THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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特別編『絆の力で、輝きの向こう側へ!!』
ラムネ色のあの人


 

 

 

 

 

 ――広大な次元宇宙の一つに浮かぶ、緑豊かな星――ハルケギニア。

 この星の大地の上で、今――紅色の光線が地面に一本線を描くように走り、無数の魔法陣を生じさせた直後に連続爆発を引き起こした。

 

「シェエアッ!」

 

 爆風が巻き起こる中心地では、頭部にふた振りのスラッガーを持った青と赤の身体のウルトラ戦士――ウルトラマンゼロが、白い巨大ロボットと激戦を繰り広げている。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 サイレンのような駆動音を鳴り響かせながら、両腕のパーツを半回転させて刃と光線銃つきのクローにした巨大ロボット――ギャラクトロン。自分に迫ってくるこの相手に、ゼロは啖呵を切った。

 

『この星に手出ししようなんざ許さねぇぜ! 二万年早いってことを教えてやるッ!』

 

 頭のゼロスラッガーを両手に握り締めると、地を蹴りながらギャラクトロンに斬りかかっていく。

 

「セェアッ!」

 

 電光石火の踏み込みでスラッガーを振るうが、相手も両腕に武器を持っている。スラッガーの斬撃は全て刃とクローに受け止められ、弾き返される。

 

『ちッ、やるじゃねぇか……』

 

 斬撃を全てはね返されたゼロが吐き捨てた。一方でギャラクトロンは腹部の赤いコアにエネルギーを集中し、青白色の光線を発射してきた!

 

『うおッ!』

 

 咄嗟に横に逃れるゼロ。しかし流れ弾の光線が当たった箇所に振り返って絶句する。

 

『……! こりゃあやべぇな……うおッ!』

 

 一瞬顔をそらした隙にギャラクトロンの後頭部から伸びるシャフトが飛んできたが、ゼロは瞬時に反応してかわした。

 

『甘く見んなよ! ……だが、これはあんまチンタラしてられねぇ。さっさと勝負を決めなきゃな……』

 

 光線の出した「被害」を目にしたゼロはそう判断するも、ギャラクトロンにはなかなか隙が見当たらずに攻めあぐねる。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 それを知ってか知らずか、ギャラクトロンが再びゼロへと接近してくる。

 ――まさにその時、天から飛んできた光輪がギャラクトロンのシャフトを両断し、切り落としたのだ。予想外の方向からの攻撃にギャラクトロンは足を止める。

 

『! 今のは……!』

 

 驚いて光輪の飛んできた方向を見上げるゼロ。その先の空の彼方から、O型のカラータイマーのウルトラ戦士が握り締める大剣に導かれながら戦場へと飛んできて、堂々と着地した。

 そのウルトラ戦士は、高々と名乗り口上を発した。

 

『俺の名はオーブ! 銀河の光が、我を呼ぶ!!』

 

 ゼロはこの戦士――ウルトラマンオーブの横に並んで呼びかける。

 

『お前が噂のウルトラマンオーブか』

『そういうあなたはゼロさん。お初にお目に掛かります』

『とりあえず、挨拶は後だ。先に奴を片づけちまおうぜ!』

『はい!』

 

 オーブカリバーの導きによってハルケギニアへとやってきたオーブ。彼とゼロが協力して、ギャラクトロンに立ち向かっていく!

 

「シェアッ!」

 

 ゼロは走りながらスラッガーをゼロツインソードに変え、オーブとともにギャラクトロンへ斬撃を浴びせる。ギャラクトロンは両腕の刃とクローで応戦するが、二人分の攻撃はさばき切れずに徐々に押されていく。

 

「ヘッ!」

 

 振り回したクローをオーブに抱え込まれて動きを封じられるギャラクトロン。その隙を突いてゼロが横から一閃を食らわせた。

 

「シュアッ!」

 

 ギャラクトロンがひるむとオーブはクローを放し、カリバーを胴体に叩き込む。

 

「オォォリャアッ!」

 

 更にゼロが後ろ蹴りを入れて追撃。それでもなお反撃してくるギャラクトロンの両腕を二人で抑え込む。

 

「シェアッ!」

「ショアッ!」

 

 そしてタイミングを合わせて、両サイドからツインソードとカリバーの一撃を浴びせた! 二人の斬撃が、ギャラクトロンの両腕を切り落とす。

 武器を失ってショートを起こすギャラクトロン。この絶好のチャンスに、二人のウルトラマンはとどめの攻撃に移った。

 

