『何でだよガイッ!』
「何故お前なんだ!」
『この星が無くなる前に証明してやる。俺の方が優れていることをッ!』』
「大きな災いってマガオロチのこと?」
「律子…さん、これ途中で切れてるよ?」
「ここから先は原本を当たってみないと……」
「この郷土資料館に保管されてるみたいだけど……」
『誰かを守りたいと思う心は、俺に限界を超えた力を与えてくれる!』
『何だこの力はッ!?』
『お前が捨てた力だぁぁぁぁぁッ!!』
「終わりだね、宇宙人」
「ばぁん……」
――ある日のこと、東京タワー周辺の市街に、突如として三体もの怪獣が地中から出現した!
「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」
「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」
「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」
デマーガ、ゴメス、テレスドン! 突然のことに街は大混乱に陥るが、怪獣現れるところにはヒーローの姿がある。
「コスモスさん!」
[ウルトラマンコスモス!]『フワッ!』
「エックスさん!」
[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』
「慈愛の心、お借りしますッ!」
[ウルトラマンオーブ! フルムーンザナディウム!!]
そう、世界の救世主ウルトラマンオーブである。
『つながる力は、心の光!!』
三体の怪獣の中央に降り立ったオーブはフルムーンザナディウムの鎮静効果により、怪獣たちを大人しくさせようとした。
の、だが――。
「グバアアアア……!」
いきなりデマーガが横に倒れたのを皮切りに、ゴメス、テレスドンもばったりと倒れ込んだ。
『「えっ!? ど、どうしたんだ!?」』
『「まだ何もしてないわよ!?」』
オーブの中の響と律子が驚愕。オーブは倒れたまま動かなくなったテレスドンの傍らに膝を突き、その脈を計る。
だが、血流は停止していた。
『「死んでるわ……!」』
『「な、何で? どうして……?」』
動揺を隠せない響。見れば、ゴメスとデマーガも同様に生命活動を停止していた。
『「一体、地中で何が……」』
律子も疑問に思いながらも、オーブはテレスドンの目を閉ざしてあげた。
結局、オーブは怪獣の突然死の謎を解くことが出来ずに、そのまま引き上げるしかなかった。
――春香は気がつくと、鬱蒼と霧の掛かる森の中にいた。
「ここは……!」
木々の向こうでは、光り輝く巨人――オーブと、マガゼットンが激しく戦っている。
「度々見てた、プロデューサーさんの過去の戦いの夢……ひいおばあちゃんの記憶……!」
夢の中にいることを自覚する春香。そんな彼女に、マガゼットンの光弾が引き起こした大爆発が襲い掛かる。
「きゃあああっ!」
――しかし爆炎が迫る直前、彼女の身体は横から突っ込んできた何かに抱えられ、爆炎から逃された。
「うっ……?」
地面に寝かされた春香がうっすらとまぶたを開き、自分を覗き込んでいる人物の顔を視認する――。
その寸前に春香は目を覚まして、突っ伏していた事務所のデスクから顔を起こした。
時期は十二月、一週間後には待望のクリスマスライブが控えているのだが――窓の外には陽炎が揺らめき、セミの鳴き声がけたたましく鳴り渡っている。――ここは日本であり、断じて南半球ではない。
「死ぬかと思った……」
ぼんやりとつぶやいた春香に、アイスを頬張っていたガイが見下ろす。
「どうした春香、こんなとこで居眠りなんかして。疲れてるのか? まぁこんなちぐはぐな気候じゃ無理ないかもしれないが」
「ぷ、プロデューサーさん……」
「怖い夢でも見たのか? 妙にうなされてたが」
尋ねかけたガイに、春香は告げる。
