THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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ネバー・セイ・never(A)

 

「やっぱり、地球の文明じゃ到底作れない代物だわ!」

「正義の巨人とロボットが共闘して、悪い怪獣と戦う!」

『この世界の解析は完了した』

『各地に起きている紛争、差別。残虐さを理解した』

『この世界のために、争い全てを停止させる』

『それが我が使命。我が正義』

「争いを止めるために、人間を滅ぼすつもりなの!?」

「律子っ!?」

「ち、千早さん……!!」

「プロデューサーさぁ――――――――――んっ!!?」

 

 

 

『ネバー・セイ・never』

 

 

 

 別次元よりやってきたロボット、ギャラクトロンが本性を現した後、亜美と真美は小舟に車を出してもらって、オーブがギャラクトロンを連れて飛んでいった先へと向かっていた。その車内には、凛と未央も同乗している。

 卯月を奪われた二人の表情は極めて重かった。未央はうつむきながら後悔を声ににじませる。

 

「私は馬鹿だっ……! 正義のロボットだなんて勝手に決めつけて、すっかり気を良くして……! そのせいで、しまむーがあんなことに……!」

「未央だけじゃないよ……。私も、あんなのに『救世主』なんて名前までつけようとして……。ギャラクトロンがこの世界に来た目的すら、考えもしなかった……」

 

 凛もまた思いつめた表情。この今にも後悔に押し潰されてしまいそうな二人に、流石の亜美と真美も掛けるべき言葉が見当たらなかった。

 その代わりに、小舟が未央たちへ告げる。

 

「この世には二種類の人間がいるんだよ……。他の連中が疑ってるものを信じる奴と、他の連中が信じてるものを疑う奴……! 成功を掴む人間はその両方だ! だから無理にでも顔を上げて、前を見るんだよ! そうでなきゃ、君たちの仲間は助けられねぇ!」

 

 長いトンネルを抜けて、山間部に出た車のフロントガラス越しに見えた光景は――オーブがギャラクトロンのシャフトに捕らえられている場面であった。

 

「お、オーブがっ!!」

 

 絶叫する亜美と真美。そして――ギャラクトロンの刃がオーブの腹部を貫くと、全員が声にならない叫びを発した。

 ギャラクトロンが刃を引き抜くと、ぽっかりと開いた風穴から光の粒子が飛散する。そしてギャラクトロンはオーブを無造作に投げ捨てた。

 

「ウワアアアァァァァァァッ!」

 

 陸橋を巻き込んで倒れ、立ち上がることが出来なくなるオーブ。ギャラクトロンは彼を見下しながら、卯月の声で告げる。

 

『私は、私に与えられた唯一のコマンドを遂行中だ。君はこの星とは無関係だ。邪魔をするな』

「クゥゥッ……!」

 

 オーブの肉体は最早維持できなくなり、光の粒子となって霧散していった。

 

「オーブが消えた……!」

 

 小舟が車を停めると、凛と未央が真っ先に降りて道路の端へと駆けていく。そして柵から身を乗り出しながら、未央がギャラクトロンへ向かって叫んだ。

 

「ギャラクトローンっ! どうして何もかも壊すのぉ!?」

 

 その声に反応して振り返ったギャラクトロンは、次の通り宣言した。

 

『人間の文明から争いが無くならないのは、この星の残虐な自然観を模倣しているからだ。この宇宙には、最初からあり余るほどのエネルギーで満ちている。別の生物からエネルギーを奪わずとも済むように、全てがデザインされている』

「な、何を言ってるの……?」

 

 ギャラクトロンの言動の意図が掴めない亜美だが、薄々と悪い予感を覚えていた。

 そしてギャラクトロンは言う。

 

『だが、この星の生態系は、自分の命を長らえさせるために、他の命を奪い、この星そのものを傷つける。疲弊させ、天然資源を掘り尽くすような、低レベルの文明を良しとしている』

 

 その発言に青ざめる凛。

 

「わ、私たちが築き上げてきたものが、低レベル!?」

『耳が痛いか。だから君たちは耳をふさぐ。都合が悪いからと無視する。だが、この星は、君たちの都合で存在しているのではない』

 

 ――オーブの消えた場所では、ガイが腹を押さえながらもよろめきながら起き上がる。

 

