臨時ニュースの中継画面に映る、東京タワー半径10キロ以内の街の光景は、765プロのアイドルたちがおよそ見たことがないほどの大事態であった。大通りにはいつまでも避難する人の波が続き、途切れる気配がない。避難誘導する自衛隊員にやり場のない焦燥感や不安を当たり散らす怒号の声もあちこちで起こっている。
中継のリポーターが報じる。
『ビートル隊による攻撃の発表がありましたが、指定区域の避難は未だ完了しておらず、現場では大変な混乱が生じております!』
その中継の最中に、リポーターの背後のビルが三棟纏めて地中に没していき、避難民から悲鳴が発生した。
『皆さん、落ち着いて! 落ち着いて避難――きゃっ!?』
混乱を静めようとするリポーターだったが、更に近くを竜巻が襲い、彼女も取り乱して叫んだ。
『逃げてぇーっ!』
画面に映るこの大混乱に、見ているアイドルたちは皆一様に青い顔となっていた。
「まこと恐ろしきことに……。阿鼻叫喚とはこのことです」
「律子さんたちは、無事に戻ってこられるでしょうか……」
貴音がつぶやき、雪歩はまだ事務所に戻って来ていない律子、亜美真美の心配をした。
その一方で小鳥が独白する。
「プロデューサーさんも、社長も無事にビートル隊の基地に到着したかな……」
この場には、先ほどまではいたガイの姿が、春香などと一緒になくなっていた。
ジャグラーが拘束されているビートル隊基地。ここに春香、美希、そして高木とともに、ガイが駆け込んできた。
「叔父さんっ!」
春香が呼ぶと、渋川が彼らの前にやってくる。
「高木さんまで、何しに来たんですか。早く避難して下さい!」
「ジャグラーに会わせてくれ!」
ガイは渋川の言葉をさえぎるように、食い気味に頼んだ。
「それは無理だ。部外者を奴のところに通す訳にはいかない」
断る渋川だが、春香たちは粘って説得する。
「あの人がオロチのこと話したんでしょ?」
「何でそのことを……」
「あいつは危険なの!」
「人類に手を貸すとは思えない。何か裏があるはずだ!」
美希、ガイと続いて、高木も渋川に頼み込む。
「渋川君、私からもお願いだよ。ここでの選択を誤ったら、取り返しのつかないことになるんだよ」
「……」
渋川は彼らの訴えかけを深く考慮する。その結果――。
電磁牢の中で、ジャグラーが不意にニヤリと笑みを顔に貼りつけた。
この拘束室のシャッターの前までガイたちは通されたのだ。
「ここです」
「ありがとう、渋川君。ガイ君」
高木と目のあったガイがうなずくと、春香と美希の方へ振り向いた。
「春香、美希、ここで待ってろ。奴には俺一人で会ってくる」
「分かったの」
「気をつけて下さい!」
春香たちに見守られながら、ガイがシャッターの前に立った。そしてゆっくりとシャッターが開かれ、ジャグラーの姿がガイの視界に入った。
顔を上げたジャグラーは、ガイに向かって含みのある笑いを向けた。
「面会とは嬉しいね」
ガイはジャグラーの閉じ込められている電磁牢の前に立つと、開口一番に問いを投げかけた。
「どういうつもりだ」
「あ?」
「何故ビートル隊にオロチの出現を教えた! 一体何をたくらんでる」
それにジャグラーは、笑みを消した真顔で答えた。
「滅びゆく人間どもに真実を教えてやっただけだ。引き金を引くのは俺じゃない。人間自身さ」
「お前……!」
ジャグラーは、ビートル隊にマガタノオロチ出現を教えた、その真意を語り出した。
「恐怖に駆られた人間ほどおぞましいものはこの世にない。一度は闇の力に囚われたお前なら分かるだろう? 人間どもの闇の力がマガタノオロチを呼び出し、この星を地獄に突き落とすのさ」
これを聞かされたガイは憤怒で口元がわなないたが、ジャグラーに何か言うよりも、拘束室から飛び出して渋川に頼むことを選んだ。
「ミサイル発射を止めてくれ! 罠だッ!」
「何!?」
唐突な発言に面食らった渋川は、こう返す。
「もう遅いよ! たった今発射された!」
「ッ!」
考えるより早く、弾かれるように外へ向かって駆け出すガイ。
「ガイ君ッ!」
「ぷ、プロデューサーさんっ!」
