THE ULTRAM@STER ORB   作:焼き鮭

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超音速のFly High!

 

「それより、歌の仕事はいつ取ってきてくれるんですか?」

「戦ってるのはこの事務所のみんななのに、報われないわよねぇ……」

「この先アイドルとしてやっていけるのか、という内心の不安が表に出てきちゃったのよ」

「まずは明日のステージの成功からだ!」

「私たちまだまだ無名なのに、そんなことしてる暇なんて……」

「みんなで歌うのもいいですけど、やっぱりソロで歌う仕事がやりたいんです」

「私たちいつになったらトップアイドルになれるのかしら」

「みんなしてすごく個性的だし、売れる要素は十分にあるはずなんですけどねぇ」

「そのお陰で765プロの注目が一気に集まったのは予想だにせぬ幸運といったところかしらね」

「一週間後には音楽フェスへの出場も控えてるわ!」

「そこで成功を収めれば、確実にメジャーへの足掛かりを掴めるわよぉ~!」

 

 

 

『超音速のFly High!』

 

 

 

 時には歌って踊れるアイドルとして、時には怪獣の脅威から世界を守る正義のヒーロー・オーブとして、毎日努力と研鑽を積み重ねてきた765プロのアイドルたち。しかしその芽はなかなか出てこなかった……。

 しかし前回のにせエルダーレコードオーナー事件によって、今までになくマスコミの注目を集めている状態にある。この絶好の機会を逃すまいと挑むのは――初めての音楽フェス!

 

「す、すっご~い……! こんなにおっきいステージ初めて……!」

「お客さんも、こんなにいっぱいいるの初めて見ましたぁ……!」

 

 フェス会場の控え室となるテントからそっと顔を覗かせて、ライブの舞台と集まった観客の波をひと目見た雪歩とやよいが長く息を漏らした。ライブはまだ始まってもいないのに、フェスに出場するアイドルたちの歌を聴くために数え切れないほどの数の観客で会場はごった返している。

 こんなに大勢の観客は見たことがないので、765プロアイドルたちは皆大なり小なり緊張の面持ちでいた。

 

「こんなに多くの人の前で歌うなんて初めて……! うぅ、緊張してきたぁ……」

「だ、だ、大丈夫だよ春香! 今日、この日のためにみっちりレッスンしてきたじゃん! 緊張なんて、す、す、することななんて……」

「あんたが一番緊張してるじゃないの」

 

 真っ赤な顔でどもる真に突っ込む伊織だったが、彼女も動きがぎこちなかった。

 これまでの彼女たちが経験したステージは、せいぜいライブボックス程度の大きさがほとんど。その何倍もの規模のステージで緊張しないという方が難しいのかもしれない。

 しかし緊張している理由はもう一つあるのだった。

 

「今回のステージの結果で、亜美たちが有名になれるかどうかも懸かってるんだよね……」

「う~……そう思うと、ますますキンチョーするよー……」

 

 ポツリとつぶやく亜美と真美。現在765プロに注目が集まっていると言っても、人の興味などすぐに過ぎるもの。大勢の目を引きつけたままにするには、確かな実力を見せつけなければならない。それが出来なければ、すぐにマイナーアイドルに逆戻りだ。この重要なステージを前にしては、いつもは楽観的な亜美真美もガチガチであった。

 

「絶対失敗できないライブよ……。頑張らなきゃ……!」

「あらあら……何だか少し怖いわ……」

 

 律子やあずさも心臓をバクバク鳴らしている始末であった。――そんな風に強張った空気が流れているところに、ガイが呼びかける。

 

「お前たち、そんなに気負うな。他ならぬお前たちなら大丈夫さ」

「プロデューサーさん……?」

 

 皆の注目がガイに集まると、ガイは全員に確信を持って説いた。

 