「千早……! 律子……! くっそぉぉぉッ!」

 

 フュージョンアップしていた千早と律子は、彼の側でぐったりとしたまま気を失っていた。外傷こそないが、身体を貫かれたショックとダメージはあまりにも重かったのだ。

 ガイに憎々しげに見上げられながら、ギャラクトロンは断言した。

 

『よって、この星の文明と、食物連鎖という間違った進化を選んだ生態系を、全てを、リセットする』

 

 ――今の言葉に、凛たちは完全に言葉をなくした。小舟だけが声を絞り出す。

 

「文明だけじゃなく、大自然を根絶やしにするってか!?」

「で、デタラメだよ、そんな……!!」

 

 漫画の悪役からでも聞いたことがないほどにおぞましい結論に、真美は唇をわななかせていた。

 未央はギャラクトロンに向かって絶叫。

 

「勝手なこと言うなぁっ! お前だって、しまむーを利用してるじゃんか! ほんとに平和が望みなら、しまむーを返してよ!!」

 

 ――するとギャラクトロンは、左腕の刃を元に戻して、立ち尽くして動きを見せなくなった。

 

「黙るなぁっ! 考えてないで、しまむーを返せったら!!」

「考えるのはこっちだ! 今の内に対抗策を練らねぇと!」

 

 ギャラクトロンが活動を停止している間に、小舟は車内に積んだ荷物をかき分けながら行動を開始した。

 

「あいつのデータは全て集めてある! それをビートル隊に送って……! 律子ちゃんたちはどこだ? 無事なのか!?」

「亜美たちが捜してくる!」

 

 状況が一旦停止したことで律子たちのことを案ずる小舟。亜美と真美は彼にそう告げて、オーブの消えた場所へと駆け出そうとした。

 その前に765トータス号がやってきて停車。運転席の小鳥が呼びかける。

 

「亜美ちゃん真美ちゃん! 乗って!」

「ピヨちゃん!」

「プロデューサーさんたちのところへ急ぎましょう……!」

 

 車内には他のアイドルたちが全員そろっていた。小鳥が拾ってここに駆けつけたのだ。

 

「……!」

 

 その中の春香は、立ち尽くしたままのギャラクトロンを見上げ――膝の上の震える腕を、もう片方の手で掴んで抑えていた。

 

 

 

 小鳥たちはギャラクトロンの後方、ガイたちの元へとたどり着いた。

 

「千早! 律子! しっかりして!!」

「手当てが必要です! 慎重に、しかし急いでとぉたす号まで運びましょう!」

 

 倒れ伏したままの千早と律子を、真と貴音、雪歩と響で抱え上げながら、瓦礫の山の外側に停めたトータス号まで運んでいこうとする。

 しかしその寸前に律子がわずかに意識を取り戻した。

 

「うぅ……!」

「律子! 大丈夫か!? すまない……!」

 

 頭を垂れて謝罪するガイ。そんな彼に、律子はか細い声で告げた。

 

「プロデューサー……あの力を、使って下さい……!」

「えっ……!?」

 

 周りのアイドルたちは一瞬騒然となった。

 ガイは律子の言う力――カードホルダーから、ベリアルのカードを引き抜いた。

 

「ギャラクトロンは、強すぎます……通常のフュージョンアップでは、勝てない……! あれを止めるには、その力が必要なんですっ……!」

 

 その言葉を最後に、律子は再びカクリと力を失った。

 

「律子! 律子ッ!」

「プロデューサー、落ち着いて下さい……! 後のことは、わたくしたちにお任せを」

 

 務めて冷静さを保っている貴音の指示の下、真たちは千早と律子を避難させていった。後に残ったアイドルたちの目が、ガイの持つベリアルのカードに集まる。

 

「確かに、あのマガオロチを倒したサンダーブレスターなら、ギャラクトロンにだって……!」

 

 亜美は言うものの、やよいは顔面蒼白になっていた。

 

「……だけど……!」

 

 誰よりもガイと、美希、そして春香がためらっていた。

 サンダーブレスターは強力であるが……マガオロチ相手に使った時は、闇の力が制御できなかった。そのために、被害者こそ出さなかったものの、周囲に大きな被害が出るほどに暴れてしまった。その力を再び使えば……今度はどうなるのか……。