『オーブスプリームカリバー!』

『ワイドゼロショット!』

 

 二つの光の奔流がギャラクトロンに突き刺さり、ギャラクトロンは魔法陣とともに粉々に砕け散った。

 勝負を終えたオーブはゼロと固い握手を交わす。

 

『ゼロさん、お疲れさまです。一緒に戦えて光栄です』

『俺もだぜ……と言いたいとこだが、事件はまだ終わっちゃいねぇんだ、オーブ。これを見な』

 

 ゼロが顎をしゃくった先を見やったオーブは、思わず固まった。

 

『これは……!?』

 

 先ほどギャラクトロンの光線が当たった箇所の森なのだが……その部分の木々が、どういう訳かキラキラと輝く宝石に変わっていたのだ。

 

『何ですか?』

 

 理解できずに聞き返すオーブ。ギャラクトロンにこんな能力はなかったはずだ。

 

『最近あちこちの宇宙で、こんな能力を持たせた怪獣をばら撒いてる奴がいる。そいつは次元を超えた陰謀をたくらんでるらしい』

『何者なんです?』

『皆目見当もつかねぇ。調査に行ったギンガもビクトリーも、エックスまでもが行方不明になっちまった』

『何ですって!?』

 

 オーブは衝撃を受けた。歴戦のウルトラ戦士が、三人も消息を絶つとは!

 

『俺はエックスたちの消えた宇宙に行って、詳しく調査してくる。お前も気をつけていけ!』

 

 トン、とオーブの胸を軽く叩いたゼロは、ウルティメイトイージスを纏って次元を超えていった。

 

「シェアッ!」

 

 それを見送ったオーブは、己の手の中のオーブカリバーを見つめる。

 

『次元を超えたたくらみか……。一度、地球に戻った方がよさそうだな』

 

 独白したオーブは、カリバーの導きの元にハルケギニアから飛び立ち、己が守り、愛している人たちのいる地球を目指して進んでいった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 

 

THE ULTRAM@STER ORB 特別編

 

『絆の力で、輝きの向こう側へ!!』

 

 

 

 

 

 ――ここは東京都港区芝5丁目37番765号に建つ小洒落たオフィスビルに居を構えた、芸能プロダクション『765プロ』の事務所。

 

「あの、律子さん……これ何ですか?」

 

 この765プロの看板アイドルの一人、春香が疑問の声を発した。首を振る度に、頭の左右の髪を結った赤いリボンがピコピコ揺れ……ない。

 何故なら、今の春香は何やらゴテゴテした装置がくっついた黒いタイツで全身覆われているからだ。

 

「新開発の全身パワードタイツよ! 予算が増えたことで遂に試作が完成したの」

 

 アイドル仲間たちが見守る中、765プロの現プロデューサー――律子が自信満々に回答した。

 

「原理は簡単。モーションキャプチャー技術を応用して、タイツを着用してる人が動けばCGモデルが動く。反対に、CGモデルを動かせば……」

 

 リモコンを手にした律子が、パソコンの画面上のモデルを操作する。

 

「えっ、ええ!?」

 

 すると春香が、歩くモデルの通りの動作でその場を行ったり来たりし始めたのだ。

 

「春香もその通りに動く! すごいでしょ!?」

「うわー! ほんとにすごいよ律っちゃーん!」

「人間ラジコンだー! 亜美にもやらせてー!」

 

 興奮した亜美と真美がひったくるように律子からリモコンを取り、春香を思い通りに動かし始める。

 

「あはははは! ほんとにはるるんが思いのままに動くー! えいえいっ!」

「すっごーい! 宙返りまでさせられるよー!」

「ち、ちょっと亜美、真美! 待って! 待ってったら! うわあぁぁ!?」

 

 亜美たちに玩具にされる春香が慌てた声を上げた。それをよそに律子はアイドルたちに自慢する。

 

「どう? これを用いればどんな人にも完璧なダンスが出来るようになる! 完璧なバックダンサーが作り放題よ! これはアイドル界に革命をもたらすわよぉ~!」

「すごいですぅ律子さん!」

 

 やよいは純粋に感心していたが、千早や伊織は胡乱な目つきであった。

 

