THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

59 / 80
地図にないカフェのイマージュ(B)

 

 カウンター席に移ったミューとエドガーに、店長が尋ねかける。

 

「お二人とも、船が出るってのに、のんびりしてていいんですか?」

 

 それに答えるミューとエドガー。

 

『最後に店長のコーヒーが、どうしても飲みたくってね』

『右に同じです。この味がもう楽しめないと思うと、残念でなりませんね』

「それはそれは……カフェの冥利に尽きるお言葉です」

 

 口元をほころばせた店長が、二人のためにコーヒーを淹れる。

 

「よかったら、どうぞ」

『ありがとう』

『ありがとうございます、店長』

 

 最後のコーヒーを味わいながら、ミューが閑散と静まり返った店内を見渡して嘆息した。

 

『昔は本当に、賑やかだったのにねぇ……』

「沈みかけた地球から、みんな逃げ出したか……」

『このお店はどうするおつもりですか?』

 

 エドガーが聞くと、店長は目を伏しながら言った。

 

「今日で閉めます。あなたたちが、最後の客なんです」

 

 その言葉を聞いたミューが、多少気を動転させながら店長に申し出た。

 

『だったら……私の船に、乗ってかない!?』

「ありがとう……。いやしかし、私には、相棒がいますから」

 

 と返した店長の傍らから、赤いテルテル坊主がひょっこりと顔を出した。

 

「こいつと一緒に、どこか別の星を見つけますよ」

『……余計なお世話だったわね。忘れてちょうだい』

 

 どこか残念そうなミュー。それを一瞥したエドガーが話題を変える。

 

『聞いてますか? 夕べ、ゴース星人の乗った船がスピードの出しすぎで宇宙ゴミにぶつかったんですよ。その衝撃で、店長からもらったお土産のコーヒー豆を落としたそうなんですよ』

『あらら、しょうがないわねぇ。ゴース星人は昔からせっかちだからね』

「返事を待たずに地底ミサイル爆撃を開始したりね」

 

 店長のひと言にエドガーたちはどっと笑った。

 

『ハハハハ。店長のブラックジョークは相変わらず冴え渡ってますね』

「ありがとうございます」

 

 笑いを収めたミューが店長に注意する。

 

『それはともかく、店長も行くなら、気をつけて行きなさいよ。宇宙ゴミとの衝突事故は相次いでるわ』

「ええ……。今や、宇宙もゴミだらけとはね。私たちは地球を侵略しに来たってのに、大人しくこの星から立ち去ろうとしたら、ゴミが邪魔をして簡単に出ていけないなんて、皮肉な話ですよね」

『次はもっと、マシな星を探さなきゃ。男選びと同じね』

 

 ため息を吐いたミューが、765プロのアイドルたちの顔を思い返した。

 

『あの子たちも、宇宙に活躍の場を移してればよかったのにねぇ。この星と運命をともにすることになるんだから』

 

 と語るミューであったが、エドガーはそれに対して言った。

 

『いえ、本当にそうなるでしょうか』

『えっ? エドガーさん、何を言って……』

『私は昔、ずっと昔、人間の底力を見ました。ゾフィーさんならともかく、よもや人間に絶対の自信があったゼットンが負けるだなんて、思ってもみなかった……。彼女たちは、もしかしたらやるかもしれませんよ』

 

 そのように人間を評するエドガーに、店長が問うた。

 

「そうお考えならば、エドガーさんはどうしてこの星を去るんですか?」

 

 エドガーは苦笑しながら回答。

 

『決まってますよ。彼女たちが運命のレールを変えたのならば、そのタイミングで火事場泥棒のように侵略しようとするなんてこと、無粋の極みだからです』

「なるほど。おっしゃる通りです」

 

 エドガーの言い分に同意した店長だが、すぐに表情を曇らせた。

 

「ですが何にせよ……私たちの時代は過ぎ去ってしまいました……」

 

 

 

 ミューとエドガーが帰っていくと、店長は表のカフェの看板をドアから取り外した。

 

「これで、地球ともお別れか……」

 

 名残惜しげに独白した店長は、傍に浮かぶテルテル坊主に振り向く。

 

「ノーバ、そろそろ行こう……」

 

 しかし、少し目を離していた間に、テルテル坊主はどこかへ姿を消していた。

 

「ノーバ?」

 

 辺りを見回して捜すと――ビルとビルの間に、巨大化したテルテル坊主が現れた! 驚愕する店長。

 

「あいつ、何やってんだ……。ノーバ、戻ってこい!」

 

