THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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ネバー・セイ・never(B)

 

 ギャラクトロンは、オーブによって破壊された。地球リセットは阻止されたのだ。

 

 ――だが、代償はあまりにも大きかった。最後のゼットシウム光線が引き起こした爆発によって周囲一帯は灰燼と化し、壊滅状態になってしまった。

 

 そして卯月は、ビートル隊によってギャラクトロンの残骸の中から救出されたのだが――。

 

 

 

「しまむー! しまむー!! 目を開けてよぉ!!」

「卯月! お願い、死なないでっ! いつもみたいに、頑張りますって言ってよ!!」

 

 緊急病院で、ストレッチャーに乗せられて手術室に運ばれていく卯月に、未央と凛が追いすがって必死に呼びかけていた。

 救出された卯月であったが、ギャラクトロンの内部にいた彼女は爆発の衝撃を全身に浴びていた。辛うじて即死は免れたが、それでも意識不明の重態であり、生死の境をさまよっている。

 病院の医者や看護師たちが卯月を手術室に運び込むと、凛たちの前で扉が閉ざされ、その上の「手術中」のランプが赤く点灯した。凛と未央は、ただ手を握り締めて卯月の死の淵からの生還を祈るしかなかった。

 

 

 

 戦場跡では、春香が呆然としたまま、周りの光景を見回す。森や野原は完全に灰と変わり、砕け散って転がっている木々の破片に残り火が揺らめくばかりであった。

 

「……そっかぁ……これ……私がやったんだ……」

 

 春香は膝立ちの姿勢のまま、虚ろな瞳でカラカラと笑い出した。

 

「あははは……あははははぁ……私が全部焼き払ったんだぁぁ……ははははは……」

「……春香……! 春香ぁぁ……!」

 

 壊れたように笑い続ける春香を、美希がボロボロ大粒の涙をこぼしながら力強く抱き締めた。

 ――その様をながめたガイは、血の流れが止まって白くなるほどに握り締めた拳を震わせる。

 

「うわあぁぁッ!」

 

 そして感情のままに、地面に放置しているベリアルのカードに拳を振り下ろしたが――拳はカードのすぐ横の地面を叩いた。

 

「……ッ!」

 

 ガイが下唇を噛み締め、破けた唇から血がしたたった。

 

 

 

 ――緊急手術の結果、卯月はどうにか命を取り留めることは出来た。しかし今もなお目覚めず、病室のベッドの上に横たえられて人工呼吸器や心電図をつなげられた彼女の側では、凛と未央がうなだれるように椅子に腰を落としていた。

 病室の外では、小鳥たちや小舟、渋川が医師から卯月の容態を聞いていた。

 

「相変わらず、意識不明の状態が続いております。出来る限りのことはしましたが、後は本人の頑張り次第かと……」

「ありがとうございます……」

 

 小鳥が礼を告げると、医師は会釈してその場を立ち去っていった。

 

「……島村卯月ちゃんのご家族と所属事務所に電話してくるよ。あの二人に伝えさせるのは酷だ……」

「お願いします……」

 

 渋川も、346プロへの連絡のためにこの場を離れていった。――病室の前のベンチソファには、意識が回復していた律子が頭を抱えていた。

 

「私のせいだ……! 私があんなことを言ったから……こんな事態に……!」

「律子……」

 

 千早たちは誰も、律子に掛けるべき言葉がなかった。当惑したまま立ち尽くすアイドルたちに代わって、小舟が律子の隣に腰掛ける。

 

「律子ちゃん……大丈夫か」

「小舟さん……」

 

 律子は、頭を抱えたまま小舟に告げる。

 

「私は……取り返しのつかないことをしでかしました……」

「うん……?」

「私は、ギャラクトロンの打倒をオーブに託しました……。でもそれは、彼の心を無視して頼り切るやり方でした……! 表面上のことだけじゃなく、もっと奥の部分に目を向けるべきだったのに……」

 

 律子は自嘲するようにつぶやく。

 

「科学に平和は作れない……。作れるのは暴走する怪物だけです……」

 