「確かにすごいけど……あまりに完璧すぎたら自然な動きが失われて、却ってお客さんに違和感を与えることになると思うわ」

「それに、あんな真っ黒タイツをステージに上げられる訳ないじゃないの」

「まぁそこは、まだ改良の余地があるということで……」

 

 取り成した律子だが、その直後にパソコンからピーッ、というエラー音が生じた。

 

「ねぇねぇ律っちゃーん。はるるん動かなくなったんだけど」

「ち、ちょっとほんとに動けないんですけど!? 誰か助けてー!」

「ああいけない! フリーズしちゃったんだわ!」

 

 慌ててパソコンに飛びつく律子。一方で変なポーズのまま固まってしまった春香は真や響が助ける。

 

「ほんとにまだ改良の余地があるみたいだね」

 

 春香からタイツを脱がせながら苦笑する真。律子は照れ隠しするように咳払いした。

 

「まぁとにかく、来月から我らが765プロの一大新企画、『765プロライブ劇場』がオープンするわ。そのスタートを華々しい大成功で収めるために、みんなも気兼ねなく意見を出していってね」

 

 ――最後の魔王獣、マガタノオロチとの決戦から早三か月。世界的に名前が知られた765プロのアイドルたちは今や完全に時の人である。しかしアイドルたちは決して慢心などせず、事務所の更なる飛躍のために765プロ専用のライブ劇場を新たに設立することになったのであった。劇場のための新人アイドルも高木が駆け回ってどんどんスカウトしていっており、劇場オープンの準備は着々と進められているのである。

 

「遂にミキたちの劇場がオープンするんだね。このこと、ハニーの耳にも入るかな」

「きっと応援して下さってるわよ。プロデューサーさんは、どこにいても私たちのことを見守ってくれてるはずだわ」

 

 美希とあずさが顔を見合わせて微笑み合った。すると、そこに、

 

「……私には分かりません」

「静香ちゃん」

 

 劇場オープンに先んじて、現在研修中の新人アイドル三人の内の一人、最上静香がポツリとつぶやいた。春香たち先輩アイドルの視線が彼女に集まると、静香は続けて口にした。

 

「皆さん、どうしてそんなに前プロデューサーのことを気に掛けるんですか? 何かある毎に、プロデューサーはどうしてるんだろうなどと……。この事務所が大変な時に、ある日突然いなくなってしまったような人なんでしょう?」

 

 前プロデューサーと入れ替わるように765プロに入社した静香は、765プロが何をしてきたのかということは知らないのであった。それどころか、傍から見れば突然いなくなったように見える前プロデューサーに良い感情を抱いていないようですらあった。

 前プロデューサー――紅ガイは、三か月前のマガタノオロチによる史上最大の怪獣災害の前後に、突然765プロから去ってしまった。その後はアイドルから転向した律子が引き継いだのである。

 皆を代表して春香が苦笑いしながら静香に告げる。

 

「静香ちゃん、生憎詳しいところは言えないんだけど……私たちは、プロデューサーさんがいてくれたからこそここまで来られたの」

「前プロデューサーが、ですか……?」

「うん……」

 

 遠い目をしながら語る春香。

 

「プロデューサーさんは、私たちにたくさんの大切なことを教えてくれた……。今の私たちが、私たちの道をまっすぐに行くことが出来るのは、あの人のお陰なんだよ……」

「はぁ……」

 

 春香を始め、周りのアイドルたちは皆それぞれ紅ガイに思いを馳せていたが、静香は今一つ実感が湧かないようで呆けていた。

 

「そんなに大事な人なのかしら……。いつ戻ってきてもいいように、飲み物を常に用意してまでなんて」

 

 静香が見やった小型冷蔵庫には、紅ガイの好物であるラムネがストックされている。

 そんなことをよそに、伊織が千早を相手につぶやく。

 

「私たちの活動が順調なのは何よりなんだけど……ほんと麗華の奴はどうしたのかしらね。ある日を境にパッタリだわ」

「東豪寺プロのことね。私たちに嫌がらせをしてきてた……」

 

 ため息を吐く千早。東豪寺プロとは、大企業の東豪寺財閥が擁する大手芸能プロダクションで、令嬢の東豪寺麗華がリーダーを務めるユニット『魔王エンジェル』は業界でも指折りの人気アイドルグループである。765プロのいわゆるライバルなのだが、この東豪寺プロは売れるためならば汚い手段も辞さないやり口で、765プロが有名になり出した頃から様々な嫌がらせをしてきて苦しめていたのであった。

