THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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復讐のBANG(A)

 

 ――それはオーブがマガオロチを撃破した直後のこと。

 地球の衛星軌道上に静止している赤い円盤の中で、ただ独り動く赤い影があった。

 

『偉大なるドン・ノストラ……何故このようなことに……』

 

 最早座る者がいなくなった玉座を見つめて声をわななかせているのは、メトロン星人タルデ。――ジャグラスジャグラーの陰謀によってノストラが討たれ、事実上崩壊した惑星侵略連合の生き残りである。彼は当時地球の調査で円盤を離れていたため、ジャグラーに斬られなかったのだ。

 

『ジャグラスジャグラー……奴の本性さえ見抜いていれば……!』

 

 タルデは最初に、ジャグラーが自分たちに接触してきた時のことを思い返す。あの時、自分はジャグラーの加入に異を唱えていたのだが……。

 

『やはりあの時、もっと強く反対するべきだった……! そうすれば、このようなことにはならなかったのに……』

 

 激しい後悔に苛まれるタルデ。だがその感情はすぐに、ジャグラーへの憤怒へと変わる。

 

『おのれぇッ! これで引き下がる惑星侵略連合ではないぞ! この恨み、晴らさでおくべきかぁッ!!』

 

 自分以外無人となった円盤内で、煮えたぎるような憎悪の念をぶちまけるタルデ。彼はここに、連合の何もかもを簒奪したジャグラーへの復讐を誓ったのであった。

 そして――。

 

 

 

『復讐のBANG』

 

 

 

「――ぐぅッ!」

 

 町の死角となっている、人目につかない陸橋の下で、ジャグラスジャグラーが斬られた腕を押さえながら倒れ込んだ。そこに突きつけられる切っ先。

 彼から奪い取った蛇心剣を突きつける主は――メトロン星人タルデである。剣だけでなく、両腕にはラウンドランチャーを巻いて武装している。

 

『どうだ、己の剣を向けられた気持ちは』

 

 タルデは両眼にありありと憎悪の感情を宿しながら、ジャグラーを見下す。

 

「お前……!」

 

 タルデは今日まで復讐のためにジャグラーを執拗に追い続け、遂に追いつめて今まさに復讐を完遂しようとしているところなのであった。

 

『ドン・ノストラと同じ苦しみを味わえ、ジャグラスジャグラー!』

 

 タルデは剣を振り上げ、一気にジャグラーにとどめを刺そうとする。ジャグラーも事ここに至っては観念する他はない――。

 そう思われたその時、どこからともなく響いてきたハーモニカの音色によって、ジャグラーは苦痛にあえいで頭を抑えた。

 

「ぐあぁぁぁ……!」

『ん!?』

 

 気を取られたタルデが振り向くと、そちらからガイがハーモニカを奏でながらこの現場に乱入してきた。

 

『紅ガイ……!』

「そんな物騒なもん振り回されたんじゃ、見過ごせないな」

 

 タルデの復讐を止めたガイだが、タルデは剣先をガイの方に向けて言い放った。

 

『君には関係のないことだ、邪魔するな。そんな暇があるなら、この星の雲行きについて考えたらどうだ』

「何だと?」

『それに、ジャグラーを野放しにして、手を焼くのは君自身だぞ』

 

 忠告してきたタルデに、ガイは苦笑を返す。

 

「生憎、手ならとっくに焼いてるぜ」

『ッ!』

 

 ここでタルデは気がついた。今の一瞬の間に――ジャグラーの姿がなくなったことに。

 タルデは怒りを覚えてガイに振り返る。

 

『君のお陰で逃げられたじゃないか! ……まぁいい。あの傷ならそう遠くには逃げられないだろうからな』

 

 そう言い残して、タルデの姿がかき消えていく。逃げたジャグラーを追って、空間転移していったのだ。

 

「……」

 

 ジャグラーとタルデの消えた後を無言で見つめていたガイの後ろから、隠れて様子を見守っていた千早、あずさ、貴音の三人が駆け寄ってくる。

 

「プロデューサーさん、お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 

 あずさは真っ先に、危険な宇宙人たちと対峙していたガイの身を心配した。しかし千早は、若干批判するようにガイに聞いた。

 

「プロデューサー、どうしてジャグラスジャグラーをかばうような真似をしたんですか?」

「千早……」

 

 あずさは千早をたしなめる。

 