高木が思わず叫び、春香と美希は慌ててガイの背中を追いかけていった。
「着弾まで、5、4、3……」
ビートル隊の指令室では、菅沼以下ビートル隊隊員らが、東京タワーに向けて発射されたスパイナーR1をモニターしていた。
豪速で空を切り裂いていくスパイナーR1は、闇のオーラに覆われる東京タワーの根元に突き刺さり、凄絶な炸裂を起こす。
「スパイナーR1、目標に命中!」
ビートル隊のオペレーターの一人が報告したが、すぐに別の一人が異常を発見した。
「これは……!?」
「どうした?」
すぐに振り向く菅沼。
「爆発の熱エネルギーが、地底の一点に収束していきますッ!」
「何!?」
「長官、あれをッ!」
ビートル隊幹部が、モニター画面に映る東京タワーを指差した。
スパイナーR1の爆発を契機として、東京タワーを覆う闇のオーラは消えるどころか増大していた。そして全てのオーラが空の穴に吸い上げられていき――その中から巨大怪獣が地上に落下したのであった!
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
歪んだ球形の胴体を覆う青黒いグロテスクな触手と、全身に巻きつくいくつもの蛇型の首。そして肉体の半分近くを占めるのは、大きく裂けた口にズラリと並んだ鋭い牙を持った怪物の顔面。
これこそが太古の地球に寄生し、何度もオーブを苦しめてきた魔王獣の、真に頂点に立つ闇の王である――!
律子と亜美、真美は無人の街の中を、トータス号で飛ばしていく。その最中に律子が述べる。
「何を見落としてたのか分かったわ……! マガオロチの奇異な行動よ!」
「マガオロチの?」
「どういうこと?」
後部座席から聞き返す亜美たち。
「マガオロチが一時的に行動を止めてた時のことよ。あの時マガオロチのバイタルはとっくに活性化してたのに、実際に動き出したのは大分時間が経ってからだった……。あの時のバイタルの上昇は、自分の分身を地中に植えつけるためのものだったのよ!」
断言した律子が片手でガシガシと頭をかきむしる。
「ああーっ! 何でもっと早くこのことに気づかなかったのかしら! そしたら事前に何か手が打てたかもしれなかったのにっ!」
「後悔してもしょうがないよ律っちゃん! それより、マガタノオロチをどうするかを考えなきゃ!」
真美が諭すと、亜美がうなずいて言う。
「マガオロチ、あの強さで子供だったんでしょ? だったら大人になったらどんな化け物になっちゃうの!? やばいよー!」
「全くだわ! そのためにも、早く太平風土記の解読をしなくっちゃ!」
真美の抱える太平風土記を一瞥する律子。
「さっき少し見ただけだけど、最後のページは案の定オロチの記述だったわ。きっと何か対抗策が記されてるはず! それを見つけ出さなくちゃ!」
「うん! 急いで事務所に戻ろう!」
と言う真美であったが、タブレットで臨時ニュース画面を開いてた亜美は、顔面蒼白となって二人に告げた。
「あんまり認めたくないんだけどさ……もう遅いみたい……!」
「え!?」
ニュース画面にはちょうど、東京タワーより現れた大怪獣の姿が映し出されていた。
東京タワーへと走っていたガイたちも、遠方に見える怪獣の、ここからでも肌に感じる凄まじいプレッシャーによって思わず足を止めていた。
春香が震える声でつぶやく。
「あれが……本当の大魔王獣……!」
ジャグラーは誰に言うでもなく語る。
「オロチは寄生した星の核に潜り込み、星のエレメントと結びついた魔王獣を生み出す。魔王獣はオロチが星を食いやすいように調理をするのが仕事の眷属。やがてオロチの半身が目覚めて調理の仕上げを行い、残る半身が真の姿となって星の全てを食い尽くす」
ジャグラーはこれまでで一番というほどの愉悦の表情となっていた。
「それが超大魔王獣マガタノオロチだ。お前たちに倒せるかな?」
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
遂に目覚めてしまった、最後にして最強の超大魔王獣マガタノオロチは、手近なビルに身体をぶつけて横倒しにすると、裂けた口をいっぱいに開いてかぶりつく。