 苦渋しているガイたちに、言葉を向けたのはあずさだった。

 

「プロデューサーさん、春香ちゃん、美希ちゃん……どうか戦って下さい!」

「あずさお姉ちゃん!?」

 

 真美たちが驚いてあずさの顔を見上げた。あずさは冷や汗を垂らしながらも、毅然とした表情で続ける。

 

「どの道、私たちに残されてる手段は他にはありません。ギャラクトロンを放っておけば、何も助かりはしません……! 私たちの運命を、プロデューサーさんたちに託します……。どうか……!」

 

 あずさの言葉で、他のアイドルたちも心を決める。

 

「あずさの言う通りだわ……。どうかこの通り……!」

「プロデューサー、春香さん、美希さん……お願いしますっ!」

 

 伊織が、やよいが、皆がガイたちに頭を下げた。

 

「……ッ!」

 

 それでもガイは決断を下せなかったが――その内に、ギャラクトロンがシャフトを振り上げ、魔法陣を幾重にもシャフトに纏わせながら宙に浮き上がった。

 

「ギャラクトロンがっ!」

「な、何か嫌な感じ……」

 

 春香と美希の肌がざわざわと震える。その視線の先にギャラクトロンは、炎のようなエネルギーの円を背面に無数に描きながら、発光部にエネルギーを集める。

 それが光線として撃ち出され、遠景の山脈に着弾。景色を覆わんばかりの魔法陣が広がり――火焔が大地を覆い尽くしていく!

 

「伏せろぉぉッ!!」

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――っ!!」

 

 咄嗟にその場に伏せるガイたち。ギリギリで彼らのいるところまでには火の手が及ばなかったが――それまで緑豊かだった山地は、全て焦土と化してしまった。数分前までの面影は、微塵もない。

 身体を起こした美希は、ガイに呼びかける。

 

「ハニー、もうやるしかないのっ!」

「美希!」

「ミキたちがやらなきゃ……こんなのはもうたくさんだよ!! 春香のことは……ミキが止めるから!」

 

 そして最後に春香が、拳を震わせながら言った。

 

「私も……やりますっ! あれを、倒しますっ!」

「春香……!」

 

 決断は下された。ガイたちは立ち上がってオーブリングを構え、小鳥は他のアイドルたちを連れてトータス号まで下がっていく。

 

「ベリアルさんっ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

「ゾフィーっ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

 

 春香と美希が立て続けにカードをリングに通し、ガイがリングを掲げる。

 

「闇と光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイと春香、美希がフュージョンアップ――同時に春香はベリアルと重なり、黒い春香と変わる。

 

『ヘェア……!』『ヘアッ!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 別の土地を更に滅ぼそうと空を移動していくギャラクトロンを見据えながら、オーブ・サンダーブレスターが大地に立った。

 

「フゥゥゥゥ……!」

 

 荒々しく息を吐くオーブの頭上を、小舟からのデータを受けて出動したゼットビートルが通過してギャラクトロンへ向かっていく。

 

「捕獲用電磁ネット、発射!」

 

 今にも光線を放とうとしていたギャラクトロンに電磁ネットが纏わりついて、その動きを封じ込んだ。これを見届ける美希。

 

『「ビートル隊が動きを止めたの! 今の内にギャラクトロンを地上に引きずり下ろして……」』

 

 攻撃の手順を立てる美希だったが――突如、春香が叫ぶ。

 

『「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』

『「春香!?」』

 

 彼女に突き動かされてオーブは助走して飛び上がり、ギャラクトロンへと一直線に突撃していく――その進路上にゼットビートルが飛んでいる。

 

『「邪魔よっ! どきなさい!!」』

 

 オーブは――春香は、ビートルを手で叩き落とした! そのままギャラクトロンに拳を食らわせ、電磁ネットを破壊して地上へ転落させる。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――ッ!?」

 

 オーブに払いのけられたビートルの操縦員の悲鳴とともに、ゼットビートルは真っ逆さまに山間に墜落。爆破炎上した。

 

「あっ……あっ……!?」

 

 安全な場所まで退避したトータス号から降りて状況を見守っていた小鳥たちは――この事態に、愕然と立ち尽くした。

 オーブの中では、一気に青ざめた美希が春香に掴みかかる。

 