「千早ちゃん、確かにあの人は悪い人だけど、命が危ないのを見過ごすなんてことはひどいわよ」

 

 しかし千早はきっぱりと言い返した。

 

「あずささんは、あの男がしでかしたことを忘れたんですか? あいつのせいでどれだけの被害が出たか……。私たちだって何度迷惑を被ったことか」

「それは……」

「わたくしも千早と同意見です」

 

 貴音も千早の肩を持つ。

 

「見殺しにせよとまでは言いませんが、かの者を放置するのはまこと危険です。せめてこの先何も出来ないように無力化する程度のことはしておいた方がよろしいのでは……」

 

 そう進言する貴音に、ガイは答えた。

 

「お前たちの言うことはもっともだ。だがそう簡単にあいつを大人しくさせられるようだったら、俺もこんなに長いこと頭を悩ませてはいないんでな……」

「プロデューサー……?」

 

 千早たちは、どこか遠いところを見ているガイの様子を訝しむ。

 

「それに今はメトロン星人の方が気がかりだ。ああいう頭に血の昇った奴は、余計なことをやらかすものだからな……。しばらくは警戒しておくべきだろうな」

 

 そう語りながらガイが足を運び出す。その後に続きながら、あずさたちはひそひそと話し合った。

 

「プロデューサーさん、あの人に対して何か思うところがあるのかしら……」

「様子を見ている限りでは、深い因縁があるようではありますが……」

「そういえばプロデューサーとあの男に、どういう経緯があるのかなんてのは私たち知りませんね……」

 

 疑問を抱いた千早たちであったが、今のガイは問いただせるような雰囲気ではなかった。

 

 

 

 小鳥は出先の取引相手の会社から、765プロ事務所に戻る途中であった。

 

「もうこんな時間! 早いところ事務所に帰らないと……」

 

 ぼやきながら足を速めたが、その矢先にふらふらと歩いている人と肩がぶつかった。

 

「ああすみません……!?」

 

 反射的に謝った小鳥だったが――その相手がジャグラスジャグラーであることに気づいて顔色を一変した。

 

「あなたは……!」

 

 緊張が走った小鳥だったが、ジャグラーが急に力なく倒れ込んできたので、思わず受け止めて支える。

 

「ちょっと!? 怪我してるの……!?」

 

 小鳥はジャグラーの身体のあちこちに裂傷が走っていることを悟った。一瞬どうすべきかと狼狽したものの、決心をして彼を人気のない建物の陰まで運んでいき、コンクリートの柱にもたれかけさせた。

 手が空いた小鳥は、ケータイで事務所に連絡を入れる。電話に出たのは律子だ。

 

『律子です。小鳥さん、どうしたんですか? 帰りが遅いですが……』

「ち、ちょっと途中で問題と出くわしまして……。プロデューサーさんは戻ってますか?」

『プロデューサーなら、こっちも厄介事が起きたのでその対応に当たってもらってるところです』

「厄介事?」

 

 聞き返した小鳥に、律子は内容を話した。

 

『この町の近隣に円盤が出没したんですよ! それも形状を見るに、惑星侵略連合のものなんです。最近はずっと音沙汰がなかったんですが、また行動を開始したみたいですね……。小鳥さんは今どちらに?』

「それは……」

 

 答えかけた小鳥だが、その時にジャグラーが手を伸ばして小鳥のケータイをひったくった。

 

「あっ!?」

『えっ、小鳥さん――?』

 

 ジャグラーはケータイの電源を切って投げ捨てる。ギョッとする小鳥。

 

「何するの!」

 

 ジャグラーは傷口を押さえながら小鳥へと顔を上げた。

 

「とっとと失せろ……」

 

 吐き捨てるジャグラーだが、小鳥はうろたえつつもその場を動かなかった。

 

「このままにはしておけないわよ……」

「うるさいッ! 俺に構うな……ッ!?」

 

 怒鳴ったジャグラーはその拍子に傷口を痛め、余計に苦しんだ。それで小鳥はスカートのポケットに手を突っ込む。

 

「ちょっと待って……!」

 

 ポケットからハンカチを取り出すと、ジャグラーの腕に巻きつけて応急処置を施す。

 

「お前……何で……」

「動かないで! 傷に障るから……」

 

 小鳥がハンカチを巻き終えると、ジャグラーが改めて問いただした。

 