この姿を、事務所のアイドルたちの内、千早がおののきながら評した。
「ビルを……食べてる……!」
軽い腹ごしらえかのようにビルを瞬く間に捕食したマガタノオロチは、本格的な暴虐を開始する。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
口から絶大な威力の迅雷を吐き出して周囲の街並みを片っ端から焼き払い、更には全身から火炎弾を噴火のように飛ばして破壊の勢いを加速させる。空には瞬く間に暗雲が立ち込めて無数の竜巻が発生し、その一つをマガタノオロチ自身が呑み込んだ。
「……何てこった……!」
「とうとう、恐れていたことが現実に……!」
ビートル隊指令室に移動してきた渋川と高木が、文字通りの地獄絵図となる東京タワー周辺の光景に戦慄した。
この世の地獄を地上に作り出していくマガタノオロチに、あらゆる人間が恐怖する。――だが、そんな中でもガイたちは闘志を保ち続けていた。
「春香、美希、あれを止めるぞッ!」
「はいっ!」「うんっ!」
三人はオーブリングとカードを構えて、フュージョンアップを行う。
「ゾフィーっ!」
[ゾフィー!]『ヘアァッ!』
「ベリアルさんっ!」
[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』
「光と闇の力、お借りしますッ!」
[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]
融合したガイたちがウルトラマンオーブ・サンダーブレスターとなって空からマガタノオロチへ一直線に飛び蹴りを仕掛けていく。
「ムンッ!」
だがいち早く察知したマガタノオロチがマガグランドキングの怪光線を放ち、オーブの飛び蹴りを止めた。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
更にそこに迅雷を飛ばしてオーブを撃ち落とす!
「グワァッ!」
先制したつもりが返り討ちに遭い、地面に叩きつけられたオーブだが、負けてはいられない。すぐに立ち上がる。
『「今更カーテンコールなんて遅すぎるのよ! とっととお帰り願うわっ!」』
黒春香が威圧するがマガタノオロチにはまるで通じておらず、マガタノオロチは肉体から無数のマガタノゾーアの触手を伸ばして攻撃してきた。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
「フッ!」
オーブは光刃を飛ばして触手を断ち切り、手刀で弾き返す。しかしマガタノオロチはマガゼットンの光弾やマガパンドンの火炎弾を絶え間なく撃って猛攻を仕掛けてくる。
「「『ゼットシウム光輪!!!」」』
いちいち弾いていてはきりがない。オーブは光輪を盾代わりにして相手の攻撃を防ぎながら前進。怪光線を弾いたところでマガタノオロチの口の中にパンチを繰り出した。
『「こんなでっかい口をだらしなく開けて! 行儀悪いわっ!」』
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
マガタノオロチの顎を掴んで抑え込もうとしたオーブだが、マガバッサーの竜巻に襲われて吹っ飛ばされる。
「グワァァッ!」
『「「あぁうっ!?」」』
倒れ込んだオーブにマガタノオロチが牙を剥いて迫る。だがオーブは顎を捕らえて食い止めた。
『「お触りは厳禁よ! このマナー知らずっ!」』
蹴飛ばしてマガタノオロチを押し返し、顔面に連続パンチを浴びせる。
『「このっ! このっ! これでもかっ!」』
『「えいっ! やぁっ! なのっ!」』
重い打撃の連発でひるませようとするが、マガタノオロチは口からマガジャッパの臭気を吐き出してオーブをもがき苦しめる。
「ウゥゥッ!?」
『「く、くっさ……! 下品にもほどがあるわ!」』
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
叫んでもマガタノオロチの攻勢は緩まない。その鋭い牙でオーブの腕に噛みついてきた!