 慌てて呼び戻そうとする店長だが、テルテル坊主は何かを訴えかけるように彼を見下ろしている。

 

「ノーバ……お前……」

 

 店長はテルテル坊主の気持ちを察して、言い返した。

 

「分かったよ……お前は何も、変わっていなかったんだな……!」

 

 

 

 街中にいきなり現れた巨大テルテル坊主に市民たちはすぐにパニックとなり、愛たちもまた急いで引き返してきていた。

 

「あれ!! カフェにいたテルテル坊主ですよ!!」

「怪獣だったんだ……!」

「あの店長が絶対に何か知ってるはずだよ! 捜そう!」

 

 全速力でカフェへと戻っていく愛たち。しかしそれより早く、異変に気がついたガイたちが店長の元へとたどり着いていた。

 

「店長のおっちゃん! 何やってるの!?」

「どうしてこんなこと……!」

 

 亜美と響が息せき切って問いかけると、振り返った店長はこう答えた。

 

「あいつだけは……夢をあきらめちゃいなかったんですよ!」

「夢って、まさか……!」

 

 息を呑む真。信じたくはなかったが、店長の表情に冗談はなかった。

 

「考え直してよ! 侵略者を引退したって言うから、真美たちは……!」

 

 説得する真美だったが、店長の心は変わらなかった。

 

「私たちの夢を叶えるチャンスは、これが最後! あいつ一人で戦わす訳には、いかんのですよッ!」

 

 テルテル坊主に向き直った店長の手の中には、水晶玉が握られていた。

 

「待たせたなノーバ! 地球侵略の夢、今ともに叶えようぞ!!」

「おいよせッ! 今更こんなことしたって……!」

 

 ガイの制止も振り切り、店長は光となって飛んでいき、テルテル坊主の口の中に飛び込んでいった!

 

「おっちゃーんっ!!」

 

 テルテル坊主の内部の赤い空間で、店長はステッキを持った黒ずくめの姿に変貌する。

 

『「はいッ! 私が、ブラック指令ですッ!!」』

 

 カフェのブラック店長は、長く連れ添った相棒の気持ちに触れ、往年の姿、侵略者ブラック指令となったのである!

 

「ギイイイイィィィィ!」

『「さぁノーバよ、思いっきり暴れるが良い!」』

 

 ブラック指令と一体化した赤いテルテル坊主――円盤生物ノーバが、両目から破壊光線を発射して街の破壊を始めた!

 この顛末にガイたちは動揺している。

 

「何故こんなことに……!」

「そんな……おっちゃんと戦うだなんて……」

 

 躊躇う亜美と真美だが、真と響はガイに振り返った。

 

「でもやるしかないっ! プロデューサー!」

「自分たちで店長を止めよう!」

「ああ……!」

 

 ガイがオーブリングを、真と響がティガとマックスのカードを握り締めた。

 

「ティガさんっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

「マックスさんっ!」

[ウルトラマンマックス!]『シュアッ!』

「かっ飛ばす奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スカイダッシュマックス!!]

 

 フュージョンアップしたウルトラマンオーブが、ノーバに襲われる街の中に着地した。

 

『輝く光は疾風の如し!!』

 

 だがその瞬間、ノーバは奇怪な挙動でオーブとの距離を一気に詰めてくる。

 

「ウワッ!?」

 

 反射的に後ずさるオーブ。

 

『「待ってましたよ、オーブさん!」』

 

 ケタケタと小刻みに動くノーバの不気味さに、真たちは警戒している。

 

『「あの動き、普通じゃない……どんな攻撃をしてくるか……」』

『「超スピードで一気に決めればなんくるないさー!」』

 

 との響の言葉により、オーブは疾風の如き走りでノーバに突っ込んでいった!

 が、ノーバは風に舞う布きれのようなヒラヒラした身のこなしで、オーブの掴みかかりをヒラリとかわした。

 

『「えっ!?」』

『「は、速い!?」』

 

 思わず立ち止まったオーブが、ノーバの三叉ムチでひっぱたかれる。

 

「ウワァッ!」

 

 衝撃で地面の上を転がるオーブ。

 

『「いったぁ~……!」』

『「もう一度っ!」』

 

 すぐに起き上がって猛然と駆け回り、ノーバを捕らえようとするも、ノーバはやはりヒラリヒラリと翻弄してオーブの手をかいくぐってしまった。

 

『「駄目だ、掴みどころがない……!」』

『「だったら、違う手段で行くんだっ!」』

 

 うなずき合った真と響は、レオとゼロのカードを取り出した。

 

『「レオさんっ!」』

[ウルトラマンレオ!]『イヤァッ!』

『「ゼロさんっ!」』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

『熱い拳、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! レオゼロナックル!!]

