THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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ママ、Do-Dai!?(A)

 

『君が一番求めているのは、このカードだろう?』

「六つの魔王獣の封印が破られた時、この世に出現するという大魔王獣……。だが」

『光と闇ッ!』

『どちらが勝とうが知ったことではない』

「お前にはほんとガッカリだよ……」

「とどめを刺せ! レッドブラック……!」

『ジャグラー!!』

『策士策に溺れる』

『お、のれぇぇぇぇッ!!』

『遂に我が手に来た……。最後のカードだ……』

 

 

 

『ママ、Do-Dai!?』

 

 

 

「ザッ、ワールイズオールワンッ! ユーニティマインッ♪」

 

 765プロが贔屓にしているレッスンスタジオで、アイドルたち全員によるライブの予行練習が幾度も積み重ねられていた。彼女たちは近日に迫る『765プロ感謝祭』という、一世一代の大舞台に向けていつも以上に熱心にレッスンをしているのであった。

 

「……よし、今日はここまでにしよう。みんな、よく休んで疲れを残さないようにな!」

「はいっ!」

 

 最後のポーズが決まったところで、レッスンを監督していたガイが終了を宣言した。そんな彼の様子をながめながら、亜美と貴音がヒソヒソと囁き合う。

 

「兄ちゃん、もうすっかり普段通りに戻ったみたいだね」

「ひと安心といったところですね。これで心置きなく、わたくしたちのすべきことに専念できます」

 

 ガイはジャグラーとの決戦以降、しばらく覇気がなくなっていた感じであったが、今はいつもの様子に戻っていた。それで貴音たちは内心安堵していた。

 

「感謝祭ライブまでもうすぐ……。本番でちゃんとやれるか、少し不安ですぅ」

「あらあら、大丈夫よ。背伸びしたりしないで、レッスン通りにやればね」

 

 レッスンを終えて汗を拭いたり水分補給したりしているアイドルたちが各人で談笑する。そんな中で、春香がおもむろにガイの前に進み出た。

 

「あの、プロデューサーさん。色々考えたんですけど……少しお話しが……」

「ん? 改まって何だ?」

 

 その春香の動きに気づく真美。

 

「あれ? はるるん、兄ちゃん相手に何の用だろ」

「春香のことだし、大したことじゃないでしょ」

 

 響が苦笑した直後に、春香はガバッと頭を下げながら、言い放った。

 

「私の――恋人になって下さいっ!!」

 

 どんがらがっしゃーん!

 と転倒したのは春香ではなく、それ以外のアイドルたちであった。

 

「……えッ……!?」

 

 ガイは思いっきり目を丸くして春香を見つめ返した。対する春香は、潤んだ瞳で顔を上げる。

 

「私には、プロデューサーさんしかいないんです……!」

 

 起き上がったアイドルたちは、唖然としながら春香と立ち尽くすガイに視線を集めた。

 

 

 

 翌日、都内の高層ビル中層にある高級レストランで。

 

「春香~!」

 

 卸し立てのスーツとドレスでビシッと固めたガイと春香の待つ席の元へ、顔立ちが春香によく似た女性がやってきた。彼女は立ち上がったガイの顔をひと目見て興奮する。

 

「きゃっ!? 写真でも凛々しかったけど、実物で見るとますますカッコい~! 春香、あんたやるじゃない。こんな人のハートを射止めるなんてぇ! 紅ガイ君でしたっけ? ウチに婿に来てくれるんでしょぉ~!?」

「ま、ママ、一旦落ち着いて! 恥ずかしい……!」

 

 周りの客が奇異の目でこっちを見ているので、春香はガイにベタベタする女性を引き剥がした。三人でテーブルを囲むと、女性はガイを質問攻めにする。

 

「ガイ君、春香のとこのプロデューサーさんだっけ? お歳は? 農業に興味あるかしら?」

「だからママ、落ち着いて……」

「落ち着ける訳ないじゃなーい! もうママ嬉しくって! だってね聞いてよガイ君!」

 

 マシンガンのようにまくし立てる女性に、ガイはやや気圧されている。

 

「ウチの家系、私のひいおばあちゃんの代から、どういう訳か女の子しか産まれなくって。若い頃からずーっと、「好きなことをしたければ跡取りを確保してから」って親に言われて! やりたいことあきらめてきたの。それでね、私が好きなことするには春香が! お婿さんを確保してくれるしかない訳! アイドル許可したのだって、いい男の人見つけてくる可能性が高くなると思ったからなのよ! ねね、いつ結婚するご予定かしら? 待ち遠しいわぁ~!」

