事務所に戻ってきたガイたちを喜んで迎えたのは、高木と小鳥であった。
「おお、ガイ君! 帰ってきたのか!」
「お帰りなさい、プロデューサーさん!」
「社長、小鳥さん、ただいま戻りました。ですが、残念ながらゆっくりはしていられないんです」
ガイは新たな事件に直面していることを告げ、その当事者であるエックスとスバルから話を伺い始めたのであった。
『私とダイチ、スバルは、仲間たちとともに封印された怪獣兵器デアボリックを狙う異星人の集団と戦っていた』
「怪獣兵器デアボリック?」
春香たちがやや険しい表情で聞き返した。言葉の響きからして、穏やかな代物ではなさそうだ。
デアボリックなる怪獣について、スバルが説明する。
「古代ベルカの諸王時代……いわゆる戦国時代に、ある異邦人によって生み出されたと言い伝えられてる改造怪獣だよ。質量兵器の破壊力、魔法技術による無限動力、そして怪獣の強靭な生命力の三つの力を併せ持ったデアボリックは圧倒的な暴力で国という国を蹂躙して恐怖で支配し、最終的に戦船『ゆりかご』との壮絶な一騎打ちの末に封印されたと伝承されてたの。あたしたちの世界でも、長らく伝説の中だけの存在と思われてたんだけど……」
「実在した、ということですね」
律子の指摘にうなずくスバル。
「異星人犯罪者たちは何故かデアボリックの存在を知ってて、奪取しようと画策してた。寸前でその動きに気づいたあたしたちは、阻止するために総力戦を挑んだんだけど……結局、叶わなかったの……」
『恐ろしい相手だ……。どんな手段を用いたのかは知らないが、幾重にも張られた強固な封印をたったの一撃で砕いてデアボリックを奪い取り、自在にこの世界へのワームホールを開いてみせた。私とダイチのユナイトも空間の歪みの影響で解除されてしまい……空間の歪みに吸い込まれていったのが、ダイチを見た最後だった』
うなだれたような声音のエックス。千早も眉をひそめて嘆息した。
「そんなことがあったんですね……」
「大変苦いですね、このサラダ……」
お土産のサラダを頬張っている貴音も眉をひそめて嘆息した。
『今の私は、ユナイトを強制解除されたためにこのエクスデバイザーから出ることが出来なくなってしまった。もう一度ダイチとユナイトしないことには……』
「ウルトラマンギンガもビクトリーも、あの後どうなったのか……そっちも心配だよ」
いくつもの不安材料が重なり、スバルも暗い表情であった。それを励ますように春香が呼びかける。
「ともかく、まずはダイチさんを見つければいいんですよね? 私たち、何でもお手伝いしますよ!」
申し出る春香であったが、それをガイがさえぎる。
「駄目だ。今回はお前たちは大人しくしてろ」
「えぇー!? 何でなの!?」
ショックを受けた美希が聞き返すと、ガイはアイドルたちに言い聞かせた。
「今度の相手は大規模の組織だ。今までのようにはいかない。危険すぎる」
というガイの言葉に、亜美と真美がむすっと頬を膨らませた。
「も~、いつまで経っても子ども扱いするんだからー」
「真美たちだってさ、ウルトラマンオーブなんだよ――」
「ウルトラマンオーブが何ですか?」
そこに未来たちと渋川が情報収集から帰ってきたので、雪歩や真らが慌ててごまかす。
「な、何でもないよぉ!? こんな時にオーブがいたらなぁ、なんてだけのことで……」
「そ、それより、何か収穫あった?」
「あったあった! あったんですよそれが~!」
上機嫌に報告する翼に続いて、渋川が告げる。
「何度かビートル隊に通報があったんだけど、最近妙な噂があってな」
「妙な噂?」
春香が聞き返すと、静香がパソコンを立ち上げて詳細を語り始めた。
「先日、夜空が変な色合いになった日があったじゃないですか。その次の日に、町外れに一夜にして謎の洋館が建ってたというんです」
「一夜で、建物が……?」
「突貫工事じゃないのか?」
尋ね返した響に首を振る静香。
「私もそう思いましたけど……この動画を見て下さい。問題の洋館を見つけたカップルが撮ったものというのですが……」
動画が再生されると、薄暗い洋館の中の様子とともに若いカップルの声が流れる。
その動画にすぐに、セミのような首の女が現れ、カップルの声が悲鳴に変わった。すると伊織が声を上げる。
「あっ! あの時混じってたセミ女!」
更に動画を見たエックスが発した。
『感じる……ここにダイチはいるッ!』
