THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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inferno edge(A)

 

『「――お仕置きよ」』

「かっこよかったよ……全てを破壊し尽くすお前の姿……」

『「畏れ! ひれ伏し! 崇め奉りなさいっ!」』

「ほれぼれしたなぁ……」

『「これが閉幕のベルよ……!」』

「この星の奥底に……まだ闇の力が眠っていたとは……」

「プロデューサーさん、怪獣が出ないようになったら、765プロにいてくれるのかなって……」

「ガイ、死なずにこの星が滅びるのを、たっぷり見物してくれよな」

 

 

 

『inferno edge』

 

 

 

 ――ある夜、とあるビルの屋上にたった一人、刀を中腰に構えた男がいた。

 ジャグラスジャグラーだ。彼は遠くに見える摩天楼に向かって、大振りに蛇心剣を一閃する。

 

「――うええぇあッ!」

 

 すると刀身から闇のエネルギーが刃となって飛んでいき、一棟のビルの壁に命中した。その瞬間、ジャグラーはその場に片膝を突いて息を荒げる。

 己が振るった闇の刃の痕を見やると、ひと言だけつぶやいた。

 

「まだだ……」

 

 ジャグラーの脳裏には、今となっても昨日のことのように思い出せるある記憶がよみがえっていた。

 何もかもの始まり。故郷の惑星O-50、戦士の頂に自分が先にたどり着いたのに、自分は光に拒まれ、ガイが聖剣に選ばれて光の戦士に生まれ変わった時のことを――。

 

「――俺の方が上のはずだ。手に入れてみせる……お前を切り裂く力をッ!」

 

 忌々しげに吐き捨てたジャグラーの握る蛇心剣に、闇の輝きが宿った。それを確かめるジャグラー。

 

「闇の力が満ちていく……。全てが滅びる……」

 

 空を見上げたジャグラーの視線の先には、不吉なほどに赤い月が孤独な夜の空に浮かんでいた――。

 

 

 

 ある日、ガイは営業回りの途中、公園で一時休憩を取っていた。

 公園では多くの家族連れやカップルなどのたくさんの人たちが、一時の平穏を謳歌して賑やかな空気を形作っている。そんな様子を見つめていたガイに、

 

「ガイさん」

 

 背後から声が掛けられた。振り返ったガイが目にした顔は、

 

「ハルカ……!」

 

 以前に怪獣の予知夢を見続け、夢日記をネットにアップしていたことで有名となっていた霧島ハルカだった。彼女はガイが闇のカード――ウルトラマンベリアルのカードを手にする夢を見て以来、夢日記を途絶えさせていたのだが……。

 

「また予知夢を見たのか」

 

 ガイの問いかけに、ハルカはコクリとうなずいた。

 

「ええ……。漠然としか見えないけど……何か強大な力で、世界が闇で覆われる夢を見たの。それも、そう遠くない未来……」

 

 ハルカのスケッチブックには、輪郭がはっきりとしていないが、何かおぞましい怪物の絵が描かれていた。

 スケッチブックを受け取ったガイは、彼女を安心させるように説いた。

 

「前にも言ったろ? 未来は、真っ白なんだ」

 

 スケッチブックのページをめくって、何も描いてないページを見せるガイ。

 

「運命は変えられる」

 

 言い切ったガイの元に、青いボールが弾んできた。

 

「すいませーん!」

 

 キャッチしたガイは、そのボールを地球に見立てながらハルカに告げる。

 

「心配すんな! この地球は俺たちが守る。何があっても、俺とあいつらがいれば大丈夫さ」

「……そうだよね。信じてる、ウルトラマンオーブ!」

「任せとけ!」

 

 約束したガイを、ボールを飛ばしてきた子供たちが急かした。

 

「早くー!」

「ああごめんごめん!」

 

 子供たちの元へ行ってボールを返すガイの背中を、ハルカは温かい眼差しで見つめていた――しかし、不意に何かを憂うように目を伏した。

 

 

 

 その頃、春香と美希、律子は渋川からある情報を持ち込まれていた。

 

「何これ……?」

 

 つぶやく春香。渋川に見せてもらったビートル隊のデータベースには、ビルの外壁に異様な傷が走っている写真があるのだ。

 

「自然に出来たものじゃないわね……」

 

 律子のひと言にうなずく渋川。

 

「最近色々な場所で、突然、ビルの壁とかに亀裂が見られる。これってどう思う? かまいたち、いやお前たち」

 

 渋川のしょうもない親父ギャグに冷めた目を向ける春香たちだが、美希は律子に耳打ちした。

 

「ねぇ、カマイタチって何?」

「知らないの? 大気中に条件が重なると真空状態が発生して、それが肌に当たると皮膚がパックリと裂けるという現象よ。もっとも、これはあくまで仮説なんだけど……」

 

 語りながら写真に視線を戻す律子。

 

「それに、ビルの壁なんて硬いものに亀裂を入れるなんてありえないわ」

「これも怪獣の仕業なのかな……」

 

 春香のひと言に、律子がふと思い出した。

 