 

「昔はあんな奴じゃなかったんだけどねぇ……」

 

 幼馴染の麗華の顔を思い出して嘆息する伊織。

 しかしその嫌がらせは、三か月ほどを前にすっかりとなくなった。初めは大災害の影響でそんな余力もないと思われたが、どうもそうではないらしい。今では魔王エンジェルは、別人になったかのように健全な活動にシフトしている。いいことではあるが、一体どんな心境の変化があったのだろうか、と伊織は首を傾げていた。

 

「何でも新しいプロデューサーを雇ったって噂で聞いたけど、それと関係してるのかしら?」

 

 また他方では、雪歩がふと口を開いた。

 

「そう言えば、未来ちゃんと翼ちゃん遅いですね。珍しいですぅ」

「確かに。いつもならばもっと早くの時間に出社してきますね」

 

 相槌を打つ貴音。春日未来と伊吹翼――静香と同じ765プロの新人アイドルである。

 と噂をすれば、その二名が事務所にやってきた。

 

「すみませーん! 遅くなっちゃいました!」

「未来と一緒に前の事務所のあった場所を見に寄ってたんですけど、そこでウチに用のあるって人を見つけまして。案内してきたんです!」

 

 と理由を語る未来と翼。その二人の後ろから入ってきた人物の顔をひと目見て、新人以外のアイドルたちは皆仰天した。

 

「スバルさん!?」

「みんな……お久しぶり」

「あれ、お知り合いでしたか?」

 

 その人物とは、765プロがまだ売れていない活動初期に取材にやってきたミッドチルダジャーナルの記者――正体は別世界ミッドチルダから宇宙人の犯罪者を追って765プロに接触した、防衛組織『Xio』の隊員スバル・ナカジマなのであった。

 

『やぁ、765プロの諸君。また会ったね』

 

 そしてスバルの腰に提げたデバイスが春香たちに呼びかけた。彼こそがこの地球に現れた二人目のウルトラ戦士であり、ミッドチルダの宇宙を守護しているウルトラマンエックスである。

 

『実は重要な話がある。ガイ君は不在なのかな……』

「わー!? 何ですかこのスマホ!」

 

 言いかけたエックスだが、唐突に未来と翼がスバルの腰からひったくった。

 

「あっ、ちょっと!?」

「すっごいゴテゴテしてるー! どこで売ってるんですか?」

『や、やめてくれ! こねくり回さないで! くすぐったい!』

「あはは! 面白い冗談ですねー。まるでケータイの中にいるみたいじゃないですか」

「こら二人とも! 人の物に勝手に触って、失礼でしょ!」

 

 エクスデバイザーをいじり回す未来と翼を叱りつける静香。その三人に、律子が言いつけた。

 

「ごめんなさい、三人とも。私たちはこの人と少しお話しがあるから、少しの間席を外しててくれないかしら」

 

 

 

 未来たちを外すと、律子たちは今日までの経緯を簡単にスバルとエックスに説明した。

 

「という訳で、以前の事務所は全焼してしまったのでここに移転したという訳です」

「そう……そんなことがあったんだ。大変だったんだね」

「いえ、お構いなく。それより、スバルさんはどうしてまた私たちのところに? また何か事件があったんですか?」

「そういえば、今日はダイチさんは一緒じゃないの?」

 

 以前の時は一緒に行動していた、本来のエクスデバイザーの持ち主のダイチの姿がないことを響が尋ねると、スバルが顔を曇らせた。

 

「それが……ダイくんは行方不明になっちゃったの」

「えっ!?」

『ミッドからしたら、私たちも行方不明者なのだが……。とにかく時間がない。この星に危機が迫ってるんだ』

 

 と穏やかならぬことを口にするエックス。

 

『そのためガイ君……ウルトラマンオーブに助力を頼みに来たのだが、そうか……旅立ってしまったのか』

「すみません……。連絡も取れない状態でして」

 

 謝る律子。

 

『いや、いないのなら仕方ない。すまないが、どうか君たちでダイチを捜してくれないだろうか。詳しい事情はそれから説明しよう。私たちがこの地に放り出されたからには、きっとそう遠くない場所にいるはずだ』