「ほんと!? エックス」
驚くスバル。
『そんな気がするんだ……』
「……その電話の人、どうして直接ここに来ないんですか? まさか、本当に電話の中にいるとか、そんな馬鹿なことが……」
「ま、まぁまぁ静香ちゃん。細かいことはいいから」
「後のことは私たちに任せておいて!」
エックスのことを訝しむ静香を雪歩とやよいが押しやり、春香たち一同はダイチ救出に出動しようとする。
「そうとなったら、すぐにこの洋館に乗り込もう! 『アンバランスQ』特別収録だよ! 765プロ、ファイ――」
「だから駄目だと言っただろ」
しかしいつもの決め台詞をガイにさえぎられてしまった。出鼻をくじかれた真や亜美たちが抗議。
「えぇ~!? それはないですよプロデューサー!」
「最初に助けを求められたのは亜美たちだよー!?」
「つべこべ言うな。お前たちのためなんだ」
不満げな一同に言い聞かせたガイは、スバルからエクスデバイザーを受け取った。
『スバルも待機していてくれ。万が一のことがあって、全滅というのは避けたい』
「わ、分かった。気をつけてね!」
『一時間経って私たちが戻って来なかったら、後のことは頼んだぞ!』
エックスとともに事務所を発とうとするガイに、それでもすがりつこうとする美希。
「ああん! ちょっと待ってよ……!」
「お前たち、これは遊びじゃないんだぜ!」
そこに割って入ったのは渋川。
「ここはプロの大人に任せろ! じゃガイ君! 行こ――!」
言いながらガイの後に続こうとしたのだが、目の前でドアを閉められて顔からぶつかった。
「へぶッ!? いってぇ……」
渋川がズルズルと滑り落ちていく中、春香がむくれながらつぶやいた。
「プロデューサーさんの馬鹿……」
そして一時間後――ガイは戻らず、エックスとの連絡もつながらなくなってしまった。スバルは指示通りに、件の洋館に乗り込むことにしたのだが――。
「みんな……本当についてくるつもりなの?」
二代目765トータス号の車内で、スバルが春香たちに問いかけた。彼女たちはやはり、スバルの同行を申し出たのだった。未来たちには留守番をしてもらい、彼女と一緒に洋館を目指しているところだ。
「何度も言われてたけど、どんな危険が待ち受けてるのか分からないんだよ」
警告するスバルに、春香やあずさ、貴音らが答える。
「そんなのは百も承知です! それでもです!」
「プロデューサーさんが私たちを心配してくれたように、私たちもプロデューサーさんが心配なんです」
「覚悟は出来ております。わたくしたちに何かあったとしても、スバル嬢はお気になさらないで下さい。全てわたくしたちの責任です故」
彼女たちの口調から確固たる覚悟を感じ取ったスバルは、それ以上異論を挟まなかった。
「分かった。ただし、なるべくあたしから離れないようにね」
「分かりました!」
「大丈夫だ。プロの俺がついてるんだからな!」
渋川が己の胸を叩いて請け負ったが、真美は胡乱な目つきを送った。
「渋川のおっちゃんはいまいち頼りにならないんだけどな~」
「任せとけっての!」
「みんな、そろそろ到着よ。気を引き締めてね」
運転する律子の視界に、森の中に隠れるように建っている目的の洋館が飛び込んできた。
一同が洋館の前で降車し、そろそろと近づいていく。やよいと真が囁く。
「如何にも何か出そうな雰囲気ですぅ……」
「プロデューサーもあの中に入ってったはずですよね。大丈夫なのかな……?」
「それを確かめるためにも行かなくちゃ。……ダイくんはもちろんだけど、エックスも無事なのかな。今はあんな状態だし……」
ぼそりとつぶやいて案ずるスバル。そして一行は、玄関の戸が開くかどうか確かめようとしたのだが――スバルがドアノブに触れる直前に、扉が中から開かれた。
「ようこそいらっしゃいました、お客様方」
扉を開けて恭しく迎えたのは、うら若きメイド。スバルは直感から、彼女は異星人ではないと判断した。
一方で伊織は、メイドの顔をひと目見て仰天した。
「麗華!? あんた、こんなとこで何やってるのよ!」
「えっ、知り合い?」
スバルと渋川が振り向くと、千早が簡単に説明する。
「私たちの同業者……アイドルのライバルです。それと、まさかこんな場所で出会うなんて……」
765プロアイドルは驚きを禁じ得なかった。今目の前にいるメイドこそ、魔王エンジェルのリーダーの東豪寺麗華その人だからだ。