「ウワアァァーッ!」
更にマガタノオロチの肉体に絡みつく蛇の首が伸び、オーブに食らいついて事実上の拘束となった。
『「う、動けない……!」』
そこからマガタノオロチは電撃を浴びせて、オーブを苛んだ。
『「「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」』
オーブの大苦戦の様子を目の当たりにして、亜美と真美は愕然としていた。
「あんなに強いサンダーブレスターが……!」
「簡単にあしらわれてるなんて……!」
そんな二人に律子が呼びかける。
「二人とも、覚悟はいい……?」
「え?」
「マガタノオロチに接近するわよ!」
律子の発言に亜美真美は仰天。
「な、何でそんなこと!?」
「オロチの弱点を見つけるのよ! でないとプロデューサーたちが危ないわ!」
言い聞かせた律子は、二人を安心させるように不敵に微笑んだ。
「大丈夫よ。私たちには太平風土記があるんだから。真美、しっかり持っててね」
「うん……!」
「行くわよ……765プロ、ファイトぉっ!」
合言葉とともに、トータス号が再発進した。
一方で春香と美希は、オーブリングにオーブオリジンのカードを通す。
『「プロデューサーさん、真の姿に!」』
[覚醒せよ! オーブオリジン!!]
オーブカリバーの力でオーブオリジンに変身して拘束を振り払い、更に春香がカリバーをリングに差し込んだ。
[解き放て! オーブの力!!]
『「これで切り返すっ!」』
オーブはカリバーで円を描き、全身全霊の一撃を光線として放つ!
「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』
剣から発せられる絶大な光の奔流が、マガタノオロチに直撃した! これは効くか!
――と、思われたが何と、マガタノオロチはオーブスプリームカリバーをも口の中に収めて呑み込み始めた!
『「えっ……!? なっ……!?」』
目を見張る春香たち。マガタノオロチはスプリームカリバーを食らいながら前進し、接近してくる。
『「くっ……うぅぅぅ……!」』
春香と美希でカリバーを支えてスプリームカリバーを撃ち続けたが、マガタノオロチはとうとうカリバーの刀身に牙を突き立てた!
逆流するエネルギーがオーブたちを襲う。
「ウッ……! ウゥゥ……!」
『「ま、まだまだぁ……!」』
身体が焼けそうになっても、春香たちはあきらめずにカリバーを握り続ける。
ビートル隊基地の拘束室では、ジャグラーを見張っていたはずの隊員たちが全員、その場に横たわって意識を失っていた。
その間を、ガイがいつも奏でるメロディを口笛で吹きながら悠々と歩く男が一人。黒いスーツのネクタイをキュッと締め直す。
拘束されたふりをしていたジャグラーであった――。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
マガタノオロチはとうとうオーブカリバーを奪い取り、横に吐き捨てた。オーブは武器を失い既になってしまう。
『「オーブカリバーが……!」』
『「……まだだよ! まだこれからっ!」』
春香は美希に、自分に言い聞かせるように言った。オーブは相手の動きに注意しながら、懸命にマガタノオロチに挑み続ける。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
「デッ! テアッ!」
マガタノオロチの噛みつきをかわしながら隙を見て、相手の顎を脚の間に挟み込んだ。そのまま倒れ込みながらマガタノオロチを地べたに引きずり下ろす。
「フゥゥゥゥゥンッ!」
「ピュウオ――――――――――ッ!」
マガタノオロチの頭部を殴り、押し返すオーブ。必死に抗戦する彼であったが――マガタノオロチのクリスタルの角が光り、ほとばしる迅雷がその身体を焼く。
「ウワァァァァァッ!!」
マガタノオロチの怒濤の攻勢にもがき苦しむオーブ。その様を、マガタノオロチに近づいてきた律子たちが見上げる。
「「兄ちゃんっ!!」」
「プロデューサーっ!!」
思わず悲鳴を上げる三人。――この時気を取られたことが原因で、迅雷の余波によって弾け飛んだ道路の瓦礫に、彼女たちは反応が遅れてしまった。
「きゃあああああああああああああああっ!!」
気がついた時には、トータス号は降ってきた瓦礫に呑み込まれた!
