「ハイパーゼットンを育てて、何するつもりだった?」
『お前を倒せば……俺の名が上がる……!』
『どうして勝つことが出来た……。ゼットンが恐ろしくなかったのか……!?』
「あいつらのために、プロデュースしてる俺が怖気づく姿なんか見せられるかよ」
「母です……。でももう母親だとは思ってません」
「間違っても、そんなことを言うもんじゃない」
「話すべきことは山ほどあるんだからね……お母さん」
「お母さんのこととか、過去のこととか、整理がつきそうか?」
「いきなりは無理です。でも……」
「近い内に、お母さんとも完全に仲直りします」
――私がその不思議な少女と出会ったのは、いつもの街の雑踏の中でのことでした。
「……?」
私、如月千種はある日、街の往来でただ一人、ポツンと立ったままでいる女の子に目を留めました。その子は朝から、夕方になっても恐らくはずっと同じ場所で立ったままだったのです。
家出をしたのか、他に何か事情があるのか……ともかく気に掛かった私は、その子に話しかけてみました。
「こんにちは」
「……?」
少女はマーヤという名前以外、何も覚えていることがないと言いました。記憶喪失……警察にも届け出てみましたが、彼女の捜索願は出ていませんでした。
身元が分かるものも何一つ持っておらず、所有物といえば何故か外すことの出来ない腕輪だけ。そんな行き場のないマーヤちゃんを……私は思うところがあって、自分の家に預かりました。
「マーヤちゃん、今日からここを自分の家だと思ってくれていいからね」
「お邪魔します……」
それからしばらく、私とマーヤちゃんは本当の母娘のように暮らしました。私も……失った時間を取り戻すかのように、マーヤちゃんに親身になって接しました。
……私は昔、幼い息子を亡くしてから、ずっと孤独でした。夫は私の元から去り、娘も私に愛想を尽くして、家を出ていきました。寂しかった……。私がマーヤちゃんを預かったのは、彼女への同情ではありません。自分の側にいてくれる人が欲しかったからだと思います……。
そんなある日、私はマーヤちゃんに、在りし日の家族のアルバムを見せました。
「千種さん、この子たちは?」
「私の子供よ……。男の子の方は、もう遠いところへ行っちゃったけど……娘は、人気アイドルとして活躍してるの」
私は娘――千早の出演した番組の録画や、芸能記事のスクラップ帳を見せてあげました。あの子がアイドルデビューをしてから、その収集は欠かしたことがありません。
『蒼いぃー鳥ぃー、もし幸せぇー……♪』
マーヤちゃんは、すぐに千早のことを気に入ってくれました。
「素敵な歌声……! 千種さんの娘さん、すごいアイドルなんだね!」
「ええ……」
「……? 千種さん、寂しそう……。娘さんと何かあったの?」
「……いいえ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
千早とはずっと疎遠になっている、ということは言えませんでした。以前よりは関係は修復されたとはいえ、あの子は今や世間から引っ張りだこ。私の勝手であの子の邪魔をする訳にはいきません。直接会ったのも、奈良沢ダムでの時が最後……。
マーヤちゃんには、千早の代わりをさせている、なんて思わせたくはありませんでした。
「……」
マーヤちゃんは興味深そうに千早の記事をながめていましたが――不意に、その内の一つに目を留めました。
その写真には、千早のプロデューサーさんが一緒に写っていました。
「ああ、その人は千早のプロデュースをしてる人よ。千早も随分お世話になってるんですって」
私の説明を聞き流すほどに、マーヤちゃんは写真に食い入っていました。
「……?」
私は何だか、その様子に変な予感を覚えました。――マーヤちゃんまでが、遠いところへ行ってしまうような、そんな――。
――765プロ事務所で、ガイや春香たちがネットに投稿されたある動画を注視していた。
「この怪獣って、やっぱり……」
春香がつぶやくと、伊織が固い面持ちでうなずく。
「春香が誘拐された時……私と真が最初にハリケーンスラッシュになった時に戦った奴とそっくりね」
動画の中では、空に浮遊する怪獣――ハイパーゼットンデスサイスの姿に恐れおののいた市民が逃げ惑っていた。最近投稿されたばかりの動画だ。
パソコンを操作している律子が、動画について説明する。
「再び現れたこの怪獣は、何の前触れもなく現れては、暴れるでもなく突然消えるを繰り返してる。そしてもう一つ、目撃情報が飛び交ってるのが……」
「この少女ってこと?」
千早が動画の隅に映り込んだ、蒼いリボンを身につけている少女の後ろ姿を指差した。