 正義を謳い、暴虐に走ったギャラクトロン。それを止めようと、更なる暴虐に染まったオーブ。――彼らのありさまは、科学の力に夢を持っていた律子の心に深い傷を負わせていた。

 

「私は……私たち人間は何のために……! どこを目指して、今日まで……! その行き着く先があれなのなら……人間の存在価値は……!」

 

 絶望のどん底にある律子に、小舟は語った。

 

「機械と同じ頭で考えたらそうかもな……。だから律子ちゃん、機械は体温は測れても、想いの熱さは測れねぇ。人間は違うんだ……! 人は、人の想いの強さに共感できる! 何故か分かるか」

 

 律子はようやく顔を上げた。

 

「心が、あるから……?」

「そうだ! 俺を鍛えてくれたあの人も言ってたことだ。俺たちにはハートがある! だから大自然は争ってるんじゃなく、支え合ってるんだって分かる! ……シマウマが増えれば、草原は消えちまう。だからライオンがシマウマの数を減らすッ!」

 

 小舟の言葉を響が引き継ぐ。

 

「……ライオンが死ねば、大地に還って、その大地に草が生える。その草を食べて、シマウマが育つ。――自然はそうやってサイクルしてるんだ」

「ああそうだ! 食物連鎖は、決して争いなんかじゃあねぇよ! この星は、バラバラに生きる道じゃなく、協力し合って、一つのでっかい命として生きる道を選んだんだ! この星自身の選択が、間違いであるはずがねぇだろ!」

 

 律子に、そして皆に強く訴えかける小舟。

 

「だからよ、頭じゃなくハートで物事を見ろ! 科学にだって、歌にだって……必要なのは心だ! ギャラクトロンにはハートがなかった、だから奴の正義はイカレちまったんだ! あのロボットには見えなかった世界を、見つめ続けろッ!」

 

 小舟の説得が、律子の、アイドル皆の胸を打つ。

 ――その時に、ガイが春香と美希とともに彼らの元に駆けつけた。

 

「みんなッ!」

「プロデューサーさん! 美希ちゃん! ……春香ちゃん……!」

 

 小鳥たちの顔が、思わず強張る。当の春香は、無表情のままに尋ねかけた。

 

「……卯月ちゃんは……?」

「……この中よ」

 

 伊織が答えると、春香が飛び込むように病室に入っていった。その後に美希、ガイが続き、律子を除いたアイドルたちはその後ろ姿を不安そうに見つめた。

 律子は、小舟の元に走ってきた製作所の社員の方に振り返っていた。

 

「社長!」

「どうした? 何があった!」

「墜落したゼットビートルのパイロット……」

 

 小舟と律子は一瞬息を呑んだが……。

 

「……無事でした!」

「……ほんとか?」

「ウチのバネが……緊急用脱出スプリングが、パイロットを救ったんですよ社長ッ!」

「……よかった……よかったッ!」

 

 小舟は感極まったようにうなずいた。律子は大きく目を見開いて――目尻からぽたっと涙の滴がこぼれ落ちた。

 

「科学が……命を守った……!」

 

 ――病室の方では、凛と未央が寝たきりの卯月に対して、春香のインタビュー映像を見せていた。

 

「卯月、私たちの憧れの先輩の言葉だよ。……出来ないなんて言わないで。頑張るんだよ……頑張って生きて……!」

「私たちのアイドル人生は始まったばかりじゃん……こんなところでおしまいにしちゃダメなんだからね……!」

 

 春香が二人の後ろから近づいていくと、未央と凛が振り返る。

 

「春香さん……!」

「……卯月ちゃんは……」

「……最悪、このまま意識が戻らないかもって……」

 

 凛が唇を噛み締めながら、苦しい声で答えた。春香は卯月の前で膝を突き、眠ったままの彼女の手をそっと握る。

 仲間のアイドルたちの前に出た律子と小舟の目が加わる中、春香は言った。

 

「……私は……オーブが許せない……」

「……春香……」

 

 ガイが、仲間たちが――顔を伏せた。

 言葉の真意を知らない未央が吐き捨てる。

 

「私もですよ……! オーブは正義の味方って、信じてたのに……! あれじゃあギャラクトロンと変わらないよっ!」

 

