THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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I Want 祝福(B)

 

 まずは美希がゾフィーのカードをリングへ通す。

 

「ゾフィーっ!」

 

 リングの間を通されたカードは光の粒子となって、美希の横にゾフィーのビジョンとなって立った。

 

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

 

 次いで、春香が黒いウルトラマン――ウルトラマンベリアルのカードを掲げる。

 

「ベリアルさんっ!」

 

 そしてリングに通す――。

 のだが、ベリアルのカードは差し込もうとしたところでリングと反発し、春香とガイは弾き飛ばされてしまう!

 

「きゃあっ!?」

「うわぁッ!」

「えっ!?」

 

 動揺する美希。その動きとゾフィーのビジョンが連動する。

 

「べ、ベリアルさんっ……!」

 

 春香たちはすぐに起き上がって、再び試す。

 

「お願いしますッ!」

 

 二人で協力して、無理矢理にでもリングの間に通そうとするも、やはり弾かれてしまう。

 

「ぐあぁッ!」

「そんな……! これが最後の希望なのに……!」

「ミキも手伝うのっ!」

 

 美希が春香に駆け寄って彼女の腕に手を添え、力を貸す。

 

「頼みますッ! ベリアルさん……!」

 

 三人がかりでカードを通そうとするも、てこずっている間にマガオロチが目前まで接近してきた!

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ま、まずい……! 早くしないとっ!」

 

 焦る春香だが、その時に三人の前に玉響姫が現れて、マガオロチへと手の平からの波動を飛ばして光の球の中に閉じ込める。

 

「玉響姫っ!?」

『早くカードを! この足止めも長くは持ちません! その力を使いこなしなさいっ!』

 

 オーブを圧倒したマガオロチの力を、玉響姫単独で長時間止められるはずがない。春香たちはすぐにベリアルのカードをリングに通すことに専念する。

 

「うぅぅぅぅっ……!」

「お……お願いしますっ……!」

 

 三人が歯を食いしばり、全力を出して押し込もうとしても、やはりカードは途中で止まってしまって動かない。そうして苦戦している内に、マガオロチは電撃光線を吐いて光球にヒビを入れる。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「っ――!!」

 

 息を呑むガイへ、玉響姫は一瞬振り返り、言葉を向けた――。

 次の瞬間に光球が砕け散り、電撃光線が爆炎を生み出す!

 

「うああぁぁぁぁっ!」

 

 熱風に煽られるガイたち。顔を上げると――玉響姫のいた場所は破壊し尽くされていて――。

 玉響姫の姿はどこにもなかった――。

 

「――ッ!!」

 

 それを理解したガイの顔が憤怒で染まり――春香の瞳からは光が消える。

 

「――わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 感情の爆発のままに春香がカードをリングに突き出すと――カードは光の粒子に変化した。

 

[ウルトラマンベリアル!]

『フハハハハハハハッ!!』

 

 空間を破ってベリアルのビジョンが現れ、ガイたちはもがくような動きとともにリングと腕を掲げる。

 

「うおおおおああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

[フュージョンアップ!]

 

 オーブリングから金、紫、そしてどす黒い赤の波動が生じ、ゾフィーとベリアルのビジョンが美希と春香を巻き込みながらガイと融合した。

 

『ヘアッ!』『テェェアッ!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 宇宙牢獄を突き破り、膨大な光と闇の渦巻く空間からオーブが飛び出していく――!

 

 

 

 765プロ事務所では、やよいと真が何かを感じ取ったかのように、急に跳ね起きた。

 

「うぅ……!」

「こ、ここは、事務所……?」

「やよいちゃんっ! 真ちゃんっ!」

 

 小鳥やあずさ、響と貴音が驚いて側に駆け寄った。真は小鳥たちに一番に尋ねる。

 

「怪獣は……!? 怪獣はどうなったんですか!?」

「ち、ちょっと待って。今見せるから……!」

 

 小鳥がタブレットの画面を開いて、緊急速報の画面を見せるが――そこに映っていたのは、マガオロチの姿だけではなかった。

 

「えっ……!?」

 

 マガオロチの前方に、巨人が立ちはだかっている。その胸に輝く円形のカラータイマーは、彼女たちのよく見慣れたものだ。

 

「オーブ……プロデューサー!? でも……!」

 

 

 

 入らずの森では、律子たちも同じようにタブレットの画面に集中していた。

 

「ウルトラマンオーブだわ……! 間違いない……!」

 

 律子は巨人の特徴から、オーブだと判断する。――が、それなのに伊織は信じられないという顔をしている。

 

「で、でも、この姿何よ!? 一体何がどうしちゃったら、こんなことに……!?」

 