「ええ。通称、蒼いリボンの少女。あの怪獣が現れる時、必ず現場にいる。しかも……」
動画の中の少女が腕を持ち上げると、その腕が一瞬激しく光り……閃光とともに少女もハイパーゼットンも消えていた。
「怪獣が消えると一緒に姿を消す。怪獣と何か関係があるのは間違いないわね……」
「怪獣を操ってた宇宙人の仲間じゃないの?」
美希が質問すると、律子はその可能性を否定した。
「仲間がいたんだったら、あの時一人で戦わなかったはずよ」
「じゃあ、こいつは一体何者なんだ」
ガイの問いかけに肩をすくめる律子。
「それは調べてみないと分かりませんね。目的が分かれば、すぐにでも突き止められるところなんですが……」
蒼いリボンの少女について、美希と伊織が意見を交わす。
「捜そうにも、怪獣が出てくる時以外じゃ目撃されてないんだよね。見つけ出せるかな?」
「赤いリボンの少女だったらここにいるんだけどねぇ」
春香を指差して嘆息する伊織。一方で律子はハイパーゼットンと少女の目撃情報の地点をパソコン上で纏める。
「怪獣と少女の出現、消息地点から推測すれば、行動範囲は絞り込めるわ。その中に行動拠点がある可能性は高いわね」
そう語る律子に指示を出すガイ。
「すぐやってくれ。今はまだ目立った動きはないとはいえ、このまま何もしないでいる保証はない。早急に手を打たなくちゃな」
「でも、前に一度やっつけた奴じゃないの。暴れ出したところで、また倒してしまえばいい話じゃない」
楽観する伊織だが、それを咎めるようにガイは言った。
「いや、ゼットンはエネルギーを蓄えるほどにどんどん強さを増していく怪獣だ。一回目の戦闘から大分日にちが経ってる……。次も同じように倒せるとは限らないぜ」
「えっ、そうなの……?」
伊織が若干青ざめていると、律子が早くも少女の行動範囲を割り出していた。
「出たわ! 少女の方は、この地域に潜伏してる可能性が大ね」
「よくやってくれた。どれどれ……」
ガイたちは律子が赤く染めた地図の一点を確かめた。
すると変な声を上げた者が一人いた。――千早だった。
「えっ? そんな……ここって……!」
「千早ちゃん?」「千早さん?」
春香、美希らは怪訝そうに千早に振り向いた。
ガイたち一行は、律子が絞り込んだ地域に実際にやって来た。
「調査の結果、あそこの家屋の縁側で、見かけない女の子がお茶を飲んでいたという目撃情報が得られたわ。果たしてその子が、件の蒼いリボンの少女なのか……」
律子が視線を送った先の一軒家……それを見つめた千早が、ポツリと声を漏らした。
「やっぱり……。でもまさか、よりによってここだなんて……」
「千早、一体どうしたの? あの家に見覚えでも?」
様子の変な千早に伊織が問いかけたら、千早は意外なことを口走った。
「見覚えがあるも何も……ここは私の実家よ!」
「ええっ!?」
一同、仰天して千早に振り向いた。
「もっとも、親は離婚して父は家を捨てていったから、ここに住んでるのはもう母だけなんだけど……。そこに女の子なんて……」
「あっ、ほんとだ! 表札『如月』になってるの!」
表札を確認した美希が告げた。春香は伊織と顔を見合わせる。
「でも、まさか行き着いた先が千早ちゃんの実家なんて……」
「よりによって千早のお母さんが怪獣と関係してる? まさか……」
「誰が相手だろうとも、とにかく聞き込みをしてみようぜ。話はまずそれからだ」
家のインターホンを押すガイ。「はーい」と中から返事があり、数秒後に玄関の戸が開かれて、当然ながら千早の母親――如月千種がその顔を見せた。
千種は千早の顔を目の当たりにして、大きく目を剥いた。
「!? 千早……いきなりどうしてここに……?」
「お母さん……今日は、ある用事のために来たの」
「用事……? 何かしら……」
問い返された千早が、蒼いリボンの少女の写真を見せた。
「この女の子を捜してるの。何か知らないかしら?」
「っ!」
千種は一瞬固まったものの――
「ごめんなさい、知らないわ……」
「本当……? ここに見かけない女の子がいたって話も聞いてきたんだけど」
「……いいえ、何かの間違いじゃないかしら」
千種の回答に――千早は若干据わった目で、彼女の顔を見つめた。
「お母さん……正直に話してるのよね。何も隠し事をしてないと、私に言ってくれる?」
「……」
千種が妙に口ごもっていると、この場に渋川が駆け込んできた。
「おーい! お前たちー!」
「渋川のおじさん!? どうしたんですか、そんなに慌てて」
目を丸くした伊織が尋ねると、渋川は焦った口調で告げた。
「避難しろ! すぐに逃げるんだ!」
「え?」
「あれを見ろッ!」
渋川が指差した先の空には――動画に映っていたように、ハイパーゼットンデスサイスが空に漂っていた!