 未央の怒号と、律子たちの様子を受けて、小舟が口を開く。

 

「科学とおんなじだ」

 

 律子たちは卯月に視線を集めたまま、小舟の言葉を耳にする。

 

「強力なパワーを作り出した途端、破壊と暴力に呑み込まれてしまう。そんな闇に、制御が利かなくなる……! オーブは、自分の闇を受け止められてなかった……それでああなってしまった」

 

 小舟の語ることを、背中に受ける春香と、ガイ。

 

「自分の闇ってのはな、力ずくで消そうとしちゃいけねぇんだ! 逆に抱き締めて、電球みたいに自分自身が光る! そうすりゃあ、ぐるっと360度、どこから見ても、闇は生まれねぇ……!」

「……」

 

 そう小舟が語り終え、春香が卯月の手をぎゅっと強く握った、その時……。

 

「……う……?」

 

 卯月が――うっすらとまぶたを開いた。

 

「卯月……!」

「しまむーっ!」

 

 春香が大きく目を開いて、凛と未央は卯月の顔の側に飛びついた。卯月はゆっくりと言葉をつむぐ。

 

「ここは……どこですか……?」

「病院だよ……!」

「しまむー……助かったんだよ……!」

 

 凛たちの返答を聞いて、卯月はにっこりと微笑む。

 

「えへへ……帰って、これたんですね……」

「うん……うん……!」

「私……頑張りました……」

「うん……! よく頑張ったね、しまむー……!」

 

 凛と未央は、ぼろぼろと号泣していた。卯月は、手の感触に気づいて尋ねかける。

 

「私の手を、握ってるの……誰ですか……?」

「春香さんだよ、卯月……!」

「そうでしたか……。温かい手……」

 

 春香の瞳から、ぽたりと涙がこぼれ落ちて、彼女は卯月に頭を下げる。

 

「卯月ちゃん……ごめんね……ごめんね……っ!」

「……どうして、春香さんが謝るんですか……? おかしな春香さん……」

 

 ふふっと苦笑する卯月。――そんな中で、ガイは不意に踵を返して、病室を抜け出していく。

 

「プロデューサー……?」

 

 千早たちはそれを目で追ったが、ガイのただならぬ雰囲気に、引き止めようとした手が途中で止まった。

 

 

 

 ――ガイは爆心地にまで戻ってきた。荒れ果てた大地には、ベリアルのカードが放置されたままになっている。

 

「……」

 

 それを見下ろすガイは、おもむろに手を伸ばして、一度は置いてきたカードをホルダーに戻した。

 そしてそのまま、765プロ事務所の方角とは反対方向へ、進み出す――。

 

「――どこへ行くんだね?」

 

 背後から、声を掛けられた――。

 ガイが振り返ると――高木がガイの後ろに立っていた。

 

「社長……」

「ここに戻ってくると思ったんだ」

 

 ガイを呼び止めた高木は、彼に言い聞かす。

 

「こんな大惨事が起きて事務所は大混乱。そうでなくとも、我が社はこれからが大事な局面だよ。そんな時に唯一のプロデューサーが無断欠勤なんて、笑えないよ君ぃ」

 

 冗談めかした高木だが、ガイは顔をうつむかせながら返した。

 

「今の俺には、あいつらの側にいる資格がありません……!」

「ほう……?」

「今の俺には、闇を抱き締める強さがありません……。だから春香に……みんなに、あんな思いをさせてしまった……!」

 

 くっ、と歯を食いしばるガイ。

 

「俺はいつだってそうだった……! ショーティーだって……俺を助けてくれて、助けたかった「彼女」だって……! 傍にいる人を、守れない……! 今の俺じゃあ、同じことの繰り返しです……! もうあいつらに、笑顔をあげられない……!」

 

 ガイの訴えを受け止めた高木が、ふぅと息を吐く。

 

「もう長いつき合いになるが……そういうことを話してくれたのは、これが初めてだね」

 

 と言いながら、ガイの正面まで歩いていくと――その手を取って握り締めた。

 

「社長……?」

「ガイ君……何でもかんでも、一人で抱え込もうとするなッ! みんなのことは押して導くのに、自分の弱いところは見せてあげない。君の良くないところだよ……」

 