 

 オーブはスカイダッシュマックスからレオゼロナックルにチェンジして、両の拳を燃え上がらせた。

 

『宇宙拳法、ビッグバン!!』

 

 オーブの燃える拳が、ノーバの身体を激しく叩く!

 ……が、ノーバは吹けば飛ぶような体格にも関わらずオーブのパンチをその身で受け止め、両目からの光線でオーブを返り討ちにした。

 

「グワァッ!」

 

 仰向けに倒れ、ノーバの光線に苦しめられるオーブの姿に、戦いの様子を見上げている愛たちが驚愕した。

 

「ああっ!! オーブが!!」

「頑張って……!」

 

 オーブの中で響が思わず絶叫する。

 

『「あんなテルテル坊主みたいなのが、どうしてこんなに強いんだ!?」』

 

 その言葉に答えるかの如く、ブラック指令が言い放った。

 

『「シンプルイズザベスト。最近の怪獣はごちゃごちゃしてていかん」』

 

 それでもオーブは光線を振り払い、体勢を立て直して手刀を振りかざした。

 

「「『レオゼロビッグバン!!!」」』

 

 渾身の力を込めたチョップをノーバへ振り下ろすも、ノーバは瞬間移動で消えて回避してしまった。

 

『「よけられた!」』

『「どこへ行ったんだ……!?」』

 

 左右を見回すオーブの背後から、ぬっと現れるノーバ。

 

「オーブ兄ちゃん! 後ろ後ろー!!」

 

 亜美たちが叫んだ時には遅く、オーブの首にノーバのカマが掛けられて動きを封じられたところに、赤い毒ガスを吹きつけられる。

 

『うわぁッ! もうやめるんだ店長!』

『「私はもう店長ではない!」』

『「店ちょーう! やめてぇっ!」』

『「だ~か~ら~! 店長と言うなぁ!」』

 

 オーブたちの言葉に耳を貸さず、ノーバはオーブを苦しめ続ける。しかしオーブも負けておらず、ノーバを振り払って相手の頭を鷲掴みにした。

 

「ギイイイイィィィィ!」

「ウリャアッ!」

 

 強烈な握力でノーバの頭を締めつけるものの、怪奇生物であるノーバには効果が薄い。オーブを前に投げ飛ばすと、その腰にムチを巻きつけた。

 

「ギイイイイィィィィ!」

 

 ムチを巻き上げてオーブを引き寄せ、再び毒ガスを食らわせる。

 

「オワァッ!」

 

 悶絶させたところにムチを食らわせるノーバ。その中でブラック指令が告げる。

 

『「借り物の力では、積年の夢に燃えるノーバには勝てませんよッ!」』

 

 そのひと言で表情を引き締める真と響。

 

『「だったらこっちだって!」』

『「実力勝負さー!」』

 

 真がオーブオリジンのカードを手にして、響の握るリングへと差し込んだ。

 

『「プロデューサー、真の姿にっ!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 現れたオーブカリバーを二人で掲げ、オーブオリジンへと変身!

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 それを真っ向から迎え撃つ姿勢のノーバ。

 

『「やっと本気を出してきましたね!」』

「ギイイイイィィィィ!」

 

 ノーバが放つ光線を、オーブはカリバーを盾に防ぎ切った。思わず頭を抱えるノーバ。

 光線を弾くと、真たちはカリバーをオーブリングへと差し入れてエネルギーチャージする。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 オーブが剣で円を描き、刀身にエネルギーの全てを集中した!

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 カリバーから放たれる必殺光線を、ノーバは口の中に飲み込んでいく。

 

『「ノーバぁ……!」』

 

 全ての光線を飲み込んだノーバは――溢れ出るエネルギーを抑え切れず、ロケットのようにはるか上空へと浮上。それを見上げるオーブ。

 そしてノーバの身体は、花火のようになって弾け飛んだ――。

 

 

 

 戦いが終わり――もうブラック指令ではなくなってしまった店長が、公園の中でうなだれていた。そこに静かにやってくるガイたち。

 ガイは店長の側に腰掛けて、ひと言呼びかけた。

 

「お疲れさんです……」

 

 店長はガイたちをひと言も責めずに、代わりに告げた。

 

「いい夢を……見させてもらいました……!」

「店長……」

 

