント星人とレキューム人が見張る部屋の前。その部屋には、気を失っているダイチが鎖で縛りつけられて監禁されていた。
「ダイチさんだ……! 遂に見つけたよ……!」
宇宙人たちに見つからないように身を潜めながら、ダイチの姿を確認した亜美が興奮したが、見張りがいては迂闊に近づけない。悩む律子。
「でも、どうやって助け出すか……」
「お前たちは下がってろ」
するとジャグラーが蛇心剣を手にしながら、ごく平然とした足取りで宇宙人たちに近づいていった。
「あっ、ちょっと……!?」
目の前に出てきたジャグラーに、サーペント星人とレキューム人が振り向く。
『ん? お前は……』
『どうした? 持ち場はここじゃないだろ?』
聞かれた瞬間――ジャグラーが神速で抜刀して二人を斬り捨て、ダイチにも刃を走らせた!
「っ!?」
椅子の上から崩れ落ちたダイチへと慌てて駆け寄る春香たち。
「ダイチさん、大丈夫ですか!?」
律子がダイチの身体を確かめたが、外傷はなかった。ジャグラーは鎖だけを切断したようだ。
「君たちは……!」
目を覚ましたダイチは律子たちの顔を見回して驚く。律子は簡単に状況を説明した。
「お久しぶりです。エックスさんに頼まれて、あなたを捜してたんです」
「エックス……エックスはどこ!? エクスデバイザーは!?」
ダイチが尋ねたのをさえぎるように、ジャグラーが口を挟む。
「おい、さっさとそこの小僧を連れてずらかるぞ。早くしないとバレる」
ジャグラーの顔を知らないダイチが春香たちに問うた。
「この人は、君たちの仲間なの?」
「いえ全然!」
「ちっとも信用できない奴なの!」
真と美希が力いっぱいに否定すると、ジャグラーは苦笑を浮かべた。
「おいおい、随分だな。せっかくここまで案内してやったのに。俺ほど信頼の置ける宇宙人は他にいないだろう?」
「よく言うぞ! 今まで散々やらかしておいて!」
「ぢゅうッ!」
白々しいことを唱えるジャグラーに、響とハム蔵が憮然と吐き捨てた。
その時、どこからかケータイのバイブらしき音が鳴り渡る。
「ケータイ? こんな時に誰?」
「私よ」
ひょっこりと出てきたのは麗華。その手の中にあるのはエクスデバイザー! 大地が真っ先に反応する。
『ダイチ! ダイチ無事だったのか!』
「エックス!」
駆け寄ったダイチにデバイザーを渡す麗華。春香たちは唖然としている。
「ど、どうしてあなたがそれを持ってるの!?」
麗華が答える前に、この場に千早と伊織、やよいの三人を連れて、りんとともみがやってきた。
「みんな!」
「うっうー! 無事だったんですねー!」
「千早ちゃん、やよい! 伊織ぃ!」
勢ぞろいした765プロアイドル。一方で、麗華たち魔王エンジェルはジャグラーの元に寄って彼に呼びかけた。
「ここまでは順調ね」
「後はムルナウだけだね、プロデューサー!」
「……プロデューサー!?」
りんのひと言に、春香たちは仰天してジャグラーの顔を凝視した。伊織はあんぐりしながら問いかける。
「麗華! あ、あんたたちの新しいプロデューサーって……そいつだったの!? よりによって!」
「そうさ。真面目に働くことにしたんだ。褒めてくれよ」
おどけたように言うジャグラーに腹を立てる伊織。
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 麗華もどういうつもり!? そいつがどんな奴かほんとに知ってるの!?」
「もう、うるさいわねー。私たちのことなんだから、伊織が口を挟むことじゃないでしょ」
「いやそんな問題じゃ……!」
食い下がる伊織だったが、さえぎるようにともみが声を発した。
「そろそろ行こうよ。ここも見つかる」
「ともみの言う通りだ。ムルナウのところへ行くぞ。そこにガイもいる」
と言って麗華たちを連れ、さっさと移動していくジャグラー。春香たちも、ガイと言われればじっとしている訳にもいかず、やむなくジャグラーの後に続いていった。
ガイはムルナウが握り締めている黒いリング――かつてジャグラーの元から消えたダークリングに注目する。
「お前さんがダークリングを持ってるとはな」
「このリングは宇宙で一番邪な心の持ち主のところへやって来る。持ち主の欲望と共鳴し、その能力を拡大してくれるの! 私の権力の源よ!」
ムルナウはダークリングの力を背景に、宇宙人の大軍勢を作り上げたのだ。
「今や私のパワーは、星を丸ごと宝石に出来る!」
「星を宝石に……?」
ムルナウは席を立って、ガイの周りを歩きながら語りかける。
「私が理想とする世界はねぇオーブさん、美しい人々と美しい風景が、永遠に生き続ける世界なの! 愚かな文明が環境を汚す前に、全てを宝石に変える!」
「……それはその星に、死をもたらすということだ!」
突きつけるガイだが、ムルナウはまるで平気な顔だ。
「生きとし生けるものは、やがて年老いて死んでいく。愛だって消えてなくなるの! でも宝石は、永遠に私を裏切らない!」
「お前は孤独な奴だな……!」
「何とでも言うがいい! 私はこの美しい星を宝石にして、永遠に輝かせる! コレクションがまた増える……!」
「そうはさせないッ! 俺が絶対に阻止し……!」
「ノンノンっ! 作戦はもう始まってるのよぉ!」
ガイの言葉をさえぎり、ムルナウがダークリングを掲げて怪獣を召喚する!