「あれはっ!?」
真っ先に動いたのはガイだった。――渋川の言う通りに避難するどころか、ハイパーゼットンの方へと駆け出していった。
「おい待てッ! プロデューサー君!」
「怪獣の近くに、私たちの捜してる子がいるはずよ!」
「はいっ! 765プロ、ファイトぉーっ!」
律子や春香たちアイドルもまた、ガイの背中を追いかけるように走り出した。
「おいお前たち! おーいッ!」
渋川も彼女らを止めようと走っていくと、一人残された千種は顔色を変えて家の中に駆け込んでいって、居間に飛び込んだ。
――そこには広げられたアルバムがテーブルの上にあるだけで、人っ子一人の姿もなかった。
大勢の市民の避難の波を逆流してハイパーゼットンの元に近づいていった春香たちは、蒼いリボンの少女の姿を求めて辺りを見回した。
「この近くにいるはず……」
「あっ、いた! あそこなの!」
美希が指し示した先に、動画で見たのと全く同じ、蒼いリボンを後頭部に結んだ少女が、空に浮かぶハイパーゼットンに向けて手をかざしていた。
その右腕に嵌めている腕輪から紫色の光が漏れ出ると、それとシンクロするようにハイパーゼットンの身体からも同じ光が沸き出ていた。
「怪獣を操ってるの……?」
「みたいね……。だけど、何をさせるでもなく浮遊させたままなんて……どういうつもりなのかしら」
伊織と律子がつぶやき、ひとまず様子を見る一同。しかし春香があることに気づいた。
「あれ、プロデューサーさんがあんなところに!」
「えっ!?」
見れば、少女の背後からガイがゆっくりと近寄っていっていた。
ガイは少女に呼びかける。
「お前……何者だ」
振り向いた少女が、ガイに口を開く。
「紅ガイ……今度こそ、お前の最期だぁぁぁっ!」
叫びとともにガイに襲い掛かってきた! 少女の攻撃をガイは咄嗟に受け止めて防御する。
「プロデューサーさんに攻撃してるっ!」
「やっぱり敵なの!?」
「とにかく、プロデューサーを助けに……」
律子が言いかけたが、それを千早がさえぎる。
「ま、待って! あれっ!」
千早が指差したハイパーゼットンが激しいスパークを起こすという、ただならぬ様子を見せた。アイドルたちは悪寒を覚えてサッと青ざめる。
「ぜ、全員退避ぃーっ!」
「でもハニーが!」
「ここはひとまずプロデューサーに任せるのよ!」
律子たちが慌てて逃げていく中、ガイは少女の攻撃をさばき続けるだけであった。そんなガイに少女が言う。
「どうした。小娘相手に何を躊躇う」
「……」
「調査通り甘い奴だ。一気に片をつけてやっ……!」
ほくそ笑んでガイにとどめを刺そうとした少女だったが、急にその身体から力が抜け、ガクリと倒れ掛かったのをガイが支えた。
一方で春香たちは大急ぎでハイパーゼットンから逃げていたのだが……。
「あぁっ!?」
どんがらがっしゃーん!
途中で春香がずっこけてしまった。
「もぉ~こんな時に何やってるのよぉ!」
「ごめぇん……」
伊織と千早に手を貸されて起き上がる春香だったが……そこにハイパーゼットンが空から急速に落下してきた!