麗華は不敵に笑いながら伊織に返す。
「色々あってね、今ここで使用人のバイトをしてるのよ」
「ば、バイトぉ!? 東豪寺家のあんたが!?」
ますます面食らう伊織。彼女は麗華に噛みつくように言い聞かせる。
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ! あんた、ここがどんな場所か分かってんの!?」
しかし麗華は聞く耳持たず、うんざりしたように顔をそらした。
「あーうるさいわねぇ。そんなことより、どうぞ中へ。当館の主人がお待ちですわ」
態度を切り換えて、本物の使用人のように一行を促す麗華。伊織たちは、これ以上彼女と話しても仕方ないと判断して、周りを警戒しながら慎重に洋館の中へ足を踏み入れていった。
「どうぞ、そのまま階段をお上がり下さい」
麗華の案内のままに、入り口からすぐの階段をぞろぞろと上がっていく。二階に上がったところで、最後尾の伊織が振り返る。
「ところでこのこと、あんたのチームメイトは知って……」
しかし、いつの間にか麗華の姿がなくなっていた!
「あっ、いない!? いつの間にっ!」
「みんな、気をつけてっ!」
不穏なものを感じ取ったスバルが警告しながら素早く周囲に目を走らせる。
すると前方を見やった美希が息を呑んだ。
「みんな、あれっ!」
一行の正面に、どこからともなく鳥のような頭部の怪人が現れていたのだ!
「アァーッ!」
「う、宇宙人だぁッ!」
「ガッツ星人!」
渋川達が思わず叫び、スバルは腕を上げてこちらに向かってくるガッツ星人に対して反射的にマッハキャリバーを握り締めた。
しかしその瞬間、彼女たちの側の置時計の針が突然高速で逆回転を始めた!
「な、何事だ!?」
「面妖な……!」
驚愕する響、貴音たち。そして時計の針の回転に釣られるように、周囲の空間がぐにゃりと歪んでいく。
「あぁーっ!?」
歪みが頂点に達すると、足元がまるで滑り台のようになって、一行はどこか別の空間へと投げ出されていった――!
スバルが放り出された先は、緑が生い茂った庭園のような場所であった。
「空間跳躍……いや、空間歪曲……! みんなっ!」
スバルはすぐに辺りを見渡したが、同行していた春香たちの姿は一人も見当たらなかった。どうやら自分だけがこの場所に連れてこられたようだ。
ともかくすぐに皆を見つけ出さなければ、と行動を起こそうとしたスバルだったが、ちょうどその時に、近くから閑静な雰囲気の庭園には似つかわしくないような、エクササイズのような音楽が流れてきた。
スバルがそちらに目を向けると、庭園の真ん中で、ラジカセの傍らでスクワット運動を繰り返している異様な宇宙人を発見した。その肉体は、骸骨のような機械の鎧で覆われている。
『やぁ、お嬢ちゃんまた会ったねぇ。僕のこと、覚えてくれてるかな?』
なれなれしく話しかけてきた宇宙人に、スバルは警戒を深めながら向き直った。
「あなたは……ガピヤ星人サデス」
『そうッ! 大宇宙の用心棒、サデスだよぉ!』
ガピヤ星人サデスはスクワットをやめ、スバルに軽快に呼びかけた。
『この星でまた会えるだなんてねぇ。君が来てくれて嬉しいよぉ、今ちょっと不完全燃焼気味だったんでね。特に君には親近感を覚えてるもんでね』
「それは、あなたが機械の身体だから?」
『その通りッ! 君と同じでね』
どうやらサデスはひと目見ただけで、スバルが完全に生身の肉体ではないことを見抜いていたようであった。
「同じってことは、元からそういう身体じゃなかったんだ」
『ご名答! いやぁ~、昔ドジって火口に落っこちちゃってねぇ~。それ以来こんな身体なんだけど、物事はポジティブに考えなきゃあ! 半分機械になったのは悲劇なんかじゃない、新しい人生の始まりなのさッ!』
と言い切るサデスに構わず、スバルは問いかける。
「不完全燃焼だなんて言ったけど、つまりあたしとこの前の決着をつけたいってことでいいのかな?」
スバルの方も、サデスがどういう性格の人物なのかを察していた。それ故の問いかけだ。
対してサデスは力説する。
『過ぎたことなんかどぉーでもいいッ! それより大事なのは、今をどう生きるか! そして――君がどう死ぬかさッ!!』
言うなり右腕に取りつけた機関銃で発砲してきた! スバルは咄嗟に転がりながら銃撃から逃れる。
「マッハキャリバー!」
[Stand-by ready.]