 画面に映るオーブの姿は――指の爪が鋭く尖り、眼もひどく吊り上がっていて、筋肉が隆々と盛り上がった肉体からは、画面越しからでも伝わるほど獰猛な気配を発していた。触れればその途端に腕を持っていかれそうな、あまりに凶悪な風貌は、目がおかしくなったのかと律子たちが思ってしまうほどであった。

 これが、強靭な光の力を秘めたるゾフィーと、暗黒の闇に染まり切ったベリアルの力を宿した、本来ならば存在するはずのない光と闇の戦士、サンダーブレスターなのである――。

 

 

 

 着地の衝撃だけで周囲のビルを倒壊させたオーブ・サンダーブレスターの内部の超空間では、美希までもが当惑を覚えていた。

 

『「こ、これがフュージョンアップした結果……!? いくら何でも、何かが行き過ぎてるんじゃないかな……?」』

 

 内部空間までもが異様な空気に覆われていて、落ち着かないようにキョロキョロしている美希だが――その傍らの春香に異変が生じた。

 

『「うっ……あっ……あうっ……!?」』

『「春香!?」』

 

 春香の身体を赤黒い稲妻が覆い、春香がうめき声を出しながら身悶えしている。仰天する美希。

 

『「は、春香! 大丈夫なの!?」』

 

 思わず春香の肩に触れようとしたが、その刹那に稲妻の閃光がより激しくなり、美希の手が弾かれた。

 

『「きゃっ!?」』

 

 春香自身は大量の稲妻に包まれ、のけ反って金切り声を発した。

 

『「ああああああああああああ――――――――――――――っ!!」』

『「春香!? 春香ぁぁぁぁ――――――――っ!!」』

 

 絶叫する美希だったが――稲妻が収まると、意外にも春香は傷一つなくその場に顔を伏せたまま立ち尽くすだけだった。

 

『「春香、大丈夫なの……?」』

 

 美希が気遣った、瞬間――春香は急に顔を真上に上げて高笑いを飛ばした。

 

『「アハハハハハハハハハっ!!」』

『「春香……!?」』

 

 何が何やら理解できず、冷や汗まみれの美希だったが、春香は極めて好調子で前を向いた。

 しかし――彼女の雰囲気が先ほどまでとは完全に変わっていることを、美希はすぐに見て取った。しかもいつの間にか、黒いマントを羽織っている。

 今の春香は、貴族か皇帝か――あるいは暴君のような、相手を圧倒させる重々しいプレッシャーを纏っていた。

 

『「ふふふ……」』

 

 春香は妙に艶やかな唇を吊り上げて、こちらを警戒している様子のマガオロチをじっと見据えた。

 

『「人様の街で好き勝手に暴れて……私の仲間にもプロデューサーさんにも手を出して……随分と傍若無人な振る舞いをしてくれたじゃない。――トカゲの分際で」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは春香の挑発の台詞が聞こえたかのように大気を震動させる咆哮を発したが、春香は少しもひるまずに手をツイッと持ち上げた。

 

『「――お仕置きよ」』

 

 春香がマントを翻したのを合図とするように、オーブがマガオロチへと突撃していく!

 

「ウオオオオッ!」

 

 マガオロチのマガクリスタルを掴んで捕らえると、その首筋に何度も拳を叩きつける。するとこれだけで甲殻にヒビが走り、マガオロチが悲鳴を発した。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

『「す、すごい力……!」』

 

 サンダーブレスターの攻撃力に美希が目を見張った。一戦目ではどんな技で攻撃しようとマガオロチには全く通用しなかったのに、サンダーブレスターはただ殴っているだけでこれだ!

 春香はマガオロチを痛めつけながら叫ぶ。

 

『「畏れ! ひれ伏し! 崇め奉りなさいっ!」』

 

 更にオーブはマガクリスタルを掴んだまま、マガオロチを引っ張っていき――。

 

『「そこに跪いて!!」』

 

 相手の顔面をビルごと地面に叩きつけた!

 

『「!!?」』

 

 マガオロチに押し潰されてビルが粉々になったことに、美希は驚愕して春香に飛びついた。

 

『「や、やり過ぎなのっ! 今のビルに逃げ遅れた人がいたらどうするつもり!?」』

 

 真っ青になりながら春香を止めようとしたが――。

 

『「邪魔よっ!!」』

『「きゃっ!?」』

 

 春香にドンッ! と突き飛ばされた。

 しりもちを突いて唖然とする美希。あの春香が……自分を突き飛ばした!