「今のあたしたちには、他に頼れるところがないから……。迷惑を掛けるけど、お願いできないかな?」

「迷惑だなんて、そんな! 私たちもウルトラマンの仲間なんですから、お助けするのは当たり前ですよ!」

 

 気前よく引き受ける春香であったが、そこで伊織が問題を呈する。

 

「でも捜すったってどうするの? ダイチさんは別世界の人間なのよ。警察には届け出せないわ」

「あんまり大事にする訳にもいかないわよねぇ……」

 

 頬に手を当てるあずさ。彼女たちは悩んだ末に、結論を出した。

 

「それじゃあ、こうしましょう」

 

 

 

「すみませーん! お願いしまーす!」

「ちょっとでも見かけたら、ご連絡をお願いします」

 

 変装したアイドルたちは総出で、駅前でダイチの顔写真を載せたビラを配っていた。ビラには、急遽設けた765プロとは一見無関係な専用のアドレスを連絡先として記載してある。

 彼女たちが取った手段は、実にアナログな人海戦術であった。

 

「あの……どうして私たち、こんなことをしてるんですか?」

 

 ビラ配りを手伝う静香が、こっそりと春香に尋ねかけた。

 

「え?」

「今は劇場の準備で忙しい時期なのに……その時間を潰してまで、何であの人のためにこんなことをしなくてはいけないんですか? あの人は何なんですか?」

 

 チラッとスバルを一瞥する静香。春香はどう説明したものかと窮する。

 

「え、えぇーっと、それはねぇ……」

「もーう、静香ちゃん。人助けを嫌がっちゃダメだよぉ?」

「765プロがただのアイドル事務所じゃないってことは静香も分かって来たんでしょ?」

 

 春香が言葉を詰まらせていると、未来と翼が横から入ってきて静香をたしなめた。

 

「まぁそうだけど……でもこんな人捜し、超常現象探究とも関係ないじゃない」

「わっかんないよぉ? わたしたちには思いもよらない深ーい理由があるかもしれないじゃん」

「ですよねぇ春香さん?」

「う、うん。まぁ、そんな感じかな……」

 

 未来に聞き返された春香がお茶を濁した。そんなところに、

 

「おい、おいおいおい! お前たちよぉ! お前たち!」

 

 渋川が走ってきて、春香たちを一喝した。

 

「こんなとこでビラ配りなんて、許可取ってんのかよ! 変装したって分かるからな!」

「ちょっ、叔父さん! 声大きいよ……!」

 

 春香が周囲の目を気にして渋川を静かにさせた。亜美と真美は渋川に文句を垂れる。

 

「渋川のおっちゃーん……。ビートル隊の偉い人なんでしょ? だったら別にやることあるんじゃないの?」

「何で真美たちにいちいち突っかかってくるのさー」

「いや、それとこれとは話が別個」

 

 言い返す渋川であったが……その時に、ふと目線をそらした雪歩があることに気づいた。

 

「どうしたの雪歩?」

「あの人たち……」

 

 振り向いた真が聞くと、雪歩が視線で、ビラに食い入っている黒服の男女数名を示した。皆の目が黒服たちに集まる。

 

「あっ、あの人たちは何か知ってるのかな?」

「近づいてはなりません!」

 

 未来が駆け寄ろうとしたのを、貴音とスバルが制止した。

 

「え?」

『気をつけろ! 彼らは……!』

 

 スバルの手中からエックスが警告すると、黒服の一人がいきなりスバルに飛びかかってデバイザーを奪い取ろうとしてきた!

 

「っ!?」

「おいやめろッ! 何してんだお前!」

 

 デバイザーを死守するスバル。渋川は反射的に黒服に掴みかかってスバルから引き離し、投げ捨てた。

 石畳に倒れ込んだ黒服の首が……虫のような人外のものに変化した!

