『あのような者を仲間に加えてよろしいのですか?』
「お前の吹くメロディよりもっといい音色を聴かせてやる!」
「ウルトラマンオーブ……」
『奴は元々、光の勢力に身を置いていたと聞きます』
「面白い」
「闇と光……そして、風……土……水……」
「これで全ての魔王獣がそろった……」
「残るは、黒き王の力のみ……!」
日本列島上空の衛星軌道上に潜み、オーブの打倒と地球侵略惑星を目論み続ける侵略連合の円盤。今ここでは、ジャグラーがナグスを相手に怪獣カードを使った占いを行っていた。
「ほう……」
六枚のカードの中央に裏返しにされたカードをジャグラーがめくり、絵柄を露出する。それには閻魔大王そのままの姿の怪獣が描かれていた。
占いの結果を告げるジャグラー。
「えんま怪獣エンマーゴ。突然の死を暗示する不吉なカードです。地獄に落ちないようご注意を……」
忠告されたナグスは、機嫌を悪化させて席を立った。
『ふんッ! 俺は占いなんか信じねぇぞ!』
「あなたが占ってほしいとおっしゃったのに……」
嘲るジャグラーの指摘に、ナグスはますます腹を立てる。
『野郎……いつか見てやがれ……!』
捨て台詞を残して立ち去っていくナグス。その後で、ジャグラーは六枚の魔王獣のカードを手札に広げる。
「残るは最後の一枚……。ノストラが所有していることは確実だが……」
誰にも聞こえぬように囁いていると、ジャグラーの目の前のテーブルに、いきなり怪獣カードが飛んできて突き刺さった。
「これは……?」
ジャグラーがその黒い怪獣のカードを手に取ると――カードを飛ばした張本人のノストラがおもむろに姿を現した。
『用心棒怪獣ブラックキング……。そのカードを、君に託す』
「ドン・ノストラ……」
ジャグラーはノストラの動きを監視するように、流し目を送る。
『君は言っただろう、私の侵略作戦は最早時代遅れだと……』
「ええ……」
『ならば君自身の手で、ウルトラマンオーブを始末してほしい』
「――待ってましたよ……そのお言葉を」
話を聞きながらグラスを傾けるジャグラー。
『奴を斃し、ウルトラマンのカードを全て奪い取る』
「それ相応の報酬はいただけるんでしょうね」
『もちろんだ。――君が一番求めているのは、このカードだろう?』
と言いながら、ノストラがマントの下から取り出したのは――黒いウルトラマンのカードだった。その途端に、ジャグラーの目元がピクリと動く。
『君が我ら惑星侵略連合に近づいたのも、全てはこの切り札を手に入れるため……』
言い当てられたジャグラーは、しばしの沈黙後、急に笑い出した。
「フッ……ハハハハハハッ……! あなたに隠し事は出来ませんね……」
『こいつを手に入れて何をしようとしているのか興味はない。だが奴の命は、このカードに匹敵する値打ちがある』
狙いである、秘蔵のカードを披露したノストラの真正面に、ジャグラーはスッと立った。
「報酬は高ければ高いほど燃えるという。約束は守ってもらいますよ……」
『無論。惑星侵略連合首領の名に懸けて……』
誓いの言葉を聞き届けて、ジャグラーが地上への転送マシンの元へと向かう――。
765プロ事務所では、ホワイトボードの前でガイがアイドルたちを相手に演説をしていた。
「みんなも知ってる通り、先日の音楽フェスは俺たちの予想とは大幅に違う結果となってしまった。だが千早の機転と頑張りのお陰で、765プロの実力を示すという目的は達成できたと言っていい。実際、あのアカペラは多くの雑誌が一面に取り上げた」
とガイが語ると、春香や美希、律子たちが千早を称賛する。
「ほんとあれはすごかったよ千早ちゃん! 感動した!」
「千早さん、サイコーだったの!」
「お陰で助かったわ。ありがとう千早」
「そ、それほどでも……。私は出来ることをやっただけだから……」
褒められた千早は照れくさそうに頬を赤く染めてうつむいた。それからガイが続ける。
「けどまだまだこんなもんで満足してちゃいけない。事務所全体を盛り上げるために、千早だけでなくお前たちみんなの人気を底上げするんだ。そのために……」
ガイがホワイトボードに大きく書かれた、「765プロ感謝祭ライブ」という文字列を赤ペンで囲んだ。
「この目下の一大ライブが重要となる! 千早のお陰で予定よりも大きい会場を押さえられそうだ。当然注目もその分集まる。これを大成功に導けば、一気にお前たちの人気に火が点くことは確実だ!」
「おおー!」
ガイの言葉にアイドルたちのテンションも盛り上がった。良いテンションの中でガイが締めくくる。
「今こそ765プロ躍進の時だ! みんなの力を一つに合わせて、みんなでトップアイドルになろうぜ!」
「はいっ!!」
ガイの呼びかけに、アイドルたち全員の返答の声が一つにそろった。
「うふふ。みんな頑張ってね!」
小鳥は笑顔で、アイドルたちに応援のメッセージを向けた。