 

『「は、春香……!?」』

『「そこで見てなさい」』

 

 春香はこちらを一瞥もしないで、冷淡に吐き捨てた。

 愕然とする美希。これまでフュージョンアップは、二人の息と心を合わせることで力を発揮していたのに――今は春香の意志だけでオーブの身体を突き動かしている!

 

『「は、ハニーから何か言って!」』

 

 美希は思わずオーブに助けを求めたが、

 

「ウオオオオオオオオッ!」

 

 オーブはうなり声を発するだけで、美希の声に全く応じなかった。

 

『「ハニー!? 正気を失って……!」』

 

 わなわなと震えながら、美希は立ち上がることが出来なかった。

 仲間と共に在るはずなのに――今の美希は、孤立しているのだ。

 

「ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオォォッ!」

 

 オーブはひたすらに、馬乗りになったマガオロチの頭部に拳を振り下ろしていた。

 

 

 

 戦場の側のビルの屋上に上がってきたジャグラーは、サンダーブレスターの姿を目の当たりにして絶句した。

 

『あいつら……闇のカードを使いやがったのかッ!』

 

 

 

「オオオオオオッ!」

 

 マガオロチを無理矢理起き上がらせたオーブは、相手の全身に蹴りや拳をぶち込んでじわじわと痛めつけていく。

 

『「少しは痛いというのがどういうことか分かったかしら!?」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 だがマガオロチもやられたままではいられない。攻撃の合間を突いて打撃を返し、オーブに反撃する。

 

『「鬱陶しいっ!」』

 

 だがオーブの筋肉の鎧の前には然したる効果はなかった。腹部に強烈な前蹴りを入れられて悶絶する。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「フゥゥ……!」

 

 その隙にオーブは手近なビルを鷲掴みにして引っこ抜き、全力でマガオロチに投げつけた。

 

『「そぅらっ! プレゼントよ!」』

 

 投擲されたビルはマガオロチに直撃し、強烈な衝撃でマガオロチがひるんだ。

 

 

 

 現在のオーブの戦いぶりを、タブレット越しに律子たちが見ていた。

 

「まぁ……オーブって乱暴なのね」

 

 繪里子はのんきなことをつぶやいているが、律子たちは唖然と言葉をなくしていた。

 

「な……何よこの戦い方……」

「いつものオーブじゃないよぉ……」

 

 伊織が声を絞り出し、雪歩や亜美真美は少し怯えていた。

 

「……」

 

 千早と律子は、周囲の被害など気にする様子もなくマガオロチを痛めつけるオーブの様子に、ゴクリと固唾を呑んだ。

 

 

 

 マガオロチが反撃に打って出て、尻尾を振り回してオーブに叩きつけたが、オーブは脇に抱え込む形で受け止め、マガオロチを逆に振り回す。

 

『「生意気なのよっ! 思い知りなさいっ!」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチがビルの側面に叩きつけられ、そのビルは跡形もなく砕け散った。

 

「ウオォッ!」

 

 オーブは再度マガオロチの尻尾を捕らえ、引っ張って伸ばすと右腕を肩の上に掲げた。

 

『「今度は自分が奪われる立場になってみる!?」』

 

 オーブの手に、赤黒く歯がズラリと並んだ光輪が発生する。

 

『「ゼットシウム光輪っっ!」』

 

 その光輪を尻尾のつけ根に振り下ろし、尾を根本からズタズタに切断した!

 

「キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 尻尾を奪われて絶叫するマガオロチ。対するオーブは切り取った尻尾を振りかぶる。

 

『「返してあげようかしら!? そぉれっ!!」』

 

 思い切り振り抜いた尾で、マガオロチの首をぶん殴った。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 戦いが続くに連れて肉体が破損、欠損していくマガオロチは最後のあがきかのように電撃光線を放射。オーブはそれを、尾を盾にしてガード。

 

『「邪魔ねこれ」』

 

 しかしすぐ尻尾を投げ捨て、続く光線は手の平で受け止めて払いのけながらマガオロチににじり寄っていく。

 

『「ギャアギャア喚くんじゃないわよ! みっともないっ!!」』

 

 マガオロチの喉元をガッチリと掴むと、片腕でその巨体を軽々と投げ捨てる。

 

「ウアアァァッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは数棟のビルに衝突して横倒れとなった。

 一戦目とは正反対にマガオロチを圧倒し続けるオーブへ、たまらなくなったジャグラーが喚き散らす。

 

『何でだよガイッ! 闇の力まで使いやがってよぉぉッ! そんなに俺をコケにするのが好きなのか!? 何もかも俺から奪ってくつもりかよッ! 一度ぐらい俺に勝たせろよこのヤロォォォォ――――――ッ!!』