「奇機械怪獣デアボリックぅーっ!!」
都心の中央に突如、ダークリングの力によって召喚された怪獣が出現! 街は一気に恐怖のどん底に陥れられる。
「グギャアァァァ――――!」
生身の肉体と機械の肉体が融合した、腕が銃火器となっている、まさしく戦闘目的のために機械化改造された怪獣。これこそが古代ベルカを焼き尽くし、ムルナウが管理世界から奪い取った恐るべき怪獣兵器、デアボリックである!
「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」
デアボリックは全身から突き出た砲身全てから弾薬を発射し、辺り一面の街並みを破壊し始めた! ビルが片っ端から爆砕され、逃げ惑う人々に破片が降り注いでいく。
デアボリックの巻き起こす大破壊の光景をまざまざと見せつけられ、絶叫するガイ。
「よせぇッ! 殺すなぁッ!」
「そんなことしないわ! 言ったでしょう? 彼らは宝石となって、永遠に生き続けるのよっ!」
「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」
周囲のビル街をあらかた破壊したデアボリックは右腕のレーザーキャノンをバチバチとスパークさせ、足元に叩きつけた。
それを中心にムルナウの魔力が瞬く間に広がっていき、街が宝石に変えられていく。人も、建物も、全てが時を止められて石にされていくのだ。
「やめろぉーッ!」
怒鳴るガイだが、ムルナウの暴挙を止めたくとも、椅子に縛りつけられていて立ち上がることすら出来ない。
歯噛みするガイをムルナウは愉快そうにあざ笑う。
「すぐにあなたも宝石にしてあげる! あなたが手塩に育てた娘たちもね! きっと壮観よぉ? オホホホホホっ!」
「ムルナウぅ……!!」
ギリッ……と奥歯を軋ませるガイ。
ちょうどその時に、春香たちが柱の陰に身を潜ませながら状況を目の当たりにしていた。
「うあうあー……! 街が大変だよぉ……!」
「プロデューサーさん……!」
あわあわと戸惑う亜美。ダイチはエックスに呼びかける。
「エックス、今すぐユナイトだ!」
しかしそれは出来なかった。
『駄目だ……! この屋敷に生じている次元の歪みでユナイト出来ない!』
「そうだ……あいつの持つダークリングがパワーの源だ。あれを壊しさえすればいい」
と告げるジャグラー。麗華は765プロアイドルたちに言い聞かせる。
「作戦はこうよ。あんたたちは紅ガイを救出すると同時にムルナウたちの注意を引きつける。ムルナウが油断してる隙を突いて、私たちがダークリングを破壊するわ。そうすればムルナウは力を失う。宝石にされたものも全て元に戻るわ」
伊織は麗華の顔を見つめ返した。
「麗華……あんたたち、本当に世界を救うつもりで……?」
麗華はふっと微笑み返した。
「私たちだって、この世界に生きる住人なのよ」
「……信じていいのね」
伊織たちは覚悟を固め、ムルナウたちの前に飛び出していくことを決定した。
「よぉーしっ! 765プロ、ファイトぉ―――っ!!」
「おぉ―――――――!!」
春香の掛け声とともに、765プロアイドルたちとダイチが一斉に飛び出して宇宙人たちに飛び掛かっていった!