「前にも話しましたよね? 光の巨人の夢……ひいおばあちゃんの記憶をまた見たんです。だけど、今回は続きがあって……」
「続き? ……どんな」
「怪獣が起こしたものすごい爆発に巻き込まれそうになったんですが……誰かが、私を抱いて助けてくれたんです」
春香の話した内容に、ガイは驚いた顔になっている。
「あれって、プロデューサーさんですか?」
「いや、俺は知らない」
「ですよね……。オーブが戦ってたんだから、違いますよね。でも、だったらあれは誰……?」
首を傾げた春香だが、ふと意識が現実の時間に向いて、ガイに質問した。
「ところで、みんなはどうしてますか?」
「大体は仕事だが、律子と亜美と真美は例の太平風土記の原本を探しに行ってる」
「太平風土記の……」
「この異常気象の原因を探るんだとさ。それで分かりゃいいんだがな。全く暑くて敵わねぇ」
クリスマスライブはもう一週間後なのに、事務所にいるのが自分だけなことを気に病む春香。それを察したガイが諭す。
「そんな顔するな。俺も何も考えてない訳じゃない。明日からはみんなに時間に余裕を持たせて、全体練習の時間を設けてる。それでライブには間に合うはずだ」
「あ、ありがとうございますプロデューサーさん!」
「当然だろ、プロデューサーなんだから」
礼を言った春香にヒラヒラ手を振ったガイは、クリスマスの日付に花丸を囲んだホワイトボードを見やりながら小さくつぶやいた。
「クリスマスライブか……。それまでに何事もなけりゃあいいんだがな……」
律子はカメラを回して、亜美と真美のリポートを撮りながら道を歩いていた。
「全国の兄ちゃん姉ちゃんたち! 十二月なのに、日本は真夏日を記録してます!」
「地球から続々と飛び去るUFO!」
「日本近海から姿を消す海の怪獣たち!」
「そして、相次ぐ地底怪獣の突然死!」
「これらは世界の終わりの前触れなんでしょうか!? 亜美たちはそれを調べてます!」
「たくさんの怪獣について書かれてる歴史書、太平風土記! その原本が、この町の郷土資料家さんに保管されてることが分かりました! ネットには載ってない最後のページに、世界の終わりを防ぐヒントがあることを祈って、765プロは行きまーすっ! 続きは後ほど!」
真美が言い終わると、カメラを止めた律子が首をひねった。
「うーん、いまいち緊迫感足りないわねー。やっぱり千早とかを連れてきた方がよかったかしら」
「律っちゃーん……いいから早くその資料館に行こうよー。亜美もう汗だくだよー……」
「もうこんなあっつい中を歩きたくない~!」
「分かった、分かったわよ。もうすぐだから後少しだけ我慢しなさい」
不平タラタラな亜美と真美をなだめながら、郷土資料家の家を目指す律子。しかし道中で、ふと亜美がこんなことをつぶやいた。
「ところで、こんな状況が前にもあったよね。六月頃にさ」
「あー、そういえばそうだね。マガパンドンだっけ? あの時も暑くて暑くて溶けそうだったよ」
亜美に相槌を打つ真美だが、律子は肩をすくめた。
「でもそれはもう倒したじゃない。いえ、マガパンドンだけじゃなくて、魔王獣全部をもう撃退済みよ。だから魔王獣が原因とは思えないんだけど……」
言いながらも、律子は何かを考え込むように腕を組んだ。
「律っちゃん?」
「だけど……何か忘れてるような気がするのよね。何か見落としてることがあるような……」
とぼやきながらも、三人は件の郷土資料家の自宅の前に到着したのであった。
郷土資料家の奥方という老婦人に、家に上げてもらった律子たちは、婦人が席を離れている間にヒソヒソと話し合う。
「でも律っちゃん、太平風土記を見せてもらえるのかな……?」
「社長が昔、真美たちと同じことしてたって言ってたけど……持ってる岸根教授って人は、社長が何回頼んでも一度も見せてくれなかったそうだよ? すんなり見せてくれるかな……」
「でも行動しないことには始まらないわ。どうにか説得しましょう」