全員の意志が纏まり、感謝祭に向けて各々が意欲を燃やしている、その時――。
「調子が良さそうで何よりだ、765プロの諸君」
「!!?」
唐突にガイでも高木でもない男の声が、背後から。振り返れば、いつの間にかジャグラーがこの場にいて、テーブルの上に飾られた春香のマトリョーシカ人形を指でなぞっていた。
「久しぶりだね、天海春香さん」
「ジャグラスジャグラー!!」
アイドルと小鳥たちは驚愕と同時に後ずさり、ガイが前に出て彼女たちを背にかばった。
「ここに乗り込んでくるなんて……!」
「その薄汚い手を放せ。そいつは春香の宝物だ」
ガイがジャグラーをきつくにらみつけると、ジャグラーは彼と対照的にほくそ笑みながらマトリョーシカより手を放す。
「怖いねぇ。俺もこの事務所のファンの一人なのに」
「ふざけないでっ! この間のライブを滅茶苦茶にしたの、あなたでしょう!!」
思わず怒鳴る千早だが、ジャグラーはどこ吹く風。ガイはより眉間に皺を刻んだ。
「何しに来た」
問いかけると、ジャグラーの立ち位置がいつの間にかアイドルたちの左方に移っていた。アイドルたちは怯えてジャグラーから離れ、ガイも急いで回り込む。
「空は、夜明け前が一番美しい……。暁の空……それは新たな世界の幕開けを予感させてくれる」
「戯言はよせ」
要領を得ないジャグラーの言動をピシャリとはねのけるガイ。
「アイドルの諸君と夜明けのコーヒーを飲みに来た……と言いたいところだが……」
ジャグラーの視線が、アイドルたちからガイへとねっとりと移る。
「ガイ……その命いただくぞ……」
このひと言を最後に、ジャグラーの姿が闇とともに消えていった……。
ガイはすぐに踵を返して事務所から出ていこうとする。それを呼び止める春香たち。
「待って下さいプロデューサーさん!」
「あの人、ハニーの命をいただくって……!」
「決着をつける……どっちかが死ぬまで戦うつもりってことですよ!?」
律子の指摘に、ガイは背を向けたまま肯定する。
「ああ。奴との因縁にケリをつける時が来たみたいだな」
真を始めとして、伊織たちがガイに申し出る。
「ボクも行きます! みんなの力を合わせれば、あいつなんかに絶対負けませんよっ!」
「そうよ! あんな奴、ギッタンギッタンにしてやりましょうよ!」
だがガイはそれを却下した。
「今回ばかりは駄目だ」
「ど、どうして!?」
「お前たちはよく知らないだろうが……本気になった奴は、これまでのどの宇宙人よりも危険だ。最悪の場合、お前たちを守り切れる自信がない……。それだけ過酷な戦いになるはずだ」
ガイが単なる憶測でそんなことは言わないだろう。言葉の重みに、春香たちは思わず息を呑んだ。
それでも、貴音は前に進み出た。
「わたくしは共に参ります」
「貴音……」
「わたくしならば、他の皆よりも丈夫です。生存の確率は最も高いでしょう。何より、ふゅうじょんあっぷのために最低一人はあなた様のお側についていなければなりません。かの男、確実に怪獣を繰り出してくることでしょうから」
貴音の説得に、ガイは考え込みはしたものの、受け入れてうなずいた。
「分かった。他のみんなは、万が一のことがある。今日は事務所に泊まってけ。小鳥さん、後のこと頼みます」
「わ、分かりました。どうかお気をつけて……!」
貴音はアイドルたちに声を掛ける。
「皆、行ってまいります。必ず、プロデューサーと共にここへ帰って参ります」
「四条さん、どうかプロデューサーのこと、お願いします……!」
「プロデューサーも、貴音と一緒に帰ってきてね! 約束だぞ!」
「ああ……約束だ」
最後に響と約束を交わし、ガイが貴音を連れて事務所から出ていった。それを、不安を抱えながらも信頼の眼差しで見送るアイドルたち。
しかし一人だけ、亜美は不安の色の方が強かった。
惑星侵略連合の円盤では、ナグスがノストラに抗議をしていた。
『ドン・ノストラ! ブラックキングはこの俺が手に入れた最強のカードだ! それをあんな野郎に軽々しく譲っちまうとは、一体……!』
『光と闇ッ!』
ノストラが突然ナグスの言葉をさえぎった。
『どちらが勝とうが知ったことではない』
『しかし……』
『知恵のある者は、虎と竜を噛み合わせて利益を得る』
そう言い切ったノストラが、ナグスへ振り返って告げた。
『ナグスよ……お前には仕事がある』
夜明けの早朝。閉鎖され、ぼうぼうに雑草が生えた牧場でジャグラーは待っていた。そこに、ガイがハーモニカの音色を響かせながらやってくる。その後ろには貴音がつき添っている。
音色が途切れると、抑えた頭を放したジャグラーがニヤリと笑った。ガイはハーモニカを懐に仕舞いながら、貴音に忠告する。
「離れてろ。まずは前哨戦みたいだ」
無言でうなずいた貴音が下がると――ジャグラーとガイの双方が、地球人ではあり得ないスピードで急接近し合い、互いの拳が正面衝突した!
