「ひぃっ! ご、ごめんなさいっ!」
「わ、私も怖いけれど、誰かの命を守るためだったら、頑張りますぅ!」
「ぷぷ、プロデューサー! 大変ですぅ~!」
『「四条さんを連れていかないで下さい!」』
「よっつ四つ葉のクローバ~♪」
「こんなにおっきいステージ初めて……!」
「何があっても、私たちがお守りします!」
「来るなら来いっ! 私がやっつけてやるんだから!!」
――雪歩が目を開くと、そこは見知った光景ではなかった。
「えっ!?」
765プロ事務所でも、自宅でもない、ましてや東京都内ではまず見られないような、鬱蒼とした森林が果てしなく続く光景。どうして自分は、このようなところにいるのか。
「ここは一体……どこなんだろう……」
疑問に思いながら周囲を見回した雪歩の目は、あるものを捉える。
それは、木々の向こうに見える、奇妙な形をした遺跡。ピラミッド状の石段の上に、「山」という形状の大きな物体が鎮座している。
「……?」
雪歩は何故だか、その遺跡に強く心を引きつけられた。その遺跡に向かって歩み出し、付近にまで近づいていく。
そして内部に入れる穴を発見し、ほぼ無意識の内に足が動いて、中へと入っていく。
「何だろう……中に、何が……」
洞窟の奥地で彼女を待ち受けていたのは……石で出来た「何か」だった。
「これは……?」
形状的には近未来型の飛行機かロケットのようである。しかし、古ぼけた遺跡にそんな航空機械があるとは思えない。それでは、あの石像は何なのだろうか……?
「……」
知らず知らずの内に雪歩の手が伸び、石像の表面に触れた。
その瞬間に石像が突然光り輝き、雪歩の視界が閃光で塗り潰される!
「きゃっ!?」
思わず顔を背けた雪歩は、己の手の中に何かが飛び込んできたのを触感で感じ取った。
「これは……!?」
それは長方形で薄い、カードのような形状であった。
雪歩が、それが何なのか視認する前に、彼女の視界が薄れ――そして雪歩は己の布団から身を起こしたのであった。
ある日の765プロ事務所。春香と真がふと、ガイのデスクの上に飾ってあるモノクロの写真に目を留めた。
その写真にはガイと、彼の私服であるレザージャケットを羽織った白人男性が写っているのだ。
「そういえばプロデューサーさん、この写真の人ってどなたなんですか?」
春香の質問に、新聞を広げていたガイはそのままの姿勢で答えた。
「スカダー大尉だ。俺と最初にフュージョンアップした地球人でな」
「えっ!? プロデューサーさん、私たち以前にフュージョンアップした人がいたんですか!?」
軽く驚く春香と真。
「そうじゃなきゃ、あんなにフュージョンアップの仕様に詳しい訳ないだろ」
「うーん、それもそっかぁ」
ガイの返しに納得した真は、後ろに振り返って雪歩に話しかける。
「でもそういう話を聞かされると何だか変な感じを覚えるね、雪歩」
「……」
しかし、雪歩はぽけー……と虚空を見つめたまま返事をしない。
「おーい、雪歩ー? 雪歩ったら!」
「はうっ!? な、何? 真ちゃん」
真が強く呼びかけることで、雪歩はようやく意識が現実に戻ってきた。
「何? じゃないよ。そんなにぼけーっとして一体どうしたのさ。具合でも悪いの?」
心配する真に雪歩はブンブン首を振った。
「そ、そういう訳じゃないよ。ただ……今朝、不思議な夢を見てね」
「不思議な夢?」
「うん……」
雪歩と真が話している後方では、春香がガイの広げている新聞の記事を覗き込む。
「プロデューサーさん、さっきから熱心に何の記事を読んでるんですか?」
「これだ。『新宿区郊外に隕石落下』」
記事の写真には、隕石によって地面に生じたと思しきクレーターが写っていた。クレーターと言っても、ほぼ穴ぼこという程度の直径だが。
「何でも、隕石のサイズと重量に比較してクレーターが不自然なまでに小さいらしい。俺の経験的に、こういう事例には宇宙怪獣が関わってる可能性が高い」
「宇宙怪獣ですか!?」
ガイの説明に驚く春香。
「怪獣も生き物だから、地表落下の際の衝撃でダメージを受ける。それを小さくするために大抵は減速するもんだ。だから宇宙怪獣は重量に対して落下の際の被害が少なくなりがちなのさ。この場合だと、何らかの宇宙怪獣が隕石に紛れて大気圏突入を果たした可能性がある」
「ほんとに怪獣だったら大変なことになるかもしれないじゃないですか!」
「ああ。今回の『アンバランスQ』は内容を変更してこの隕石の調査を……」
とガイが言いかけた時、彼の腰のカードホルダーから突然光が漏れ出した。春香や雪歩たちがそれに気づいて目を落とす。