「えぇーいっ!」
「いっけーはるるん!」「あちょー!」
「やぁーっ!」
「せぇいっ!」
春香が亜美と真美の操作でガルメス人と格闘し、雪歩がスコップでクカラッチ星人をぶん殴り、真がセミ女に正拳突きを決め、律子が強化SAPガンでヒュプナスをがんじがらめにして、と765プロアイドルの奮闘で宇宙人たちの動きを制した。その間にダイチがガイの元へ駆け寄る。
「エックス!」
『よし!』
エックスの力で電磁拘束を破り、ガイを解放した!
「助かったぜ! ありがとう!」
ガイとダイチはすぐさまアイドルたちの加勢に入り、宇宙人たちを追い詰めていく。しかしそこをムルナウが狙う。
「馬鹿なことをするものね。みんな纏めて、永遠に宝石にしてあげる!」
「ハム蔵っ!」
だがダークリングを向けようとしたムルナウの顔面に、響がハム蔵を投げつけて張りつかせた。
「ぢゅぢゅーッ!」
「ぎゃああっ!? 何よこのネズミぃ! 美しくないっ!!」
顔を引っかかれて悲鳴を発するムルナウ。そこに後ろから魔王エンジェルが忍び寄っていく。
「お困りですか、ムルナウ様」
「見りゃ分かるでしょ! 何とかしなさいあんたたち!」
「かしこまりまし……たぁっ!」
「どーんっ!」
麗華たちは三人がかりでムルナウを後ろから突き飛ばした。
「ぎゃあっ!?」
衝撃でムルナウの手からダークリングが飛んでいき、床に落ちた。宇宙人たちが拾い上げようと手を伸ばすが……魔人態となったジャグラーの蛇心剣が、その手を制止させた。
『遂に戻って来たかダークリング! フハハハハハッ!』
「やった……!」
「大成功ねプロデューサー!」
ダークリングを拾うジャグラー。その元に麗華たちが駆け寄り、にんまりと笑った。反対に激昂するムルナウ。
「ジャグラー……! あんたたち裏切ったわね!?」
「ふーんだ、初めからこうするつもりだったんだよー」
べー、と舌を出すりん。一方で伊織が問い詰める。
「それ壊すんじゃなかったの!?」
麗華は伊織に冷笑を向けた。
「相変わらず甘いわねぇ伊織。人は疑って掛からないと、この業界しんどいわよ?」
「きぃーっ! ちょっとでもあんたたち信用したのが馬鹿だったわ!」
ダークリングを奪ったジャグラーたちはさっさと洋館を脱出していく。
「私たちも、逃げろぉーっ!」
「わぁーっ!」
春香の号令で、765プロアイドルたちも急いで洋館から逃げ出していった。ムルナウは手下の宇宙人たちに怒鳴りつける。
「何ボサッとしてんだよ! 追うのよぉっ!」
「イィーッ!」
手下を逃げたガイたちに向かわせると、ムルナウは未だスバルと戦っているサデスへと通信をつなげた。
スバルとサデスの拳がぶつかり合い、凄まじい旋風と火花を飛び散らせる。
「はぁぁぁぁっ!」
『もっとだッ! もっと熱い血潮を燃やしていけぇッ!』
だがその途中で空間が歪み、二人は一気に引き離される。
「これは!?」
『いつまで遊んでんだっ! いい加減にしろこの馬鹿っ!』
ムルナウの怒声がサデスを叱りつけた。
『おいおいまた中断ぅ!? せっかくいいところだったのに、そりゃないよぉー!』
それでも構わず抗議するサデスだったが、ムルナウの命令を聞いて態度が一変。
『オーブが逃げたのよ! あんたも追いかけなさいっ!』
『えッ、ガイ君が!? そりゃ面白くなりそうだー!』
機嫌を直したサデスが飛び上がりながらスバルに呼びかける。
『悪いねぇお嬢ちゃん! また機会があったら、今度こそ最後まで戦おうかッ! そんじゃバイビー!』
「待てっ!」
止めようとしたスバルだったが、空間が歪んでいって消滅し、スバルは洋館の内部に戻されていった。サデスの姿はなくなる。
ダークリングを奪い取って逃亡したジャグラーたち。ムルナウの野望を止めようとする765プロ。ダークリングを奪い返そうとするムルナウ。三者三様の思惑が絡み合い、戦いは新しい局面に移行していく。