「は、ハハハ……」

「何しよっかしらぁ~!?」

 

 談笑している……というより一人が延々としゃべっているこのテーブル席を、やや遠くのテーブルから監視している四人の集団がいた。

 

「むぅ~……あの人何なの? ハニーに春香と結婚しろ結婚しろなんて!」

 

 聞き耳を立ててむくれているのは、変装している美希。他の三人は、同じように変装中の律子、やよい、真であった。美希が嫉妬して春香たちの予約したレストランに先回りし、更に律子たちも無理矢理巻き込んだのであった。

 

「こ、こんな贅沢なお料理見たことないですぅ~! お持ち帰りは出来るでしょうか?」

「いやぁ、それは多分無理だよ……」

 

 春香たちよりも注文した料理に釘づけのやよいに真が苦笑している一方で律子が、ガイと春香が面と向かっている女性について説明した。

 

「天海繪里子さん。春香のお母さんよ。確か春香から聞いた話だと、春香に婚約者を見つけるように何度も催促してくるって……。今度は本人直々にやってきたから、プロデューサーをその役に仕立て上げて帰ってもらおうって魂胆ね」

「春香がいきなりハニーにプロポーズしたものだからすっごい驚いたけど、そういう訳だったんだね」

 

 ひとまずは安心した美希だったが、たとえ芝居でも面白くないのは確かなのでイライラしっぱなしである。そんな美希に呆れ返る律子。

 

「あんたもよくやるわよねぇ。……っていうか、こんな高そうなレストランのお代を私に払わそうなんて」

「今度お返しするから、今は静かにしててほしいの、律子」

「さん」

「さん」

 

 そんな美希たちが見張っている中で、春香の母の繪里子は実際結婚を催促している。

 

「春香、あんたちゃんと結婚の予定組んでるんでしょうね? そういうの早め早めにしとかないとダメよ!」

「だからママったら、気が早すぎだってば。私まだまだアイドル引退するつもりなんてないよ。トップアイドルになるまでは……」

「またそんなこと言って! ママをはぐらかそうとしてるんじゃないでしょうね」

 

 はぐらかす、と言われて春香とガイは内心ドキリとする。

 

「そもそもトップアイドルっていうのが曖昧なのよねぇ。大体ガイ君も、こう言っちゃ何だけどあんまり成果上げてないみたいじゃないの。春香と結婚したいんだったら、ウチの子をとっとと有名にしてもらわないと。ちゃんと出来るの?」

 

 と言われたガイが、繪里子の勢いに冷や汗を垂らしながらも返答する。

 

「い、いえ、ご心配なく。春香さんにはアイドルとしての潜在能力と確かな実力があります。こちらもいよいよ春香さんをメジャーデビューさせる道筋が立ちまして、トップアイドルの仲間入りも目前です。保証します、ええ」

「ほんとぉ~? ならいいんだけど」

 

 どこまで本気にしているかは不明だが、繪里子はそれ以上突っ込んでこなかった。

 

「何だかさっきから私ばっかりしゃべってる気がするし、今度はそちらの話を伺おうかしら。春香、二人のなれ初めとか、とっておきの恋バナを聞かせてちょうだいよ」

「えっ、こ、恋バナ!? それはぁ……」

 

 春香が何を言おうか目を泳がせる、その時――。

 

「――奥さん、本当にこんなぼんくらプロデューサーでいいんですか?」

 

 繪里子の背後から、一人の男が彼女に耳打ちした。その顔にガイや春香、美希たちも驚愕のあまり思わず腰を浮かした。

 

「お前……ッ!」

「じゃっ……ジャグラスジャグラー……!?」

 

 それは死んだはずのジャグラーであった。ガイたちはどうしてここにいるのか混乱するが、訳を何も知らない繪里子はジャグラーに振り返って更に興奮。

 

「あら素敵ぃ~! 私、こんな男の子大好き!」

「ママっ! 離れて!」

 

 慌ててジャグラーから母親を引き離す春香。

 

「この人誰? 紹介して」

「私ですか? 私はこういう者で……」

「こっち来いッ!」

 

 一瞬魔人態の顔を晒しかけたジャグラーを、ガイが店の隅へと強引に連れていった。

 

「お前、死んだとばかり……!」

「だからお前は駄目なんだッ! 目に見えることしか見ようとしない。その陰で何かが起こってるなんて想像もしてないんだろう?」

 

 いきなり罵倒してくるジャグラーの言動を訝しむガイ。

 