 真たちは、哀愁漂う店長に何も掛ける言葉がなく、ただじっと彼を見つめていた。

 

「長い時間をともに泣き笑いして過ごした相棒を失った私には、もう……何も残っていませんよ……」

 

 そう自虐する店長に、ガイは言う。

 

「あんたのコーヒーを美味しいと言った奴らが、いるじゃないか」

 

 店長はゆっくりとガイに振り向き、そして一礼した。

 ガイが向き直った時には、店長はカフェの看板だけをその場に残して、消えていた。

 看板を抱え上げた真がぼそりとつぶやく。

 

「店長……地球侵略なんてボクたちからは受け入れられない夢だったけどさ……かわいそうだよね……。あんなに一生懸命だったのに……」

 

 響たちが伏し目がちにうなずくと、ガイが皆に向けて言い聞かせた。

 

「お前たちは着実に夢の実現に向かって進んでいる。だが、狭き門にはそれだけ数多くの脱落者がいるってことだ。俺たちがあのカフェで会った奴らは、そのごく一部に過ぎない」

「……」

「夢に向かって進む道のりは、夢半ばで破れた人たちを足場にして出来ているってことを、俺たちは忘れちゃいけないな……」

 

 ガイの言葉を、真たちは粛々と受け止めていた。

 

 

 

 後日、真たちは事務所でコーヒーを啜っていたが、吐き出したのはため息だった。

 

「この味じゃないんだよなぁー……」

「店長のコーヒーが恋しいぞ……」

「もう飲めないんだよねぇ……」

「……何だか、ごめんなさいね。納得いってもらえなくて」

 

 コーヒーを淹れた小鳥が微妙な顔になった。

 その一方で、事務所に来ていた渋川が貴音にあることを

 

「ねねね、貴音ちゃん! 君だったらきっと知ってるだろ? 君は大分好きみたいだからね! だから教えてくれよぉ住所!」

「はてさて……何のことでしょうか」

「そんなつれないこと言わないでさぁ~! どぉーしてもどぉーしても分かんねぇんだよ! 病みつきになる美味しいラーメン出してくれた店の場所!」

 

 今のひと言に、ガイたちが思わず顔を上げた。

 そんなことは露知らず、渋川は懐から割り箸の袋を取り出した。

 

「えーとね、店の名前は……ラーメン★ブラックスター! 知ってるだろ!?」

 

 その袋には、見覚えのあるマークが描かれていた。

 それを知ったガイたちは――ほんのりと微笑を浮かべ合っていた。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

あずさ「三浦あずさです。今回ご紹介するのは、ウルトラ戦士さんの間でも伝説と呼ばれる超人、ウルトラマンキングです」

あずさ「キングさんは『ウルトラマンレオ』に初登場した、M78星雲の最高齢のウルトラ族です。そのお歳は何と三十万歳。ウルトラマンさんが二万歳ですから、実に十五倍ですね。地球人に換算したら一体どれだけのご年齢になってしまうのかしら?」

あずさ「その能力はウルトラ戦士の視点からでも絶大でして、ありとあらゆることが出来るとされてます。『レオ』の時では小さくされたレオさんを元に戻してウルトラマントを授け、ババルウ星人の変身を暴き、バラバラにされてしまったレオさんを蘇生させてます。後年の作品でもヒカリさんにナイトブレスを与えたり、ベリアルさんを圧倒して宇宙牢獄に幽閉したりと要所要所で重要な活躍をされてます」

あずさ「最新作の『ウルトラマンジード』では遂に宇宙全体と一体化して宇宙を再生するという、まさに奇跡の業も披露しました。『ジード』ではキングさんの存在がどのように物語に影響していくのでしょうか。目が離せませんね」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『コーヒー1杯のイマージュ』だ!」

ガイ「この曲はアニメのDVD、BD第三巻の限定版の特典として収録されたCD『PERFECT IDOL』で初出の歌だ。昼下がりのカフェで待ち合わせをしているという状況を背景とした物語仕立ての歌だぞ」

あずさ「私もお洒落なカフェで運命の人と待ち合わせてみたいですぅ。なんて」

あずさ「それでは、次回もよろしくお願い致します」

 




 伊織ちゃんよ! 空から、宇宙から次々と怪獣が現れる! その原因は何なのかしら? 世の中はすっかり暗い空気に閉ざされちゃってる。こんな時こそ、ヒーローは希望を見せなくちゃいけないって亜美と真美が言ってるわ!
 次回『運命スターライン』。プロデューサーたち、世界に光を見せてちょうだい!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。