 高木はまっすぐにガイの瞳を見据えて諭す。

 

「アイドルとプロデューサーは、仕事上だけの関係ではないと私は考える。君たちは、明日への道をともに歩く仲間だ! 仲間は片方が先導するだけの関係じゃあない。支え合うんだ! それが、真に信頼するということだよ……!」

「……ですが……俺の背負うものは、あいつらの重荷に……」

「だから支え合うんじゃあないか! 大丈夫だ。みんな弱気になったりもするが、本当は強い子たちだ。それは今では私よりも君が知っていることなのではないかね?」

 

 高木の説得に、ガイの瞳が揺らめく。

 

「君の過去に、どんなことがあったのか。それは知らない。知らないが……たとえ何があったとしても、同じ過ちを繰り返したとしても、諦めるな! 出来ないなんて言うんじゃない! それが、765プロのモットーじゃあないか」

 

 力強く訴えかけた高木は、最後に締めくくる。

 

「まずは、闇を抱き締める強さを見つけるんだ。だがそれは、どこかではない。みんなの側にあるはずだよ……」

 

 高木の熱い説得に――ガイの口元がほころぶ。

 

「全く……最初に会った時から、あなたには敵いませんよ、高木さん」

「ガイ君……!」

 

 顔を上げたガイの表情は、ほんの少しだけだが、明るくなっていた。

 

「分かりました……。俺は、あいつらからも逃げません。向かい合って……俺にない強さを見つけます……ッ!」

「うむ! その意気だッ!」

 

 高木とがっしりと握手を交わしたガイは、事務所までの道を引き返していった。それを立ったまま見届けた高木は、何かを決心するようにうなずくと、ケータイを取り出して小鳥のものにつなげた。

 

「小鳥君、突然だが、私はこれから海外出張に出かけるよ」

『か、海外出張? ほんとに突然に……。一体、どんなご用事ですか?』

「彼の……ガイ君の無くしてしまったものを、探しに行くんだ」

 

 小鳥の問い返しに、高木ははっきりと答えた。

 

「ロシア――ルサールカへ」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

亜美「はろはろ兄ちゃんたちー! 亜美だよ~? 今回紹介するのはー、ウルトラマンダイナのストロングタイプだぁーっ!」

亜美「ストロングタイプはダイナ兄ちゃんのタイプチェンジの一つ。前作のティガ兄ちゃんは力のパワータイプ、スピードのスカイタイプ、中間のマルチタイプって内訳だったけど、ダイナ兄ちゃんは光線技のフラッシュ、超能力のミラクル、怪力のストロングっていう内容なんだよぉ」

亜美「ティガ兄ちゃんの時みたいに、ダイナ兄ちゃんもタイプ毎にスーツアクターさんを入れ替えてたんだ。その一人の中村さんがマッチョだから、フラッシュタイプの体型が回によって変わるなんてこともあったけど、ストロングタイプはいつだってムキムキだったんだよー!」

亜美「ストロングは基本肉弾戦で、光線技はほんの少ししかないからミラクルと比べると使い勝手が悪い感じだったけど、その分使われるときは切り札みたいな扱いで、色んな強敵怪獣を真っ向から玉砕したのだー!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Never say never』だ!」

ガイ「これは2011年から展開されている派生作品『シンデレラガールズ』のキャラクター、渋谷凛のソロ曲だ。CVの福原綾香さんは渋谷凛役で声優デビューしたから、歌は初々しいながらも前向きな気持ちが溢れてるぞ!」

亜美「シンデレラガールズも最近絶好調だよねー。だけど元祖アイマスの亜美たちも応援してよね、兄ちゃんたちっ!」

亜美「それじゃあ次回もよろよろ~♪」

 




 菊地真です。事務所の空気が最悪です……。でもボクたちは、前に進む覚悟を決めました。そのために、今まで避けてきた禁断の話に踏み込みます。そう……プロデューサーがどうして変身できなくなったのか……プロデューサーに何があったのかに……!
 次回『天照らす聖剣』。今こそ、闇を抱き締める時です!

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