「お前たちみんなに、どんな大怪獣相手でも恐れずひるまず立ち向かう度胸がある。ずぅっと見てるんだからそれくらい知ってるぜ。それと比べれば、何人いようとどんな大きさのステージだろうと、人間の前に出ることくらい訳ないだろ?」

 

 その言葉に、アイドルたちはハッと目覚めたような顔になる。

 更にガイに続くように、千早と響も意見を口にする。

 

「私たちにはちゃんとした実力があるわ。そのためにたくさん練習してきたんだから。自信を持って、プレッシャーなんてはねのけましょう!」

「そうそう、自信を持てば自分たちの全てを出し切れるよ! 自分たちならなんくるないさー!」

 

 彼らの言葉に美希が一番にうなずいた。

 

「ハニーと千早さんの言う通りなの! いつも通りやればいいって思うな」

「ちょっ、自分は?」

「まことその通りです。無理をせず、普段通り歌って踊るのが最善でしょう」

 

 貴音も同意し、他の面々もガイたちの説得で表情が変わっていった。全体の空気が大分和らいでいったことに安堵の息を吐いたガイが、千早と響に振り向く。

 

「確認するぞ。先発は千早、その次は響だ。大事なのは掴みだから、ボーカルとダンスで特に実力のあるお前たちに任せる。お前たちの力でいい出だしを切ってくれ! ――二人の力、お借りしますッ!」

「――はいっ!」

「自分たちにお任せだぞっ!」

 

 ガイの冗談めかしたエールに、千早と響は顔をほころばせながら応じたのであった。

 

 

 

 ――期待と意欲を抱えて出番を待つ765プロアイドルたちであったが、その一方で、良からぬ考えを持ってフェス会場の外れにやってきた者もいた。

 

「ふふ……ガイたちの記念すべき晴れ舞台か。めでたい話だな」

 

 ジャグラスジャグラーだ……! 何を思ったか、ダークリングを取り出して目の前に掲げる。

 

「俺から出演祝いを贈ろうじゃないか。とびっきりの奴をな!」

 

 二枚の怪獣カードを手にし、リングに突っ込む!

 

[デキサドル!][ヘイレン!]

「合体怪獣、デキサヘイレン!」

 

 

 

 いよいよ一番手の千早の出番の時間が迫ってきた。ガイが千早の背中をポンと叩いて押し出す。

 

「よし、ウォーミングアップは済んだな? それじゃ頼んだぜ、千早!」

「はいっ!」

 

 千早が張り切って舞台に向かっていく――その寸前に、突如会場の外から悲鳴が巻き起こった。

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁ―――――――!?」

「えっ!?」

「な、何事かしら!?」

 

 同時に轟音と、かすかながら野獣の咆哮のような音。それでガイたちの顔色がサッと変わった。

 

「まさか……!」

 

 全速力で会場の外へと飛び出していく一同。そこで彼らが目にしたものは、散り散りになりながら必死に逃走している群衆と、それを追い回すように闊歩している巨大生物!

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 巨大な翼を背中から生やした鎧を纏った巨鳥のような姿であり、鎧の隙間からは羽毛と尾翼が覗いている。頭頂部には三本の角。

 怪獣デキサドルとヘイレンを合成した、超速合体怪獣デキサヘイレン!

 

「か、怪獣!! どうしてこんなところに!?」

「あの感じ……合体怪獣だ! ジャグラーが余計なことしやがったな……!」

 

 春香の疑問に、ガイがギリッと歯を食いしばりながら答えた。

 

「キキィッ! ピィ――――――ッ!」

 

 デキサヘイレンは会場に向かって火炎弾を吐き出した。ライブ会場の一角に命中した火炎弾は大爆発を引き起こし、爆風と衝撃で避難中の人々を纏めて転倒させる。

 

「きゃああっ!」

「ぐぅッ……!」

 

 爆風はガイたちの身体も煽る。踏ん張ったガイに、咄嗟に彼にしがみついて転倒を免れた千早と響が呼びかける。

 

「プロデューサー、応戦しましょう! よりによってこのフェスを妨害してくるなんて、許せないですっ!」

「自分も行くぞ! 千早と同じ気持ちさー!」

 

 ガイはオーブリングとカードを取り出しながらうなずいた。

 

「よしッ! それじゃ行くぞ!」

「はいっ!」「うんっ!」

 

 千早がセブンのカードを、響がゼロのカードを手に取った。

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「ゼロさんっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

「親子の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイと千早、響の三人がフュージョンアップし、オーブに変身!

