THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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ユウキトリッパー(A)

 

「命は一瞬の灯火……この世は一瞬で終わる」

「運命の再会だぞ? 随分荒っぽいご挨拶だな」

「この星の生命など全て土くれに還してやる!」

「どんなに魔王獣を復活させようと、俺たちがぶっ倒す!」

「戦ってくれって……ミキに変身しろってこと!?」

「今頼れるのは美希だけなんだ……!」

『お前は世界中に希望の光を射し込む、煌めく星になれる!』

「大好きハニー! ミキのこと、ずっと見ててね♪」

 

 

 

『ユウキトリッパー』

 

 

 

 東京郊外の片隅にぽつんと建っている、みすぼらしい雰囲気の木造の一軒家。ここが765プロアイドルの一人、高槻やよいの住居であった。

 本日のアイドル活動を終えたやよいがこの家に帰ってきて、玄関の引き戸を開けた。

 

「ただいまー! みんな、いい子にしてたー?」

「おかえりー! やよい姉ちゃーん!」

 

 帰宅したやよいを出迎えたのは四人の幼い少年少女。彼らは全員やよいの弟妹だ。やよいは彼らと両親と、最近生まれた赤ん坊の弟を加えた八人家族なのである。

 

「今日はお土産に、おやつを買ってきたんだよー。みんなでいただきますしようね!」

「わーい! おやつー!」

 

 やよいが手に提げていたビニール袋を持ち上げると、かすみ、浩太郎、浩司が諸手を上げて喜んだ。

 

「でも先にお手て、洗ってきてね」

「はーい!」

 

 おやつの袋を居間の机の上に置きながら、弟たちを躾けるやよい。765プロでは年少の方だが、この高槻家では長女であり、みんなの世話を焼くお姉ちゃんなのだ。

 

「やよい姉ちゃん、浩三のミルクは?」

「買ってきたでちゅよー♪」

 

 長介が尋ねると、やよいは粉ミルクを浩三に見せながらあやした。

 

「もやしもいっぱい買ってきたよ。今晩のもやしパーティ、楽しみにしててね……」

 

 とやよいが長介と話していたら……洗面所に手を洗いに行っていた浩太郎たちが泣きながら戻ってきた。

 

「うえ~ん! やよい姉ちゃ~ん!」

「みんな、どうしたの!?」

 

 面食らうやよいと長介に、浩太郎が答えた。

 

「臭い~! お水が臭いよ~!」

「えっ? お水が……?」

 

 何のことかと、やよいたちは洗面所に赴く。

 そしてすぐにうっ! と鼻をつまんだ。

 

「な、何これぇ!? ひどい臭い……!」

「姉ちゃん、これ蛇口から臭ってくるよ……!」

 

 長介の言った通り、蛇口から流れ出る水から、猛烈な悪臭が漂っていた……。

 

 

 

「きゃあぁ~!」

 

 765プロ事務所では、給湯室で春香が悲鳴を上げていた。蛇口から溢れ出た水を顔面に被ったのだ。

 

「と、止まらないよ~! 誰かどうにかして~!」

「春香ちゃん、その蛇口修理中よ!?」

「もう、春香ったらドジね」

 

 悲鳴で駆けつけてきた小鳥が驚き、伊織が肩をすくめて呆れ返った。そこに奇妙な銃型の装置を手に律子が飛んでくる。

 

「はーい、春香どいてどいて!」

 

 春香を流し台から下がらせると、壊れている蛇口に向けて装置の銃口を向けた。そこから白い弾丸が飛び出し、蛇口に当たって弾ける。

 途端に蛇口はゲル状の物質に包まれて固まり、水が漏れなくなった。小鳥が律子の持っている装置に目を向ける。

 

「律子さん、それ何ですか?」

「吸水性ポリマーを発射して水を固めるスーパー・アブソーベント・ポリマーガン、略してSAPガンです! これがあれば水回りの修理も楽々できちゃう優れもの!」

「まーた変なもの作ったの?」

「変なものって何よ、伊織。業者に頼むとお金掛かるから、私がこの貧乏事務所のためにわざわざ……」

「業者に頼むのとそんな変てこなもの作るお金と、どっちが掛かるのかしら?」

 