「そういえば、太平風土記の最後に、これと似たようなことをする怪獣が載ってたわ!」

「それだよそれ! すぐそいつを見せてくれ!」

 

 渋川に促され、律子はネット上の太平風土記を検索した。

 

「あった、これですよ! 『その名も鎌鼬呑。禍々しき風にて、ありとしあるものを切り裂きにけり』」

「カマイタドン! これに間違いないの!」

 

 確信する美希だったが、春香は訝しげな表情だ。

 

「えぇ? この怪獣、ほんとにいるんですか? 何だか今までと比べたら安っぽいネーミングだし、挿絵も描き込みが少ないし……」

「そんなこと私に言われても分からないわよ」

「でも律子…さん、これ途中で切れてるよ?」

 

 指差す美希。彼女の言う通り、カマイタドンのページは続きがありそうなのだが、この先は破けてなくなっていた。

 

「それが、どこのデータを調べてみても全部ここで終わってるのよね。ここから先は原本を当たってみないと……」

 

 肩をすくめる律子。

 

「ちょうどいい機会だわ。原本を確かめてみましょう。この郷土資料家が保管してるみたいだけど……」

 

 話を進める律子たちだったが、不意に渋川がそれをさえぎった。

 

「ちょっと待ってくれ。写真には続きがあるんだよ」

 

 ビートル隊の資料には他にも写真があった。それを時系列順で追うと――ビルに走る亀裂が、徐々に大きくなっていっていた。

 

「だんだん亀裂が大きくなってる……!」

「それに、形が整っていってるの!」

「切れ味が鋭くなっていってる証拠ね……。怪獣が技の練習をしてるのかしら」

 

 春香たち三人はその様子を想像して背筋に悪寒を走らせた。

 

「とにかく、このまま被害が続いたら大変なことになる!」

「うん。今はまだ壁の傷だけで済んでるけど、このまま行けば倒壊するビルも出てくるかも……」

 

 懸念する春香。美希と律子も険しい表情だ。

 

「すぐに怪獣の正体を突き止めるべきだね!」

「ええ。今週の『アンQ』はこれで決まりよ!」

「はい! 765プロ、ファイトっ!」

 

 春香の合言葉を合図として、渋川を加えた四人は直ちに行動を開始した。

 

 

 

 ジャグラーは一人、ある公園の広い芝生の中央にまでやってきて、蛇心剣を鞘から抜いた。その場所に立っていると、刀身に闇のエネルギーが満ちる。

 

「ここなんだな」

 

 刀に聞いたジャグラーは、おもむろに刃を地面に突き刺した!

 すると地中から凄まじい闇のエネルギーが噴出し、それが全て蛇心剣に吸い込まれていく。

 

「あああああああッ!」

 

 闇の力を溢れ返るほど剣に蓄えたジャグラーは、蛇心剣を天高く掲げる。剣からはほとばしるエネルギーが稲妻状に放出された。

 

 

 

 事務所に戻る途中だったガイは、空へと走る暗黒の稲妻を目撃して足を止めた。

 

「何だ……?」

 

 ただごとではないことを察したガイは踵を返し、稲妻が起こった地点に向けて足取りを変えた。

 

 

 

 春香たちは一番新しい亀裂が走ったビルの前まで来て、実際の亀裂を解析していた。

 

「どうだ? 何か分かったか?」

「自然現象ではないことは確かです」

「それに亀裂というよりも、カマか何かで斬りつけたみたい……」

 

 細かいひび割れがなくなり、三日月型となっているビルの傷跡を春香がそう評した。その場にガイがやってきて、四人に気づいて足を止めた。

 

「あっ、プロデューサーさん? どうしてこんなところに?」

「ちょっと嫌な予感がしてな。何か異常はないか?」

 

 ガイが尋ねると、すぐに美希が現在の調査内容を話した。

 

「ビルにおっきな亀裂が入ってるの!」

「亀裂?」

「亀裂の両サイドが曲がって、三日月のように見えるんです! これです」

 

 タブレットで画像を見せる律子。それに目を落としたガイは、小さくつぶやく。

 

「三日月? ……ジャグラー……!」

「えっ……!?」

 

 ジャグラスジャグラーの名前が出てきて、春香たちは途端に硬直した。何も知らないのは渋川ばかり。

 

「おいどうしたんだ? 何か心当たりでも……」

 

 問いかけた渋川だったが、次の瞬間に――彼らの近くのビルを黒い光刃がかすめ、深々と切り傷を入れた!

 

「えっ!?」

「何だあれ!?」

 

 途端に周囲から巻き起こる悲鳴。そしてガイはハッと、光刃が飛んできた方向へ振り返った。

 そちらにいる市民たちが皆、血相を抱えて逃げていく。――その人の波を断つように、蛇心剣を引きずりながらジャグラスジャグラーが現れた!