 

[ウルトラマンオーブ! エメリウムスラッガー!!]

『智勇双全、光となりて!!』

 

 変身を遂げたオーブ・エメリウムスラッガーが会場に追撃しようとしていたデキサヘイレンの前に着地し、その動きを制した。

 

「あっ、プロデューサーさんたちが!」

「カメラカメラっ!」

 

 起き上がった春香たちはオーブの巨大な後ろ姿を見上げ、律子は慌ててカメラを回す。

 

『「やめなさい! みんなの迷惑よ!」』

『「会場で暴れる人は退出だぞっ!」』

 

 オーブは先手を取ってデキサヘイレンへ向かって駆け出していき、全身を使って飛びかかる。

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 しかしいきなりデキサヘイレンの姿が忽然と消えた!

 

『「えっ!?」』

『「き、消えた!?」』

『違う! 後ろだッ!』

 

 オーブが振り返ると、デキサヘイレンはいつの間にか背後を取っていた。千早と響は仰天。

 

『「な、何で!?」』

『目にも留まらぬ速さで回り込んだんだ! スピードに特化した合体怪獣か……!』

 

 オーブは後ろ蹴りを放つも、デキサヘイレンはこれも瞬間移動と見紛う移動速度でかわしてオーブの後ろを取り直した。オーブは必死に打撃を繰り出していくも、全て空振り。完全に翻弄されている。

 デキサドルとヘイレン、超スピードを誇る二種の怪獣を組み合わせたデキサヘイレンは、オーブの速度をはるかに上回っているのだった!

 

『「攻撃が全然当たんないぞー!」』

『「接近戦が駄目なら、遠距離攻撃よ!」』

 

 オーブは戦法を切り換え、額のランプにエネルギーを集中。

 

「「『トリプルエメリウム光線!!!」」』

 

 レーザー光線を素早く発射! ――するもデキサヘイレンの反応の方がまだ早く、翼を広げて飛び上がることで回避された。

 

『「くっ……だったら!」』

 

 次にオーブは頭部のスラッガーに手を掛ける。

 

「「『トリプルスラッガー!!!」」』

 

 三つのスラッガーを同時に投擲し、三方向から回り込ませてデキサヘイレンの逃げ場をふさぐように操作する。これならばかわし切れまい。

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 だがデキサヘイレンは急速に加速し、スラッガーの包囲網が完成する前に間からすり抜けてしまった。

 

『「だ、駄目だーっ! 全部よけられちゃう!」』

『「くっ……!」』

 

 叫ぶ響にうめく千早。デキサヘイレンの動きはあまりに速く、地上から撃った攻撃は命中までに間に合わない。かと言って空中戦はどう考えても圧倒的に不利。ハリケーンスラッシュなら追いつけるかもしれないが、今はなれない。フュージョンアップするメンバーを誤ってしまったか!