覚悟を固めて、岸根教授を待つ律子たち。そこに岸根教授の妻、岸根秋恵がコスモスの花を携えて戻ってきた。
「庭のコスモスが満開なの。季節外れの暑さも、案外嫌なことばかりじゃありませんね」
仏壇に花を添える秋恵に、律子が意を決して尋ねかける。
「突然すみません。岸根教授はお留守でしょうか……?」
すると秋恵は、三人にこう答えた。
「ご存じないのね。主人は先々月亡くなりました」
「えっ……!?」
仏壇には、岸根教授と思しき人物の遺影が飾られていることに律子たちは気がついた。
「ご、ご愁傷様です……」
「でも亜美……私たち、岸根教授に太平風土記を見せてもらいに来たんです」
と申し出る亜美だったが、秋恵は次の言葉で返した。
「生前、主人は申しておりました。太平風土記は禁断の書……いたずらに公開すれば、この世を恐怖と混乱に陥れる。然るべき時が訪れるまで、決して、公開してはならないと」
秋恵の証言に軽く驚く真美たち。
「だから社長には見せてくれなかったんだ……」
「でも、今の私たちにはどうしても最後のページが必要よ……!」
律子は説得の意志を強めて、秋恵に臨む意欲を駆り立てた。
その頃――ビートル隊本部では、ビートル隊の上層部が、特別拘束室に入室をしていた。
そこで彼らを待っていたのは――電磁牢に入れられながら、全身を厳重に拘束されているジャグラスジャグラーであった。中央の男性はジャグラーに向かって名乗る。
「ビートル隊日本支部、長官の菅沼です。私に大事な話があるそうですね」
顔を上げたジャグラーは、開口一番に告げた。
「間もなく、最後の魔王獣が現れてこの星は無くなる」
ジャグラーのいきなりの告白に、菅沼は表情を強張らせた。
「終わりの始まりの地……それは八つの地脈が交わる東京の聖地。滅びの時は……二時間後に迫っている」
「……何か証拠はあるんでしょうか?」
聞き返した菅沼に、ジャグラーは呆れたような視線を向けた。
「随分余裕だな。今すぐ手を打たなければこの星はあっという間に食い尽くされるぞ? あんたのせいで」
「……何故あなたが我々にそんなことを教えるんです」
「決まってるだろ……こんなとこでくたばる訳にはいかないからだよッ!」
興奮したようにジャグラーが喚くと電磁牢が反応してスパークを起こした。看守のビートル隊隊員たちは菅沼たちをかばうようにジャグラーへライフルを向ける。
ジャグラーが静かになると、菅沼が問い返す。
「八つの地脈が交わる東京の聖地というのは?」
しかしそこに一人の隊員が駆けつけ、菅沼に報告を行った。
「長官! 東京タワー周辺で、ビルが沈むという怪現象が相次いでます!」
東京タワーの真上の空に、天に開いた穴のように不気味な暗雲が渦巻き、その中央からタワーへ暗黒の稲妻が降り注いでいた。
その様子を捉えた映像とともに、全国に臨時ニュースが放送される。
『番組の途中ですがここで臨時ニュースです。政府は、観測史上最大の怪獣災害が起こる可能性が高いとして、首都圏全域に、非常事態宣言を発令しました』
そのニュースを、事務所でガイ、春香、小鳥、高木の四人が見ていた。春香はガイの顔を見上げる。
「プロデューサーさん、これって……!」
「……社長、小鳥さん、みんなを呼び戻しましょう」
「うむ……最早みんな仕事どころではないだろう」
「すぐみんなに連絡をします!」
小鳥が慌ただしく受話器を手に取った。春香は、不安げにニュースの映像を凝視していた。
ジャグラーは菅沼たちへ語る。
「ウルトラマンオーブに倒されたマガオロチは幼体に過ぎない。あの時奴は地底にその命を託した。間もなく、地球そのものを蛹として完全体となる。その名も……!」
『マガタノオロチ。地球の存続を脅かす恐ろしい怪獣であり、昨今わが国で起きている異常現象は、全てこの怪獣が出現する前兆であることが分かりました』