「陰で? お前何をたくらんでるんだ」

「お前は利用されたのさ……」

「何?」

「お前は魔王獣を倒したといい気になってるかもしれないが、実は……」

 

 ジャグラーの言葉の途中で、二人にフラッシュが掛かった。そちらへ振り向くと、繪里子がケータイ片手に間に飛び込んでくる。

 

「二人とも! はい、バター!」

 

 呆気にとられるガイとジャグラーを入れて、繪里子は自撮り。

 

「やったー! 面白くない? まさかこんないい男たちがウチの娘を取り合ってるなんて……!」

「ちょっとママ……!」

「そうだ! お友達にお写真送っちゃおう」

 

 何も知らずのんきな繪里子を春香が力ずくで引き戻していった。

 

「……それで?」

「あ? あぁ……お前は魔王獣を倒したといい気になってるかもしれないが、それは実は全て俺のためだったんだよ……」

「どういうことだ……!」

「つまり、ありがとうってことかな。この俺のために魔王獣を倒してくれてね」

「お前……!」

 

 ジャグラーの胸ぐらを鷲掴みにするガイ。

 

「何だ、やる気か?」

「ああ……今度こそ決着をつけてやるッ!」

「喧嘩はやめて!」

 

 そこに再び繪里子が割り込んできた。

 

「私のために争わないで! なんちゃってぇ~。一度言ってみたかったの!」

「ママ! この人たちのとこに来ちゃ駄目だって!」

「いいじゃない、女の夢じゃないの」

 

 邪魔が入ってばかりのジャグラーは興を削がれたのか、話を打ち切って戻っていく。繪里子はガイを叱咤。

 

「ガイ君もぼんやりしてちゃダメよ! デートの日取り決めちゃいましょう!」

「もうっ……! とりあえず、こっちに……」

 

 場のペースをかき乱しまくる繪里子を春香とガイでテーブルに連れていく。そんな一連の様子を盗み見ていた美希たちは、でかい冷や汗を垂らした。

 

「……春香のママ、何て言うか、キョーレツなの……」

「春香が普通なのって、あの人の反動なのかもしれないね……」

 

 真がそんなことをつぶやいた。

 

 

 

 ジャグラーはガイの前で、テーブルの上に六枚のカードを並べていく。――各属性の魔王獣のカードであった。

 

「おい、これは!?」

「お前のお陰で手に入った」

「何……!?」

「お前の魔王獣退治は、このカードを手に入れるために全て俺が仕組んだ……。お前は俺の手の平の上で踊らされてただけだ……」

 

 更にジャグラーは七枚目のカード――ノストラから強奪した、黒いウルトラマンのカードを見せつける。

 

「それは……ベリアル!?」

「楽しめ……これから大きな災いが」

「さぁ~お料理も来たし食べましょうか! 早くしないと冷めちゃうわ」

 

 話の途中で、またも繪里子の声にさえぎられた。ジャグラーはうんざりしたように頭を振る。

 

「おい……!」

「やだぁ~、そんな顔しないのっ。あっ、お腹空いたんだ。はい、食べて食べて~」

 

 勝手に勘違いして自分の皿を勧める繪里子。

 

「いや、俺は……!」

「そうだよママ……無理に勧めない方が……!」

 

 ジャグラーを警戒する春香だが、繪里子はやはりマイペース。

 

「大丈夫! この方の分もちゃあんと追加したから。ほら、食べて! あら、そのカード何? こっちじゃそういうの流行ってるのかしら?」

 

 とぼけたことを言いながら肉料理にナイフを入れる繪里子だが、ふと窓に目をやってつぶやいた。

 

「やっぱり、東京は物騒ねぇ。あんなのが外に」

「え? ……あぁっ!?」

 

 釣られて窓に目を向けた春香が、あんぐりと口を開いた。美希たちも思わずフォークを落とす。

 窓のすぐ外には、いつの間にか巨大な女性の顔が店内を――ガイたちを覗き込んでいたのだ!

 

「あれはまさか……玉響姫!?」

 

 律子が以前、入らずの森で春香が見たという玉響姫の霊のことを思い出した。

 

「でも、今度は私たちにも見えてる……! 他の人たちも……!」

 

 彼女たちだけでなく、他の客全員も玉響姫の顔に仰天して固まっていた。この分だと、全ての人間にその姿が見えているだろう。今はそれほど力を強めているのだろうか。しかし何のために?