 律子と伊織が言い争っている一方で、ずぶ濡れになった春香はうなだれる。

 

「うえ~……びしょびしょですよぉ……」

「春香ちゃん、シャワー浴びてきなさい。そのままじゃ風邪引いちゃうわ」

「はーい……ありがとうございます、小鳥さん」

 

 春香がシャワー室に入っていってから、伊織と律子の話題が切り替わる。

 

「ところで、ウルトラマンオーブの戦いを実況するようになってから『アンバランスQ』の視聴数はどうなったのかしら? アップしたの?」

 

 と聞くと、律子と小鳥はがっかりと肩をすくめた。

 

「それが、あんまり変化ないのよ……。オーブの戦闘はテレビもすぐに撮るから、それに埋もれちゃってるのよね……」

「なーんだ、そうなの」

「戦ってるのはこの事務所のみんななのに、報われないわよねぇ……」

 

 小鳥がため息を吐いていたら……。

 

「きゃあぁ~!?」

 

 シャワー室から春香が悲鳴とともに飛び出してきて、三人は仰天した。

 

「ど、どうしたのよ春香。シャワーも故障?」

「く……」

「く?」

「くっさぁ~いっ!!」

 

 バスタオルを巻いただけの姿の春香が絶叫した。

 

「何この臭い!? 超臭いっ! お湯が臭いぃ~! シャワーのお湯が、臭くなったの~!」

「お湯が臭いって……うっ!?」

 

 春香に近づかれた伊織たちが途端に吐き気を催した。

 

「ほ、ほんとに臭い! 臭いわ春香ぁ!」

「ち、ちょっと!? 女の子に臭いってひどくない!?」

「い、いや冗談じゃなくて! くっさぁぁ―――――っ!」

「やめて春香! こっち来ないで! うぷっ……!」

「春香ちゃん、悪いけど離れてぇ~! い、いやぁぁぁ~!」

 

 シャワーを浴びたことで、春香自身にも悪臭が移ってしまったのだった……。

 

 

 

 水から強烈な悪臭がする、という異常事態は、高槻家や765プロ事務所だけで起きているものではなかった。都内のあらゆる場所が、その被害を受けていた。プールやコインランドリー、料理店、クリーニング屋……人がいるところで、水を使わない場所などありはしない……。町は悪臭によって機能が停止していく。

 

「な、何これぇ~!? プールがいきなり臭くなったぁっ!」

 

「うげぇぇぇぇぇッ! トイレからすっげぇ悪臭がぁ~!!」

 

「服を洗ったら、むしろ臭くなったわぁ! これじゃ着られない~!」

 

「こんな臭いの中で、食事なんて出来ねぇよ~!」

 

「にゃっはっはー♪ プロデューサーおつかれ~。今日もイイ匂いしてるかな~? ハスハ……うっ!? く、くっさあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 何この臭い!? 鼻が曲がるにゃああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――っっ!!」

 

 

 

「はい、これでいいわ」

 

 ジャージに着替えた春香は、事務所の全部の脱臭スプレーを振りかけても悪臭が取れなかった。そのため、小鳥によって身体中で飾り立てられた。

 

「小鳥さん……何で生姜なんですか……?」

「知らないの、春香ちゃん? 臭みを取るには生姜が一番なのよ」

「うぅ、全身生姜だらけのアイドルなんて……。どうして私ばっかりこんな目にぃ……」

 

 しくしく泣いている春香を置いて、伊織は鼻をつまみながら流し台に近づいた。

 

「うっ! ここからも臭ってきてる……。やっぱり、水道の水から悪臭がしてるのは間違いないわね……。律子、これどういうことか分かる?」

 

 律子に尋ねる伊織だが、律子もタブレットを操作しながら首をひねる。

 

「水質自体には何の異常もないわ……。となると、臭いの原因は水そのものじゃなくて、水源にあるんじゃないかしら」

「水源?」

「ええ。たとえば、水源に悪臭の元が紛れ込んで、その臭いが水に移ってこうなったと……。でも、町中の水をこんなにも臭わせるなんて普通じゃあり得ないことだわ」

 