「何のつもりだ……」

「だって……怪我をしてる人を放っておけないじゃない」

 

 小鳥は正直に答えて立ち上がる。

 

「誰か人を呼んでくるわね」

 

 と言ってこの場を離れようとしたが、途端にジャグラーに腕を掴まれて引き留められた。

 

「あなた……」

 

 小鳥は思わずジャグラーの顔を見返した。

 

 

 

「そうですか……。分かりました」

 

 ガイは律子からの連絡を受けると、千早たちに振り返った。

 

「急に小鳥さんとの連絡が途絶えて、ケータイもつながらなくなったらしい」

「それってまさか、音無さんがジャグラーに捕まったんじゃ……!」

「もしくは、かの面妖な宇宙人に何かをされたのでは……」

 

 千早たちの間に緊張が走る。うなずくガイ。

 

「メトロン星人の円盤は未だこの周辺をうろついてるみたいだ。小鳥さんの身に危険が迫ってる可能性は否めない。早いところ見つけた方がよさそうだな」

「手分けして捜しましょう! みんなで捜せばすぐに見つかるはずです」

 

 あずさの提案により、四人は散開して小鳥の捜索を行うことにする。

 

「ではわたくしはあちらの方角を」

「あずささんは私から離れないで下さい!」

 

 貴音がこの場から離れ、千早があずさを引っ張っていくと――ガイの背後からタルデが呼びかける。

 

『私が人間をさらったとでも言いたいのか?』

 

 ガイは視線をタルデへと向けた。

 

『私の目的はジャグラーを倒すこと。最早この星に興味はない。だが……邪魔をするなら、君とて容赦はしない』

 

 脅してくるタルデに対して、ガイは毅然と返した。

 

「理由はどうあれ、この星の平和を脅かそうと言うのなら、俺は戦う。どんな相手だろうとな」

 

 タルデはそんなガイに問いかける。

 

『素晴らしい心構えだ。だが、まさか本当に気づいていないのか? 黄昏美しいこの星を覆おうとする、暗雲を』

「どういう意味だ?」

 

 聞き返したガイに、タルデはランチャーを向けた。

 

『話の途中で悪いが、円盤があの男を見つけたようだ。誰かと一緒にいるみたいだが……』

 

 今のひと言で、ガイが目を細める。

 

『紅ガイ。これは忠告だ! 大人しくしていろ』

 

 最後に言い残すと、タルデは頭上に待機していた円盤に吸い込まれていき、円盤も透明化して姿を消し去った。

 脅迫を受けたガイだが、嫌な予感を覚えたことにより、辺りに目を走らせて踵を返した。

 

 

 

 ジャグラーは小鳥をむんずと引き寄せて囁きかけた。

 

「円盤が飛び回ってる。見つかるぞ」

「……円盤から逃げてたの? だからこんな傷を……」

 

 円盤の飛行音が聞こえなくなると、ジャグラーは小鳥から手を放してうつむいた。

 

「俺も落ちぶれたもんだ……。ガイの奴のフュージョンアップ相手でもないお前如きに介抱されるとはな」

 

 無礼なことを吐きながら自嘲するジャグラーに、小鳥はある質問をぶつけた。

 

「……聞いてもいい? ずっと気になってたんだけど……プロデューサーさんとあなたって、どういう関係なの?」

 

 765プロの者たちは、ガイとジャグラーが浅からぬ因縁であることは感じていたが、そもそもどこで顔を突き合わせ、争い合う関係となったのかはガイが話すこともないので知る機会がなかった。それをジャグラーの口から確かめようというのだ。

 

「言いたくなかったら無理には……」

「ガイより俺の方が勝っていた……!」

 

 遠慮がちな小鳥であったが、ジャグラーはそう言い切ってから語り出した。

 

「え……?」

「……俺とガイは、惑星O-50の出身の戦士。俺たちは同じ勢力に身を置きながら、腕を競い合ってお互いを高め合っていた。戦いと歌……形は違えども、元々はお前のところのアイドルたちみたいな関係だったのさ」

 

 それは、意外な回答であった。ガイとジャグラー、互いを憎らしく感じているように見えていたので、昔は仲間だったなどとは考えたこともなかった。

 

「実力なら俺の方が上だった。だが……人間の限界を超えるための最後の試練、戦士の頂に俺の方が先に着いたというのに……光はあいつを選んだ。それが今のウルトラマンオーブさ……!」

 