 一般の客が逃げていく中、玉響姫はガイへと言葉を向ける。

 

『光の者よ……大きな災いが、起きようとしています』

「大きな災い……?」

 

 春香も繪里子を連れていく中、一人だけ椅子に座ったままのジャグラーが不機嫌にフォークを肉に突き刺した。

 

「だから、それを俺が言おうとしてたんだよッ!」

 

 玉響姫はそのメッセージを残して、光とともに消えていった……。

 

 

 

 春香たちは急遽事務所に戻り、突如街中に出没した玉響姫について話し合う。

 

「入らずの森の後から玉響姫のことを調べたんだけど……一つの記述に行き当たったの」

 

 律子がその資料のコピーを棚から引っ張り出す。

 

「ほら、これよ。全国の玉響姫と思われる伝承を総合したものなんだけど、これによると……玉響姫は太古の霊能力者で且つ絶世の美女で、その美貌に魅せられたオロチにさらわれてしまった。すると一人の勇者がオロチを封印し、玉響姫を助けた。助けられた玉響姫はオロチが復活しないよう、勇者の力を借りて結界を張り、その結界を見張り続けてるということよ。その結界が、入らずの森と古墳だと推測されるわね」

「おろち……」

 

 その名前を聞いた貴音がひと言つぶやいた。

 

「何か知ってるの、貴音?」

「先日、ジャグラーとの戦いの場でプロデューサーが言ったのです。まがおろち……六つの魔王獣の封印が破られた時によみがえる大魔王獣と」

「マガオロチ……玉響姫をさらったっていうオロチと同じでしょうか?」

「恐らくは」

 

 やよいの問い返しに貴音がうなずくと、真が首をひねりながら言った。

 

「それじゃあ、起きようとしてる大きな災いってマガオロチのこと?」

「でしょうね。魔王獣の封印は既に破られてる……復活の条件は既にそろってるわ。後は玉響姫の結界だけ……。それもジャグラーが狙ってるとしたら……」

 

 律子の分析に、春香たちは総毛だった。

 

「大変! 早く止めないと!」

「ところでプロデューサーは? 一緒じゃなかったの?」

 

 律子へ振り返る千早。ガイは春香たちとともに事務所に戻らなかったのだ。

 

「もう入らずの森へ向かったのかも! 私たちもすぐ行きましょう!」

「はいっ! 765プロ、出動……!」

 

 一番に事務所を発とうとする春香だったが……。

 

「待ちなさい」

 

 玄関の扉から繪里子が入ってきて立ちふさがり、春香を足止めした。後から渋川も大量の荷物を抱えながら入ってくる。

 

「渋川さん! その荷物の山、どうしたんですか?」

 

 小鳥が目を丸くして尋ねると、渋川はくたびれた様子で答えた。

 

「義姉さんの買い物につき合わされちゃってさぁ、花屋とか色々連れ回されて……。俺だって都内に現れた女巨人の幽霊の件で忙しいのにさ……」

 

 それはともかく、春香が行く手をふさぐ母親に問いかける。

 

「ママ、どうして事務所に……」

 

 繪里子は春香の目をじっと見つめながら告げた。

 

「私、ほんとは結婚とか跡継ぎとかどうでもいいのよ。春香、あなたに危ないことしてほしくないの」

「えっ……!?」

「いつも見てるわよ。危険なところに自分から飛び込んでいって……。私がどれだけ気を揉んでるか分かる? アイドルになるのは許したけど、そんなことするのを許可した覚えはないわよ」

 

 繪里子の言葉に、春香はバツが悪そうにうつむいた。

 

「だから私、本当はあなたを連れ戻しに来たのよ。ねぇ春香、もう一人で危ないことするのはやめにして、一緒に帰ろう? お願いだから」

 

 説得してくる繪里子に対して、春香は顔を上げて言い返した。

 

「一人じゃないよ……。私には、たくさんの仲間がいるんだから! 何より、プロデューサーさんがいるもん!」

 

 春香の言葉にアイドルたちはうなずいて賛同を示したが、

 

「いい加減にしなさいっ!」

 

 繪里子はそれを一喝した。

 

「あなたのお芝居につき合ってたけど、ほんとは恋人なんかじゃないんでしょ? それどころか、あの人こそがあなたを危険に巻き込んでるんじゃないの?」

「そ、それは……」

 

 春香が思わず言いよどんだ、その時――突然、外から落雷を思わせるような轟音が鳴り響いて彼女らを驚かせた。

 

「な、何!? 嵐!?」

「そんな感じじゃなかったわ! もっと不吉な感じが……!」

 

 伊織と律子が窓に駆け寄って開け放ち、その直後に絶句した。

 窓の外、入らずの森の方角の空で――不気味な黒い雲が、空に穴を開けるかのように渦巻いていたのだった。

 


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