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ! キキィッ!」

 

 手をこまねいているところに、デキサヘイレンの口から放たれた金縛り光線がオーブの頭部に纏わりつき、絞め上げてくる。

 

「ウワアァァァァァッ!」

 

 苦悶の悲鳴を上げるオーブ。苦戦する彼を応援するやよいとハム蔵。

 

「オーブー! 頑張って下さーいっ!」

「ぢゅぢゅーッ!」

「あの怪獣には決して追いつけないの……!?」

 

 伊織が思わずつぶやくと、それに返答するように千早と響が宣言した。

 

『「いいえ! 追いつけないものなんてありはしないわっ!」』

『「自分たち、それを信じて最後まであきらめないぞー!!」』

 

 すると二人の気持ちに応じるように、千早の手元にオーブリングとマックスのカード、響にティガのカードが現れた。

 

『二人とも、そのカードでフュージョンアップだ!』

『「「はいっ!」」』

 

 即座に響がティガのカードを千早の持ち上げたリングに通した。

 

『「ティガさんっ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 響の横に青い姿のティガ――ウルトラマンティガ・スカイタイプのビジョンが出現。

 

『「マックスさんっ!」』

[ウルトラマンマックス!]『シュアッ!』

 

 そして千早がカードを通すと、その隣に赤くたくましい身体つきのウルトラ戦士――ウルトラマンマックスのビジョンが現れる。

 

『かっ飛ばす奴、頼みますッ!』

 

 千早がトリガーを引き、ティガとマックスのビジョンが千早と響と融合!

 

『タァーッ!』『ジュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! スカイダッシュマックス!!]

 

 赤い光と青い輝き、そして青い光の渦の中から、姿を変えたオーブが飛び出していく!

 

「あっ、オーブが!」

「新しい姿に!!」

 

 765プロの仲間たちがそれを見届け、金縛り光線を振り払って立ち上がったオーブの後ろ姿をほれぼれと見上げた。

 新しいオーブは頭部に逆立ったトサカを持ち、上半身を金と銀のプロテクターで覆っていた。更に首には長いストールを巻いている。大空を翔る戦士、スカイダッシュマックスである!

 

(♪ウルトラマンマックス2)

 

『俺たちはオーブ! 輝く光は疾風の如し!!』

 

 決め台詞を唱えたオーブのストールが垂れ、地面に着く――前にオーブの姿がぶれて消え失せた! 駆け出したのだ!

 

「消えたっ!」

「見て! もう空にいるの!」

 

 美希が指差した先にオーブは飛んでいた。ストールをはためかせ、高空のデキサヘイレン目掛け飛翔している最中だ。

 

『「うわぁー速いっ! 自分たち、すっごいスピード出してるぞー!」』

『「このまま怪獣に接近よ!」』

 

 オーブは速度をどんどんと上げて、全身を使ってデキサヘイレンに突進を決めた!

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 勢いにはね飛ばされたデキサヘイレンが旋回してオーブの後を追いかけるが、オーブは急上昇。首を上に向けるデキサヘイレンだが……その時にはオーブの姿が視界からなくなっている!

 

「キキィッ!?」

「ジュアッ!」

 

 オーブはいつの間にか左側で併走していた。気がついたデキサヘイレンが振り向くが、またオーブの姿がかき消える。今度はデキサヘイレンがオーブを見失っていた。

 デキサヘイレンは必死に視線で追いかけるが、オーブはその周囲を縦横無尽に駆け回り、デキサヘイレンはすっかり目を回す羽目になった。

 ハイスピードの空中戦に興奮するアイドルたち。

 

「すごいっ! 亜美たちの目じゃ追いかけられない戦いだよー!」

「これじゃ画にならないじゃないの……」

 

 律子はカメラに何が映っているのか分からなくなっているので、頭を悩ませていた。

 

『相手はすっかり参ってる! そろそろ決めるぜ!』

『「はいっ!」「分かったぞ!」』

 

 そんなことは露知らず、オーブは両手を左腰に構えながらデキサヘイレンの正面に回り込んで、必殺技を全身全霊で繰り出す。

 

「「『マクバルトアタック!!!」」』

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 手の先から発射された鋭く飛ぶ光弾がデキサヘイレンの鼻先に炸裂し、一瞬で爆散させたのだった!