 

 そんなことは知らず、オーブはいよいよとどめの一撃を繰り出す構えを取る。

 

『「これが閉幕のベルよ……!」』

 

 カラータイマーが激しくスパークすると、広げる腕とともに光と闇のエネルギーが円形に充填されていく。

 

「ウオオオオオォォォォォォォッ!!」

 

 最高潮に達したエネルギーが両の腕に宿り、十字を組んで炸裂させる。

 同じ動きで腕の十字を作る春香に、一瞬ベリアルの面影が覆い被さった――。

 

『「ゼットシウム光線っっ!」』

 

 発射された光の奔流と暗黒の稲妻の複合光線がマガオロチを撃ち抜き、後方へ押し込んでいく。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 甲殻が砕け散り、肉がえぐられ、血しぶきが飛び散りながら崩壊していくマガオロチが、光線を浴び続けた末に凄絶な爆炎の中に消えた――。

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッッ!!』

 

 同時に狂ったように絶叫したジャグラーが、ガクリと肩を落として、オーブに背を向けて人間態に戻った。

 

「ハァァッ!」

 

 マガオロチを抹殺したオーブは、ジャグラーに振り返ることなく空に飛び上がって、この場から去っていった――。

 

 

 

 ――春香たちは戦場跡の中心で、フュージョンアップを解除して元に戻っていた。

 

「……あっ……」

 

 元々の服装に戻った春香はハッと顔を上げ、額に脂汗を噴き出しながら最早元の光景が見る影もない街の惨状を、呆然と見回した。

 

「……私……これを、私がやったの……?」

 

 春香は思い返す。オーブリングにベリアルのカードを通してから、フュージョンアップしている間――自分が何をしたのかということを、冷静になった今の状態で。

 ふと後ろに振り返る春香。自分の背後では、美希が両膝を地面に突いた姿勢で自分を見上げていた。

 その美希の瞳は――知らない誰かを見上げる臆病な小猫のようだった。

 

「……春香は、どうしてそうなっちゃったの……?」

 

 それが美希の精一杯の言葉だった。

 

「っ――」

 

 春香が口を開いたまま、立ちすくんで一歩も動かない様子を、遠くからガイが虚無に染まった顔で目の当たりにしていた。

 そのまま、彼女たちに掛ける言葉もないガイが荒れ果てた裏通りに引っ込むと――倒れた信号機に腰掛けていたジャグラーが顔を上げた。

 

「……俺を笑いに来たのか?」

 

 自暴自棄な台詞を吐くジャグラーに対して、ガイは無言だった。

 

「かっこよかったよ……全てを破壊し尽くすお前の姿……。ほれぼれしたなぁ……」

 

 壊れた笑みを見せるジャグラーが立ち上がる。

 

「俺は潔く負けを認める……」

 

 そして奪ったカードホルダーを、ガイへと投げ渡した。

 そのまま立ち去ろうとしたジャグラーだが、不意に振り返ってガイに問う。

 

「楽しかっただろう……? 強大な力を手に入れて全てを破壊するのは……」

「……そんなことは」

「いい子ぶるなッ!!」

 

 ガイの返答を怒声でさえぎるジャグラー。

 

「あれが他ならぬお前の姿だよ……! お前が闇に染まったから、あの娘もまた闇に呑まれた……! 全てはお前の責任……お前が闇にプロデュースしたのさ……!」

「……!」

「所詮お前は俺と同類だ……。関わる者をみんな、闇に落としちまうのさ……。せいぜい楽しめ……! ハハハハハハ……!」

 

 哄笑を残して、ジャグラーは廃墟の闇の中に消えていく。

 ガイはそれを追いかけることもなく、力なく立ち尽くしたままだった――。

 

 

 

 そわそわと不安そうに待っている律子たちの元に、美希とガイとともに春香が戻ってきた。それに気づいた千早が表情を明るくする。

 

「春香たちが戻ってきたわ! みんな無事よ!」

「ほんと!? よかったぁ~……!」

 

 律子たちはほっと安堵して、ガイたちを取り囲んだ。

 

「プロデューサー、ご無事でよかったです。あんなことがあったから……心配してたんですよ」

「ああ……悪い」

「やよいちゃんも真ちゃんも、目を覚ましたって連絡が。そっちももう心配いらないみたいです」

「そうか……よかった」

「……ねぇ、ほんとに大丈夫なの? 元気ないじゃない……」

 

 全く気力の感じられないガイを案じる伊織たち。同じく表情に色彩のない美希は千早と亜美真美が囲う。

 

「美希、何があったの? 話せる……?」

「千早さん……。後でお願いなの……」

 