 オーブ誕生の経緯を意外なところで知った小鳥。ガイは、初めからウルトラマンだった訳ではなかったのだ。

 

「光に見放された俺は、それでもしばらくはあいつのサポートに回っていた。だが……俺は結局光を手にすることは出来なかった。そして銀河をさまよう内に気づいたのさ……。闇こそが光に勝る力だとな。俺に光など必要なかった……!」

 

 そう唱えたジャグラーに、小鳥は聞き返す。

 

「ほんとにそうなの……?」

「何……?」

「プロデューサーさんが言ってたじゃない。誰の心にも闇はある、闇があるからこそ光がある。闇を抱えてない人間に、世界を照らすことが出来ないって……!」

 

 ガイの言葉を引用してジャグラーに訴えかける小鳥。

 

「あたしの心の中にある闇は、深い……。それは認めるわ。でも、そんなあたしの中にも光がある……! だから、あなたの心の中にも、光が眠ってるんじゃないかしら……?」

 

 ジャグラーは小鳥の顔を見つめ返す。

 

「あなただって、本当は……!」

『ようやく見つけたぞ、ジャグラー!』

 

 小鳥の話の途中で、タルデがこの場に現れた!

 

『潔く散れッ!』

 

 タルデは情け容赦なくランチャーから弾丸を発射してきた! ジャグラーが小鳥を抱えながら跳び、弾丸はもたれかかっていた柱を蜂の巣にする。

 小鳥は驚いてジャグラーの顔に目をやった。

 

「どうしてあたしを……!?」

「ここで死なれちゃもったいないんでね……」

 

 小鳥をかばったジャグラーだが、それにより傷口が開いて立ち上がれなくなる。タルデはそこににじり寄ってくる。

 小鳥は咄嗟にジャグラーの前に回って、タルデに立ちはだかった。

 

『そこをどけッ! 地球人を巻き込むつもりはない』

 

 小鳥をどかそうとするタルデだが、小鳥は聞き入れなかった。

 

「それは無理です!」

『何の真似だ』

「怪我してる人を見捨てるなんて出来ないからです!」

『何故かばう。そいつは正真正銘の極悪人なんだぞッ!』

「極悪人なんかじゃありません! だって……!」

 

 懸命に言い返す小鳥だったが、タルデにつき合う気はなかった。

 

『巻き込むつもりはないと言ったが、邪魔をするのなら仕方がない。次は外さんぞ』

 

 ランチャーの砲口が小鳥に向けられ、火を噴く!

 弾丸は――天井の鉄骨を穿った。

 

「プロデューサーさん!」

「ギリギリ間に合ったな!」

 

 ガイがタルデに飛びついて、腕をひねり上げてランチャーの射線を小鳥から外したのであった。

 

『紅ガイ……! 邪魔をするなッ!』

 

 小鳥に向けて弾丸を放とうとするタルデを食い止めるガイ。その間に千早、貴音、あずさが小鳥たちの元に駆け寄った。

 

「音無さん、ご無事ですか!?」

「みんなっ!」

「プロデューサーが止めている内に、早く!」

 

 ジャグラーを支える小鳥に貴音とあずさが手を貸し、五人は足早に逃げていく。

 

『おのれジャグラーッ!!』

 

 執拗にジャグラーを狙うタルデの腕をガイが背後からひねり上げた。タルデが怒号を発する。

 

『放せッ! 私の忠告を忘れたのか!』

「たった一人でも、誰かの平和が脅かされるなら、俺は戦うッ!」

 

 引き下がらないガイに、タルデもいよいよ我慢の限界に達した。

 

『こんな形になって残念だよ! ウルトラマンオーブぅッ!!』

 

 巨大化した勢いでガイを振り払う! 着地したガイの元には千早と貴音が駆けつけた。

 

「プロデューサー! ジャグラーを助けるのは不本意ですが、音無さんを撃とうとしたことは許せません! あの宇宙人を返り討ちにしましょう!」

「どのような理由があろうとも、これ以上の狼藉を見過ごすことはまかりなりません!」

「ああ! 行くぞッ!」

 

 ガイたちがオーブリングとカードを構える!

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「エース殿っ!」

[ウルトラマンエース!]『トワァーッ!』

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スラッガーエース!!]

 

 ガイと千早、貴音がフュージョンアップした、ウルトラマンオーブ・スラッガーエースが大地の上に立った!

 


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