 律子が話していたら、事務所の玄関からやよいが入ってきた。

 

「プロデューサー! 皆さん……うわっ! 事務所もすごい臭いですぅ~!」

「やよい? 今日はもう帰ったんじゃなかったの?」

「それが、家中の水からひどい臭いがして……何かおかしなことが起きてると思って、戻ってきたの。みんななら、きっと原因が分かるだろうって」

 

 振り返った伊織に答えたやよいは、春香の状態に目を留める。

 

「うわっ! 春香さん、それどうしたんですか?」

「ちょっと臭い消しの真っ最中で……」

「あ~! 生姜って臭みを取るのに一番ですよね! ウチもそうしてくればよかったですぅ」

「あら、流石やよいちゃんは詳しいわね」

 

 やよいの後に続いて、渋川も事務所を訪問してきた。

 

「おーい、ちょっといいか? うおっはぁッ!? くせッ! ここもか!?」

 

 ブンブン手を振って激しく咳き込む渋川の態度に、伊織と律子が顔をしかめた。

 

「ちょっと、勝手に入ってきて失礼な大人ね」

「言っておきますけど、私たち何もしてませんから」

「分かってるよ」

 

 ひと言断った渋川が用件を口にし出す。

 

「実は数週間前からビートル隊に、各地から家の水から悪臭がするとの通報が何件も寄せられてる。商店街も至るところ閉まってて、真っ昼間からゴーストタウンのありさまだ」

「あっ、そうでしたね。通りがどこもガラガラでした」

 

 同意するやよい。

 

「ウチの特捜班の正攻法じゃ原因が分かんないらしい。ひょっとしたら、お前たちなら何か掴んでんじゃないかと思ってな」

「ビートル隊でも、今何が起きてるか不明なんですか?」

 

 律子の問い返しに渋川は残念そうにうなずいた。

 

「ああ。恥ずかしながら、臭いが発生する原因究明にも至ってない。各地の水道局の浄水システムも全く異常ないそうだ」

「だから、正攻法じゃない私たちを当たってきたって訳ですか?」

 

 聞き返した春香にうなずいて、渋川は振り向く。

 

「春香ちゃん、何かネタないかな。何か随分とけったいな格好してるけど」

「これは……もう気にしないで下さいっ!」

 

 春香がそっぽを向いている間に、律子はあるデータに行き当たった。

 

「あった! これだわ! 太平風土記のこのページ!」

「見つかったのか!」

 

 律子のデスクの周りに渋川たちが集まって、パソコンの画面を覗き込む。

 

「何て読むんだこれ? なぁ、早く読んでくれ」

「ちょっと待って下さい。えぇと、“むくつけなる巨大な魔物、禍邪波が現れ、水を禍々しく乱す。海の悪しき臭いを数多合わせたるようにて、井戸からも悪しき臭い漂えり”」

 

 太平風土記の内容から、春香が律子に尋ね返した。

 

「じゃあ、水が突然臭くなった怪奇現象の原因って、マガバッサーやマガグランドキングと同じで……」

「今までのパターンからすると、そうなるわね」

 

 話を受けた渋川が手を叩いて背筋を伸ばす。

 

「よしッ! 早速本部に、各地の水源に怪獣が潜んでないか徹底的に調査してもらおう」

 

 渋川が離れてビートル隊本部と連絡を取り合っている間、伊織が小鳥に質問した。

 

「こんな事態が起きて、他のみんなはどうしてるかしら」

「みんな、自宅や学校、仕事先で混乱に巻き込まれて立ち往生してるみたい。魔王獣の追跡は、ここにいる人でやらないと駄目そうね」

 

 連絡網で各アイドルの現状を確認していた小鳥が答えると、次に春香が問いかける。

 

「ところで、肝心のプロデューサーさんは?」

「そっちはまだ……あっ、ちょうどメールが来たわ」

 

 小鳥のケータイがガイからのメールを着信した。その内容は、

 