 そして春香には、繪里子が向かい合う。

 

「春香、ちょっと見ない内にどうしちゃったのよ。魂が抜けたみたいじゃない」

 

 春香は一瞬何か言いかけたが――口をつぐんで取りやめた。

 

「何でもない……。それよりママ、これからどうするの?」

「そうねぇ……今日は色々あって疲れちゃったし、もう帰るとするわ」

 

 と答えた繪里子は、ふとガイの顔を見つめ、春香に告げた。

 

「握った手の中、愛が生まれる」

「え……?」

「ひいおばあちゃんの遺言なのよ。大事なことだから、忘れないようにね」

 

 どうしてそんなことを今言うのか。母の顔を見上げた春香に、繪里子は不敵な笑みを返した。

 

「あなたも頑張りなさいよ? ライバルはいっぱいいるみたいだし」

 

 そうと言い残して立ち去っていこうとする繪里子。

 

「あっ、送ってく」

「いいの。一徹君が送ってくれるから。じゃあね~」

「……じゃあね」

 

 春香に手を振った繪里子は、ガイとのすれ違いざまに、何かをひと言ふた言告げた。――すると、虚無感に溢れていたガイが目を見開いて、生気が戻った。

 

「……?」

 

 今度こそ繪里子が立ち去っていくと、春香はガイに尋ねかけた。

 

「プロデューサーさん、ママに何言われたんですか?」

「うん……。色々とすまなかったな。これからもっと頑張るからさ」

 

 ガイははぐらかして、何も教えてくれなかった。

 

「い、いや……だから何言われたのか教えて下さいよぉ!?」

 

 せがむ春香だったがガイは頑なに口を割らず、ハーモニカでいつものメロディを奏でた。

 

 

 

 森を抜けた繪里子は、ガイの奏でる曲が風に乗って耳に入り、思わず足を止めた。

 その前方に車が停まり、降りた渋川が繪里子へと駆け寄る。

 

「いきなり車回せなんて、義姉さんはいっつも突然なんだからもぉ~。……どうかしました?」

 

 曲に気を取られたままの繪里子に渋川が尋ねると、繪里子は聞き返してくる。

 

「このメロディ……気持ちがざわざわする……」

「ああ、これねぇ、プロデューサー君が吹いてるんですよ。よくハーモニカ吹いてるんです彼」

「……そう……そうだったの……」

 

 何かを得心したかのような繪里子だったが、フッと笑って渋川に向き直った。

 

「かーえろっ!」

「はい」

「けどその前に、買い物つき合って!」

「またですか!?」

「はーい出発出発!」

 

 無理矢理渋川に言うことを聞かせて助手席のドアを開く繪里子は、最後にもう一度、ハーモニカのメロディが聞こえてくる方向を見やった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

春香「天海春香です! 今回ご紹介するのは……光の国の悪に堕ちたウルトラ戦士、ウルトラマンベリアルです……!」

春香「ベリアルさんは映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』で初登場しました。元々はウルトラの父の戦友だったのですが、ウルトラの父が宇宙警備隊隊長に任命されたことに嫉妬して力を追い求め、禁忌を破ってプラズマスパークを独り占めしようとしたためにウルトラの星を追放されてしまいました。そこをレイブラッド星人につけ込まれ、闇のウルトラマンに変えられてしまったんです」

春香「最初の宇宙を征服する陰謀をゼロさんに打ち砕かれてから、ゼロさんとの因縁が生まれました。アナザースペースでの決戦で完全に敗れて死亡したのですが、怪獣墓場で怨霊となって復活。一度はゼロさんの肉体を奪うなど、しつこく狙う姿が描かれました」

春香「そしてゼロさんの能力が逆効果となって完全に復活。新作『ウルトラマンジード』で再び暗躍するようで、ベリアルさんの悪行は未だ終わる気配がありません」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『I Want』だ!」

ガイ「CD『MASTER ARTIST 01』初出の春香ソロ曲で、普通の女の子天海春香のイメージからは随分とかけ離れた過激すぎる歌だ。何でこんな歌が作られたのかは、簡単に言えば、公式の悪ノリってとこだろうな」

春香「私って特に中の人の影響を受けることが多いんですよねぇ……」

春香「次回もどうぞよろしくお願いします!」

 




 亜美だよ~。いよいよ開催された765プロ感謝祭ライブ! 色んなことがあったけど、それは置いてライブ頑張ろうっ! と張り切ったんだけど、またまた悪い宇宙人の邪魔が入るみたい! もぉ~許せないよそんなのー!
 次回『心のREST@RT』。ライブは絶対成功させるんだから!

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