 

「はッ!?」

「う、宇宙人だぁーっ!」

 

 絶叫する未来と翼。他の黒服も、姿がそれぞれ異形の怪人となってアイドルたちににじり寄り始めた。

 

「やばいッ! おいみんな、逃げろ!!」

 

 渋川の先導で逃亡を始めるアイドルたち。宇宙人の集団は奇怪な動きで彼女らを追ってくる。

 

『スバル……!』

「……ここでバリアジャケットは使えないよ……! 人の目が多すぎる……!」

 

 執拗に追ってくる宇宙人から逃げながらやよいが叫ぶ。

 

「うわーん! こんな時にプロデューサーがいてくれたらー!」

「ううんっ! 私たちもいくつもの危機を乗り越えてきたんだから! 自分たちの力で、このピンチを乗り越えるの!」

「そうだよ!」

 

 春香が勇ましく宇宙人たちに向き直って対峙した。同調した真や響が続くが、

 

「でも今は撤たーいっ!」

「えぇーっ!?」

 

 すぐにクルリと反転して逃げる春香。しかし、

 

「あ、あぁぁっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 足がもつれて転倒した。

 

「もう、何やってんのさ春香ぁ!」

「変にカッコつけるからだぞ!」

「ご、ごめーん……」

 

 真と響に助け起こされる春香であったが、そんなことをしている間に追いつかれてしまった。

 

「うわぁ来たぁー!?」

「くっ……!」

 

 スバルが覚悟を決めてマッハキャリバーを握り締めたが……突然、宇宙人たちが頭を抑えて苦しみ始めた。

 

『うぅ……!?』

「ど、どうしたの?」

「――この音色は……!」

 

 千早が真っ先に気がついた。少しずつ、どこかから流れてくる穏やかな音色が大きくなっていることに。

 

「ハーモニカの音色……?」

 

 未来たちは呆気にとられたが、春香たちはその途端に顔を輝かせた。

 そして建物の陰からぬっと出てきたのは――魔法使いのようなローブを羽織りながら、ハーモニカを奏でる一人の男。

 

「あの人は……?」

 

 春香たちは一斉に、歓喜の声を発した。

 

「ハニ……!」

「プロデューサーさーん!」

「プロデューサーだぁー!」

「プロデューサー! 助けに来てくれたんだね!」

 

 美希が慌てて口をつむいで、周りに呼称を合わせた。静香は唖然とつぶやく。

 

「あの人が……紅ガイ……!」

 

 アイドルたちの窮地に現れた風来坊――紅ガイは、高く跳躍すると宇宙人たちに飛び蹴りを食らわせた!

 

「おぉー!?」

 

 仰天する未来たち。ガイはそのまま襲ってくる宇宙人たちを相手に、格闘で圧倒する。

 

「おおおぉぉーッ!」

 

 宇宙人を素手でバッタバッタ薙ぎ倒すガイの姿に、未来と翼は大興奮。

 

「す、すごーい! 紅ガイさんって、あんなに強いんだー!」

「さっすが765プロの元プロデューサー!」

「いやおかしいでしょ!? 芸能プロデューサーがどうしてあんなに強いの!?」

 

 静香がガビンと突っ込んだが、亜美がさも当たり前かのように言った。

 

「それが亜美たちのプロデューサーだよぉー!」

「えぇ……」

 

 ガイは回し蹴りで宇宙人たちを纏めて蹴り飛ばした。宇宙人たちは敵わないと判断したか、一斉に逃走していく。

 

「待てッ!」

 

 追いかけるガイたちだったが、宇宙人は人間に変身し直し、往来のサラリーマンの群れに紛れて分からなくなってしまった。

 

「逃げられたか……」

 

 ひとまず敵を追い返して安全になると、春香たちはわっと喜んでガイを囲む。

 

「プロデューサーさん! お帰りなさいっ!」

「帰ってきてくれたんですね、プロデューサーさん!」

「そのカッコ何ー!? 魔法の国にでも行ってきたのー?」

「まぁそんなとこだな。これはお土産のクックベリーパイとハシバミ草のサラダだ」

 

 聞いてきた真美に手荷物を預けるガイ。そんな彼に、スバルが持ち上げたデバイザーからエックスが呼びかける。

 

『危ないところだった。ありがとう』

「エックスさん! 行方不明になったと聞きましたが……」

 

 スバルからデバイザーを受け取るガイ。

 

『心配を掛けたな。ウルトラ……』

「あぁー!?」

 

 言いかけたエックスを、ガイや春香たちが慌てて黙らせた。未来たちはきょとんとしている。

 

「ウルトラ?」

「う……ウルトラすまなかったー! ってことよ! あっははは……!」

 

 伊織が無理矢理ごまかした。

 

「ともかく、一旦事務所に戻りましょう。話の続きは落ち着いた場所で」

 

 律子が場を仕切り、一行は場所を移動していったのだった。

 


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