「あぁぁぁぁ!? こっち落ちてくるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げるアイドルたち。気づいたガイは少女を近くに寝かせて駆け出したのだが――。
「――あ、あれ……?」
ハイパーゼットンは閃光とともに、その姿をかき消していた。唖然とする春香たち。
「……!」
そしてガイが先ほどの少女へと視線を戻すと――少女もまた、忽然と姿を消していた。
その頃、如月邸では千種が居間をうろうろしながら気を揉んでいた。
「マーヤちゃん……どこへ行ってしまったの……」
とつぶやいた瞬間に、庭でドサリという物音が起こる。
「!」
即座に窓へと駆け寄ると、庭の真ん中に蒼いリボンの少女――マーヤが倒れているのが目に入った。
「マーヤちゃんっ!」
千種はすぐにマーヤへと駆け寄り、彼女を抱き起こす。マーヤはすぐに目を覚まし、千種の顔を見上げて顔を歪めた。
「千種さん……私、また……!」
千種はマーヤのことを強く抱き締める。
「大丈夫よ……。どんなことになろうとも……私がついてるから……!」
一旦事務所に戻った春香たちは、渋川から事情を聞いていた。
「千早ちゃんには悪いんだが、少し前からあの家を監視させてもらってた。こっちもあの少女と怪獣に何か関係性があるとにらんでるんでな」
「それで、あの少女が千早の実家にかくまわれてるというのは確かなんですか?」
伊織の問い返しにはっきりと肯定する渋川。
「間違いねぇ。如月千種……つまり千早ちゃんのお母さんがあの子を世話してるところを目撃済みだ」
「千早さん……」
美希たちは千早のことを気遣う。千早はソファに腰を落としながら、困惑の色を見せていた。
「お母さん、どうして……」
「そうだよね……。そのこと、どうして千早ちゃんにも話してくれなかったのか……」
春香も重い面持ちでいると、ハイパーゼットンと少女の解析をした律子が皆に告げた。
「これを見て。あの時の少女の発光パターンと怪獣の音声、この二者は酷似した波長を示してるわ。これで少女が怪獣と関係あることが立証されたわね」
「さっすが律子ちゃん! やるなぁおい!」
律子を褒めたたえる渋川。しかし春香は千種の方を気に掛けたままだった。
「千種さんも何も気づいてない訳ないと思う……。なのにどうして……」
「脅されてるのか……もしくは操られてるのか」
「そんな風には見えなかったけど……」
伊織と美希が相談している一方で、千早は不安げな目で、ガイと視線を合わせた。
如月邸では、千種がマーヤにワンピースの洋服を差し出していた。
「マーヤちゃん。昔のお洋服、仕立て直してみたの」
マーヤが服を受け取って、己の身体に合わせてみる。
「よく似合ってるわぁ。そうだ! 千早が帰ってきたら、みんなでお出かけしてみましょう」
「お出かけ!? ほんと!?」
そう聞いたマーヤの顔が輝く。
「ええ。きっと千早も、近い内に帰ってくるわ。そしたら三人一緒に……」
「やったっ!」
「三人一緒にずっと……暮らせたらいいのにね……」
千種が小さく独白したその時、玄関から呼びかける声が聞こえた。
「すみませーん」
「あら、お客さん? マーヤちゃん、ちょっと待っててね」
千種が応対に玄関に向かい――そこに立っている人物の姿に仰天した。
「っ!!」
「どうも、お邪魔します」
愛想笑いを浮かべて会釈したガイとは対照的に、千早は恐い顔を千種に向けていた。
ガイと千早は居間で、千種とマーヤとともにテーブルを囲んで、ガイが手土産として持ってきた串団子で一服する。
「君、俺のこと覚えてるか?」
ガイはマーヤに尋ねかけたが、マーヤは首を振るばかりだった。
「ううん……分からない」
一方で千早は、責めるように千種をにらんでいる。
「……やっぱり、いたんじゃない」
「ごめんなさい……。でも、マーヤちゃんのことを世間に知られたくはなかったのよ。この子が好奇の目に晒されるなんてことはさせられないから……」
マーヤは千早とガイに向けて告げる。
「私、ここに来るまでの記憶がないの」
「記憶が……?」
「うん……。千種さんが一緒に住もうって言ってくれるまで、ずっと空っぽだった」
そう語るマーヤの顔を、千早はじっと観察している。
「千種さんが色んなことを教えてくれたから、空っぽじゃなくなったの」
ガイは肘で千早を小突いた。
「あんまりお母さんを責めてやるな。彼女を助けようと思ってのことだ」
「ですけど……」
千早が何か言い返そうとしたが、それをさえぎってマーヤが言った。
「でも、時々……私が私でなくなる時がある」
「私でなくなる時……?」
「真っ暗な記憶だけがあって……何も覚えてないの」
ガイと千早は、静かに目を合わせた。
「千種さんは、悪い夢を見たんだって言ってくれるけど……怖いの。いつか、千種さんのことも忘れて……真っ暗に染まった私になっちゃうんじゃないかって……」
話を聞いた千早は、マーヤには聞こえないように千種に耳打ちした。
「お母さん……あの子は、ビートル隊に預けるべきよ」
「えっ!? でも、そんな……!」
「気づいてるんでしょう? あの子は怪獣と関係してる……。このままだと、直に大変なことになるのよ……!」
千早に説得されても、千種は迷いばかりであった。
「でも……だけど……!」
「お母さんっ!」
千早がつい声を荒げた時――マーヤがはっと顔を上げて、窓の外を見やった。
「どうした?」
釣られて窓の外を覗き込んだガイたちも息を呑む。
空には、再びハイパーゼットンデスサイスが浮かんでいるのだ!