「『そっちも異臭騒ぎを掴んでることだと思うが、こっちは魔王獣の潜伏先を発見した。先に行ってるんで、悪いがすぐ来てくれ』……ですって!?」

「もぉ~! 一人じゃ変身できないって言ってたのに、どうしてすぐ一人で突っ走るのよあいつは~!」

 

 渋川に聞こえないように、伊織が憤慨して歯ぎしりした。

 

 

 

 765プロ事務所や高槻家のある地域の水道の水源に当たる、野山に囲まれた湖畔。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 ここに今、濁った金色のタツノオトシゴのような巨大怪獣が座り込み、湖に腰まで浸かっていた。額には禍々しい赤いクリスタルが輝く。魔王獣の特徴だ。

 そこに、どこかから奏でられるハーモニカの音色。魔王獣が気がついて振り向いた先から、ガイが姿を現す。

 

「やはり……水ノ魔王獣マガジャッパか」

 

 懐にオーブニカを仕舞ったガイは、我が物顔で湖に浸かるマガジャッパをにらむ。

 

「大自然を風呂代わりか? おいお前! ちゃんと掛け湯してから入れッ! マナー違反もいいところだぞッ!」

 

 ガイが怒声を浴びせると、マガジャッパは大量の水しぶきを巻き上げながら立ち上がる。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 そしてラッパ状の鼻から、黄緑色の液体を凄まじい勢いで噴出。ウォーターカッターとなってガイに襲い掛かる!

 

「うおッ!」

 

 危ないところで回避したガイはオーブリングを取り出したが、一人では満足に変身できないのを思い出して手が止まった。

 そこに再度液体が飛んできて、咄嗟に前に飛び込んでギリギリでかわした。

 

「くっそぉ~……! はッ!」

 

 だが緊急回避の弾みでオーブリングを落としてしまった。それを拾い上げる手が現れる。もちろんガイではない。

 ジャグラスジャグラーだ。

 

 

 

「怪獣は奥奈良湖? 了解しましたどうぞ!」

 

 マガジャッパを発見したビートル隊本部から渋川が連絡を受けている一方で、律子は事件の分析結果を皆に伝える。

 

「これまで異臭騒ぎがあった地域には全部、近くに一定の大きさ、深さのある湖があることが分かったわ。きっとマガジャッパは、それらを移動して自ら浸かることで水を汚してるのよ」

「それって、温泉巡りみたいな?」

 

 とは渋川の意見。

 

「放っておいたら被害は拡大するばかり。この事実を世界中に知らせるためにも、765プロ出動よ!」

「はい! ……でもこのまんま外を出歩くのはちょっと……」

 

 生姜まみれの春香が流石に外聞を気にした。

 

「そう言うと思って、代わりの専用プロテクターを用意しといたわ」

 

 律子が生姜に代わって春香の身体に取りつけたのは、中に大量の脱臭剤を仕込んだ赤色のプロテクターだった。伊織、やよい、小鳥がそれぞれ評価する。

 

「急ごしらえにしては見た目も凝ってるじゃないの」

「わぁ~! 春香さん、ヒーローみたいです!」

「カッコいいわよ春香ちゃん!」

「そ、そうかな? えへへ」

 

 盛り上がっている春香たちに、渋川が告げる。

 

「行くなっつっても聞かないのは分かってる。でも、春香ちゃんたちだけじゃ危険だ。俺も一緒に行く」

「じゃあ情報も共有ですね。ギブアンドテイクってことで」

 

 律子が応じると、小鳥を事務所に残した一行はすぐにトータス号で奥奈良湖に向かって発進していった。

 

 

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 奥奈良湖では、移動を開始するマガジャッパを背景にガイとジャグラーがにらみ合っていた。ジャグラーはオーブリングを片手に、ガイを嘲笑する。

 

「随分と不甲斐ないな。宇宙悪魔ベゼルブの脅威に立ち向かった勇者とは思えない姿だ」

「……」

「大切なものだろう? 取り返してみろよ。こいつも、昔のお前自身も」

 

 挑発するジャグラーに、ガイは正面から言い放った。

 

「昔も今も、俺は俺さ」

 

 するとジャグラーはニヤリと不敵に笑った。

 