 

「ジャグラー……!」

 

 名前を口にするガイ。他の人たちの姿がなくなり、唯一その場に留まっているガイたちの前で、ジャグラーが立ち止まった。

 邪に微笑みながら剣を顔の前に持ち上げたジャグラーの姿が、魔人態へと変化する。

 

「宇宙人ッ!」

 

 即座にスーパーガンリボルバーを抜く渋川だったが、ジャグラーは無言で蛇心剣を構える。

 

「伏せろぉッ!」

「うわッ!?」

 

 危険を察知したガイが渋川を引き倒すと、のけ反った渋川の顔面すれすれを黒い光刃が飛んでいき、背後の高層ビルの外壁を粉砕した。

 

「うわッ……!?」

 

 危ないところで命を拾った渋川だったが、光刃は風圧だけで彼の意識を刈り取った。慌てて駆け寄った春香たちに彼を託したガイは、険しい目つきでジャグラーと対峙する。

 

「俺に用があるのか? だったら人間を巻き込むなッ!」

 

 怒鳴るガイだが、ジャグラーは全く聞く耳を持っていなかった。

 

『ふんッ! この星が無くなる前に証明してやる。俺の方が優れていることをッ!』

「この星が……無くなる……!?」

 

 今の発言に衝撃を受ける春香たち。

 

『ガイ、今から死ぬお前には関係ないことだ』

 

 ジャグラーから向けられる殺意を、ガイは正面から受け止める。

 

『闇の力……地中に眠る闇が、俺に力を与えてくれた!』

 

 ジャグラーは闇が宿る剣を掲げて、雄叫びを発した。

 

『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 それに引き寄せられるかのように、背後の立体駐車場の向こうから八つの闇のエネルギーの塊が飛んできてジャグラーに吸収される。そしてジャグラーが飛んでいって駐車場の陰に消えると――。

 

「何……!?」

 

 ビルと同等の身長となって立ち上がったのだ!

 

『フハハハハハ! フハハハハハハハハハッ!!』

 

 哄笑で大気を震動させるジャグラー。春香と美希はすぐにガイの両隣に立った。

 

「プロデューサーさん!」

「ハニー!」

 

 だがガイは、彼女たちへ言った。

 

「お前たち……この戦いは、俺一人にやらせてくれ」

「えっ!?」

 

 ガイは確固たる眼差しで、春香たちに言い聞かせる。

 

「きっとこれが、奴との本当の最終決戦となる。――あいつだけは、俺だけで倒したい! 俺自身の手で奴との因縁に終止符を打ちたいんだ!」

 

 そう語るガイの瞳には、様々な感情が織り交ぜられていた。

 ガイの訴えかけに、春香たちは一瞬ためらったものの、うなずいて了承した。

 

「分かりました。その代わり――必ず勝って帰ってきて下さい!」

「絶対だよ! 約束破ったら許さないんだからね!」

「二人とも、手を貸して。渋川さんを連れて避難するわよ!」

 

 春香たち三人は協力して失神している渋川を抱え上げ、その場から離れていく。

 一人残ったガイは、堂々とオーブリングを構えた。

 

「ゾフィーさんッ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

「ベリアルさんッ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 リングにゾフィーとベリアルのカードを通して、オーブリングのトリガーを引く!

 

「光と闇の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ゾフィーとベリアルのビジョンと融合したガイの身体が、ウルトラマンオーブへと変身を遂げる!

 

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 ジャグラーの頭上を飛び越えて、オーブはその背後へと着地した。振り向いたジャグラーとオーブが対峙する。

 

『闇を抱いて、光となる!!』

『待っていたぞ、この時をッ!!』

 

 オーブとジャグラーは同時に跳び上がり、空中で激突した!

 

 

 

 ジャグラーが巨大化するとともに、都市の一帯には緊急避難指示が発令された。

 

『都心に巨大宇宙人が現れました! 速やかに避難して下さい!』

 

 都市の人々は中継されるジャグラーの巨躯の姿に恐れおののき、各々の仕事を中断して迅速な避難を開始する。

 それは765プロの各アイドルたちの仕事場でも同じであった。

 

「こりゃあ大変だぞ!」

「みんな、すぐにこっから離れよう!」

 

 テレビスタジオで撮影をしていた千早、雪歩、伊織の三人は、周りのスタッフが慌ただしく避難行動を取る中、ケータイの画面からの中継映像で、ジャグラーの姿を確認する。

 

「この宇宙人は……!」

 

 千早たちは画面の中で戦闘を開始するジャグラーとオーブの様子から全てを察し、互いに顔を合わせてうなずき合った。

 そしてスタジオを飛び出すと、スタッフたちとは違う方向へと走っていく。つまり、戦場へと。

 

「お、おおい!? そっちは宇宙人のいる方角だよ!?」

 

 テレビスタッフの一人が慌てて呼び止めたが、顔を向けた千早はひと言で断った。

 

「仲間が待ってるんです! ごめんなさい!」

 

 周りの人たちの制止を振り切って、三人は全速力で戦場へ――オーブと春香たちの元へと向かっていった。

 それは他のアイドルたちも同じ。765プロアイドルの全員が、ジャグラーとの最終決戦を始めたオーブの元へと駆けていっているのだった。

 


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