 

「シュワッ!」

 

 デキサヘイレンを見事粉砕したオーブは、そのままストールを地に着けることなく空の彼方へと瞬く間に飛び去っていった。

 

 

 

 オーブの活躍によって怪獣は撃退され、最悪の事態は防がれた。……しかし、フェスに与えたダメージは想像以上に深刻であった。

 

「えッ!? 音楽データが!?」

「はい……。怪獣の攻撃で吹っ飛んでしまって、全てお釈迦に……」

 

 先ほどの爆発は不運なことに機材のあるベースの近くで起こり、その衝撃で音楽データを記録していたパソコンが破損してデータが全て消えてしまったのだ。

 それの意味するところは、ライブに出演するはずだったアイドルたちの伴奏が全く流せなくなったということだ。

 

「照明とスピーカーは使えますが、だから何だという話で……。まことに残念ですが、フェスは中止せざるを得ません……」

「そんなぁ……」

「あんなに準備してきたのに……」

 

 後ろで落胆する春香や雪歩たちをガイが慰める。

 

「今回ばかりはしょうがないさ。また次の機会を待とうぜ」

「プロデューサーさぁん……」

 

 アイドルたちは無念を残しながらもあきらめるが……千早はまだ会場に残っている大勢の観客たちの沈んだ表情を覗き見て、ある決心をしてフェスのスタッフへと直談判した。

 

「すみません。照明とスピーカーは使えるんでしたよね?」

「えッ? そうですけど、それが何か……」

「だったら……すみませんが、ステージの準備をしてもらえるでしょうか」

 

 その頼みに周囲の皆が意外そうに振り向いた。そして千早は続ける。

 

「一曲だけでもいいので、アカペラで歌わせて下さいっ!」

「えぇーっ!?」

 

 仰天した仲間たちが千早に詰め寄る。

 

「ち、千早ちゃん! 何言い出すの!? アカペラでなんて練習したことないじゃない!」

「いくら千早さんでも、ぶっつけ本番で無理なの!」

 

 首を振る春香と美希に千早はこう返す。

 

「いいえ。私はよく伴奏なしで自主練してるから、ぶっつけ本番じゃないわ。私が歌うのはバラードだし、伴奏なしでも最低限の形にはなるはずよ」

「で、でも無茶よ、そんな……! いくら歌えないのが残念だからって……」

 

 当惑する伊織の言葉に、千早は語る。

 

「それだけじゃないの」

「え?」

「見て、外にいる人たちの顔を。……みんな、失意と不安で押し潰されそうな表情をしてる。私は少しでも、あんな彼らを励まして、決して悪いことだけじゃなかったとだけでも思って帰ってもらいたいの。そうじゃなきゃ、あまりにかわいそうだわ……」

 

 千早の訴えに、皆が大なり小なり共感を覚えた。そして千早はガイに直接頼み込んだ。

 

「お願いします、プロデューサー。私はあなたから、歌を聴いてくれる人に届けること、そして……色んなものを教わりました。だから、……あそこにいる人たちへと歌いたいんです。あなたが教えてくれたものを……」

「千早……」

 

 千早の訴えを受け止めたガイは、スタッフに向き直ると大きく頭を下げた。

 

「俺からもお願いします。ウチの千早に、やらせてあげて下さい!」

 

 

 

 フェスの中止が伝えられ、集まった観客たちは暗い表情のまま解散しようとする。

 

「あーあ、残念だなぁ……」

「せっかく楽しみにしてたのに……」

 

 ――だが、唐突にステージのスポットライトに明かりが灯ったことにより、それに気がついた者たちが思わず振り返った。

 

「あれ? ステージに明かりが点いてる……」

「えっ、本当?」

「どうした? 何かの故障か?」

 

 そのことは瞬く間に観客全員に伝わり、ざわつきながら彼らは足を止めた。そんな中で、千早がステージに上がる。

 

「あれ? 誰か上がってきた……」

「ライブは中止なんじゃないの?」

「あの子、確か……765プロの如月千早っていう……」

 