銃撃を回避しながらマッハキャリバーに呼びかけ、瞬時にバリアジャケットを装着。
[Set up.]
戦闘態勢を整えると、プロテクションで銃弾の連射を防御した。
『さぁ始まりだぁッ! 遠慮しないでCOM’ONだよぉッ!』
「それじゃお言葉通りにっ!」
スバルは銃弾を拳で打ち返してサデスにはね返す。それを剣で切り払うサデスだったが、スバルはこの一瞬の間にローラーをうならせながら距離を詰めた。
「リボルバーキャノンっ!」
『んぐッ!』
スバルの拳打がサデスの腹部に入った。腹筋に力を込めたサデスだが、ザザザザッ! と勢いのままに後ろへ滑る。
しかしサデスはケロリとしていた。
『いいねぇー! 今の拳すっごくいいッ! 君の熱い闘志がギュンッギュン伝わってきたよぉーッ!!』
「それはどうもっ!」
足元を狙って撃ってくるサデスの攻撃から走って逃れるスバル。
『さぁ来いよッ! まだイケるだろぉッ!?』
「もちろんっ! ウィングロード!!」
スバルは走りながらウィングロードを庭園中に張り巡らせて、その上を駆け回ることで銃撃を回避しながらサデスに接近していく。
「キャリバーショット!」
『とうッ!』
スバルの飛び回し蹴りとサデスの斬撃がぶつかり合い、相殺。サデスの剣をリボルバーナックルで打ち払いながら、スバルは呼びかける。
「あなたは他の異星人とは大分違うね! これでスポーツマンだったなら、仲良く出来るのにっ!」
『それは残念だったねぇー! だけど僕が求めてるのはギリギリの命のやり取りッ! 殺し合いさぁッ!!』
吠えながら剣を横薙ぎするサデス。それを、姿勢を低くしてかわしたスバルは相手の胸に拳を突きつけ、同時に己の特殊能力を発動した。
「振動拳っ!!」
拳から発生した凄まじい衝撃波が、サデスの機械の身体をバキバキに粉砕する。
『ぐわあああぁぁぁぁ―――――――ッ!?』
サデスもこれはたまらず、後ずさってもがき苦しむ。
『これはきっつい……! や……やられ……!』
サデスの肉体のひび割れがどんどん広がっていき――。
『――やられてたまるかーいッ!!』
腕を振り上げて万歳したと同時に、時間が巻き戻るようにひび割れが修復されていった!
「!? 振動拳が直撃して再生するなんて……!」
何事もなかったようになるサデスに、スバルは目を見張った。彼女のIS『振動破砕』は、対象の硬度が高いほどに効果を発揮する。鋼鉄の肉体ならば、再生機構ごと破壊できるはずなのに、それでも再生するとは!