「あ、あああ……!」
「マーヤちゃんっ!」
ハイパーゼットンに怯えるかのように頭を抱えたマーヤ。かと思えば――次の瞬間に、ガイの首を両手で鷲掴みにして締め上げ出した!
「マーヤちゃん!? やめてっ!」
「プロデューサーに何をするの!」
「うううぅぅっ!」
色めき立って制止する千種と千早だが、マーヤは収まらず、ガイともつれ合うようにして外へ飛び出していく。その現場に律子たちを乗せたトータス号が停車した。
「うあっ! うあぁっ!」
ガイに蹴りを入れるマーヤの腕輪が黄色く発光している。その発光パターンを律子が解析する。
「怪獣の音声と完全にシンクロしてるわ!」
「早く何とかしないと……!」
「下がって下がってッ!」
身を乗り出した春香たちを渋川が制止して、マーヤにスーパーガンリボルバーを向けた。
「とうとう本性を現したな宇宙人!」
だが彼とマーヤの間に千種が割って入って、マーヤをかばった。
「撃たないで下さい! お願いですっ!」
「お母さんっ!」
「そこをどけッ!」
マーヤをかばい立てる千種だったが、マーヤは突然男の声で哄笑を発した。
「フッフフフ……! 愉快だなぁ」
「マーヤちゃん……!?」
「危ない! 離れて!」
千早が千種に飛びついてマーヤから遠ざけた。
マーヤは先ほどまでと一転、醜悪な笑みを浮かべていた。
「紅ガイが攻撃できない姿を選んだつもりだったが、他にも盾になる人間が現れるとはな」
マーヤから発せられる男の声に、春香と伊織が顔を見合わせた。
「あの声……!」
「やっぱり、あの時の宇宙人なのねっ!」
伊織が指差して叫ぶと、マーヤは次のように答える。
「正確には、マドックのスペアだ」
「スペア?」
「作戦が失敗した時の保険として、紅ガイ抹殺を目的として生み出した人工生命体に、俺の意識を移しておいた。だが……」
マーヤ……今はその身体を支配しているゼットン星人マドックの意識が、千種に侮蔑の視線を送った。
「こいつが下らない感情や情報を吹き込んでくれたお陰で、動作不良を起こしていた」
「そんなのって……!」
「ひどすぎるの……! 人の気持ちをもてあそんで……!」
春香や美希たちが激昂して前に踏み出したが、ガイが顔を向けて視線で制止した。
マドックは右腕の腕輪を高く掲げ、怪しい波動を発信する。
「これで終わりだ! ゼットォーンッ!!」
マドックからの命令により、浮遊したままだったハイパーゼットンデスサイスは地上にワープし、遂に行動を開始した!
「ピポポポポポ……ゼットォーン……」
ガイはたまらずに絶叫して駆け出す。
「ゼットーン! 俺はこっちだ!」
「プロデューサーさんっ!」
それを追いかける春香。千早も同じように飛び出そうとしたが、美希がその前に回って止めた。
「千早さんは、お母さんの側に!」
見れば、千種が知ってしまった真実によって立ちすくんでいた。
「お母さん……!」
美希が千早に代わってガイを追いかけていく。
「焼き尽くせ! ハイパーゼットンデスサイス!」
マドックの命令によって、ハイパーゼットンが火球を生成して街に向かって放とうとする。走るガイはまだハイパーゼットンの前方にはたどり着いていない。
「くッ、間に合え……!」
急ぐガイであったが……急に、ハイパーゼットンがよろめいて火球も途中で消え失せた。
「ッ!」
それと同時に、マーヤはその場に膝を突いて息を荒げていた。そして口を開く。
「駄目……絶対にさせない……!」
それはマーヤ自身の声であった。
マーヤの意識が、マドックの意識に反抗してハイパーゼットンの動きを封じているのだ。