「かっこいいなぁ。――一人じゃまともに変身できなくなったような男が」

「……」

「あの時の勇者が、今じゃ女たちのお守りして生活してるなんてこと、惑星カノンの人間たちが聞いたらどんな顔するだろうなぁ?」

 

 からかうジャグラーに、ガイは身を乗り出しながら言い返す。

 

「今の俺の仕事も、765プロのあいつらも……馬鹿にすることは許さないぜッ!」

 

 一瞬にして距離を詰め、ジャグラーに拳を繰り出す。それを腕でガードするジャグラー。

 ガイと激しく格闘しながら、ジャグラーは告げる。

 

「俺は本気のお前と戦り合いたい」

「疲れる奴だなぁ!」

 

 ガイの攻撃をことごとくする防御するジャグラー。前腕と前腕で押し合いながら挑発を繰り返す。

 

「こんなもんか? 今のお前は」

「……!」

 

 ガイは隙を見てジャグラーの腕を弾き、オーブリングを握る手に膝蹴りを入れてリングを弾き飛ばした。落下してくるリングをキャッチ。

 しかし顔を上げた先にジャグラーの姿がない。気がつけば、背後を取られていた。

 

「完全には錆びついていないようだな」

 

 それだけ言い残して去っていくジャグラー。その後ろ姿をにらんでいたガイだが、身を翻してマガジャッパの方を追いかけていった。

 

 

 

「見つけた! あれがマガジャッパだわ!」

 

 奥奈良湖から別の場所へ移動していくマガジャッパの前に、トータス号が到着。降車した春香たちがマガジャッパへ接近していくが、漂ってくる臭いに皆顔を思いきりしかめた。

 

「うっ! 悪臭の大元だけあって、信じられないくらい臭いわ……!」

 

 伊織がつぶやきながら、五人はマガジャッパに見つからないよう身を潜めながら近づいていく。近づくにつれて、悪臭も強まっていく。

 

「しかしひっでー臭いだなこりゃ!」

「おばあちゃん家の裏庭にいた、シマヘビとかアオダイショウの臭いがする!」

「浩太郎が洗濯に出し忘れた時の海パンの臭いですぅ~!」

「スウェーデン旅行に行った時に食べたシュールストレミングの臭いよ!」

「臭いの比喩比べはいいから! プロデューサーがもう来てるはずなんだけど、今どの辺にいるのかしら……?」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 辺りを見回す律子だが、その前をマガジャッパが木々を踏み潰して通過していく。その際に臭いが一段と強烈になった。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うへッ! ごほッごほッ! こりゃたまらねぇなオイッ!」

 

 ひどすぎる臭いは最早化学兵器。五人は身をよじって悶絶するが、それでも気を強く持って春香が律子に尋ねかけた。

 

「マガジャッパ、次はどの湖に移動するか予測つきますか!?」

 

 律子はタブレットを開いて、地図とマガジャッパの進行予想図を表示した。

 

「今までの進行ルートや湖の大きさなどを考慮すると、次に向かう先は湖じゃないみたいよ……!」

「どういうこと?」

 

 聞き返す伊織がタブレットを覗き込むと、地図の上のダム湖に60%という確率が表示されていた。

 

「この奈良沢ダムに向かう確率が一番高いわ!」

「奈良沢ダムっつったら、東京都の水源の多くを担ってる場所だぞ」

「日本だけじゃないです!」

 

 やよいが叫んだ。

 

「このままじゃ、怪獣はきっと世界中の水を臭くしちゃいます! 今の内に止めないと、数え切れない人たちが苦しんじゃう……! ここにいる私たちが、どうにかしないといけないんですっ!」

「やよい……!」

 

 やよいの胸の内の想いを受け止めて、律子は固くうなずいた。

 

「やよいの言う通りね。それじゃあ春香とやよいはプロデューサーを捜してきて」

「分かりました!」

「伊織は私と、一人でも多くの人が事前に避難できるようにマガジャッパを中継するわよ! さぁ、ついてきて!」

「ええ!」

「おい待てッ! 俺も行くぞ! 民間人を守らないで何がビートル隊だ!」

 

 五人は二手に分かれて、マガジャッパの暴威を食い止めるために行動を開始したのだった。

 


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