『「春香、何てことするの!? あ、あれには人が乗ってたのにっ!!」』

『「うるさいっ!!」』

 

 だが春香に強引に突き飛ばされた。

 

『「きゃあっ!? 春香……!?」』

 

 転倒した美希は春香の顔を見上げ――息を呑んだ。

 呼吸が荒く、肩を上下させる春香の瞳は――烈火の如く燃え盛る憤怒と憎悪に染まり切っていた。その怒りのオーラは、マガオロチの時以上に色濃かった。

 

『「あいつ……ぶっ壊してやる……バラバラにしてやるっ! 原型も残してやらないわっ!!」』

 

 美希は思い知った――己の考えが全く甘かったことを。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 春香の激情に連動するオーブは、突き落としたギャラクトロンに飛びかかって蹴り飛ばす。

 

「ウアァァッ!」

 

 地面を滑りながらも立ち上がったギャラクトロンにオーブが後ろ回し蹴りを仕掛ける。ギャラクトロンはその軌道を先読みして魔法陣を盾にするが――オーブの足は魔法陣を突き破ってギャラクトロンに襲いかかった。

 

「ウオオオォォォッ!」

 

 オーブは相手の防御を物ともしない威力の拳を連発してギャラクトロンを追い込んでいく。飛び膝蹴りが決まって後ずさるギャラクトロン。

 しかし距離が開いたところでギャラクトロンは反撃開始。右腕のクローを縦回転させると隠されていた銃身が現れ、二条の光線を発射した。

 腕で防御するオーブだが、ギャラクトロンの右腕は光線を撃ち続けるまま切り離され、宙を飛び回ってオーブに襲いかかっていく。爪でオーブに一撃を食らわせてから、頭上より光線を浴びせ続ける。

 

「グゥッ!」

 

 光線を食らい続けて苦しんでいるように見えたオーブだが――両腕を伸ばしてギャラクトロンの腕を捕まえ、万力のような握力を込めてミシミシと装甲を軋ませていく。

 

『「小賢しいっ!!」』

 

 オーブはへし折れてコントローンを失ったギャラクトロンの腕を、本体へと豪速で投げつける!

 己の腕が、右腕の断面にぶち当たったギャラクトロンはスパークを起こしてのけ反った。オーブはその隙に背後から飛びつき、相手の長いシャフトを脇に抱え込む。

 

『「こんなものぉぉぉっ!」』

 

 相手の背を足で押さえながらシャフトを力ずくに引っ張り――根本から引き千切った!

 ――その瞬間、卯月の耳に刺さっていたコードが衝撃で外れた。

 

『「はっ! こっちが奪ってやったわ!!」』

 

 引っこ抜いたシャフトを地面に叩きつけたオーブは更に踏んづけて完全に破壊。右腕、アームシャフトとパーツを失っていきながらも起き上がるギャラクトロンの内部では、コントロールが解けて正気に返った卯月が唖然と辺りを見回す。

 

『「え!? え!? ここどこですか!?」』

 

 正面を向いた卯月の視界に飛び込んできたのは――迫りくるオーブの拳であった。

 

「ウオオォォッ!」

 

 オーブの鉄拳が、卯月の囚われている発光部を撃つ。

 

『「きゃああああああ――――――――――っ!?」』

 

 卯月はたまらず絶叫。その声は、凛たちの耳に入った。

 

「今の、卯月の声!!」

「しまむぅぅ――――――――っ!!」

 

 色めき立つ凛と未央だったが……オーブは倒れ込んだギャラクトロンの顔面を鷲掴みにして――地面に叩きつける。

 

「えっ!?」

「や、やめてオーブ!! 卯月がその中に――!」

 

 未央の叫びは、オーブに届かない。オーブはギャラクトロンに馬乗りになったまま、容赦なく暴力を叩き込んでいく。

 

『「いっ! いやっ! やだっ! やだぁっ! た、助けてぇぇぇっ!!」』

 

 必死に叫ぶ卯月。――その声をかき消すように怒鳴る春香。

 

『「何もかも壊してっ! 命を全て滅ぼしてっ! 誰のための正義だ!! 神様にでもなったつもり!? 自分が気に入らないから消し去る!! 地球はあんたの遊び場じゃないのよっ!!」』