 驚きと戸惑い、そしてかすかな期待を感情に混ぜ合わせた観客を前にして、千早はマイクを片手に……精一杯の想いを込めながら、ゆったりと歌い始めた。

 

「ずーっと眠っていーられーたら、この悲しみーをわーすれーられる……♪」

 

 観客がまず覚えたのは、困惑であった。

 

「えッ、アカペラ……? 何で?」

「伴奏はないの?」

「まさかこのままで通すのか……?」

 

 しかし千早が彼らの様子に惑わず、熱心に歌い続けていくにつれ、彼らの心情も変化していく。

 

「でも、すごい綺麗な歌だ……」

「まるで透き通るかのよう……」

「すげーなぁ……こんな声で歌える子がいたんだ……」

「眠ーりー姫ー……♪ 目覚めるーわたーしーはーいまー……♪」

 

 歌が佳境に入る頃には、観客のほぼ全員が、千早の歌声に聞き惚れて、不安が心の中から失せていた。

 ――これが如月千早の、765プロが最初に作った伝説であった。

 

 

 

 ――惑星侵略連合の円盤で、ノストラの元にナグスがある報告をしていた。

 

『ドン・ノストラ! こいつを見て下さい!』

 

 ナグスが手に握っているのは、真っ黒い怪獣のカードであった。

 

『俺が探し求めてたカードです! 遂に手に入れましたぜ! こいつでウルトラマンオーブを今度こそぶっ倒してやります! そうすりゃあのキザ野郎も、二度とでかい顔できなくなるぜ!』

 

 ナグスの嬉々とした報告を受けたノストラは――密かにほくそ笑む。

 

『よくやったぞナグス……。こちらもちょうど、上手い作戦を思いついた』

『ホントですか!?』

『もちろんだとも。まず、そのカードは私が預かろう。後は任せておくがいい……』

 

 ナグスからカードを受け取ったノストラは、ある計略を頭の中に巡らせて、クックッと悪しき笑みをこぼし続けた……。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

千早「如月千早です。今回ご紹介するのは、マックスパワー、マックススピードなヒーロー、ウルトラマンマックスです」

千早「マックスさんは2005年放送の『ウルトラマンマックス』の主人公です。これは新要素で固めた前作の『ネクサス』が視聴率不振で終了した影響で、原点回帰を強調した作品となり、過去作の怪獣も数多く再登場しました」

千早「各話の監督や脚本には従来よりも多くの人数が参加し、時にはギャグあり時にはホラーあり時には感動あり、と非常にバラエティに富んだエピソードが制作されたのも特徴です。これは同じようにバラエティ豊かな話をそろえた『ウルトラマン』を彷彿としますね」

千早「マックスさんも最初から力強い王道ヒーローとして設定されたことにより、平成以降では珍しいタイプチェンジ要素を持たないウルトラマンとなりました。一方で怪獣は個性も能力も様々な種類が用意され、毎回趣旨の異なる戦闘で作品を彩りました」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Fly High!』だ!」

ガイ「これは完全なアイマスオリジナルじゃなく、ナムコの往年の名作ゲームのBGMをアレンジした『ファミソン8BIT☆』シリーズの一曲だ。千早が担当したこれはシューティングゲーム『ドラゴンスピリット』のリミックスアレンジで、ゲームの内容に則りながらも原曲とは大分イメージが違うものに仕上がってるぞ」

千早「ところでプロデューサー……マックスさんも、「セブン」タイプですよね……」

ガイ「……」

 




 はいさーい! 響だぞ! 遂にあのジャグラスジャグラーがプロデューサーに決戦を申し込んできたんだ! プロデューサー、あんな奴ぶっ飛ばしちゃえ! ……だけど、その裏で宇宙人たちが何か悪だくみしてるみたい! 戦いはどうなっちゃうんだ!?
 次回『Dead or Guilty』。気をつけて、プロデューサー!

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