衝撃によって大気が震え、拳が交差したジャグラーがガイに呼びかける。
「いいねぇその顔……惑星484でのことを思い出す」
「俺はとうの昔に忘れちまったぜ」
「ふッ、冷たいな……。長きに亘る戦いという、歪んだ迷路を越える運命の刻だというのに」
「回りくどい御託はよしな。お前との腐れ縁を今日までにするってことだろ。……ケリをつけようぜ!」
ガイのひと言を最後に、二人は言葉もなくひたすらに殴り合いを演じる。立ち位置が目まぐるしく入れ替わり、打撃の衝撃で地面が砕け飛ぶ激しい決闘に、離れた場所から見守っている貴音は息を呑んだ。
「何というすさまじい争い……。わたくしでも、目で追うだけで精一杯とは……」
――だが、この戦いを見ているのは貴音だけではなかった。
円盤から、ノストラも監視していた。
『ジャグラー、君たちの因縁は耳にしている。はるか昔、君たち二人は、銀河の果てで雌雄を決したそうだな。紅ガイは光に選ばれ、君は闇に選ばれた……』
戦いの経緯を高みから見物しているノストラはほくそ笑む。
『今こそ教えてやりたまえ。君が選んだ闇の力の方が、光よりはるかに偉大であることをッ!』
ジャグラーの蹴りの衝撃で、ガイの懐からハーモニカが転げ落ちた。思わず気がそれたガイの背を蹴り飛ばすジャグラー。
「ぐッ!」
「あなた様っ!」
叫んだ貴音だが、ガイは飛ばされながらハーモニカを拾い上げて受け身を取った。安堵する貴音だが、ジャグラーはガイを見下す。
「それで本気なのか? 戦いに集中しろッ!」
一旦手を止めたジャグラーが、ガイに問いかけた。
「お前恐れてるんだろう? 人間を傷つけることを……」
ガイは何かを思い出すかのように顔をそらす。その様子に、貴音は再びガイのことを案じる。
貴音の心配と裏腹に、ジャグラーはガイをなじるように続ける。
「何をそんなに恐れている……。娘一人守れなかっただけだろう? それでいて今は娘どもの面倒を焼いて……どうしてそこまで人間に執着するかね!」
無言で立っているガイへと、ゆっくりと回り込んでいくジャグラー。
「たかが人間如きに惑わされるから、本当の力を失っちまうんだ。え? ありがたいウルトラマンさんの力と、自分を惑わせる人間なんぞの力を借りなきゃ戦うことも出来ない……所詮その程度のお前が、闇の力に刃向かおうなんざ愚かしいんだよッ!」
ジャグラーの回し蹴りがガイに襲いかかる! ――が、ガイはその足を叩き落としてパンチを受け止めた。
「言いたいことはそれだけか!?」
カウンター気味に腹に拳の一撃を入れると、ジャグラーは悶絶して後ずさった。
ジャグラーを押し返したガイが毅然と宣言する。
「お前が何をたくらもうと……俺は人間を守り抜くッ!」
「ほぉう……怖い怖い」
持ち直したジャグラーに、ガイは続けて言い放った。
「どんなに魔王獣を復活させようと無意味だ! 六体全て倒した今、お前の本当の目的は潰えた」
ジャグラーはガイの言葉を、せせら笑いながら聞いている。
「今まで魔王獣をよみがえらせてきたのは、マガオロチを復活させるためだったんだろう!?」
「……まがおろち……?」
訝しむ貴音。彼女にも説明するかのように述べるガイ。
「闇、光、風、土、水、火……。六つの魔王獣の封印が破られた時、この世に出現するという大魔王獣……。だが、その策略ももう終わりだ!」
最後にガイは、ジャグラーをまっすぐにらんで言い切った。
「お前は俺が倒すッ!!」
ジャグラーはガイににらみ返しながら、挑発を返した。
「――だったら、本気で掛かってこいよ……ウルトラマンオーブ」
ジャグラーがダークリングを構え、ガイもオーブリングに手を掛けた。これを見て、貴音が顔つきを変えて前に出ていく。
ここからが、本当の戦いの始まりなのだ……!