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
マガタノオロチは絶え間なく火炎弾や光弾を発し続けてひたすらオーブを打ちのめす。オーブのカラータイマーは激しく点滅していた。
「ウワアアアアアァァァァァァァァァッ!!」
『「「あああああああああああああっ!!」」』
そして――遂に、怪光線がカラータイマーを貫いた。
「グワァッ――!?」
カラータイマーの輝きは一瞬の内に奪われ、オーブはその場に倒れて消滅した。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
オーブを抹消したマガタノオロチはグルリと背を向けて、地響きを鳴らしながら歩み去っていく。邪魔者を退け、地球の捕食を再開しようというのだ。
「ピュウオ――――――――――ッ!!」
マガタノオロチの全身から火炎弾が雨あられとなって放出され、東京タワー周辺どころか、都心一帯を焼き払っていく――。
「プロデューサー!!」
「春香……美希がっ!!」
テレビでオーブの敗北を目の当たりにした千早や真たちが絶叫を上げた。彼女たちはどうしたらよいのか分からずに立ち尽くしたが――ハッと顔を上げた貴音が叫んだ。
「皆の衆! すぐに外へ!」
「え――?」
「急ぐのです! 早くっ!!」
その言葉の直後に、事務所の周辺に竜巻や火炎弾が襲い掛かり、建物を次々と破壊していく。
「きゃああああっ!?」
アイドルたちと小鳥は恐怖に駆られて、事務所から脱出した。全員が外に逃げ出した間一髪のところで――。
ドッッゴオオオオオォォォォォォォォンッ!!
火炎弾が事務所のある雑居ビルに直撃し――765プロ事務所が爆ぜ散った。
「あっ……あぁ……!?」
「じ、事務所が……!」
その瞬間、全員の表情が驚愕と、絶望に染まった。
デスクが、ソファが、予定をいっぱい書き込んだホワイトボードが、律子の発明品が、『約束』の楽譜が、いくつもの写真が――ナターシャから春香へ受け継がれたマトリョーシカ人形が――事務所に詰まっていたたくさんの想い出が、灰になっていく――。
「ぐッ……うぅッ……!」
オーブの身体が消滅しても、ガイたちは辛うじて命を拾っていた。しかしダメージは色濃く、特にガイはまともに動ける状態ではなかった。
「ぷ、プロデューサーさん……!」
身体を支えることすらままならないガイに、春香が胸を抑えてよろめきながらも近寄ってくる。
「しっかりして下さい……。私……私たちは、まだ……!」
訴えかける春香――その身体が、後ろから誰かに捕まった。
「きゃあっ!?」
「そうだ、しっかりしろぉガイッ!」
これまでにないほどの笑顔のジャグラーが、春香を捕らえながらガイを見下ろしていた。
「は、春香……!」
ガイも、美希も春香を助けようとするのだが、まともに身体を動かすことが出来ない。その間にジャグラーが続ける。
「ああそうだ! まだ終わりじゃないぞ。いや……終わらせない! 本当の地獄は……こんなもんじゃないぞッ!」
唱えたジャグラーが――蛇心剣を抜いて、春香の背面に刃を走らせた!
「――!!!」
美希が、ガイが声にならない絶叫を発した。
「――っ」
春香が――ゆらりと、その場に崩れ落ちていった。
千早「プロデューサー……色んなことがありましたね」
雪歩「最初にオーブのことを知った時は驚きっぱなしでした」
やよい「だけど、一緒にいられてとっても楽しかったですぅ!」
律子「楽しいことだけではありませんでした」
あずさ「辛いこと、悲しいこともたくさんありました」
伊織「でも、今となっては全部いい想い出よ」
真「あなたからは色々なことを教えてもらいました」
亜美「勇気も教えてもらった!」
真美「優しさも教えてもらったよ!」
美希「だからミキたち、ハニーが大だいだーい好きなの!」
響「振り返ればあっという間だったかもね」
貴音「ですが、今日までの時間は光り輝いております」
春香「私たち……プロデューサーさんのこと、絶対忘れません」