『そんなの簡単さぁッ! ぼかぁまだまだこんなもんじゃあ、満足できないからだよぉッ!!』
「無茶な……!」
サデスは再び銃を乱射してきて、スバルはプロテクションで防御しながら再度突撃していく。
『もっとだッ! もっと熱い戦いをしようぜぇッ! まだまだDANCEだよぉッ!』
「はぁぁぁぁぁっ!」
気炎を吐くサデスに張り合うように、スバルが雄叫びを発する。
「一撃必倒! ディバインバスターっ!!」
『ギャラクティカサデスファクション!!』
スバルとサデスの拳が正面衝突し、庭園に衝撃波の嵐を巻き起こした。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!? あ痛っ!」
空間歪曲によって洋館から放り出された春香たちは、銭湯の浴場らしき場所に落下した。雪歩が辺りを見回して混乱する。
「わ、私たち、何でこんなところに!?」
「異次元空間に引きずり込まれちゃったみたいよ! 私たちを弄ぼうってことかしら……!」
律子が置かれている状況を分析。と同時にあずさ、亜美真美があることに気づく。
「スバルさんがいないわ!」
「千早お姉ちゃんもだよ!」
「いおりんにやよいっちも! はぐれちゃったみたい!」
「大変!」
すぐに捜そうとした春香たちだったが、その時ハム蔵が飛び上がって響の髪の毛を引っ張った。
「ぢゅぢゅーッ!」
「ど、どうしたんだハム蔵? あぁーっ!?」
ハム蔵が指差した先、浴場の出入り口に、ガッツ星人が立ちふさがっていた。しかも二人も!
「アァーッ!」
「わぁぁ―――――追ってきたぁ!!」
迫り来るガッツ星人。逃げ場はない!
しかし真が片方に対して石鹸を投げ、ガッツ星人は転倒。
「アァーッ!?」
「やったぁっ!」
「ナイスなの真くん!」
「今の内だぁっ!」
倒れたガッツ星人の脇を抜けていく春香たち。渋川はその大きい頭をバシンとはたいていった。
回り込んできたもう片方のガッツ星人は、倒れている方に呼びかけた。
『何やってるんですか、私』
『ごめんなさい、私』
空間歪曲によって皆とはぐれてしまった千早は一人、豪華客船の内部のような場所をさまよっていた。
「ここはどこなの? 早く元の場所に戻らないと……」
空間の迷宮の出口を探して当てもなく歩き回る千早であったが、その前に宇宙人が現れる!
『見つけたぞぉッ!』
「はっ!?」
ゴドラ星人がハサミを振り上げて迫ってくる! 即座に逃げようとした千早であったが、相手の足の方が速く、すぐに追いつかれてしまう。
『ジタバタするなぁッ!』
「くっ……!」
ゴドラ星人のハサミが振り下ろされる! 千早は思わず目をつぶったが――。
「むんッ!」
そのハサミは、横から伸びてきた腕によって受け止められた。
『何ッ!?』
「えっ……!?」
突然のことに千早が目を開くと――どこから現れたのか、年老いた外見ながらも凛々しさと勇敢さを顔貌に湛えた男性が、自分を助けてくれていた。
ゴドラ星人はその男性に目をやって驚愕する。
『お、お前はッ! ぐはッ!?』
だが何か言いかける前に、男性のパンチを顔面に食らって一撃でノックアウトされた。
「大丈夫だったかな? お嬢さん」
「あ、ありがとうございます……」
ゴドラ星人を倒した男性は千早に向き直り、千早は頭を下げてお礼を言った。
「あの、あなたは……?」
「何てことはない。ただの風来坊さ」
尋ねた千早に、ガイみたいな言葉で返答した男性は、千早の顔をひと目見て一瞬固まった。
「む……? 君、もしかして……千種さんという方をご存じかな?」
その質問に驚きを隠せない千早。
「えっ!? 母を知ってるんですか?」
「娘さんだったか。面影があると思った」
「あの、失礼ですが、母とどんな関係で……?」
突然目の前に現れて自分を助け、母を知っているという謎の男性のことを気に掛ける千早であったが、男性はそれ以上答えてくれなかった。
「今は落ち着いて話を出来そうもない。とりあえず、ここから離れよう。君は一人でここに?」
「いえ、仲間と一緒だったんですが……」
「ならば一緒に捜してあげよう。ついてきなさい」
「は、はい……」
どういう訳か自分を導く、素性の知れない男性を多少は怪しむ千早であったが、他に当てもない。ひとまずは単独で行動するよりかは良いだろうと判断して、彼の後についていくことを決めたのであった。