「プロデューサーさん? ホルダーが何か光ってますよ」
「何だって? 何もしてないのに、どういうことだ……」
ガイがホルダーを開いて、光っているカードを引き抜いた。それはオーブオリジン――自身のカードであった。
「プロデューサーのカード……?」
真が訝しげに目を細めた時、ガイの手の中でオーブオリジンのカードが、リングにも通していないのに勝手にオーブカリバーへと変化した。
「うわッ!?」
驚くガイたち。それをよそにカリバーは空中に光を照射し、その光の中に春香たちでは読めない文字の羅列が描き出された。
「これは……?」
文字が空中に表示されていたのは短い時間だけで、ガイが読み終わるとすぐに消える。オーブカリバーも、何事もなかったかのように元のカードに戻った。
「プロデューサーさん、今のは一体……?」
春香が呆気にとられながら問いかけると、妙に険しい表情となったガイが回答した。
「惑星O-50の、『戦士の頂』からの指令だ……」
「戦士の頂?」
「簡単に言えば、ウルトラマンオーブとしてのミッションを指示してくる司令塔だな。俺がこの地球に来たのも、『戦士の頂』からの魔王獣討伐のミッションのためだ」
説明しながら、ガイは考え込むように腕を組む。
「だが、O-50じゃない別の場所で、しかも別のミッションの途中で新しい指示を出してくるなんてのは初めてのことだな。それだけ危急の事態ってことなのか……」
「危急の事態!? 大変じゃないですか! 何て書いてあったんですか?」
真が焦りながら尋ねる。
「『新宿地下へ向かえ』、とあった。新宿といえば……」
先ほどまで熟読していた新聞に目を落とすガイ。
「これと無関係じゃなさそうだな……。よし、何か大事が起こる前に出発しよう!」
「はいっ!」
ガイが席から立ち上がると、春香と真は背筋を伸ばして彼に続く姿勢を見せた。
「小鳥さーん! すいませんが、急ぎの用事が出来たので事務所を離れます!」
ただ雪歩だけは、あることを気に掛けていた。
(プロデューサーでも初めての事態が起きた日に見た、私の不思議な夢……。それも何か関係してるのかな……)
「ところで、他には何か書いてなかったんですか? 地下に何がいるのかー、とか」
「行き先だけだな。大体いつもこんな感じだ」
「不親切ですねー」
しかし雪歩は、流石に考えすぎだよね、と思い直して、事務所を発とうとする真たちの後についていった。
「新宿地下で大型あるいは中型怪獣が入り込みそうな場所といえば、世界最大級の地下放水路だ。まずはそこから調べよう」
というガイの意見により、一行は渋川に無理を言って、地下放水路への立ち入りの許可の手続きをしてもらった。
「全く、今度はいきなり今すぐに新宿放水路に入れてほしいと来た。ビートル隊は便利屋じゃないんだぜ?」
ガイたちとともに巨大な柱が立ち並ぶ放水路に入った渋川が肩をすくめながら苦言を呈してきた。それに春香が言い返す。
「こっちもこの前、徹子ちゃんとの仲を修復してほしいなんて叔父さんの無理を聞いたよ?」
「うッ! そいつを言われると痛てぇなぁ……」
頭をかいた渋川に、こっちも恩を盾に言うことを聞かすようなことは不本意ではないけれど、と春香は内心気が引けた。とは言え、今回は遠慮している場合でもなかった。
「けどよぉ、昨日落っこちた隕石の中に怪獣が潜んでて、それがここに移動してるかもしれないってぇ? 春香ちゃんたちは何度も怪獣出現を言い当ててるけどよぉ、流石に考えが飛躍しすぎじゃねぇか? それとも何か根拠あんの?」
「えっと、それはね……」
春香たちが返答に窮していると、先頭を行くガイが皆の足を止めた。
「みんな、静かに」
「プロデューサーさん?」
「運がいいのか悪いのか……一発で大当たりを引いたみたいだ」
一番近い柱の陰に飛び込んで身を隠すガイたち。すると……放水路の闇の奥深くから、ズシン、ズシンと巨大で重い何かの足音と震動が響いてきた。
「あれは……!」
息を呑む春香たち。闇の中から現れたのは……身長十メートルほどの明らかな怪獣であった。普段目にしている怪獣と比べたらまだ小さいが、それでもこの地下空間では天井に頭が突きそうな、威圧感を放つサイズである。
「グルウウウウ……!」
青い肌の、立ち上がった醜悪なトカゲかイグアナのような容姿。通常の怪獣と比べたら大分グロテスクで嫌悪感を覚える姿だが、春香たちはそれ以上に、この怪獣に対して本能的な「危険」を感じ取って脂汗を浮かべていた。
「な、何あの怪獣……」
「何か……嫌な感じ……」