菅沼はジャグラーから伝えられたことを、全国に発表。それを春香たちが見ていたところに、資料館へ行っている律子たち以外のアイドルが全員事務所に戻ってきた。
「お帰りなさい。外の状況は?」
小鳥が尋ねると、千早が疲れ切ったような顔で答えた。
「大変な騒ぎですよ……。この辺りはともかく、都心に近いところではどこも避難する人たちで溢れ返って、あちこちで暴動染みた騒ぎも起きてるとか」
「私たちも、ここに戻ってくるまで大変でした……」
「律子さんたちは大丈夫かしら……?」
雪歩がため息を吐き、あずさが律子たちの心配をした。そんな中で、春香は小さくつぶやく。
「でも、皮肉だよね……」
「えっ、何が?」
聞き止めた真が聞き返すと、春香は目を伏しながら言った。
「こんな騒ぎでも起こらないと、私たち集まらないなんて……」
「……ああ……」
そこに、どこかと電話をしていた高木が皆に振り向いて告げる。
「みんな、ビートル隊は東京タワーの直下100メートル、マガタノオロチの蛹に向けてスパイナーR1による爆撃を決定した!」
「えっ!?」
「スパイナーR1……って、何ですか?」
やよいが尋ね返すと、高木はそれについて説明した。
「現在地球上で最も破壊力がある大陸間弾道ミサイルだ。しかしまだ実験段階なのだが……」
「そんなのを東京のど真ん中で使おうって言うの!? 避難だってまだ完了してないんでしょ!?」
耳を疑う伊織だが、高木は苦渋を噛み締めた表情でうなずいた。
「決定事項だ。ビートル隊の友人が先んじて教えてくれた」
「そんな……!」
アイドルたちは衝撃を受けて立ち尽くしているが、ガイだけは、何かを訝しむように目をそらしていた。
「プロデューサーさん?」
「ハニー?」
ガイの異変に気がついた春香と美希が振り返った。
律子たちも苦々しい顔で、タブレットで臨時ニュースを目にしていた。アナウンサーが続報を読み上げる。
『ただいま怪獣関連で新しい情報が入ってきました。ビートル隊はマガタノオロチの復活を阻止するため、新型ミサイルによる攻撃を決定しました。発表によりますと、攻撃範囲は、東京タワーを中心とした半径5キロ圏内とし、住民の避難が完了次第、攻撃に入るとのことです』
その発表の直後に、秋恵は律子たちに述べた。
「天のいかずちに似たる矢、悪しき気を持ちて、オロチ、蘇らせたり」
秋恵の前の机には桐の箱が置かれており、秋恵はその蓋を開けた。
そして中に収められていた太平風土記の原本の、ネット上にはないページを律子たち三人に見せた上に、それを差し出した。
「持っておゆきなさい」
「でも……!」
意外なほどにすんなりと渡されたことに、律子たちは逆に戸惑った。そんな三人に秋恵は言う。
「然るべき時が来たら、これをあなたたちに渡してほしい。それが、主人の願いでした」
「岸根教授が……?」
「何で、真美たちのこと知ってるの……?」
唖然とする真美たちに、秋恵はきっぱりと告げた。
「年寄りを舐めんじゃないよ」
そう言って机の上に乗せたのは、ノートパソコン。それを反転させて、表示されている画面を見せる。
ひと目見た律子たちは驚愕した。
「えっ!? これって……!」
それは765プロの公式サイトの、『アンバランスQ』のページ。それも現在更新されているものだけではなく、今では消してしまった分も含めて、過去に更新した記事が逐一スクリーンショットで保存されていた。
「原始哺乳類だとか大猿だとか、火星ナメクジだとか追ってた頃と比べたら、少しはマシになったみたいだね」
その秋恵の発言に、亜美と真美は震えながら律子の袖を引いた。
「律っちゃんどうしよう……。亜美、今までで一番嬉しいかも……!」
「真美も、こんなに感動したの初めて……!」
「正直言うと、私も……!」
感動で打ち震えている三人に、秋恵が呼びかけた。
「時間がないよ。765プロ!」
「――ファイトっ!」
律子たちは力強く応じ、太平風土記を受け取って立ち上がった。