 

 オーブの暴力によってギャラクトロンの機体が砕け、ひび割れ、グシャグシャに潰れていく。――内部の卯月への配慮は全くない。

 

『「あんたの正義はっ! 使い物にならないのよっ!! このガラクタロボットっ!!」』

 

 オーブの鉄槌のような拳打が、ギャラクトロンの顔面を叩き割った。

 

『「やめて春香!! これ以上は、卯月が死んじゃうよ!!」』

 

 必死に止めに走る美希だが、春香は微塵も受けつけない。

 

『「邪魔をするなぁっ!!」』

『「あぁぁっ!」』

 

 無理矢理押しのけられ、転倒する美希。オーブはその間に暴力を振るい続ける。春香の顔は、憎しみで凄惨なものに変わり果てていた。

 未央は小舟にすがりついていた。

 

「小舟さんお願いっ! オーブを止めてぇっ! あのままじゃ卯月が……殺されちゃうっ!!」

 

 小舟も苦渋を噛み締めていたが、力なく首を振る。

 

「無理だ……出来ることは、何もねぇ……」

「そ、そんな……」

 

 ギャラクトロンの左腕を引き千切ろうと無理矢理引っ張るオーブのカラータイマーが、赤く点滅し出した。それで凛が未央に告げる。

 

「未央……オーブはもうすぐ消えてくれるよ……。それまで、卯月が無事なのを祈るしかない……」

「……何で……何でなの!? オーブぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 未央の悲痛な叫びが、虚空に消えていく。

 ――トータス号の前では、やよいが顔を覆って泣き崩れた。

 

「もう……もう見てられませんっ! こんなの……!」

 

 他の者たちも、歯を食いしばったり肩を震わせたりしながら目をつむったりそむけたりしている。

 しかしそこにあずさが、オーブの蛮行に目を離さないまま告げる。

 

「目をそらしちゃ駄目よ……」

「あずささん……?」

 

 顔を上げるやよい。あずさも、小刻みに震えていたが、感情を必死にこらえて前を向いていた。

 

「プロデューサーさんたちに託したのは、私たちよ……。だから私たちは、最後まで見届けなきゃ……。たとえ、何が起ころうとも……!」

 

 ――オーブは遂にギャラクトロンの左腕を奪い取り、それを鈍器に更にギャラクトロンを殴打していく。

 

「ウオオオオオオッ!」

 

 そして最後に、刃の部分をギャラクトロンに――発光部に向けて振り上げる。

 

『「砕け散れぇぇぇぇぇぇっ!!」』

『「――春香ぁぁっ!!」』

 

 その時――美希のビンタが、春香の頬を叩いた。パシィンッ! と渇いた音が鳴り響く。

 

『「――み、き……?」』

 

 それによって春香が止まり、オーブもまた振り上げた姿勢のまま停止した。

 美希は、呆然としている春香をひしっと抱きしめる。

 

『「もう……もう十分だよ……。春香の怒りは、十分に伝わったから……」』

『「……美希……」』

 

 オーブがギャラクトロンの腕を手放して、よろよろと後ずさってギャラクトロンから離れた。

 やっと暴力から解放されたギャラクトロン。身体中が黒ずみ、全ての武器を失い、破損していない部分は全身のどこにもない。――そんな状態でありながら、なお立ち上がる。

 そして、発光部――コアから、音が発される。

 ポン、ポロン、ポン、ポン――。

 

「……この音楽は……」

 

 呆然となる未央たち。それは、ギャラクトロンがこの世界に来て初めて取った行動――未央と凛の喧嘩を止めた、争いを鎮める音楽である。

 オーブも、その中の春香と美希も、音楽を奏でるギャラクトロンを見つめた。

 ギャラクトロンが、争う気持ちをなだめるメロディを鳴らしている――平和のメッセージを唱えている――。

 

 ――あれだけのことをしておいて。

 

『「――うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』

『「きゃあぁっ!?」』

 

 春香の激情が再燃し、美希を振り払って腕を十字に組んだ。

 

『「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」』

『「ゼットシウム光線っっ!」』

 

 オーブの腕から破壊光線が放たれ、ギャラクトロンに突き刺さり――。

 

 ――辺り一面が、凄絶な爆炎に呑まれた。

 


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