春香たちがおののいていると、渋川が息を呑みながら告げた。
「春香ちゃんたち、大当たりだな……。すぐに応援を呼ぶ! 本部本部!」
通信機に呼びかける渋川だが、ノイズが走って本部の応答がない。
「ここじゃ電波が悪いか……。ちょっと離れるけど、君たちはじっとしててくれよ!」
怪獣から見つからないように、一旦この場から離れる渋川。その間にガイが独白する。
「なるほどな……。緊急の指令が入る訳だ」
「どういうことですか? プロデューサー」
真が問うと、ガイがあの怪獣は何者か語った。
「あいつはただの怪獣じゃない。スペースビーストだ……!」
「スペースビースト?」
「知的生物の恐怖を食って生きる危険な宇宙怪獣群の呼び名だ。しかもやばいのは爆発的な繁殖力を持ってること。聞いた話じゃ、あっという間に数を増やしてその星の人間を食い尽くし、星を一個丸ごと滅亡させたこともあるらしい。きっと昨日の隕石に紛れて地球に侵入してきやがったな」
星の滅亡、と聞いて、春香たち三人は更に震え上がった。
「しかもあいつは多分、スペースビーストの原初の個体だ。繁殖力も最も強いはず……。一刻も早く駆除しなきゃ、地球は未曽有の大惨事に見舞われるぞ」
ガイの読み通り、地下施設に潜んでいたこの怪獣は、スペースビーストの母体とも言うべき個体、ビースト・ザ・ワン。爬虫類の遺伝子を吸収したレプティリアという形態である。
「……あのサイズを見るに、既に何人かが餌食になっちまってるみたいだな……」
「!?」
冷や汗を垂らすガイのひと言で、春香たちはザ・ワンに注目した。
ザ・ワンは裂けた口に並んだ牙の間を、とがった爪で食べかすを取り除くような仕草を見せている。
「っ!!」
それに気づいて真っ先にガイに向かって告げたのは、春香――でも、真でもなく、雪歩であった。
「プロデューサー! あの怪獣、私たちでやっつけましょう! 必ず!」
雪歩から戦いに意欲的な発言が飛び出たことに、春香も真も、ガイも一瞬目を丸くした。
「雪歩……随分やる気だな。誰よりも早く申し出るなんて」
ガイたちが驚くのも無理はない。雪歩は765プロでも一、二位を争うくらい温厚な性格で、ともすれば臆病でもある。
しかし雪歩は力を込めた眼差しで、ガイに訴えかけた。
「これ以上の被害者が出ること、許すことは出来ません。必ず、食い止めましょう」
「雪歩……」
春香と真が雪歩を唖然と見つめていると、渋川が彼女たちの元に戻ってきた。
「すぐに応援が駆けつける。ここは俺に任せて、春香ちゃんたちは退避を……」
「残念だが渋川さん、もう遅いみたいだぜ」
「えッ?」
ガイに顎でしゃくられてザ・ワンの方を見やれば……。
「グルウウウウウウッ!」
ザ・ワンは彼らの存在に気がついて、こちらに猛然と接近してきた!
「きゃあああっ!」
「くそぉッ! 早く安全なところへ!」
渋川は素早くスーパーガンリボルバーを抜いて、横に飛び出しながらザ・ワンの顔面に銃撃を食らわせる。
「おらッ! こっちだ! ついてきやがれ!」
「叔父さん!」
ザ・ワンは攻撃をしてくる渋川に目をつけて追いかけていく。攻撃対象から外れたガイたちだが、もちろん逃げることはない。
「プロデューサー! 早くオーブリングとカードを!」
「プロデューサーさん、私も行きます!」
雪歩と春香が申し出て、ガイがうなずく。
「よしッ! 真はカメラ役頼んだぞ」
「はいっ!」
「それじゃあ行くぞッ!」
ガイがオーブリングを構え、雪歩と春香はウルトラマンガイアとウルトラマンビクトリーのカードを握った。
「ガイアさんっ!」
[ウルトラマンガイア!]『デュワッ!』
「ビクトリーさんっ!」
[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』
「大地の力、お借りしますッ!」
[ウルトラマンオーブ! フォトンビクトリウム!!]
ザ・ワンの注意を引きつけていた渋川だが、体格に反して俊敏なザ・ワンに回り込まれてしまい、追いつめられていた。
「グルウウウウウウッ!」
「う、うわあぁぁぁッ!?」
ザ・ワンが大口を開いて、渋川を一気に呑み込もうと首を伸ばす!
「オリャアッ!」
その側面から飛び込んできたオーブの鉄拳がザ・ワンの横面に突き刺さり、ザ・ワンを殴り飛ばして放水路の柱に叩きつけた。
「ウルトラマンオーブ!」
天井のある放水路でいつもの大きさでは逆に渋川たちが危ない。身長をザ・ワンと同程度に調整して変身していた。
『闇を砕いて、光を照らす!!』
ウルトラマンオーブが大見得を切って、鋭くにらみつけてきたザ・ワンと対峙した。